「珊瑚、あーんv」
「しょうがないなぁもう・・・」
楓荘。朝食。
目の前でご飯の食べさせ合いする弥勒珊瑚ご夫婦に
かごめと犬夜叉はただただ、あてつけられており・・・
「てめぇら・・・。朝っぱらからいちゃいちゃしてんじゃねぇよ。ったく。
あつっくるしいったらありゃしねぇ!」
ちょっぴり羨ましそうに怒る犬夜叉。
箸で納豆を混ぜ混ぜしております。
「新婚の朝とはこうですぞ?犬夜叉。お前もかごめさまにやってもらいたいんだろう」
「ばっ・・・。んなこっぱずかしいことオレは絶対にしねぇ!!フンッ」
ちょろっと納豆ご飯にお醤油をたらす犬夜叉。
「ふふふ。まぁ、お前も結婚したらばわかるさ。いつでもラブラブ〜な
気持ちが♪な、珊瑚、それとお腹のベイビーも♪なーvv」
すこし膨らんできた珊瑚のお腹をなでながらにやにやの弥勒パパ。
「ふふふ。早くでてこーい♪パパもママもまってまちゅよーvv」
「まだ聞こえないよ。弥勒さまったら」
「いやいや、今から色々と教えておかねば。おなごの口説き方とかな」
「いやーねぇ♪もおおーーーvv」
弥勒のワイシャツを可愛くつねつねする新妻珊瑚。
あまりのラブラブぶりにさすがのかごめもちょっと苦笑・・・
「けっ・・・!!やってられっか。オレはもう行くぜ!!」
「あ、待って犬夜叉。寝癖、ついてるわ」
立ち上がった犬夜叉のTシャツについた糸くずをそっとかごめは何気なく
取る。
「・・・す、すまねぇな」
(なんか・・・。今、”妻”って感じがしたぞ・・・)
「ううん。じゃ、行ってらっしゃい」
「お、おう・・・」
にっこりスマイルのお見送りに犬夜叉、ちょっと新鮮な感動を覚える。
(毎朝・・・こういうのなら、ちょっといいかもな・・・)
かごめの笑顔の余韻に浸りながら犬夜叉は大工道具を忘れたまま楓荘を出た・・・
「かごめ様の笑顔であれだけ腑抜けになれるなら、かごめさま。いっそ
”朝チュー”など犬夜叉に施したらどうです?ふふふ。なぁ、珊瑚v」
と、弥勒は珊瑚の頬に軽くキッスを。
「や、やだ!もう!!・・・(照)」
食堂にハートマークが沢山飛ぶ。
流石のかごめも苦笑していた・・・
(弥勒さまたちのラブオーラには負けるわ・・・(汗))
だが犬夜叉は考えていた。
(結婚・・・か。あんま深く考えてなかったけど・・・)
建設中の新築の家の現場。
木材に腰を降ろし、かごめ手作りのお弁当をほうばる。
(結婚ってそもそも・・・。一体何が変わるって言うんだ。
ただ、かごめの苗字が変わって・・・それから・・・)
一緒のお部屋で過ごせます。
それから・・・
(そ、それから・・・(妄想))
「結婚すれば好きなあの子と合法的に毎晩ムフフv」
「!!!!」
いきなり今、妄想していたことを耳打ちされ、犬夜叉、ミートボールを噴出す。
「み、み、弥勒、てめぇ!!なんでここに・・・」
「いやぁ。外回りで近くまで来たものだから。それにつけてもお前、
本当、何考えてるかすぐわかる奴だな」
「な、何を考えてたってんだ!」
「ムッツリ助平な〜ことだろ??」
犬夜叉を肘でつく弥勒。
その弥勒もかなーり助平な顔になってます。
「て、て、てめぇと一緒にすんじゃねぇ!!全く・・・」
「ふふふ。まぁジョークはさておき・・・。”結婚とは”現実的なことも
左右するのだぞ。犬夜叉」
急にまじめな顔になり、コンビにで買ったサンドイッチをぱくっと食べる。
「あぁ?んなことわかってらぁ。オレだって多少の人生設計ぐらい
あるぞ」
「・・・それはかごめ様にまかせた方がいいと思うぞ。ま、オレは言いたいのは
そんなことじゃない」
「んじゃ何だよ」
「・・・。過去のおなごのことだ」
犬夜叉の箸がぴた・・・と止まる。
一番突っ込まれたくない部分。
「心の中のことはオレにも何も言えんが・・・。連絡を取り合ったりなんぞ、してないだろうな??」
「し、してるわけ、ねぇだろッ。オレだってそこまで馬鹿じゃねぇ・・・」
犬夜叉、微かに目が泳ぐ。
「じゃあ、携帯のアドレスは消したか?」
「・・・」
弥勒はポケットから缶コーヒーを出し、栓をあけた。
「・・・。そんな小さなケジメもつけられないままにお前はかごめ様の人生を責任持てるのか?」
「・・・。う、うるせぇな・・・。この前から草太にしても弥勒にしても・・・。オレは俺なりに
考えて決断してんだ。いちいち小言いうんじゃねぇよ」
