続・居場所を探して
〜タンポポの種〜
其の十六 貴公子、帰還
〜本当に好きだから〜
「2年ぶり・・・か」
戦国空港。
サングラスをスッと外し、日本の空を見上げるのは
クラッシク界の貴公子の異名を持つ坂上樹。
「・・・かごめさん・・・。元気だろうか・・・」
青い空に浮ぶのはかごめの微笑。
叶わぬ想いは
未だ樹の心に灯っていた・・・
買い物帰りの犬くんとかごめさん。
犬夜叉の夏物の服を買いに行ったのに荷物はかごめに持たせ、自分は
食べたり飲んだりばかりの犬。
「だから。あんたねぇ。女の子に荷物持たせる彼氏がどこにいるのよ」
「ここにいるじゃねぇか。ケケケ」
「・・・(怒)」
犬の態度にかごめさん、キレました。
「・・・もうあんた、私の部屋に入ってこないで!!!フンッ」
(えっ・・・)
かごめさん、犬夜叉を無視して
先にすたすたと歩き出した・・・
(そ、そんな・・・。か、かごめの部屋に入れないなんて・・・!)
最近はほとんど夜はかごめの部屋に入り浸りな犬夜叉。
一時もかごめと一緒にいたい犬夜叉にとってはこれ以上の罰はない・・・
「か、かごめわ、悪かった。荷物持つから・・・っ」
慌ててかごめを追いかける犬夜叉。
するとアパートの前にシルバーの見覚えの在る車が・・・
そして車の前でかごめと誰かが話をしている・・・
(あ・・・あれは・・・)
「やぁ。お久しぶりです。犬夜叉さん」
サングラスをすっと様にはずし、犬夜叉に会釈するのは
樹だった。
桔梗と共に今はフランスで活動していると聞いていたが・・・
「2年ぶりですね。楓荘が新しくなっていたのでびっくりしました」
「・・・。お前・・・。どうして・・・」
「・・・仕事の関係で一時的に帰国しました。それであなた方の元気な姿が見たくて・・・」
「・・・」
”あなた方”と樹は言っているが視線はかごめに向けられているのを
犬夜叉は敏感に感じ取る・・・
「お前も元気そうだな」
「ええ。今度、新しいアルバムを出すことになって・・・。あ、そうだ。
これ、お土産です。楓荘の皆さんでどうぞ」
かごめに綺麗なクリーム色の紙袋を手渡そうとしたが
犬夜叉が割ってハイってうけとる。
「・・・すまねぇな。貰っとくぜ。んじゃな」
「え?ちょ、ちょっと犬夜叉・・・っ」
犬夜叉はかごめの手を強引にひっぱり、中に入っていってしまった・・・
「・・・」
(・・・。やれやれ・・・。相変わらず男の嫉妬は敏感だな・・・)
犬夜叉の微妙な警戒心を樹も感じていた。
樹はくすっと複雑な笑みを浮かべ、楓荘を後にする・・・
一方、犬夜叉とかごめは・・・。
かごめの部屋。
犬夜叉が
「ちょっと!犬夜叉!何なのよ。あの態度は!!」
「うるせぇな。何でもいいだろ!」
「良くないわよ!樹さんせっかく来てくれたのに・・・」
(・・・なんでそんな顔すんだ)
残念そうに言うかごめの表情が犬夜叉を苛立たせる・・・
「樹さん、楓荘の爆発の事、ずっと気にしてたんですって・・・。
篠原の件で・・・」
「別にもう2年も前のことだろ。わざわざ来ることねぇじゃねぇか・・・。
相変わらず金持ち面しやがって・・・」
子供が拗ねるように
犬夜叉は口を尖らせて言った。
「・・・何。その棘のある言い方。あんたさっきから変よ!」
「変なのはてめぇだろ!??樹の前ではおしとやかそうな態度とりやがって・・・!
