続 居場所を探して
〜タンポポの種〜

其の三十二 再会


「き・・・桔梗・・・」



腰まである長い黒髪・・・。


切なくなるような香水が・・・


犬夜叉の胸をこする・・・




「ふふ。なぁあんて意味深な雰囲気でしょう。やっぱりお似合いだわ。
貴方達。ここ、暫くだれもこないから・・・。ごゆっくりーvv」




嫌ならしい笑みを浮かべて会議室を出て行く桔田・・・。



巫女

二人きり・・・




急に静けさが



二人の心を呼び覚ます・・・。






(桔梗・・・)





(・・・犬夜叉)





この感覚はなんなのだろう。





金縛りにあうように



磁石と磁石が引き合うように


二人だけの



空間になってしまう・・・







”犬夜叉・・・私・・・”





(・・・!)





見えないバリアーを




かごめの哀しい顔が打ち消す・・・。





犬夜叉の変化を桔梗は敏感に感じ取る・・・



「・・・桔田がお前に迷惑かけているみたいだな・・・」



「・・・」




「すまない」



桔梗は深々と頭を下げる・・・。



「・・・。別にお前が謝ることじゃ・・・」




「・・・やはり私は日本にくるべきじゃなかったな・・・」




「・・・桔梗・・・」




「・・・。私という存在がお前の周囲の人間達を苦しめることは・・・。
不本意でしかない・・・」





さらっと後ろ髪をかきあげる桔梗・・・。





「お前のせいじゃねぇよ・・・。それよりお前の方がはどうなんだ?」




「・・・。相変わらずだ・・・。明後日にはまたアメリカに戻る・・・」




「そうか・・・」





「・・・。ふっ」




「?」




桔梗は含み笑う。




「・・・変わらないな・・・。不器用なその優しさは・・・」



「な、急になんだよ・・・」



「・・・。私は・・・そういう不器用さが好きだったが・・・」





(なっ・・・)


一瞬ドキリとする犬夜叉。




「その優しさに甘えてはいけない・・・。私はそう思っている」




「桔梗・・・」






桔梗の言葉は



一体どんな意味が込められているのか・・・。





「・・・。とにかく桔田には私から厳しく言っておく・・・」




「ああ。頼む・・・」




桔梗は会議室のドアノブに手を掛ける・・・




「犬夜叉・・・」




桔梗は振り返り犬夜叉を見据えた・・・。




「犬夜叉・・・」





(桔梗・・・?)




「・・・。会えて・・・。嬉しかった・・・」





パタン・・・。





サラっとなびく黒髪が・・・犬夜叉の瞳に焼きついた・・・。






(桔梗・・・)







昔の熱い想いは醒めても・・・




懐古な想いは・・・絶えることはなく・・・。






微かに香る桔梗の残り香に包まれていた・・・。







一方その頃・・・。



保育所。



かごめは昼休憩の合間に携帯をチェックしていた。



(・・・非通知だわ)



メールが一通。着ていた。


それも添付画像付で・・・。



件名は・・・



『元彼と元カノの再会シーンをプレゼント!!』



メールの送り主はすぐに察しがつく。



(相手にしちゃ駄目なのよ)


そう思って削除ボタンに指が触れるが・・・。





”元彼と元カノの再会シーン”



かごめの心は揺れる・・・



かき乱れる








ぴ・・・




かごめの親指は





添付ファイルを開くボタンを





押していた・・・










(・・・っ)








犬夜叉と桔梗が・・・



窓越しに見つめあう姿が・・・







かごめの手が一瞬激しくぶるっと震えた・・・。







ピ!!





添付ファイルを削除した・・・。










(・・・どうしてこんな・・・。こんなことばかり・・・)







携帯の電池を抜いてバックにしまい込む・・・。







襲ってくる脱力感・・・






これは


嫉妬でも 自尊心を傷つけられた衝撃




でも・・・なく・・・






(疲れる・・・もう・・・。この繰り返しは・・・)




ロッカーの前で顔をうつ伏せるかごめ・・・。





「さー。みんなー。おやつの時間ですよー!」



(!!)



職員の声にはっとするかごめ・・・




(そうよ。ここは私の職場・・・。プライベートを持ち込んじゃ
いけない・・・。気を引き締めないと)





