花の如きおなご料亭・花子夢。 裏手に流れる川沿いに一本の桜の木がある。 花見が終わる頃、遅めに開花する。 「お酒はもうよろしいですか?殺生丸さま」 「・・・いらぬ」 女将のかごめと殺生丸が夜桜見物。 かごめが作った手料理に一口も箸をつけなかった殺生丸。 だがかごめは微笑みながらお重のふたをしめる。 いいのだ。 かごめはわかっている。 何かを押し付けられることが嫌いで自分の意志を阻害しようする 者なら何人とでも斬る。 だが・・・ 血の通った確かな人の心が 殺生丸の心の奥にもあると 「・・・桜・・・お好きですか?」 「・・・花などに興味はない」 「そうですか・・・。でも綺麗です・・・。綺麗ですね・・・」 数少ない会話。 けれど、だからこそたまに吐く殺生丸の言葉に 意味を感じるかごめ。 「あ・・・。折れているわ・・・」 川の水面すれすれに、一本の枝がぶらりと垂れ下がって 折れている。 「・・・まだ枝先には蕾があるのに・・・」 かごめは自分が持っていた手ぬぐいで折れている部分を縛ろうとした。 「・・・。どけ」 ザンッ!! 殺生丸は刀で枝を見事に切り落とした。 「せ・・・殺生丸様・・・。そんな・・・」 「・・・余分な物は切り捨てる。当たり前のことだ」 かごめは残念そうに斬られた枝を手ぬぐいで包んだ。 「・・・余分なものか・・・。確かにその方が残りの花にとっても 折れてしまった枝にとってもいいことだけれど・・・。もしかしたら まだ元の戻ったかもしれません」 かごめは何か訴えるような瞳で殺生丸を見つめた。 「・・・。都合のいい理屈は好かぬ」 かごめの視線に少し居心地の悪さを感じる・・・ 「殺生丸様。ではこの折れた枝は料亭の客間に飾っても よろしいですか?」 「・・・好きにしろ」 「はい。好きにします。ありがとうございます」 かごめは今度は嬉しそうに枝をお重を包んできた風呂敷に包む・・・ 自分が枝をきってしまったことに反発したのかと 思いきや、今度は喜んでいる。 (・・・わからぬ・・・) 目の前のに咲く花”かごめ” 月の夜も陽の朝も変わらぬ姿か形なのに かごめという名の花は日々、違う姿に咲く。 「殺生丸さま。お寒うございませぬか?」 「いらん」 刀一太刀で、か弱そうな女の命などすぐにでも奪えるとういうのに。 かごめが自分を気遣わうことに 微かな喜びすら感じてしまう。 (・・・女は魔物か・・・) 俗な言葉だが少しだけその意味が分かる殺生丸。 (・・・ならば。いつか犬夜叉の目の前でこの不思議な”花”を散らして みるか・・・) かごめの近くにいればきっと。 目的の刀を持った犬夜叉が現れる。 それまではこの”かごめ”という花を見つめるのも悪くはないと 殺生丸は思う・・・ 「殺生丸さま。花びらが踊っています」 「・・・。花などに興味はないと言っている」 「はい・・・。でも綺麗ですよ・・・」 不思議なの花乙女・かごめ。 冷たく落ち着いた心に 恋心という芽を植えているのかもしれない・・・