オレの前ではあんな顔しねぇだろ!!」
「当たり前でしょ!樹さんは紳士的な人だもの。自分の彼女に荷物持たせるような人とは
違うのよ!」
「なっ・・・」
今、一番勘に触る部分をかごめに指摘され犬夜叉、カチンときた。
「あーそーかよ!!そんっなに樹がいーならアイツとフランスでもどこでも
行きやがれ!!あばよ!!」
バタン!!
かごめの部屋のドアを思い切り足蹴りして閉め、自分の部屋に拗ねてこもってしまった犬夜叉・・・
「・・・。ったく・・・」
かごめも呆れ顔で自分の部屋で暫く膨れ顔だった・・・
「くそ・・・」
布団に寝転がり大の字になる犬夜叉。
”かごめさん・・・お元気でしたか?”
かごめを見る樹の視線は2年前にも増して・・・
(想いがこもったじゃねぇか・・・)
自分の恋愛には疎いくせに、
かごめに近づく男のことになると自分でも驚くくらいに
アンテナが張る。
かごめに近づく男は全部排除したくなるほど・・・
(・・・かごめもかごめだ・・・。樹のペースにはまりやがって・・・)
勿論かごめは”二股”などという半端なことをするような女ではないが
少なからず・・・
篠原との一件で
一途でストレートな樹の想いはかごめの心にも響いていたことを
犬夜叉は感じていた・・・。
(女って奴はやっぱ・・・。ああいう男が好きなのかな・・・)
犬夜叉はポケットから携帯を取り出し、待ち受け画面に呟いた・・・
「かごめ・・・。お前・・・やっぱああいう男がいいのか・・・?」
恋する男。犬夜叉。
結婚の約束をしているとはいえ、
焦りが湧いてきた夜だった・・・
三日後。
犬夜叉とかごめはケンカ続行中でずっと一言も口をきいていない。
周囲の弥勒や珊瑚たちは
「いつもの事だろう?」
と至って傍観者。
だが犬夜叉はかなり神経質になっている。
仕事中も携帯を思わず取り出し、かごめが今なにしているか気になって
かけたくなる・・・
(いけねぇ・・・。オレ、何こんな不安がってんだよ・・・)
屋根の上。
流れる汗をタオルで拭いて犬夜叉は仕事に集中しなおす・・・
(・・・ビビってどうすんだ・・・。どっしりかまえてりゃいいんだ・・・)
だが・・・その日犬夜叉が帰ると・・・
(あ・・・あの車は・・・!??)
シルバーの車。
犬夜叉の嫉妬アンテナはバリバリに発進。
ドタタタ・・・!
食堂に靴を投げ捨てて入っていく・・・
「おう珊瑚!かごめは・・・」
食堂をくまなく探す犬夜叉。
「どうしたの。あんた」
「いいからかごめはどこだってきいたんだ!!」
「かごめちゃんなら坂上さんと一緒に楓おばあちゃんの部屋に・・・」
ドタタタタ・・・
楓の部屋に夕食にも目もくれず直行。
「・・・ったぁく。嫉妬犬は相変わらず落ち着きがない・・・」
ぽりぽり。漬物を食べる妊婦の珊瑚さんでした・・・
「ハァハァ・・・」
楓の部屋の前。
犬夜叉は乗り込もうと意気込むが・・・
(・・・。なんか俺・・・器の小さいことしてねぇか・・・?)
急に弱腰になり、やっぱり
襖にみみをあてて盗み聞き体勢・・・
(どんなこと話し手やがるんだ・・・)
〜♪
音楽が聞こえてきた。
樹の曲らしい。
「うん。素敵な曲ですね・・・!」
「そうですか。よかった・・・!かごめさんに気に入ってもらえて嬉しいです」
楽しそうな声が聞こえ、
盗み聞きの犬やサyは・・・
(くそ・・・。あいつら俺がいねぇ時に・・・!)
