続・居場所を探して
〜タンポポの種〜
其の二十二命が生まれる時
珊瑚の出産予定日が近づいた。 産院に入院するため、荷造りをかごめが手伝っていた。 「ごめんね。かごめちゃん色々・・・」 「何言ってるの!妊婦さんはね、無事赤ちゃんを産むことだけ考えていれば いいの!」 「うん・・・」 バックにタオルや着替えを詰め込むかごめ。 珊瑚の顔色がすぐれない。 「珊瑚ちゃん。大丈夫?」 「うん・・・」 最近調子が悪い珊瑚。 急遽、出産予定日までまだ2週間ほどあるが入院することになった。 「・・・不安だよね・・・。でも大丈夫。私も弥勒さまもいるから」 「かごめちゃん・・・。ありがと・・・凄く心強いよ・・・」 初産。 何もかもが分からなくて不安で。 どのくらい痛いのか苦しいのか。 かごめは珊瑚のせなかを優しくさすっていた・・・ 「・・・。出産は女性のイベントだ。我々男は出番がないな・・・」 「人事みてぇに言うなよ。てめぇのガキ生まれるだろが」 男達はベランダで夜の一服をふかす・・・ 「立会い出産が私の夢だったのに・・・。ふぅ」 しょんぼり、弥勒肩を落とす。 「立会い出産だぁ??お前、本気かよ。オレだったらぜってぇパスだな」 「なに?お前、じぶんの子供が生まれる瞬間に立ち会いたくはないのか?? 自分が父親になるんだぞ!女房との共同作業だ」 「へっ・・・。なぁにが共同作業だ。お前が言うとやらしいんだよ」 「・・・。ああそうか。犬夜叉にはわからんだろうなぁ。なにせ、かごめ様との 子作りという共同作業まだなんだから」 (!) 犬夜叉、弥勒に一本取られたり。 「て、てめぇ・・・」 「ふっ。犬夜叉。いいことを教えてやろう。」 「なんでい。」 「女の子と男の子の作り分けーv」 「なっ・・(真っ赤)て、てめぇ!!またやらしい話を・・・」 そういいながらも犬夜叉、弥勒の耳打ちを耳をすます・・・ 楓荘ベランダにて犬夜叉と弥勒のエロトーク始まり始まり・・・(笑) 「・・・で、ですな・・・。あまり激しい××は×××で・・・いけませんぞ」 「・・・☆☆●■〜!?????」 「さらに・・・●●●を・・・がんばれば男の子、控えめに●●を・・・がんばれば女子が 」 「ーーーーーッ(真っ赤)」 バッタン・・・ 犬夜叉・・・あまりに過激な内容に悶えた倒れる・・・ ちょっちぃ、はなぢをおだしになってvv 「やはりまだ犬夜叉には・・・刺激が強すぎたか・・・。こんな具合では 犬夜叉とかごめ様の愛の結晶はいつ授かるか・・・」 と。弥勒、背後にいやーな殺気を感じ振り返ると・・・ 仁王立ちするかごめが 「あんた達・・・。清い妊婦がもうすぐ出産だというのになんて 会話してるのーーーー!!」 「か、かごめ様・・・!??」 「弥勒さま、見損なったわ!犬夜叉もいやらしいったらありゃしない!!」 「なっ。お、オレは無理やり弥勒に・・・」 「もう二人とも、今晩一晩そこで頭冷やしなさい!」 ピシャッ。 かごめ、ベランダの窓の鍵をきっちり中からかけ、カーテンを閉めてしまう・・・ 「・・・。やっぱり男の出番はなさそうだな。犬夜叉・・・」 「・・・(怒)」 男二人・・・ベランダで野宿した夜だった・・・ 翌日。 珊瑚はかごめ達に付き添われ入院した。 「・・・。何をそわそわしているのだ。犬夜叉よ」 産婦人科。 あっちもこっちも妊婦さん。 犬夜叉。女性の神聖な空気になんとも居心地がいいのかわるいのか わからない。 生まれてはぢめてのたいけん。 「ふっ。産婦人科ぐらいで落ち着きを失うなど・・・。犬夜叉。 お前もいずれは身重のかごめ様に付き添うこともあろうだろう。 勉強しておきなさい」 弥勒、父親になる堂々とした風格で・・・ 「そこの看護婦さん、私の子を・・・」 ナンパvしようとしたが犬夜叉に止められる。 そして指差す方向を見ると・・・珊瑚の頭から角がでてます♪ 「・・・(冷や汗)いやいや・・・。冗談ですよ。珊瑚ママ。緊張している珊瑚を 和まそうと・・・」 「和むどころかストレス溜まるわい!!この助平法師がーー!!」 洗面器が病室に舞う。 夫婦けんか早速勃発・・・。 呆れ顔の犬夜叉とかごめ・・・。 「やれやれ・・・。あれ?何を見てるの。七宝ちゃん」 一緒についてきた七宝が何かをじっと見つめているのに気がついた。 隣の病室。 それはお腹が大きい母に手を引かれた幼子。 「ママぁ。今度生まれるの女の子かな。男の子かな」 「さぁ、どっちだろうね〜。」 