お嫁さんになりたい

りんと殺生丸、邪見一行は、とある森の中の湖にに来ていた。
森の奥一面に色鮮やかに花が咲き乱れていた。
「わあ!きれーなお花畑ー♪」
りんは夢中で花輪づくり。
その横で殺生丸は無表情でただ、座っている。
「ほらみてー。殺生丸様ー。きれーにできたでしょー」
「・・・」
「殺生丸様はお花、嫌い?」
「花などに興味はない」
「こんなにきれーなのに。それに、いいにおい」
「鼻につく匂いだ」
「いい匂いだよ。ほら、殺生丸様も・・・」
りんが殺生丸に摘んだ花を手渡そうとするが・・・。
「いらん。向こうで妖気を感じる。りん、お前はここにいろ」
むすっとしたかおで殺生丸はすたすたと森の中へと入っていった。
「ちぇっ・・・」
いつもはなしかけるのはりんの方。殺生丸様はとても強いし、あたしを助けてくれた人。
でも、いつも難しい顔をして何も話さないし、笑ったところ、みたことない。
あたしはもっと殺生丸様と仲良くなりたいんだけどなぁ・・・。
「ねえ、邪見さま、殺生丸さまの笑ったところ、みたことある?」
「お前・・・恐ろしいことを言うんじゃない。殺生丸様が笑うなんてこの世の終わりみたいなもんだ」
「えー?どーして?私、みたいなぁ」
(長年おそばにいるワシがみたことないのだからおまえがみられるわけないだろーが)
「あのなぁ、殺生丸様というお方はそもそも・・・っておらん!」
邪見の演説が始まる前にりんはすたすたとどこかへ行ってしまった。
「あんな子供にまでなめられるワシって・・・」
りんはモンシロチョウを追いかけて湖の縁まで来た。
「あれー?あの人、なにしてんだろー?」
湖の縁に白無垢の花嫁衣装をきた女が一人、たたずんでいた。
「きれー。お嫁さんだぁ」
りんはその美しい衣装に見とれてしまった。
「・・・。あのー。おねーさん。お嫁さんなのー?」
「・・・。そう見える?」
「うん★素敵素敵ー♪とってもきれーだよ」
「ありがとう。でも・・・お嫁さんにはなれなかったの」
「どーして?」
女は何とも哀しい目をしている。
「大切な人が・・・天国へ行ってしまったから・・・」
「・・・。そーなの・・・。あたしのおとうもおかあも・・・野盗にやられちゃって・・・。ずっと一人だった・・・。でも、今は一人じゃないよ。殺生丸さまがいるから。あと、ついでに邪見様も。だからね、おねえさんにもきっとお友達ができるから。はい、これあげる」
りんはさっき、殺生丸に渡しそびれた一輪の花を女に差し出す。
白い花びら。まるで、白無垢のようなはなだ。
「ありがとう・・・。お嬢ちゃん・・・名前は?」
「りん」
「りん・・・。いい名ね・・・。りん・・・私にもあなたぐらいの妹が居たのよ・・・」
「へえ・・・じゃ、おねーさんもひとりじゃないね」
「そうね・・・。ねぇ、りん。あなたが私の妹になってくれる?」
女はりんの髪にそっと触れた。
「えー・・・でもあたし・・・殺生丸様と一緒に行かなきゃいけないから・・・」<
りんは女の目をじっと見つめてしまった。なんだかもうろうとしてくる。
「私と一緒に・・・」
その様子を木の陰から邪見が見ていた。
「あちゃー。あれは人間でなく・・・」
湖には女の姿でなく、メスの狐の姿が映っていた。