と、奥歯を噛んで妬いております。
「樹さん。この間は犬夜叉が失礼な態度をとてしまってごめんなさい・・・」
「はは。気にしていませんよ。返って犬夜叉さんらしくていいですよ」
(・・・なんか微妙に馬鹿にされている気が・・・(汗))
ちょこっと落ち込んで再び聞き耳をたてる。
「かごめさん・・・。何だか綺麗になられましたね。一段と・・・」
「そ、そんな・・・」
(・・・あんの気障野郎〜!!)
自分は到底いえない台詞をさらっとかごめに言うので嫉妬はさらにメラメラ。
「・・・。結婚・・・されるんですね・・・。さっき珊瑚さんから聞きました」
「・・・」
かごめは照れくさそうに俯く。
「よかった。貴方の幸せな姿を一目・・・見たかったから・・・」
「樹さん・・・」
優しい眼差しを送る樹・・・
目の前にかごめがいる。
相変わらず柔らかいかごめの声は・・・
樹の心を和ませる・・・
「樹さんは今は・・・」
「僕は
癒しの音楽を作りたい・・・。クラッシク音楽を幅広くいろんな人に聞いてもらいたいと
作曲しています。」
(・・・)
自信ありげの樹の近状に・・・
犬夜叉は自分の今の現状と比べて少し虚しい気持ちに・・・
(俺は・・・。子供じみた嫉妬ばっかりして・・・)
かごめと樹の会話は続く。
「疲れている人の心を癒したい・・・なんて思いあがりかもしれないけど
僕の音楽が少しでも役に立つならと・・・」
「とっても素敵だと思います。きっと樹さんの音楽・・・。
みんなの心に届きますよ・・・。私が保証します・・・!」
「ありがとう・・・。本当に貴方の言葉は心強く僕を勇気付ける・・・」
樹の言葉に・・・
想いがこもってきたと犬夜叉は感じた・・・
(・・・どんな瞳でかごめを見てやがる・・・。どんな想いで・・・っ)
犬夜叉の心はカァっと熱くなった。
「・・・かごめさん」
「はい」
「僕は今でも貴方が好きです」
「・・・!」
樹は真直ぐにかごめを見つめて言った・・・
襖の向こうの犬夜叉は手が震えるくらいに・・・
怒りが・・・
「い・・・樹さん」
「・・・愛しています・・・永遠に・・・」
バアンッ!!!
犬夜叉は襖を蹴破って入ってきた。
「樹てめぇッ!!かごめに迫りにアメリカからきたってのかぁあ!!」
樹のスーツの襟を掴む犬夜叉。
「い、犬夜叉ッ・・・」
「・・・かごめはな!!俺と一緒になるんだよッ!!
誰にもやらねぇんだ!!わかったか!!」
(・・・はっ・・・)
犬夜叉・・・
頭に血が上った勢いで
普段吐かない様な台詞を思いっきり絶叫・・・
「・・・宣言なさいましたね?犬夜叉さん」
「なっ、なんだよっ」
「今の台詞。しかと聞きました。僕はね、かごめさんの幸せな姿と
それと貴方の確固たる台詞を聞きたかったんです。ふふ・・・」
してやったり・・・というような顔で樹は笑った。
「樹、お、お前・・・っ」
「ずぅっと知ってましたよ。外にいたの・・・」
「・・・(汗)」
犬夜叉・・・なんとなくこの場から逃げ出したい気分・・・
「さて・・・と。犬夜叉さんの”宣言”も聞けたし。かごめさんにも
僕の曲を聴いてもらえたし・・・。明日日本立つのでこれで失礼します」
「え・・・?明日ってそんな急に・・・」
「またツアーが始めるんで・・・。では失礼します。あ、結婚式
は読んでくださいね。では・・・」
パタン・・・
爽やか笑顔で颯爽と
出て行った樹・・・
「・・・犬夜叉・・・。もしかして樹さんわざと・・・」
「・・・アイツ・・・」
かごめは
樹を玄関に追いかけた。
「樹さん待って・・・!」