母のお腹をさする男の子。なんとも微笑ましい光景だ・・・ (・・・七宝ちゃん・・・) 七宝の母親は七宝を産んですぐ亡くなった、と、聞いている。 「七宝ちゃん。帰り、一緒にあんみつでも食べに行こうか!」 「いいぞ。おら白玉あんみつがいいのう」 「甘いモン食ったら虫歯になるぞ。ま、今日はつきやってやるがな」 犬夜叉も七宝の寂しげな瞳に気がついていた。 産まれる命。 そして母に先立たれて残された命・・・ いろんな命がある。 かごめ達はそれぞれ様々な思いを感じながら産院をあとにした・・・ 「え!???」 入院した次の日。 事態は急変する。珊瑚が早すぎる陣痛を迎えたという。 それもあまり状態はよくなく、弥勒からの連絡でかごめと犬夜叉たちも産院に向かうと・・・ 「弥勒さま!」 分娩室の前で弥勒がかごめ達を待っていた。 「・・・かごめ様」 「どうしたの・・・。弥勒さま。その顔。そんなに珊瑚ちゃん具合よく・・・ないの?」 「・・・はい。お腹の中の子の心音が弱いと・・・」 「・・・そ、それって・・・」 弥勒は深くため息をついて長いすに座り込んでしまう・・・ 「弥勒さま・・・」 「・・・。かごめ様・・・。男は本当に・・・。何もしてやることはないのでしょうか・・・。 私は珊瑚とお腹の子が助かるのなら何でも、どんなことでもするのに・・・! どんなことでも・・・!!」 弥勒は悔しそうに奥歯を噛む・・・ 「悔やんでる暇なんてないわよ。弥勒さま。珊瑚ちゃんとお腹の子が 今必死で戦ってるんだから弥勒さまがしっかりしないでどうするの!! 信じて・・・!」 「かごめ様・・・」 「信じて!!きっと二人は助かるから・・・!」 かごめは力強く・・・ 弥勒を真直ぐ見つめて言った・・・ (かごめ・・・。お前はやっぱり強い女だな・・・) 誰かが窮地にたったとき、 一緒に泣いたり怒ったり・・・励ましたりかごめはしてくれる。 かごめが一緒にいてくれるだけで、厳しい現実もなんとかなりそうな そんな気持ちになる。 犬夜叉は誰より、そんなかごめの魅力を知っている・・・。 「あ・・・」 分娩室から医者らしき人物が出てきた。 「旦那さまはどちらでしょう」 「私です・・・!妻と子供は・・・。妻と子供は・・・!!」 弥勒は少し興奮して医者の肩を掴んだ。 「落ち着いてください。なんとかお腹の中のお子さんの心音はまだ聞こえてきていますし 奥さんの状態も安定してきました」 医師の言葉に弥勒たちはほっと安堵の息をつく。 「ですがこのまま自然分娩で出産となれば母体にも胎児にも負担がかかりすぎる。 帝王切開という選択がベストだと私は思いますが旦那さんのご了承を得たくお話 しております」 「・・・。それで二人が助かるなら・・・。先生、よろしくお願いします!! 二人を助けてください・・・!!お願いします・・・!助けてください・・・!!おねがいします!!」 医師に何度も何度も頭を下げる弥勒・・・ (弥勒・・・) いつものお茶らけな弥勒の顔はどこにも見えない (・・・カッコいい旦那とオヤジの面だぜ・・・弥勒・・・) 弥勒の背中が 同じ男としてなんだか眩しく見える犬夜叉・・・。 「なぁ。かごめ。ていおうせっかいって・・・なんじゃ?」 「あ?え、えっと・・・。お腹を切って赤ちゃんをを産む手術のことよ」 「・・・。じゃあ、この本のように 珊瑚は腹を斬られるのか!??包丁で切られるのか!??」 七宝の片手に、『三匹のこやぎ』の絵本が。 「ふふ。包丁で切られることはないわよ」 「・・・。珊瑚・・・。痛かろうな・・・。腹を切るなんて・・・。 お腹の赤ちゃんも・・・苦しいじゃろうな・・・」 「七宝ちゃん・・・」 言葉はお年寄りみたいなのに。 本当の七宝は優しい少年。 かごめはそっと七宝を膝の上に乗せた。 「七宝ちゃん。大丈夫よ・・・。珊瑚ちゃんはきっと、御注射で眠っているから 痛くはないし・・・赤ちゃんもきっと頑張ってる・・・」 「・・・。オラも。オラも頑張って生まれてきたのかな。 オラの母ちゃんもオラを痛い思いをして産んだのかな・・・」 「七宝ちゃん・・・」 「・・・。痛かったかな・・・。頑張ったな・・・。オラは・・・。母ちゃんは・・・」 七宝はポロポロっと涙をこぼして ぎゅっと絵本を握り締めた・・・ 「七宝ちゃん・・・」 かごめはたまらなくなって・・・ 七宝を抱きしめる・・・ 子供は大人以上に 人の痛みを自分の痛みを小さな心一杯にして受け止める。 