続・居場所を探して
〜タンポポの種〜


其の十七 母が遺した物






「ったく・・・。犬夜叉と結婚したら家事とっても大変そう」




すでに主婦口調のかごめ。




朝から犬夜叉の部屋をせっせと掃除機をかけております。







グシャリ。





(ん?)







掃除機に何か詰まったようでかごめが取り出してみると・・・








(あ・・・これ・・・)






色あせた写真。映っているのは多分・・・





(犬夜叉のお母さん・・・)




かごめも楓から犬夜叉の母については犬夜叉が幼い頃に亡くなったと
だけ、おおまかには聞いていたが・・・






(・・・。そうだわ。まだ犬夜叉のお母さんにしてなかった・・・)







写真を握り締めるかごめ・・・






その日の夜、あることをかごめは犬夜叉に提案した。







「なにぃ!??お袋の墓参りだって?」





「うん。はい、お茶」





食堂でかごめと犬夜叉は夕食後の一服。








「・・・。べ、別にいらねぇよ。墓参りなんて・・・」





「私・・・。きちんとご挨拶したいのよ。犬夜叉のお母さんに。
お義母さんの娘になります・・・って駄目?」





ちょっと照れくさそうに言うかごめ。





「///。だ、駄目じゃねぇけど・・・」









「・・・。お参りしてこよう・・・。ちゃんと・・・二人でお母さんに・・・。
二人で生きていきますって」











かごめは犬夜叉の手をそっと握った・・・










「ああ。そうだな・・・」









かごめの手を握り返す犬夜叉・・・









母とよく似た温もりをもつかごめを







人生の伴侶に選んだことを知らせたいと犬夜叉も思った・・・















その週の休日。






二人は犬夜叉の母の墓があるお寺のにいた。






「よいしょっと・・・」







桶に水を汲み持つかごめ。





「オレが持つ」





「いいよ。これくらい」





「重たいものは男が持つ。そうだろ。普通」





「・・・。ありがと」







犬夜叉はちょっと照れくさそうに桶を持って母の墓を案内する







その犬夜叉の背中が・・・




とてもかごめには頼もしく思えて・・・














『犬塚家之墓』






犬夜叉の母もまた天涯孤独の身だった。






墓も小さな丸い墓石に名前が書かれただけの質素な佇み。











かごめは菊の花を添え、線香に火をつけ手を合わせる











「・・・。私の3人目のお義理母さんになるのね。犬夜叉。お母さんってどんな人だった・・・?」











「・・・」






かごめの言葉で母のことを思い出してみる・・・







思い浮かぶのは






優しい眼差しと手の温もりだけ・・・





そう。




隣にいるかごめが持つものに似ていて・・・








「・・・。お前っとおんなじ匂いしてた」







「どんな?」






「・・・。肉まんの匂い」








「もう〜!!そんなわけないでしょー!」








犬夜叉の背中をポンポンと叩くかごめ。








お墓の前で初々しくつつき合っていると・・・









「犬飼さんの息子さんですかな??」








寺の住職らしき老人が二人に近づいて生きた









「え・・・。じじい。オレのことしってんのか?」




「犬夜叉!ご住職様になんてこというの!すみません。無作法でっ」




かごめはあわててとりなす。






「ふっほっほっほ。いいんですじゃ。どうでしょう。
せっかくですし、茶でも如何かな?」








「はい。いただきます」









「けっ・・・」










ふて腐れる犬夜叉だが・・・





どうやらこの住職は母のことを知っているらしいと勘付く犬夜叉・・・








「わぁ・・・。広いお堂・・・」









畳何条分の広さだろう。






楓荘の敷地ほどある広い堂。





堂の真ん中奥には大きく金色の釈迦像が祭られている・・・







「ささ。どうぞ。お座りください」








座布団に犬夜叉はどすん!とあぐらを書いて座る。







「犬夜叉!正座しなさい!」





「うっせぇ!どんな風に座ろうが俺の勝手だ!」





「ったく。子供みたいなこといわないの・・・!」






まるで子供と母親のようなやりとりに住職は

大声で笑う。






「ふおほっほっほ!本当におんなじじゃのう」






「同じって・・・。何がだよ。やい、じじい。オフクロのこと、
知ってんなら話しやがれ」







「犬夜叉!なんて聞き方するの。もう・・・。すみません。住職さん」




犬夜叉の頭を押さえつけて謝らすかごめ。




「いやいや・・・。その元気のよさもかわっとらんのう。ワシはのう。
おまえさんのお袋さまからあるものをあずかっとるのじゃ」







「あるもの?」









住職は紫の風呂敷を二人の目の前に差し出した。










「なんでい」






「いいからお前さんが広げてみなされ」





「食いモンでも出てくるのか?けっ・・・」




ぶつくさいいながら犬夜叉が静かに風呂敷を広げると・・・















「・・・わぁ・・・っ」












歓声をあげたのはかごめ・・・







風呂敷の中身は









薄紅色の艶やかな着物だった・・・









「・・・これ・・・」








「見覚えがあるじゃろう?お前さんの母様が大事にしておられた
着物じゃ」





「・・・」






保育園や小学校の入学式のとき、




この着物を着ていたを幼い犬夜叉は記憶していた・・・












「・・・。自分の死期を悟られたお前さんの母様が、
お前さんに花嫁ができたとき、
渡して欲しいとワシは託されたのじゃ」









かごめに着物を手に取らせる












「”息子の人生を共に歩いていく女性(ヒト)に・・・”とな」










着物には2匹の鶴が大空を飛ぶ姿が描かれている・・・







「番(つがい)の鶴・・・。永久に一つの人生を生きていく・・・。
母様の願いが込められておるんじゃなぁ・・・」















「・・・。オフクロ・・・」











薄紅の優しい色の着物












母が自分の残したものは











自分の幸せを願う母の温もりだった


















「それじゃあ、気をつけてお帰り下され」





「はい。色々、ありがとうございました」






犬夜叉の母の着物を包んだ風呂敷をかごめ達はしっかりと抱いて






寺を跡にした・・・

















陽が暮れてきて・・・







寺から歩道に下りる長い長い階段を二人はゆっくりと降りていく・・・









(・・・)






(・・・)










二人はそれぞれに無言のまま母への想いを秘めて・・・














最初に口を開けたのはかごめだった。








「・・・ねぇ犬夜叉」














「・・・んだよ」









「・・・私・・・。ウェディングドレスはいらない。この着物が着たい」









「あ・・・?」








犬夜叉は立ち止まってかごめを振り返った。













「・・・だって・・・。このには
犬夜叉のお母さんの想いが込められてる・・・。そうでしょ・・・?」













「・・・。いいのかよ・・・。そんな着物で・・・」












「この着物ほど素敵な花嫁衣裳はないわ。
犬夜叉のお母さんの想いを感じて・・・。私・・・。これをきて
犬夜叉の元にお嫁に行きたい・・・」














かごめは着物をそっと頬に摺り寄せる・・・











「かごめ・・・」





いじらしいかごめに犬夜叉は







かごめの肩をそっと抱く。













「・・・あたし達・・・。絶対に幸せにならないと・・・いけないね・・・」











「ああ・・・。そうだな・・・。オフクロのためにも・・・」




















夕暮れの長い階段で寄り添ういあう二人・・・












その二人の頭上に








二羽の鳥がどこかへ帰っていく・・・










着物に描かれた番の鶴のように・・・














母の願いを背中に乗せて・・・










犬夜叉とかごめを優しい夕焼けが照らしていた・・・