車の運転席の窓から顔を出す樹。
「・・・かごめさん・・・」
「あの・・・。これ・・・」
かごめはお守り袋を樹に手渡した。
「樹さんの音楽が沢山の人の心に伝わりますように・・・」
「ありがとう・・・。僕の宝物にします」
樹はお守り袋を静かに胸元のポケットに大切そうにしまう・・・。
「樹さん・・・。お元気で・・・」
「かごめさんも幸せに・・・。絶対に幸せになってください・・・」
握手を交わす二人・・・
「・・・僕の想いは・・・永遠です・・・。それを支えに・・・
生きていきます・・・」
「樹さん・・・」
「じゃあ・・・。お幸せに・・・!」
ブロロン・・・
樹は少し切ない笑みを浮かべ・・・
楓荘を後にした・・・
(樹さん・・・ありがとう・・・。そして・・・さようなら・・・)
樹の車を見送ったかごめ・・・
二階にあがるとベランダで一人、犬夜叉がたたずんでいた
「・・・犬夜叉・・・」
「樹の奴・・・。帰ったか・・・?」
「うん・・・」
かごめは静かに犬夜叉の隣に立って一緒に空を見上げる。
「・・・。犬夜叉」
「何だよ」
「・・・。桔梗、右手、完全に動くようになったんだって・・・」
「・・・!」
思わぬかごめの発言に犬夜叉は驚く。
「本当はずっと聞きたかったんでしょう・・・?樹さんから桔梗の様子を・・・
でも私に気を使って聞かなかった・・・」
「・・・」
「・・・。ごめんね。犬夜叉になんか私・・・。無理させてるみたいで・・・。
でも私、犬夜叉のこと信じてるからしんじ・・・」
犬夜叉はかごめの手を引き寄せ
両手でぎゅっと抱きしめた。
「・・・無理なんかしてねぇ・・・」
「・・・犬夜叉・・・」
「俺はお前と一緒になるってきめたんだ・・・。もう・・・。後ろはみねぇよ・・・」
「・・・うん・・・」
かごめを抱きしめる犬夜叉の腕に
一層力がこもる・・・
樹の想いが微かでもかごめの心を揺らしたと思うと
カァッと苛立ちが湧く。
同時に自分以上に桔梗のことを気にさせていた自分が情けない・・・
(俺にはかごめしかいねぇんだ・・・。コイツしか・・・)
一生自分の懐にしまっておきたい。
他の男から見えないように 触られないように
「犬夜叉・・・。あたしたち・・・。幸せになっても・・・。いいんだよね・・・?」
不安げなかごめの声・・・
「ったりめぇだろ・・・!俺が幸せに・・・いや二人で作るんだ・・・。
そう言ったの、お前じゃねぇか」
「うん・・・」
「・・・。だから他の男なんて見るな。俺だけ見てろ・・・。いいな」
「はい・・・」
かごめは少し涙を浮かべ犬夜叉の胸に頬を摺り寄せた・・・
(かごめ・・・)
”愛してる”
言いたい。
でもできない・・・
だから・・・そのかわり・・・
想いを込めてかごめを抱きしめる・・・
「かごめ・・・」
誰にも渡さない
かごめはおれと一緒に生きていくんだ・・・
こみ上げる想い・・・
「・・・犬・・・夜叉・・・」
「・・・。かごめ・・・」
樹のように甘い言葉は浮ばない
だから・・・
犬夜叉はかごめの頬に手を添える・・・
かごめは応えるように背伸びする・・・
「・・・ンッ・・・」
かごめの髪留めが落ちた・・・
二度目の口づけは少し激しくて・・・
でも互いの想いを伝え合えた
大切な口付けだった・・・
だが・・・あと一センチのところで・・・
ちなみにその頃お庭のごまちゃんはベランダのほうを見上げて吠えております。
ワンワンッ!!【おっとりこみちゅう悪いんだけど。アタシのご飯まだ!??
キスする前にアタシのご飯先にしてよね!??】
と、お冠でした・・・(笑)