七宝の心はもう会うことも出来ない母への想いで一杯・・・ 「七宝ちゃん。大丈夫よ・・・。珊瑚ちゃんも赤ちゃんもきっときっと 大丈夫・・・。一緒にここで頑張れって・・・。応援しようね・・・」 七宝は小さな鼻を真っ赤にして頷く・・・ 犬夜叉はそんな七宝の頭をくしゃっと撫でる・・・ (七宝・・・。今日はお前も・・・かっこいいぜ・・・) そう思いながら・・・。 それから2時間後・・・。 手術は無事終わり、珊瑚は女の子を出産した・・・。 「・・・珊瑚ちゃんはまだ麻酔からさめないの?弥勒さま」 「はい・・・。かごめ様。私は今晩ここに泊まります。かごめ様たちは先に戻っていて下さい。」 「でも・・・弥勒さまだって休まなきゃ・・・」 「いいんです。珊瑚が目を覚ました時、そばにいてやりたい・・・。誰より 側に・・・」 ベットで眠る珊瑚の手を握り締める弥勒・・・ 「・・・。珊瑚は体を張って私の子をこの世に産んでくれました・・・。 今度は私が珊瑚の体を癒す番です・・・。最高の妻です・・・」 「弥勒様・・・」 弥勒の表情は穏やかで とても・・・優しい。 わかったわ・・・。でも弥勒様も無理しないでね・・・。珊瑚ちゃんの荷物 取って来たらすぐ私達も戻るから・・・」 「ありがとうございます。かごめさま・・・」 病室に珊瑚と弥勒を残し・・・ かごめ達は病室をあとにした・・・ 「・・・七宝ちゃん。寝ちゃったね・・・」 「ああ」 犬夜叉の背中で眠る七宝。珊瑚と赤ちゃんの無事を祈り続けて 眠った・・・ 「そうだ。赤ちゃん。見てから病院出よう。犬夜叉」 かごめ達は三階の新生児室へ向かう。 そこには今日生まれた赤ちゃん達がピンク色の産着に包まれ 眠っている・・・ だが珊瑚と弥勒の赤ちゃんは・・・ 他の赤ちゃん達より一回り小さく 保育器に入れられ鼻にチューブを差し込まれていた。 痛々しい姿・・・。 無事生まれはしたもののしばらくは抵抗力がつくまで 保育器の中で過ごすことになったのだ・・・ 「・・・頑張ってね・・・。貴方のお母さんとお父さんは貴方のことが大好きよ・・・ 貴方を愛してるから・・・。だから頑張って・・・」 かごめは少し瞳を潤ませて ガラスの向こうの赤ちゃんに呟く・・・ 「かごめ・・・」 犬夜叉もかごめと同じく珊瑚と弥勒の赤ちゃんが無事育つように 心の中で祈る・・・ (ん?) ふと、犬夜叉は新生児室の丁度向かいの部屋に気がつく。 (なんか寂しそうな雰囲気だな) 『処置室』と書いてある。 「犬夜叉・・・?どうかした?」 「いや・・・。かごめここって・・・」 犬夜叉とかごめは顔を見合わせて、この部屋は”どういう部屋”なのか 同時に理解する・・・ (・・・。この部屋は・・・) そう。命が産まれる場所ではなく・・・ 命が消される場所。 無事、出産される命ばかりではない。 無念だけれど、この世に生を受られなかった命たちも 居る・・・ それどころか不用意に命が出来てしまったと、簡単に その命を断ってくれ、と産院にくる人もいる・・・ この部屋は・・・そんな部屋でもある・・・ (・・・) (・・・) かごめと犬夜叉はその部屋から視線を逸らし 再びガラスの向こうの赤ちゃん達を見つめる・・・ なんともいえない気持ちだ。 瑞々しい命たちが眠る部屋の向こうが・・・ 形にもなっていない命が絶たれたりする部屋なんて・・・ 言葉にならない 現実。 かごめはガラスにそっと手を添え、 赤ちゃん達を見つめる・・・ 生き生きとした肌色。 ちっちゃな手足たち・・・ ”ぼくらは生きてるよ・・・!” そう強く叫んでいるみたいだ・・・。 「犬夜叉・・・。私も犬夜叉も・・・産まれてから今まで・・・。 色々辛いことがあったけど・・・。私達、産まれてきてよかったね・・・」 「・・・ああ・・・」 「絶対絶対・・・。生まれたいよ・・・。産まれてきてよかったって思いたいよね・・・」 「ああ・・・。そうだ・・・」 犬夜叉は涙が止まらないかごめの肩をそっと包んだ・・・ 「オレもお前も七宝もみんな・・・。生まれてきてそして出会って・・・。 よかった・・・。絶対・・・よかった・・・」 ガラスの向こうのたくさんの命たち・・・ その先の未来はもしかしたら明るくないかもしれない。 でも・・・ 生まれてよかったと思いたい。 生まれてよかったと信じたい・・・ あの命も この命も きっと みんな この世の光を見たいから・・・ 大切に しなければならない あの命も この命も・・・