雪幻


〜希望という灯火〜
後編

「犬夜叉・・・」 白い・・・ 光の中に見えるのは 犬夜叉と桔梗・・・。 御神木が映画のスクリーンのように・・・ (・・・。私がみるのは・・・。やっぱり・・・) 逃げられないのか この二人の 出会いと 別れがあって 今の自分が在るということから・・・ かごめは・・・ 何か、観念したような心内で・・・ 白い光の中の 幻を ただ・・・ 見ていた・・・ 霧の中・・・ 犬夜叉と桔梗が 見つめあう・・・ かごめの知らない・・・ 大人の男の顔をしている犬夜叉が居た・・・ 「桔梗・・・」 「・・・。犬夜叉・・・」 この二人の間に 言葉は要らぬ・・・ 互いの名を呼び合うだけで 胸に 熱い想いが込み上げるから・・・ (本当はいつも・・・。貴方達の心と心は・・・ 呼び合っているのね・・・いつも・・・いつも・・・) かごめに伝わってくる 二人の想い・・・。 自分のこの気持ちさえ この二人の成就できなかった熱い想いが生み出しているのかもしれない・・・ そう確かに悟らされたようだ・・・。 「・・・何か・・・何かあったのか・・・?」 「・・・あった・・・。というべきなのか・・・」 桔梗は少し笑みを浮かべ静かに舞い散る手を掬う・・・ 「・・・冷たいのだ・・・」 「え?」 「・・・霊力が・・・落ちているせいだろうが・・・。墓土でできた この体が・・雪が冷たいなんて・・・」 切ない笑み・・・ 雪が冷たい そのことが嬉しいのか哀しいのか・・・ (・・・自分がこの世のものではないと・・・思い知らされてる・・・) 桔梗の深い深い切なさの断片が かごめの心に伝わってくる・・・ 死人であるという事実。 想い人の温もりさえ感じられない体・・・ 「死人なのに・・・。寒いと感じているなどと・・・」 「・・・桔梗・・・」 桔梗の微笑が痛い・・・。犬夜叉はそっと 上着を脱いだ・・・ 「寒いなら・・・。着てろ・・・」 「犬夜叉・・・」 赤い衣を桔梗に羽織らせる・・・ かごめの心に痛みが走る。 (・・・犬夜叉・・・) その手つきが・・・ あまりにも優しくて あまりにも愛しそうで・・・ (・・・。犬夜叉の衣・・・。私だけの衣じゃないよね・・・) かごめの背中にも 掛けられた衣 桔梗を包む赤い衣は・・・ 桔梗の心を包み込む犬夜叉の心そのものに思えた・・・ 「・・・。温いな・・・。お前の羽織は・・・。昔から・・・」 「・・・桔梗・・・」 見つめあう・・・。 きっと・・・ 二人の心は 幸せだった頃に 帰ってるんだ・・・ (私が知らない・・・。私が存在しない頃に・・・) きっと そこは 桜が舞って 二人だけの世界。 二人で生きていこうと強く 約束しあった 一番 幸せだった頃・・・ 「・・・。呼び出してすまぬ・・・」 「いや・・・」 桔梗は衣を脱いで犬夜叉に返す・・・ 「着てろよ・・・」 「・・・。死人に温もりは要らぬ・・・」 「でも・・・」 桔梗は死魂虫をつれ、去ろうとする・・・。 「桔梗・・・っ」 呼び止める犬夜叉に立ち止まる桔梗・・・ 「・・・。お前の衣・・・。嬉しかった・・・」 呟いて・・・ 白い 霧の中に きえていった・・・ 「・・・桔梗・・・」 いつまでも いつまでも・・・ 桔梗の背中を見送る犬夜叉・・・ いつまでも ずっと・・・ (・・・犬夜叉・・・。私・・・見てるよ・・・?ここに・・・いる・・・のに・・・) 犬夜叉の心に 自分は居ない。 欠片も居ない。 居ない・・・ かごめの頬を伝う涙・・・ 御神木の白い スクリーンも 消えた・・・。 消えた。 けれどかごめの心のスクリーンには 熱い視線で見つめあう二人がくっきりと焼き付けられて・・・ (・・・。もうわかるから・・・。もうわかったから・・・) 二人の絆は・・・ 時など関係なく 深く 強いのだと・・・ 蹲り 必死に 零れ出る涙を堪えた・・・ 堪えた・・・。 どのくらい時間がたっただろう。 雪の上に散らばるマッチ・・・ 一本だけ・・・ かごめのスカートにくっついて いる・・・ 「・・・」 かごめはその一本のマッチを 静かに・・・。 シュッ 「ついた・・・。ふふ・・・」 小さく揺れる炎 ゆらゆら ゆら・・・ かごめを励ますよう・・・ 優しく・・・ 「・・・。ふふ・・・」 あったかい 小さな炎でも・・・ その小さな灯りの望むものは ただ一つ (怪我しないで・・・。帰って来てね・・・) 願いは 想う人が 生きていること ・・・幸せであること・・・ 「・・・怪我しないで・・・。帰ってきて・・・ね・・・」 犬夜叉のへのプレゼントが入った包みをぎゅっと 握り締めるかごめ・・・ 痛い切なさに 押しつぶされそうだけど・・・ かごめは待つ・・・。 小さな灯りを希望に変えて・・・
