続・居場所を探して
〜タンポポの種〜


其の十一・子作り 親作り A





今夜の楓荘の食卓はうどん。





「なんでこんなあっついのにうどんなんだよ。もっと精のつくもん
ねぇのか」





ちゅるちゅるうどんをすすりながら文句をいう犬夜叉。





「匂いのきついものは妊婦さんにはキツイのよ。あんたも協力しなさい」





「けっ・・・」





犬夜叉、かごめが珊瑚につきっきりなのがちょっと置きに召さないようで。







「犬夜叉。妊婦がかごめ様だったらどうするんだ」







ゴフッと犬夜叉の口からうどんが飛ぶ。








「弥勒様!???」






「やぁやぁ。皆さんお久しぶりです」




アタッシュケース一つ持った弥勒がにっこり営業スマイルで立っていた










「いやいや。かごめ様。相変わらずお美しい。発情犬には気をつけていますか?」


かごめの手をとるジェントルマンの弥勒。


「て、てめぇ!!いきなり登場してんじゃねぇよ!!」



かごめと弥勒の間に割ってはいる犬夜叉。まだ顔にうどんがついてます。




「弥勒さま・・・。珊瑚ちゃんのこと・・・。知ってるの?」





「・・・。今朝産婦人科の診察券見つけて知ったのです。
全く私としたことが・・・。何も気がついてやれなくて」






「・・・。今は会わないほうがいいわ。珊瑚ちゃんちょっと不安定だから」





「・・・そうですか・・・」





「弥勒さま・・・」




「珊瑚」


ガタ・・・。




まだ少し顔色が悪い珊瑚が出てきた・・・




「珊瑚。すまない。気づいてやれなくて・・・」







「いいよ。別にもう・・・。でもごめん。今・・・。弥勒さまの顔見るの
辛いんだ・・・」






「どうして・・・」






「弥勒さまの赤ちゃん・・・。授かって嬉しいはずなのに・・・。
弥勒さまにも喜んでもらおうって思ってるのに・・・」





「嬉しいよ。心から嬉しい・・・珊瑚・・・」





珊瑚は弥勒に背を向ける・・・








「・・・。私・・・。何だか怖いって思ってしまう・・・。母親になることが
怖い・・・。出産が恐ろしく思えて・・・」






珊瑚は混乱し、両手で顔を覆う。




「珊瑚。もういい。大丈夫だから・・・。大丈夫だ・・・」





「弥勒さま・・・。弥勒様・・・」






泣きじゃくる珊瑚を弥勒はそっとだきしめる・・・








「・・・オレがいる。だからもう一人で抱えなくていい・・・」




「弥勒さま・・・」






珊瑚の髪をそっと撫でながら・・・




弥勒は珊瑚を包んだ・・・















珊瑚を先に休ませ、弥勒とかごめは食堂で話をしていた。






「・・・マタニティブルーというやつでしょうか・・・」





「そんな・・・。一般論でかたづけないで・・・。珊瑚ちゃんはね。
自分を責めているのよ。どうして新しい命を授かったことが
喜びに変えられないのか。弥勒さまが子供を欲しがっているって
一番知っているから・・・」






コーヒーをひとくちふくむかごめ・・・





「確かにね。赤ちゃんを産むということは素晴らしいことよ。でも
女の人にとってはとてもパワーと心持ちを必要とする・・・。
不安、焦り、迷い・・・。一気に肉体的にも心理的にも大変化が襲ってくるわ。
それを一緒に受け止めてくれる人が絶対に必要なの・・・」










「・・・。さすがかごめ様ですね。保母は子供のことも母親のことも
よく知ってる・・・」






「茶かなさないで。弥勒様。貴方のふんばりどころでもあるのよ。
お気軽に『子供を産んでくだされ』なーんてもう会社の子に言ってる暇ないんだから!!」




ドン!



