続 居場所を探して
〜タンポポの種〜

其の三十一 見えない罠

「な、何・・・。これ・・・」 保育所の園長に送られてきた匿名の一通の手紙。 さらに園児たちの親たちに送られてきた・・・ 『保育士の日暮かごめは異性関係が激しい堕落した女だ』 金子の車に乗っているかごめの写真が同封されていた 「・・・私もこんなことは誰かの悪戯だと想うのですが・・・」 「園長先生。私、金子先生とはこんなこと・・・」 園長の顔が曇る。 「園長先生?」 「・・・保護者の方々から・・・。何件か苦情の電話があったのです・・・」 ”そんな不適切な行動する保育士なんてやめさせてください” ”保育園の風紀が乱れます!異性関係が激しいだなんて・・・” 「・・・そんな・・・」 「・・・。かごめ先生。私はかごめ先生を信じていますが かごめ先生もご自分の行動にはくれぐれも気をつけてくださいね」 「・・・。は、はい・・・」 かごめは園長に一礼して、園長室を出ると・・・ 「金子君・・・」 申し訳なさそうな顔の金子がたっていた。 「かごめ先輩・・・。すみません。僕・・・」 「金子くんが謝ることは無いわ。私は人から後ろ指さされることは していないのだから」 「かごめ先輩・・・」 「さ、お遊戯の時間よ!行こう!」 金子の肩をポン!と力強く叩いて遊戯室に行く。 そして遊戯室に行き、童謡にあわせてダンスを踊る。 「あ、まさくん、一緒に踊ろうね」 かごめが笑顔で園児の手をとった。 「いやッ!!」 ドン! 園児に突き飛ばされるかごめ・・・ (えっ) 「まさくん・・・」 「かごめ先生って悪いことしたんだって」 「え・・・?」 園児はかごめを指差して言った。 「ママが言ってたよ。かごめ先生は良くない先生だって。 一緒に遊んだりしゃべっちゃいけないって・・・」 さらにもう一人の園児も・・・。 「うちのママも言ってたよ。かごめ先生は”子供を駄目にする” 先生なんだって」 子供達から投げられた言葉に呆然とするかごめ・・・。 「み、みんな!な、何言ってるの!さ、お遊戯の続きしましょ!」 他の職員達が慌てて動揺する子供達を落ち着かせる。 「か、かごめ先生。お遊戯はいいですから・・・。職員室で待機していてください」 「あ・・・」 バタン! 遊戯室を締め出されるかごめ・・・ ”保護者の方から苦情が何件か寄せられて・・・” 園長の言葉が浮ぶ。 (・・・。一体誰が・・・。こんなことを・・・) ”かごめ先生は悪いことしたんだ!” 子供達にまで激しく突き放されるなんて・・・。 軽蔑するような冷たい子供達の視線・・・。 衝撃と脱力感だけがかごめを支配していた・・・。 「・・・え?かごめの様子がおかしい?」 「うん。表面上はかわらないんだけど・・・。何だか元気が無いんだ」 食堂で希にミルクをあたえながら還って来た犬夜叉に珊瑚がかごめの様子を伝える。 「・・・なんか・・・。保育所であったみたいなんだ。かごめちゃんは 何も言わないけど・・・」 「・・・腹でも壊したんじゃねぇか?」 犬夜叉のすっとぼけ発言に珊瑚、ギロっと睨む 「とっととかごめちゃんの様子を見にいけーーー!!」 犬夜叉、珊瑚の睨みにびびって二階に逃走。 「ったく・・・。あの鈍感男が・・・。ねぇ。希。あんたは将来 もっといい男、みつけるんだよ」 「あぶ」【うん。わかった。パパみたいな男の人もやめておくね】 (ったく珊瑚の奴・・・) 珊瑚にお尻を叩かれ、かごめの部屋の前にやってきた犬夜叉。 コンコン。 