「ハァ・・・ハァ・・・」 ”待っててね・・・!絶対待っててね” かごめの笑顔が犬夜叉の心に痛みを走らせる。 (怒ってるかな・・・) そう思いつつも かごめに待っていてほしいと願う自分を感じる。 待っていてほしいと・・・。 「・・・ハァハァ・・・」 雪化粧の御神木。。 「かごめ・・・」 膝を抱えて・・・ 肩と頭に こんもり 雪を乗せていた・・・ (・・・もしかしてこの雪ン中ずっと・・・) そっとかごめのあたまの雪をはらう犬夜叉。 「・・・。あ。犬夜叉・・・。おかえり・・・」 「お前・・・。ずっとここで待ってたのか・・・?」 「・・・うん・・・。雪降っちゃったけど・・・」 パンパンとスカートはらって立ち上がるかごめ。 「まぁ・・・。随分と遅いお帰りで・・・」 「え・・・、あ、あの・・・」 かごめから目を逸らす犬夜叉。 「はぁあ。ほんっとにすぐ顔に出るんだから・・・」 呆れ顔のかごめ。 「・・・」 犬夜叉はただ黙る・・・。 いつものパターン。 (こんなこといつまで繰り返すんだろう・・・) そういう思いもある。 けど・・・ (今日は・・・。負の気持ちは捨てよう・・・。だって 今日は・・・クリスマスだもの・・・) 「・・・。寒かっただろ・・・。着てろよ」 (・・・!) 犬夜叉はかごめに衣を着せようとしたが かごめはその手を払う・・・ 「・・・どうしたんだよ」 「・・・。別に・・・」 一瞬、桔梗の肩に衣をかけた犬夜叉の手を思い出した・・・ 「あ、あ、そ、そうだ・・・。ほら、私、犬夜叉にあげたいものあったんだ」 「あ、あげたいもの・・・」 「はい。プレゼント・・・」 かごめが紙袋から出したのは・・・ 赤と白のチェック柄のマフラー・・・。 それを犬夜叉の首にかけた。 「な、なんだよ。これ・・・」 「あったかいでしょ。犬夜叉の衣の色の合わせて私が編んだのよ」 「・・・」 犬夜叉、あげたいもの、予想したいたのと違い、ちょっぴり残念。 「ごめん。気に入らなかった・・・?」 「べ、別にんなこといってねぇだろ・・・」 ふわっとした毛糸の感触・・・。 (かごめの・・・匂いがする・・・) 「・・・。ね。どうせなら・・・。二人でマフラーしようよ」 「え?」 犬夜叉とかごめは御神木に並んで座り 二人でマフラーを巻いた。 「ほおら!もっとくっつかないととれちゃう」 「お、おう・・・」 かごめは体をぎゅっと犬夜叉に密着させた。 (///) 「ふぅー・・・。あったかいねー・・・」 「・・・。かごめ・・・」 「なあに?」 「・・・。あの・・・」 何を言えばいいのだろう。 ”怒ってるのか?” いつもの台詞。 同じ台詞を言ったところで・・・。かごめは・・・。 「犬夜叉・・・。今日はクリスマスっていう日なの」 「くりすます?」 「そう・・・。クリスマスは・・・。大切な人の幸せを願う日・・・。 だから・・・。今日は・・・。二人で笑っていよう・・・」 「かごめ・・・」 「ね・・・!」 犬夜叉と腕を組むかごめ・・・。 「・・・。雪・・・。やんだね・・・」 「ああ・・・」 青空が 出てきた・・・ 二人を照らす・・・ 「犬夜叉」 「ん・・・?」 「・・・。ううん・・・。なんでもない・・・」 「かごめ・・・」 切ないかごめの声・・・ 何を言おうとしたのだろう・・・ 犬夜叉は問いかけるかわりに かごめの手を握り締めた・・・ 「・・・。かごめ・・・かごめ・・・」 言葉が見つからない。 ただ・・・ 想いをこめて名前を呼ぶ・・・ 犬夜叉に呼ばれ・・・ かごめは犬夜叉の肩に顔を寄せる・・・ 「・・・かごめ・・・」 切なさを埋めるように・・・ かごめの温もりを 逃さぬように・・・ 犬夜叉の肩にもたれながらかごめは思い浮かべる・・・ (・・・。私は信じる・・・。最後の一本・・・。あの灯火を・・・) 最後の一本の灯火。 小さな灯りだけど 犬夜叉を想う自分の心 (・・・私が選んだ道を・・・私自身が信じなきゃ・・・) 絶対に消せはしない 希望。 ・・・好きなヒトの幸せ・・・ 雪の中で見た 切ない幻 その痛みを抱えながら 願い続ける。 ・・・大切な人が心から笑える日がきますように・・・ 希望という名の灯火を・・・
FIN

マッチ売りの少女を思い浮かべながら書いたんですが。 結局かごちゃん我慢するみたいなラストで・・・(汗) でもかごちゃんから希望という心の種は消えないと思うのです。 そういう芯の強いおなごです。 ・・・かごちゃんが満開の笑顔になれる日はいつのことやら・・・
クリスマス小説シリーズ第1弾。第二弾もクリスマスイブまでに書けたらなぁと 思っております。またよろしく。