とかごめはテーブルをたたいた。







「・・・。わかっています。珊瑚をそしておなかの子を絶対に守る・・・。長期休暇届出してきました
ずっと珊瑚のそばにいます・・・」






「お願いよ。弥勒さま・・・。あ、そうだ。明後日の日曜。弥勒さまと珊瑚ちゃんに
あわせたい人がいるんだ」





「合わせたい人?」




「うん。まぁ楽しみにしてて。じゃあ先寝るね・・・」







かごめと入れ替わりに犬夜叉が食堂に下りてきた。





やっぱり犬夜叉もかごめと同じ星マークのパジャマで。



「なーに話してやがったんでい」





缶ビールをあけ、コップに注ぐ。







「まぁ色々な」




「色々ってなんだ!!てめぇ。身重の女房がいるってのに・・・」






「・・・ハァ・・・。かごめ様は本当に苦労しそうだな。進歩しない旦那を持って」





ぷはあっとため息をつきビールを飲む弥勒・・・


「どういう意味だ。てめぇ」





「犬夜叉。お前・・・。ほんとうにいい女をパートナーに出会えたな」



急にまじめな顔になる弥勒。




「弥勒・・・」





「お前には勿体無いくらいだ・・・。かごめ様を幸せにしなかったら本当に・・・。
罰があたる」






「・・・余計なお世話だ。けっ・・・」






「・・・ふっ・・・」





言わなくても





犬夜叉自身が一番分かっているだろう・・・







男同士二人・・・





久しぶりに飲んだ夜だった・・・








そして日曜日。




かごめが弥勒と珊瑚に”会わせたい人”がやってきた。






「・・・会わせたい人って・・・」






「絵美ちゃん。生後半年でーす!」





産着の中の小さな瞳の赤ん坊だ・・・







「実はね。私の同僚の旦那さんが急に入院することになって・・・
今日一日あずかることになったの。というわけで
一日、よろしくおねがいしまーす!」






かごめは赤ちゃんの小さな手を振り珊瑚に赤ん坊を抱かせた。






「かごめちゃん・・・。あの・・・」





「・・・。今日一日・・・。珊瑚ちゃんと弥勒さまが絵美ちゃんのパパとママよ。
実際子育てがどんなものか
肌で感じてみよう。」





「でもあたし・・・。旨くできるか・・・」





「言ったでしょ。珊瑚ちゃんは一人じゃない。弥勒さまがいる。
勿論私も・・・。私もそばにいるから」









「かごめちゃん・・・」






(こら!!なんでオレははいっていないんだ!)


と犬夜叉が呟いたがあまり聞こえなかったので省略。









そして珊瑚と弥勒、そしてかごめと犬夜叉は日曜の公園へ・・・





乳母車に赤ちゃんを乗せて・・・。








「さすがに家族連れが多いわね・・・」





芝生ではキャッチボールをする親子。





お弁当を広げる家族・・・








「まさに家族の王国ね」




「ぐおー・・・」


あたたかさに犬夜叉、おねむの時間。



「・・・。あんたには昼寝の王国なのね(呆)」



ベンチにかごめと犬夜叉は座り、
噴水の辺りをゆっくり弥勒と珊瑚は乳母車を押して歩く・・・









「・・・弥勒さま・・・」





「珊瑚・・・。すまなかった・・・」




「いいよ。あたしが悪いんだから・・・」





珊瑚はなんとなく弥勒の顔が見られない・・・




自分でも感情がうまくコントロールできない。






それも単なる”マタニティブルー”の一環だといってしまえばそれまでだが
だが

”それまで”じゃない。




大切なことなのだ。






「・・・”私の子を産んでくださらぬか”この台詞、ただ、女性を口説くときの
台詞だった。だが・・・。おなごが子供を産む・・・。現実はとても大変な
ことなのだな・・・」







「弥勒さま・・・」






弥勒は乳母車を止め、しゃがみ赤ちゃんの寝顔を見つめた。





うわあん・・・



少しぐずり始めている・・・







「おなごがどんな思いをしてどんなことを乗り越えて
命をこの世に産み落とすか・・・。男はなにもわかっていない。仕方のないことだが
少なくとも”分かろうとする努力”を男はしなければいけないんだな・・・」









”男だから出産のことなんてわかるわけがない”




そんな言い訳するなら



女性には手を出すな




女性も命を宿す行為は安易にするな







子供は”授かり物”じゃない。





携帯のメールのようにリセットできないし、コピーできない。



消したり復活させたりできない。







子供を宿すということは




命に責任を持つ・・・ということだから・・・








「でも珊瑚・・・。これだけは信じてくれ・・・。オレは・・・
お前と・・・お前の中にいる命が・・・。大好きだ。世界で一番大好きなんだ」







弥勒はそっと赤ちゃんを抱き上げる・・・









「守るから。お前と新しい命はこのオレが絶対守る・・・。だから一緒にゆっくり
”親”になろう・・・。一緒に・・・。な・・・?」









「・・・弥勒さまっ・・・」







珊瑚は弥勒の手をそっと握る・・・





そのとき・・・







「あ・・・」











んきゃ・・・っ










弥勒と珊瑚が手を繋いだ瞬間・・・







赤ちゃんが





笑った・・・











「はは・・・。きっと俺達が仲直りしたのがわかったんだな」






「・・・あたしのお腹の子もわかったかな・・・?」









「ああ・・・。勿論さ」







弥勒は静かに珊瑚の抱きしめお腹を撫でた・・・











その光景をかごめ達が見守る・・・









「珊瑚ちゃんたち・・・。仲直りしたみたいね・・・。よかったわよね犬夜叉・・・」





「ぐおー・・・」





「・・・」




犬夜叉、鼻ちょうちんまでつくって思いっきりお昼寝中。







「でっかい”赤ん坊”と私・・・。結婚するのかもしれないわね・・・(苦笑)」








そしてその日。



弥勒と珊瑚はかごめのヘルプを受けながら


赤ちゃんのおしめの取り替え。







「うんちの色や匂いは絶対チェックしないといけないのよ。
できれば回数や様子をメモしておいてもいいわね」






かごめは乳幼児も担当しており
手馴れたてつきで布おしめをとりかえていく






「加奈ちゃん(赤ちゃんの名前)はアトピー持ってるのね。
だから通気性のいい布オムツなの。大変だけど
すぐ股の辺りが汗かいちゃう。天花粉つけて・・・と」





珊瑚と弥勒はかごめの慣れた手つきに
ただ頷きながら見ております。



公園のベンチでミニミニ赤ちゃん教室が開かれているよう。







「あとこれはわかってると思うけど絶対に抱くときは首を支えるように抱くの。
珊瑚ちゃん抱いてみて」





恐る恐る赤ちゃんを抱く珊瑚。






「二の腕をもっとあげるように・・・。うんそんな感じ」





手取り足取り珊瑚に教えるかごめ







丹念に押してるかごめに珊瑚は本当に心強く感じる・・・。








(本当に珊瑚はいい親友を持ったな・・・)