弥勒の言うことのほうが”正論”とわかっているから
言い返す言葉も自信なく・・・
ただ苛苛するだけ・・・
「”決断”か・・・。かごめ様も決断したんだろうな。”まだお前に残る月島桔梗の影ごとお前を一生かけて受け入れようと」
「・・・」
「そのかごめ様の”決断”にお前はそのまま甘んじる気か・・・?いいか。犬夜叉。結婚とは
互いが抱えるもの全て一つにして二人で抱えてく・・・そういうものなんだぞ。
お前はかごめ様ばかりに何かを抱えさせるつもりか?」
弥勒の一言一言が・・・
突き刺さる・・・
「・・・すき放題・・・。言いやがってよ・・・。そうだよ。全部てめぇの
言うとおりさ・・・。オレが悪いんだ。それでいんだろ。オレだってなオレだってオレ・・・」
弥勒はただ・・・
犬夜叉を見つめる・・・
「・・・。どうにもならないことってあるだろ・・・。理屈じゃ・・・。理屈じゃ・・・」
ぐしゃっとコーヒー缶を握りつぶす・・・
旨くいかない、自分の気持ちも整理できない
苛苛を一緒に
握りつぶす・・・
「解放されてもいい頃だろ・・・。もう・・・。昔の柵(しがらみ)から・・・。いや、解放しなければいけない。
犬夜叉、おまえ自身も。そしてかごめ様を・・・」
「・・・」
「この世で失くしたら怖いものはなんだ?この世で一番哀しいことはなんだ・・・?」
弥勒は最後に優しく問う。
そして犬夜叉の背中をポン!と軽き・・・
いつもの調子のいい営業スマイルでその場を去った・・・
「・・・弥勒・・・」
自分に対するキツイ質問も
お茶目な去り際の”励まし”も
犬夜叉とかごめの幸せを願う心から来る行動。
それは犬夜叉にも分かっている・・・
(けど・・・)
ポケットから携帯を取り出し、桔梗のアドレスを画面に表示する・・・
「・・・」
メールアドレス一つ、消したところで
けじめをつけられるわけでもない
けれど消すことができない自分は許せない・・・
(削除ボタン一つ押せば・・・すむことなのに・・・)
躊躇うのは何故だ。
未練というほどの想いはないのに。
”桔梗に何かあったとき・・・できる限りのことをしたい”
(こんなんじゃオレは・・・。かごめを幸せにできねぇ・・・)
携帯をぎゅっとにぎりしめ・・・
髪を掻き毟る・・・
青空がかごめの笑顔に似て・・・
眩しく切ない昼下がりだった・・・
その日の夕方。
「悪い・・・。かごめ。仕事が夜遅くまでかかりそうなんだ。
映画、遅くなるかもしれねぇ」
「そっか・・・。じゃあ7時まで待って、犬夜叉が来られなかったら先、家に帰ってるね」
「ああ。そうしてくれ。なるべく行くようにするから・・・」
P。
と、かごめに連絡をしてから
二時間。
かごめと恋愛映画、夜のレイトショーを観る予定だったのだが
仕事具合が遅くなっており
残業となってしまい・・・
(9時か・・・。流石にもう映画も終わってしまっているよな)
仕事が終え、7時に待ち合わせしたがすでにもう9時・・・
(そうだよな。待ってるはずねぇか・・・)
犬夜叉はそう思い、楓荘に戻るが・・・
「え・・・?まだかごめ、帰ってねぇのか?」
「うん。さっき電話があってね。もう少しあんたを待ってみるって・・・。
映画館の前で会わなかったの?」
マタニティ本を食堂で読む珊瑚。
「・・・いや・・・」
犬夜叉ははっと想い出した。
”ねぇ知ってる?明日観る映画のジンクス”
”ジンクス?”
”そう。この映画のレイトショーを最初から最後まで一緒に観られたカップルは・・・。
絶対に幸せになれるんだって”
”けっ。オレはそーゆーの興味ねぇ”
”・・・そう。ま、あんたはそういう奴だけどね”
軽く聞き流してしまった会話・・・
でもかごめは・・・
「・・・かごめ・・・!」
ガタン!!
犬夜叉はすごい剣幕で出て行った・・・
「犬夜叉・・・」
珊瑚は赤ちゃんの靴下を縫いながら二人がすれ違わないようにと
祈った・・・
「かごめ・・・!」
犬夜叉は走る
走りながら
思う
『・・・待ってる・・・』
いつも
かごめを待たせてばかりだ
待っていてくれる
そうどこかで安心していた
かごめなら待っていてくれる
(でももうそんなのは・・・やめる・・・)
「この野郎!危ねぇだろ!!」
信号のない道路をつきぬけ、
トラックを過ぎって突っ走る・・・
(かごめ・・・)
”お前の一番大切なものはなんだ・・・?”