とりあえずノックしてみる。 「かごめ・・・。もう寝たのか?」 「・・・うんん・・・」 確かにどことなく元気が無く聞こえ・・・ 「なんかあったのか?」 「大丈夫・・・。ちょっと疲れただけだから・・・」 「ほんとか?」 「うん・・・。ごめんね。心配かけて・・・」 心配ぐらいかけられたって平気だ。 犬夜叉は心でそう思ったが・・・。 「とにかく、今日は早く寝ろよ」 「うん・・・」 かごめの”大丈夫” これは何か辛いことを抱えているサイン。 何度も聞いた。 自分が辛い思いをさせた度に・・・。 (かごめ・・・) かごめの部屋の扉を切なそうに見つめる。 そのとき。 犬夜叉の携帯のバイブが震えた。 (・・・非通知?) 犬夜叉が出てみると・・・。 「・・・。今晩は。今日はいい月夜よね」 「て、てめぇ・・・」 嫌な声。 桔田梗子だ。 「何のようだ!!」 「ちょっと気になったものだから」 「何ガだよ」 「貴方の彼女が・・・元気ないんじゃないかって」 (・・・!?) 何か、食べながら話しているのか、クチャクチャという音が聞こえる・・・ 「お前・・・。かごめになんかしたのか・・・!??」 「何も・・・。ちょっと贈り物をしただけよ。保育園に」 「お、贈り物って・・・」 「後輩の若い子との2ショット写真。ふふ。結構騒ぎになったみたいね〜」 (!!) 小憎たらしい桔田のすすり笑いが聞こえる・・・。 「焼き回ししすぎたから園児たちの保護者にも送っちゃったのよ。 ごめんね。やりすぎちゃったわ」 「・・・て、てめぇ・・・」 犬夜叉は怒りで手が震えている・・・ 「言ったでしょ?私は月島桔梗の音楽のためなら何でもすると・・・。 貴方が必要なのよ」 「やかまいしいッ!!!!」 思わず声をあげる犬夜叉。 かごめの部屋の前だとはっと気がつき、自分の部屋に戻る。 「・・・。彼女を苦しめたくないなら・・・。どういう選択をすればいいか 分かるわよね?貴方でも・・・」 「うるせええ!!てめぇ・・・。んっとにこれ以上かごめに なんかしたら・・・。オレはもうぜってえにてめぇをゆるさねぇぞ・・・っ!!」 「この程度の事で駄目になるなら・・・。彼女はそれだけの弱い人間だってことよ。 桔梗を張り合うまでもないわね。 ふふ。まぁ根性みせてもらうわ。じゃあ・・・」 最後の最後まで・・・。 鼻につく笑いの桔田。 犬夜叉は携帯を布団に投げつける。 (くそッ!!!!!結局オレはまたかごめを・・・っ) ”大丈夫だから・・・” かごめの大丈夫。 どんな気持ちで言ったのだろう。 犬夜叉に心配を掛けたくないと思ったから・・・。 (かごめ・・・。オレは・・・。オレはお前のためになにがしてやれる・・・? お前のために・・・) 壁の向こうのかごめに想いを馳せる。 (もっと・・・。オレを頼ってくれよ・・・) ”大丈夫だから・・・” かごめの言葉が・・・ 身に凍みた・・・ 保育所でのかごめへの冷たい態度は 同僚にも伝わっていた。 「あ、あの。保育所たよりの原稿なんですが・・・」 「・・・ああ。それね。他の先生にお願いしましたから」 指導主任がそっけなくかごめの原稿をつっかえした。 「え、で、でも・・・」 「・・・。若い男性と遊ぶことにさぞ、お忙しいのでしょう?」 「そ、そんなこと・・・」 指導主任は陰険な視線でかごめを見上げた。 「保護者の方からもかごめ先生が書いたものなど読みたくないという 意見も出ておりますので。ご理解くださいね。