弥勒がそうしみじみ思っている横で・・・







「ぐおー・・・」







隣のベンチで大の字になってひたすら眠る図体のでかい男一人。








(・・・。かごめ様の苦労がなんだか目に見えるようだ(汗))










親になる者。




将来親になるかもしれない者・・・









小さな命の尊さを





確かに感じていた・・・
















「・・・結局弥勒たち。いついてしまった・・・」





ビールを飲みながらぶつくさちょっとご機嫌斜めの犬夜叉君です。



”珊瑚とも話し合ったのですが出産はこちらでさせていただこうかと
思います。勿論家賃、もろもろ払います。という訳で
よろしくおねがいしまーす!”






珊瑚たちの部屋は向かいの空き部屋。





(・・・。すぐ目の前じゃあなんかおちつかねぇしかごめとの
会話も聞こえちまう。会話だけじゃなくて物音も・・・)






それは一体どんな物音ですか?犬夜叉クン。









「や、やらしい音じゃねぇぞッ(慌)」





一人問答する犬夜叉。





コンコン。




ノックに異常にびっくりする。





(オレの考えてたことが見抜かれたかと思ったぜ・・・)



「ったく弥勒か?オレはもう眠いんだ」






ガチャ・・・







あけると弥勒ではなくかごめが







「何だよかご・・・」










(!?????)







犬夜叉の視線、膨らんだかごめお腹に・・・











「出来ちゃった」












「ゴフッ!!!」









犬夜叉、ビール大噴射。












(で、で、で、出来ちゃったって・・・えええええ???)








犬夜叉、後ずさりして青ざめる・・・











「かごめ、お、おま、お前・・・」








「えへっへー。ひっかかったー♪」





かごめはくすくす笑いながらお腹から
クッションを取り出した










「・・・て、て、てめぇ・・・。だ、騙しやがったな・・・」




犬夜叉、オロオロ・・・







「このくらいのことでなにうろたえてるのよ。そんなことじゃ
将来”父親”になれないわよー」






「お、男の純情をも、もてあそぶんじゃねぇったく・・・(慌)」






犬夜叉、まだドキドキいってます・・・






「言ったでしょ?親になるってことは大変なことだって・・・。
どしっとした器が必要なのよ」








犬夜叉のベットにちょこんと座るかごめ。






「・・・けっ・・・」









犬夜叉があんまり動揺したのでかごめはそれが可愛らしくて
くすっと笑う








「・・・ふふ。ねぇ・・・。”あれ”やってみようか・・・」






「えっ・・・」





犬夜叉、ドキ・・・


(あ、”アレ”って・・・)






「・・・。あんたまたなんか勘違いしてるわね。ほら・・・。
赤ちゃんができたら旦那さんが奥さんのお腹に耳当てるシチュエーション・・・(照)」






かごめは少しもじもじしながら
言った。








「・・・な・・・。そ、そんなこっぱずかしいこと・・・」






「やって・・・みたいなぁ・・・」








みたいなぁ・・・みたいなぁ・・・






かごめちゃんの声はエコーして犬夜叉の耳にこだまする






「だ、誰がそんな・・・」








かごめがポンポンと膝を”おいで”とたたくと・・・





「///ちょ、ちょっとだけだぞ」






すぐにかごめのお腹に耳をあてる素直な犬夜叉クン(笑)














「・・・どう・・・?何か聞こえる・・・?」







(///)





音より風呂上りなのかせっけんの香りがして犬夜叉、ちょっとくらくら・・・









「ねぇ。何かきこえる?」









「・・・。ぐうぐういってっぞ。なんか悪いもんでも食ったか?」







(・・・(怒))





かごめは犬夜叉の頭をどかっと
ベットに落とす









「・・・んっとに女心がわかんない奴ね。もう・・・っ」






「何聞こえるかって言うから応えたまでじゃねぇか!けっ・・・」









腕組みをしてぷいっと背を向ける犬夜叉・・・












(ホントに・・・。直拗ねて子供なんだから・・・)











大きくて広い背中








子供っぽい犬夜叉





ところもみんな犬夜叉らしいのだ・・・











「・・・!」






かごめはそっと犬夜叉の脇の下から前に両手を通し包む。









「”親”もいいけどあたし達はもう少し・・・。二人の時間を満喫しようね」











「・・・お、おう・・・(照)」










親になるということ。






子供を育てるには夫婦同士の変わらぬ愛情が
必要だ。







子供を育てる前に






愛情を育てよう。










いつかその愛情を






未来の命に伝えるために・・・