きっと、優しい手を持ってる

「きゃははは。鬼さんこちら♪手のなるほうへー♪」
朝からりんは邪見に無理矢理目隠しをさせて遊んでいる。
「わああ!何すんだお前は!」
「あ、邪見様危ない・・・」
ゴン!
見事に木に激突。
しかし、りんはおもしろがって喜んでいる。
「に・・・人間の小娘に弄ばれるなんて・・・ワシ、もういやっ・・・」
りんの監視役を殺生丸から命じられている邪見。しかし、最近は段々とその上下関係は逆転しているらしい・・・。
「ねえ、ところで、邪見様。殺生丸さまの姿が見えないけど、どこかにまた、行ったの?」
「さあな・・・。あのお方は気の向くままに行動していらっしゃるから・・・」
「ふうん・・・。じゃ、探してこよっと♪」
りんは邪見遊びに飽きたのか殺生丸を探しに川原の方へ走っていった。
「あ、こらっ!勝手にいくんじゃない!!はあ・・・ワシはいつまであの小娘に付き合わされるんだろうか・・・」
殺生丸様・・・。いつもりんと邪見様をおいていなくなるんだよね・・・。
殺生丸様が「ここでまっていろ」っていうから待ってるけど・・・。りんは・・・
りんは早く殺生丸さまに会いたくなるんだ♪
殺生丸様はどうなのかなぁ・・・。
一人の時はいつも何考えているんだろう・・・。

「あ、殺生丸様だ!」
りんは大分下流の川の中にふっとたっている殺生丸を見つけた。
殺生丸は妖怪と闘ってきた後なのか着物に返り血や顔についていた。
ピチャ・・・。
片手で水を少しだけすくい、その端正な顔を濡らす。
ポタ・・・。
顔の濡らした水の一滴が太陽にに反射する。
その横顔から流れる雫はまるで殺生丸の涙のように流れてより一層綺麗に見える。
「・・・」
りんは思わず見とれてしまっていた。
(うわ・・・。殺生丸様・・・何だか輝いてる・・・)
「りん」
「あ、は、は、はいっ!」
殺生丸は川から出るとりんの側へときた。
「りん。何を人の顔をじろじろと見ている」
「あ、えっと、そのえっと・・・」
自分を見下ろす切れ長の瞳。
りんは何だかドキドキしていた。
「殺生丸様が何だか・・・光って見えたんです」
「私が光って?・・・。私の妖気が見えたとでも言うのか。そんなわけがあるまい」
「あの、そうじゃなくてその・・・。あ・・・殺生丸様、手!!」
殺生丸の手の甲の切り傷の血がまだ、出ている。
「けがしてます!!手当てしないと・・・」
「ふん。かすり傷。ただ、多少毒を含んでいるだけのこと・・。それより、りん。なぜ、お前がここにいる。あのばしょで待っていろと行ったはずだ・・・」
「あ、ご・・・ごめんなさい・・・」
「私の言ったことがきけぬのか。何度もおなじ事を言わせるな」
「ご、ごめんなさい・・・。でも・・・殺生丸様に早く会いたくなっちゃって・・・。これからちゃんと待ってるから・・・」
寂しそうに俯くりんをじっと見る殺生丸。
「・・・。行くぞ。りん」
「はい・・・」

殺生丸様の大きな背中・・・。

時々でいいから・・・見下ろさないで・・・。

あたしとおなじ目の高さで殺生丸様のお顔が見たいな・・・。

殺生丸の背中は、りんにはとてつもなく、高くそして寂しく見えた。

夜。またまた、りんの姿が見えない。
邪見はまた、殺生丸にしかられるとあわてて辺りを探し回ったが一向に見あたらない。
「ああ・・・殺生丸様に怒鳴られる・・・。ワシって一体・・・」
そこへ真後ろに殺生丸が。「邪見」
「ひっ・・・。せ、殺生丸様・・・」
「りんはどうした」
「あ、あの、さ、さっきまではそこで遊んでいたんですが・・・」
「またいなくなったのか」
「はあ、あのガキときたら殺生丸さまのおおいいつけを破ってって・・・。殺生丸様もういない・・・」
殺生丸はふわりと浮かび、空の妖獣に乗った。
「あ、まってください〜!!」