”手放したくないものは・・・なんだ・・・?”
弥勒の問いに・・・
今ならすぐ応えられる
それは・・・
(それは・・・)
「ハァハァ・・・。かごめ・・・ッ!!!」
息を切らせて
映画館が入っているショッピングモール前まで駆けてきた犬夜叉・・・
「かごめ・・・!!」
だが入り口は閉り、中の灯りは既に消え、
街灯だけがついていた・・・
「かごめ・・・。くそ・・・!どこで待ってるんだ。かごめ・・・!」
駐車場や駐車場裏も探すが
どにも姿がない・・・
「かごめ・・・!!」
あちこちキョロキョロしながら
走り回る・・・
噴水がある
イベント広場に出る・・・
「あ・・・」
噴水が輪を作るように吹き上がり
黄色や青でライトアップされていて・・・
噴水の前の横長のベンチに・・・
体を九の字にさせている・・・
眠っているかごめを見つけた・・・
(・・・かごめ・・・)
犬夜叉は静かに
その場に胡坐をかいて座る・・・
「・・・ったく・・・。人が・・・急いで来て見れば・・・。お前は・・・」
映画のチケットを握ったまま
眠るっているなんて・・・
可愛い寝顔で・・・
犬夜叉はそっとジャケットをかける・・・
「・・・ん・・・。あ・・・。犬夜叉・・・?」
「お前・・・。こんなとこで寝て・・・」
「・・・ごめん・・・。心配かけちゃって・・・」
起き上がるかごめ
チケットを犬夜叉に渡す・・・
「これ・・・」
「どうしても・・・待ってたかったんだ・・・。犬夜叉が来てくれるって信じたかった・・・。
もう・・・すれ違うのは嫌だったから・・・」
(・・・かごめ・・・)
携帯の中の
桔梗のメールアドレスをさえ、消せずにいるのに
そんな自分を
かごめは
ただ
ひたすらに待っていてくれた・・・
”お前の大事なものは・・・一体なんだ・・・?”
”お前が手放したくないもは・・・なんだ・・・?”
(それは・・・。それは・・・)
犬夜叉は携帯を取り出した・・・
「・・・犬夜叉・・・?」
ボチャン!!
そして犬夜叉は何を思ったか携帯を
いきなり噴水の中に投げ入れた・・・
「犬夜叉!???な、何するの!??大事な携帯を・・・!」
「いいんだ。もう・・・」
「だって・・・!」
かごめが噴水の中に手をいれ取ろうとしたが・・・止める犬夜叉。
「いいんだ・・・。もういらねぇ」
「いらない訳ないでしょ・・・!あの携帯には桔梗の・・・」
「いいんだ!!もう・・・。オレにはもう・・・」
「犬夜叉・・・」
水の中の携帯を見つめる犬夜叉・・・
「・・・解放しなくちゃいけねぇんだ・・・。昔の自分を・・・。そして・・・」
犬夜叉はじっとかごめをまっすぐ見つめた・・・
「・・・かごめ・・・。携帯は手放せても・・・。お前は手放せない・・・。お前だけは・・・」
「犬夜叉・・・」
見つめ合う・・・
「・・・ぷっ・・・」
くすっと噴出してしまうかごめ。
「なっ・・・なんで今笑うんだ・・・っ。笑う場面じゃねぇだろ・・・」
「だって・・・。観たこともないような真面目な顔していうから・・・。
うふふ・・・」
「ま、真面目な顔しなけりゃ言えねぇだろ!!あ、あんな台詞・・・。
あ、あんな・・・。いいから・・・もう、笑うンじゃねぇ・・・っ」
(・・・!)
犬夜叉はかごめの手を引っ張り
引き寄せた・・・
「犬夜叉・・・」
「・・・。携帯は手放せても・・・お前の笑顔は離せないんだからな・・・」
「・・・。ありがとう・・・。嬉しい。嬉しいけど・・・。無理しなくていいんだよ・・・。
本当に・・・いいの・・・?」
かごめは犬夜叉を気遣うように見つめた
「無理なんかしてねぇ・・・。オレとお前はもう・・・新しく始まるんだから」
「犬夜叉・・・。ふふ・・・。やっぱりそういう台詞似あってない・・・」
ぽろっと少し涙を溜める・・・
何の涙なのか
分からないけれど・・・
「・・・かごめ・・・」
「ホントに・・・。ありがとね・・・。ありがとね・・・」
かごめの涙
ありがとうの涙は・・・
とても澄んで綺麗で・・・
「・・・かごめ・・・」
愛しい涙をそっとぬぐって
「犬夜叉・・・」
その涙に
言い尽くせない想いを
「かごめ・・・」
唇から伝える・・・
ここから始める
ここから始まる
カラン・・・
ピンクのミュールのカカトが背伸びして・・・
バックから
携帯が落ちる・・・
噴水が吹き上がり
水面に・・・
キスする二人の姿が
映っていた・・・