あ、それからしばらくは 園児との接触はいいですから」 「え、園児とって・・・」 「子供達も混乱していますし・・・。ま、トイレ掃除、落ち葉掃除など もろもろの雑用全般おねがいします」 子供が混乱しているから・・・といわれてしまってはかごめも ひかざるおえないと思う・・・ 「・・・。はい・・・わかりました・・・。失礼します」 俯いたままかごめは職員室を出て・・・。 ホウキと水の入ったバケツを持って門へむかった・・・。 門のまえは落ち葉だらけ。 街路樹は腹が立つほどひらひらと葉っぱがおちてくる。 ”かごめ先生の書いただよりなど読みたくないと・・・” かごめの心がじわっと痛む・・・。 (駄目・・・!このくらいでくじけてちゃ・・・!) かごめは痛みを振り払うように頬をぺちっと叩いた。 「・・・。落ち葉掃除も大事な仕事。子供達が転ばないように・・・!だから、頑張らなくちゃ!」 かごめは気持ちを切り替えて、せっせとほうきで落ち葉をはきはじめた。 (大丈夫・・・!きっと大丈夫・・・!) 無心になれ・・・!無心になれ・・・! かごめはそう、自分にいいきかせながらひたすらに掃く・・・。 掃く・・・。 そこへ・・・。 ポト・・・。 「・・・!?」 イチョウの葉のうえに。 煙草の吸殻が落とされた・・・。 「精が出るわね。日暮さん」 赤いハイヒールの桔田が いた・・・。 「・・・。何だか大変な騒ぎみたいじゃない」 「・・・。ええ。お陰さまで・・・。プレゼント、ありがとうございました」 「あらぁ。よく私からだってわかったわね☆ ふふ。よく撮れてたでしょう〜vv貴方も隅に置けないわね。年下に手を出すなんてv」 わざとらしく親しげに話してくる桔田に・・・ かごめは一瞬頬を殴りたい気持ちが湧いたが (そんなことしたら、この人の思う壺・・・) かごめはぐっと我慢する・・・。 「子供達にまで嫌われてるみたいじゃない。かごめ”先生”」 「・・・」 「でもこれしきのことで落ち込むほど弱い女じゃないわよね?月島桔梗と 男を張り合おうってんならこの程度のこと、どうってことないでしょ??」 桔田は新しい煙草をすっと取り出し、金色のライターで火をつけた。 「・・・。保育所の敷地内で煙草はやめて下さい」 「まぁ固いこといわないで。それよりねぇ・・・。 一つご報告が。桔梗、来月、日本に帰国する ことになったわ」 (・・・!) かごめのほうきの動きが止まった。 かごめの動揺を察知した桔田はにやっと一瞬笑う。 「やっと承知してくれて・・・。ま、たった一日だけなんだけど・・・。 その日に彼とあわせるつもり」 「・・・」 「彼が拒否したって会わせるわ。どんな手を使ってもね。 あったらが最後・・・。男と女なんて”やけぼっくりに”ナントカってやつで すぐ再燃するわよ」 ふぅーっとかごめの顔のまで白い煙をはく桔田・・・。 「ま。最も・・・。あの二人は無意識のうちに互いを引き寄せあうっていう不思議な力が あるみたいだから・・・」 「・・・」 「ふふ・・・。この際だから貴方、写真の彼に乗り換えたら?」 (・・・この・・・っ) かごめはカァッと怒りが走ったが・・・。 「あらぁ?もしかして怒ってる?怒ってるの?優しい美人の顔が台無しよー??」 桔田の嫌らしい笑いに 怒りも萎えてしまう・・・。 「うふふふ・・・。ふふふふ・・・。顔は似てるけどやっぱり桔梗と張り合うほどの 女じゃないわね。ま、精精、落ち葉掃除、頑張ってねーv」 摺っていた煙草をポトリ・・・ 「じゃ、さようなら。