その頃。りんは険しい崖の先にいた。下を覗けば真っ暗闇。
「うわ〜。こわーい・・・。でも、殺生丸様のためだもん・・・」
すぐしたの岩場に小さな紫の小花が咲いている。
「よいしょ・・・」
りんはその花を取ろうと手を伸ばすが、すんでのところで届かない。
「もう少し・・・」
身を乗り出して花を取ろうとするりん。
もうちょっとで取れそうだ。りんはあとふんばり、ぐっと手を伸ばした。
「あ、やった取れたあー!」
体勢を立て直して体を引こうとしたその瞬間!
「きゃ・・・!!」
崖のそこへとりんの体が落ちていく!
「きゃああああ!!」
ふわっ・・・。
「え・・・」
殺生丸の肩のもこもこの綿がりんを包んだ。
「せ、殺生丸様・・・」
「・・・」
二人はゆっくりとがけの上へと上がった。
「・・・」
殺生丸の顔が、怒って見える。
また・・・殺生丸様のいいつけ破ったから・・・。
「りん。昼間言ったはずだ。同じ事を言わせるなと」
「ごめんなさい・・・」
「何回も謝るな。もういい。お前は自分の好きなようにゆけ」
殺生丸はりんに冷たくそう言って背を向け歩き出す。
「えっ。せ、殺生丸様・・・。待って・・・。まって・・・」
半泣きのりんは必死に追いかける。
しかし、殺生丸の背中はだんだん小さくなっていく。
「きゃっ・・・」
すてんと転ぶりん。でも、転んでは起き、転んでは起きでも必死に追いかける。
「せ、殺生丸様、ごめんなさい。りん・・・。りん・・・いい子になるから・・・!おいていかないでっ!!」

もう、一人はいや・・・。

一人じゃ寂しすぎて・・・りん・・・涙が止まらなくなっちゃう・・・。

殺生丸様・・・。

「せ、殺生丸様・・・待って・・・!!」
りんは必死な思いで手を伸ばた。
その小さな懸命な手は殺生丸の着物の裾をくいっとつかんだ。
「はあはあ・・・。せ・・・しょ・・・まるさま・・・」
すると、殺生丸はゆっくりとりんに振り向いた。
「はあはあ・・・。殺生丸様・・・。これ・・・これどうぞ・・・」
りんはさっき取った紫の花を殺生丸に差し出した。
「これ・・・。手の傷によく効くんです・・・。あの崖でこの花見つけて・・・。昔、おかあちゃんから聞いたの・・・。だから・・・」
笑顔でそう言うりん。
この顔はどこかで一度見たことがある・・・と殺生丸は感じた。
そう・・・。まだ、出会ったばかりの頃、しゃべれなかったりんが初めて見せた顔だ。

“何がそんなに嬉しい?”

“様子を聞いただけだ・・・”

何がそんなに・・・何故そんなに・・・笑えるのだ・・・。

殺生丸は静かにその花を受け取った。
「毒も消すのか?この花は」
「・・・は、はい!蛇の猛毒でもすぐ消しちゃうから・・・」
そして殺生丸はその場に座り、その花を手にあてようとした。
「あの・・・殺生丸様・・・りんが・・・りんがやってあげる・・・」
「・・・。すきにしろ・・・」
りんは自分の着物の袖を少しを引きちぎって花びらと一緒に殺生丸の手に巻く。
「・・・」
りんは、また、ドキドキしていた。
りんのすぐそばに、真っ直ぐに、殺生丸さまのお顔が見える。
りんと同じ目の高さで・・・。

殺生丸様の手・・・大きいな・・・。
あったかいな・・・。
あ・・・。また、ドキドキが速くなった・・・。
でも、このドキドキはどこかくすぐったい・・・。
全然、嫌じゃないの。
「殺生丸様の手・・・あったかいな・・・」
「・・・。ふん・・・。この血なまぐさい手が温かいというのか・・・」
「ううん。殺生丸様の手・・・とってもあったかい手だよ・・・。そしてきっと・・・優しい手・・・」
「・・・」
小さなあたたかな手のぬくもりが殺生丸にも微かだが、伝わる。

なんだ・・・。この妙に落ち着く気分は・・・。

優しい手だと?

何故そんな事をいう・・・。

どういう意味なのだ・・・。

わからん・・・。・・・。
「殺生丸様?」
「全く・・・。まるでお前の思考はわからん・・・。だが・・・」

殺生丸はその疑問を確かめるように自然にりんの頬にそっと触れた。
「だが・・・確かにお前は温かだ・・・」
「殺生丸様・・・」

こんな人間の小娘などに自分が癒されているのか・・・。

そんな殺生丸の中にあった腹立たしさが少しずつ、和らいでいく。
二人のぬくもりが初めて伝わり合った夜だった・・・。

ところで、邪見言えば・・・。
岩の影からその様子を汗をかいて見ていた。
(な、なんなんだ・・・!あの妙な雰囲気は!!なぜだか入っていけないではないか!!もしや・・・殺生丸様、りんみたいなガキ相手に・・・!!い、いやそんなはずはない・・・。クールな殺生丸様に限って・・・!)
「ってあれ?誰もおらん・・・」
またまた、置いてけぼりをくった邪見だった。
「ワシばっかりオチにすなーーーっ!」(誰にいってんだか)


はい〜。殺りん2作目です〜。殺生丸は冷たく、そしてちょっと危険で格好いいキャラですが、りんちゃんの存在でかなり変化しましたね〜♪りんちゃんの存在によって色々な感情を知ったり感じたりして欲しいなと思いながら書きましたが・・・。ちょっと優しすぎますかね? でも、それもまた、魅力の一つではないかと・・・あっしはおもっておりやす・・・。