その頃、森の奥の洞窟。食いちぎられた何十匹の妖狐の死体が転がっている。
どうやら、この洞窟は妖狐の巣だったらしい。
「・・・。同じ妖怪同士のしわざというわけか」
しかし、殺生丸は妖狐の中でかすかに人間の匂いも感じ取っていた。
「どういうことだ。人間の匂いがしみついている・・・」
「殺生丸様ーーー!」
邪見が急いで走ってきた。
「どうした」
「りんが・・・りんの奴が妖狐にとりつかれてしまったようなのです!!」
「・・・。いくぞ。邪見」
殺生丸はその妖狐がこの洞窟の妖狐をやったのだと直感したのだった。
「りん・・・。私と一緒に・・・」
「殺生まるさま・・・」
白無垢の中にりんはとりこまれてしまった。
「狐の嫁入りとはしゃれたつもりか」
「!!」
妖狐の真後ろに殺生丸がすばやく降り立った。
「貴様がこの先の洞窟の妖狐の群れをやったのか」
「・・・。だから何だ。妖怪同士の殺しあいなど珍しくはなかろう」
「妖怪同士?妖怪化した人間など、妖怪のうちにはいらぬわ」
「!!」
全てを見通したといわんばかりの殺生丸に妖狐は驚きの表情を隠せない。
「死にたくなければりんを離してとっと去れ。今日の所は見逃してやる」
「何を・・・。この小娘は私の体になるのだ。そしてもう一度女として生まれ変わる!!」
ザン!!
妖狐は本来の姿を現し、美しい白い妖狐の姿になった。そして、殺生丸にかみつこうとした!
殺生丸はふわりと簡単にかわす。
「お前たち妖怪のせいで・・・私はこうなったのだ!!」
攻撃をしながら、妖狐は自分の事を話す。
「男に化けた妖狐に騙され・・・私の家族を・・・喰った妖狐!!一人生き残った私は恨んで恨んで恨み尽くして・・・。ふふ。皮肉なことに恨み続けた妖狐の姿にいつの間にかなってしまった・・・。だから今度は私はくってやったまでよ!!」
「言いたいことはそれだけか。お前の事情などしったことではないわ」
殺生丸はそういうと刀を取り出し、妖狐に刃をむけた。
「殺生丸様。やめて!お願い!」
妖狐の腕の中にとらわれていたリンが目を覚ました。
「殺生丸様。お願い。このおねーさんはね、寂しかっただけなの。たった一人になって・・・。だから、りんと友だちになりたかっただけなの。だから、殺さないで!」
「・・・」
しかし、殺生丸は刃をむけたままだ。
「ね、おねーさん。りんはおねーさんと一緒にはいけない・・・。けど、りん、おねーさんのこと、絶対に忘れないよ」
「うるさいわ!小娘が!!同情などいらん!」
「うっ・・・」
妖狐の体が白いひも状となり、りんに巻き付く。
「・・・」
「せっしょ・・・ま・・・るさ・・・ま・・・」
「お前の体を乗っ取ってもう一度生きなおしてやる!」
「・・・。人間とは愚かなものよ。そのくだらない執念でしか生きられぬとは・・・」
殺生丸は刀を天生牙に変えて、斬りかかった!!
「うぎゃああ!!」
妖狐の体は真っ二つに斬られ、殺生丸は地面に落ちていくりんをしっかりと受けとめた。
「う・・・。あ、おねーさんは・・・」
白い妖狐の体が一瞬ぴかっと光って、なんとその中から人間の女が出てきた。
「ど、どういうことだ?!」
邪見も驚く。
「わ〜!!おねーさん!!」
りんは女に駆け寄る。
「あれ・・・。私・・・」
「おねーさん!」
女は湖の水で自分の姿を確かめる。
「私・・・確か・・・」
「殺生丸様が助けてくれたんだよー!よかったねー!!」
「りんちゃん・・・」
「りん、行くぞ」
「あ、はーい。おねーさん、これ、あげるね。友達のしるしだよ。じゃあね!」
りんはいそいそと殺生丸の後を追っていった。
「りんちゃん・・・」
女はりんからもらった白い花をそっと髪につけた。
「ありがとう・・・」

殺生丸はいつにもまして、むすっとした顔で黙っている。しかし、りんはにこにこしている。嬉しかったのだ。妖狐の女を助けたことが。
やっぱり、殺生丸様はりんの思った通り、本当はやさしいひとなんだ。りんを助けてくれたように・・・。
「ねー。殺生丸様ー。ありがとう。おねーさんを助けてくれて。りん、うれしくって」
「・・・。別に。私は天生牙の力を試したかっただけだ」
「ありがとう。殺生丸様。りん、殺生丸さま、だーいすき」
「・・・」
邪見はガキのクセに何色気づいてんだ・・・と思った。
「ねぇ、殺生丸様。殺生丸様はお嫁さん、欲しい?」
「そんなものには興味はない」
「でもねー。きれーなんだよー。お嫁さんて・・・。りん、すっごくあこがれちゃう」
「・・・」
りんは一番聞きたいことを思い切って聞いてみる。
「あの・・・殺生丸さま?」
「何だ」
「あの・・・あの・・・」
「・・・」
「あの、りん・・・りん・・・大きくなったら、殺生丸様のお嫁さんになりたいな!してくれますか?」
「・・・」
りんはじいいっと殺生丸の背中を見る。
殺生丸はむすっとしたかおで振り向いた。
りんはまた、うるさくしたかなっと一瞬怖くなった。
「あの・・・殺生丸様・・・。ごめんなさい、もう、黙るから・・・」
「勝手にしろ」
「え?」
「勝手にするがいい」
と一瞬かすかに微笑んだようにりんには見えた。
殺生丸はさっとまた、りんに背を向けてすたすたと歩く。
「あ、はい!かってにしまーす!!」
殺生丸様が笑った!
絶対笑った!
りんはスキップして喜んだ。
「わーい。邪見さま、りん、大きくなったらお嫁さんにしてくれるってー!!」
りんは邪見ぶんぶんと振り回して喜ぶ。
「わしはお前おもちゃじゃなーい!!」
殺生丸一行の後を白い花々が優しく見送っていた。