かごめ先生」 落ち葉に落とし・・・ハイヒールで消し・・・最後の最後まで嫌味な笑みを浮かべて 桔田は去っていった・・・ 「・・・」 (・・・。感情的になっては駄目・・・。絶対駄目・・・) 怒りで微かに震えるほうきを持つ手・・・ 自分を必死で抑制しながら かごめは・・・ 桔田が落としていったたばこの吸殻をちりとりの中に入れる・・・。 ”あの二人は無意識のうちに引き合う力を・・・” チクチク・・・ 痛む 桔田の言葉・・・ まるでかごめの急所を知っているみたいに・・・ (負けない・・・。私は負けない・・・) じわりと目尻が少しぬれそうになる・・・ (無心になれ・・・!無心になれ・・・!) かごめは 呪文のようにそう心の中で繰り返す・・・ (無心になれ・・・!何も考えず・・・無心になれ・・・!) そんなかごめの心を無視して・・・ 落ち葉はどんどん落ちてきたのだった・・・ そして夕方・・・。 「・・・え?かごめがまだ?」 犬夜叉はバックを置いてすぐに保育所に走った。 すると・・・ (か、かごめ・・・?) 保育所の門の前・・・ 暗い中、電灯もつていないくらい中でかごめ一人、 ほうきをもって落ち葉をはいていた・・・ 「かごめ・・・!!」 「犬夜叉・・・」 「お前・・・。こんな時間まで・・・」 「・・・明日の朝まで綺麗にしなくっちゃ・・・。子供たちが転んだら 大変だから・・・」 「でももう、保育所しまってっぞ。かごめ」 「いいの。これが私の仕事。最後まで責任持たなくちゃ」 かごめはどこか・・・ 虚ろな瞳でほうきを動かす その様子に異変を感じる犬夜叉。 「・・・。かごめ。なんかあったのか・・・?」 「・・・」 「もしかして・・・。またあの女が・・・!??」 「・・・」 犬夜叉の問いかけにも応えず、かごめはひたすらに・・・掃く。 掃く・・・。 「かごめ・・・!」 犬夜叉は強引にほうきを取り上げた。 「・・・。そう・・・なんだな・・・?またあの女が・・・」 「・・・」 じわっとかごめの目に涙が溢れた。 「・・・犬夜叉・・・」 犬夜叉のいたわりの言葉に・・・ 突っ張っていたかごめの心の糸がぷつっと・・・ 緩んだ・・・。 「犬夜叉・・・っ」 思わず犬夜叉の胸に顔を埋めるかごめ・・・ 「すまねぇ・・・!すまねぇ・・・!すまねぇ・・・!」 かごめの痛みを肌で感じ ぎゅっとかごめを抱きしめる・・・ (オレは馬鹿だ・・・。何にも気づいてやれなかったなんて・・・) 悔いても 悔いても 悔いきれない・・・。 しばらくの間・・・。 二人は抱き合ったままだった・・・ (あの女・・・。絶てぇえ許せねぇ・・・ッ!!) 犬夜叉の怒りは限界だった。 翌日。犬夜叉は桔田が勤めているレコード会社に乗りこむ。 『企画部長室』 桔田がいると思われる部屋に犬夜叉はずかずかと入っていく。 バアン!! 「てめぇえ!!!」 「あら・・・。犬夜叉くんこんにちは」 「こんにちはじゃねぇだろ!??てめぇええ・・・。これ以上かごめに 馬鹿な真似してみろ・・・。今度こそ容赦しねぇぞッ!!」 ドン! ディスクを叩く犬夜叉。 「・・・ふふ」 「な、何笑ってんだよ・・・」 「ほんっとに”筋書き通り”で可笑しくて・・・」 「な、何・・・?」 意味不明な桔田の笑いに戸惑う犬夜叉。 「今日、会わせたい人がいるのよ。隣の部屋に」 桔田は立ち上がり、隣の部屋に通じる扉を開けた・・・ ギィ・・・。 (え・・・) 扉を開けた瞬間に 漂ってきたのは あの切ない香り・・・ 「・・・桔・・・梗・・・」