マッチ売りの少女。
クリスマスの夜、寒い雪が降る夜に
幸せな幻を見ながら天に召された・・・
小さな小さな灯火の中に、望んだ幸せを見出して・・・。
マッチ売りの少女は幸せだったのだろうか。
それとも・・・。
私の望む灯火。
でも私が見た幻は・・・
幻ではなくて・・・
幻じゃなくて・・・
・・・この世で一番見たくない・・・光景だった・・・
※
霧の中・・・死魂虫が舞う・・・。
松の木にもたれかかる桔梗が目を覚ます・・・。
(・・・何か・・・違う・・・)
目を覚ます桔梗。
何か眠る前とは違った違和感。
墓土の匂いは変わらないのに
何かが違う・・・。
「・・・!?」
桔梗の手のひらに・・・
雪・・・
(・・・つ・・・冷たい・・・)
感じるはずの無い
感覚。
墓土でできた体に
伝わるはずの無い・・・
(・・・。霊力が弱まっているせいか・・・)
両手を見つめる桔梗・・・
久しく伝わる雪の冷たさ・・・
それは
どこか切なくて
哀しくて・・・
”寒い”という感覚が過ぎ去り日の幸せだった時を
思い出させる・・・
(犬夜叉・・・)
女の幸せを肌で感じていたあのときを・・・
「・・・いい?私、犬夜叉にあげたいものがあるんだv」
「あ、あげたいもの!??」
井戸の前。
かごめの言った一言に顔を染まらせる犬夜叉。
「・・・あ、あげたいものってなんだよ(ドキドキ)」
「んー?それは、帰ってきてからのひ、み、つv。じゃあね〜♪」
かごめは犬夜叉に一つ、可愛くウィンクして
井戸に飛び込んだ。
「・・・(照)ひ、ひみつって・・・」
(あ、あげたいものって・・・)
”犬夜叉・・・。あげたいものって・・・。わ・た・しv私
をあげる”
そんな妄想が上映中の犬夜叉君の心のスクリーン。
「・・・けっ・・・。と、とにかく早く帰ってきやがれ!!」
犬夜叉、井戸の前にどすっと胡坐をかいてかごめを待つ。
・・・ちょっぴりドキドキな妄想をしながら(笑)
そんな犬夜叉の肩にひらり・・・
雪が舞い落ちてきた・・・
(さみぃと思ったら雪かよ)
冷たい・・・。
けれど心は寒くはない・・・
”犬夜叉に贈り物があるの。待っててね・・・!”
かごめの笑顔を思い浮かべる・・・
自然と顔が綻ぶ・・・
だから心は寒くない。
(・・・アッタカイ・・・)
井戸の向こう。
焦がれる温もりの主の帰りを早く望む・・・
(早く帰って来いよな・・・)
井戸を覗いている犬夜叉を・・・
白い死魂虫が犬夜叉の体を包む・・・。
(・・・き、桔梗・・・)
温かかった心が
切ない冷たさに変わる・・・
死魂虫は犬夜叉を誘うようにぐるぐる回って飛ぶ・・・。
(来いってことか・・・)
犬夜叉は井戸の向こうを覗く犬夜叉・・・
またかごめの居ない間に桔梗の元へ行ってしまったら・・・
(かごめが・・・)
犬夜叉の迷いを強引に消すように
死魂虫は犬夜叉の体をぐるぐる回る
廻る・・・。
桔梗に何かあったと犬夜叉に伝えるように・・・
(・・・。かごめ・・・。すまねぇ・・・)
”待っててね・・・”
かごめの声を・・・奥歯で噛み締める・・・
(すまねぇ・・・)
井戸を振り返りつつも・・・
犬夜叉は
雪の中
死魂虫と共に・・・消えた・・・。
「・・・よいしょっと」
犬夜叉とすれ違うようにかごめが帰ってきた。
(犬夜叉をびっくりさせてやろっと。ふふ)
かごめは犬夜叉への贈り物を手にして御神木へと走る。
「・・・。あれ?犬夜叉ー??」
待っていてくれるはずの犬夜叉の姿が無い。
「どこいっちゃったのよ。ここで待っててっていったのに・・・」
(・・・!)
自分でも嫌になるほど直感力がついてしまった。
犬夜叉が何処に言ったのか・・・
何も言わず突然きえる。
行き先は・・・
唯一つ・・・
いや・・・
ただ・・・一人・・・。
(・・・桔梗・・・)
ズキ・・・
木が撓るように
かごめの心に痛みが走る
(・・・。平気・・・。もう慣れっこだもの・・・)
かごめは痛みをぐっと奥歯で押し込める
・・・
「・・・。早くかえってこーい!!二股男!ったく・・・。
早く帰ってこないとプレゼントあげないぞー!」
シーン・・・
冗談でも言わないと
この静けさに押しつぶされそうで
「・・・。仕方ない。・・。そう・・・。仕方ないことなのよ・・・」
仕方ない、仕方ない、仕方ない・・・
そんな力の無い言葉ででしか
自分を納得させられない・・・
(待つのはもう・・・。慣れっこ・・・だけど・・・)
「・・・。寒いよ。犬夜叉・・・。寒いよ・・・」
雪がひらひら舞い落ちる・・・
待つのは慣れても
心の寒さは・・・。
かごめは両足を抱え・・・
寒さを凌ぐ・・・
(凍みるよ・・・。犬夜叉・・・。早く帰ってきて・・・)
切なく吐く息が白い・・・
かごめはリュックの中からマッチを取り出した・・・
赤い頭のマッチ。
一本取り出して摺ってみる・・・
小さな灯り・・・
「・・・。なんか・・・。マッチ売りの少女になった気分・・・なんて・・・ね」
ゆらゆら揺れて・・・。
小さな灯り。
寂しさで凍えそうな心に・・・
マッチ売りの少女は
この小さな灯火で
寒さと寂しさを忘れた・・・
マッチの炎の中に
幸せな夢が見えたから・・・
「・・・。私には何にも見えないよ・・・。何も・・・」
(あ・・・)
かごめの希望が断つように・・・
マッチの火も風で消えた・・・
(・・・消えないでよ・・・簡単に・・・)
かごめはもう一本マッチを取り出してつける。
シュ・・・ッ
シュ・・・ッ
「・・・つかない・・・」
シュッ・・・
かごめはもう一本取り出す・・・。
「どうして・・・っ。どうしてつかないの・・・っついてよ・・・っ。ついてよ!!!」
バサ・・・ッ
雪の上に・・・
マッチが全部落ちて飛び散る・・・
「・・・う・・・」
マッチ棒が濡れる・・・
かごめの見たい夢は
何本マッチをすっても
火をつけても
見えない。
何をしても・・・
分かるのは
雪より冷たい・・・
切なさだけ・・・。
「・・・え・・・?」
その時・・・。
御神木の真ん中が光り始めた・・・
(あ・・・)
その真ん中に見えるのは・・・
(犬夜叉と・・・。桔梗・・・)
合間見える
二人の姿だった・・・