「・・・よーっし!!ファイト!!」



鏡の前で両頬を叩いて気合を入れる・・・



子供達の前で暗い顔なんてできないから・・・。







保育室に行く。


お昼寝から起きた子供達は元気に
おはぎをほおばっていた。




「みんな、ゆっくり噛んで食べようね〜!」




「ハーイ!」



子供達はいっせいにごまと、きなこのおはぎを口に入れ始める。





だが一人の園児が床に転がり蹲る。





「なおくん、どうしたの!??」



かごめが園児に駆け寄る。




「あ・・・。湿疹が・・・」




園児の体には赤い湿疹が体中に出ている。



かゆいかゆいと掻き毟る・・・




「なおくん、しっかりして!!」



園児を抱き上げ部屋を出る。




「病院につれていきます!」




すぐさま、園児を職員の車で病院に運ぶ。




「なおくん!!」



処置室に運ばれ、点滴を打たれる園児。



医者によると園児は食物アレルギーによるショック症状だという。



勿論、園児がアレルギーということは保育園側も知っていたことで
極力食事には気を使っていた。


「・・・。そんなはずあるわけないですよねかごめ先生・・・。おやつはおはぎで・・・」




「・・・」



診察室の前でかごめと金子が複雑な顔で話していると・・・




「あ・・・。なおくんのお母さん・・・」



「どういうことなんですか!???これは!!」




園児の母親らしき女性が声を荒げる。




「すみません!」



「謝る前に、事情を説明していただきたいわ!!うちの子のアレルギーのことは
先生にちゃんとおつたえしてあるはず!!」




ちょっと派手めの赤いスーツを着た母親はすごい剣幕でまくしたてる。





「あ、あの・・・今日のおやつはおはぎで・・・。それも自然素材の国産の
胡麻と黄粉で・・・」



金子が恐る恐る反論するが。




「まぁあ!!何!??じゃあうちの子のせいだっておっしゃるの!??」



「い、いやそういう意味では・・・」





「大体ね!担任教諭がふしだらだからこんなことが起きるのよ!」




母親はかごめに冷たい視線をおくる。






「異性関係のことでトラブルでもあって、自分の仕事に身が入らなくなって
いたんじゃなくて!???注意散漫になっていなんじゃないんですか!??」





「・・・!」






母親の言葉が・・・





かごめの心の奥を突く・・・。






「な・・・。かごめ先生はそんな・・・」



金子が弁明しようとしたがかごめが





「全て私の不注意です。本当にすみませんでした・・・!」




と頭を下げる・・・。




「謝ってすむこととすまないことがあります!命に関わることなんですよ!??
このことは、園長先生ともご相談して叱るべき処置をさせていただきますから・・・!!
そのおつもりで・・・!!」



バタン!!


母親が激しく処置室のドアを閉める音が・・・



重く響いた・・・





「かごめ先輩・・・」




「いいのよ・・・。なおくんのお母様の言うとおりだわ・・・。
私が・・・。私の不注意と仕事への意識の散漫が招いてしまったのよ・・・」




「かごめ先輩・・・」





深く・・・



床を見つめるかごめに・・・




金子は駆ける言葉もなかった・・・。






その後。



保育所に戻ったかごめは園長に呼び出された。





「かごめ先生・・・。申し訳ありませんがしばらく謹慎ということでお願いします」



「・・・はい」



「私も不本意なのですが・・・。保護者の方からの抗議がこれだけ強いと・・・。
おさまりがつかないのです」



「はい・・・。わかっています」



「・・・私も出来る限りはかごめ先生の側に立ちたいのですが・・・。これだけ
保護者の方の抗議が強いと・・・。保育所側の責任問題になるのは当たり前で
・・・。言いにくいのですが、それなりの
”覚悟”はしておいてください」



「はい・・・失礼します・・・」



かごめは園長に深々と頭を下げ、園長室をあとにする・・・。





「か、かごめ先生・・・」




金子が心配そうな顔でかごめに駆け寄る。




「・・・金子君。しばらく・・・、たんぽぽ組のこと、
お願いね」



「え?」



「暫く・・・休暇とらなくちゃいけないから」



「休暇って・・・。それって・・・」






「・・・。大丈夫。私は大丈夫だから・・・さ、遊戯室の片付け、しちゃおう!」




かごめは元気そうだが・・・



(休暇って・・・それって・・・謹慎ってことじゃないか・・・)




金子にはかごめの横顔が辛そうに



見えたのだった・・・。







「・・・うふふ。今日はお肉がやすかったから奮発しちゃったぁ!」



その日の楓荘の食卓。


久しぶりにすきやきです。




「あ、こらぁあ!犬夜叉、あんたまたお肉ばっかり食べて!!」



「うっせーな。弱肉強食なんでい」




肉にがっつく犬夜叉。




「私・・・。食い意地張ってるヒトって嫌だなー・・・」



かごめの一言でピタリ・・・犬夜叉の箸が止まる。



そして犬夜叉の箸は肉から春菊へ・・・


「うん。偉い子。偉い子。それでよし」




「・・・が、ガキ扱いすんじゃねぇっ。けっ」




「うふふふ・・・」



かごめと犬夜叉のやりとり。




弥勒は




「完全に下にひかれてるなぁ。犬夜叉は」



と気楽に見ていたが・・・




(かごめちゃん・・・)



珊瑚にはかごめの態度がどこかハイテンションに

見えた・・・









そして夜。



かごめに園長から連絡が入った。

臨時の保護者会が終わり、保育所側の責任は”どうとるのか”
報告されたらしい。


「・・・。わかりました。はい・・・。ええ・・・承知しました・・・」




携帯をきるかごめ・・・






「・・・」




深くため息をつく・・・






「・・・」






暫く机に顔を伏せるかごめ・・・。







そして・・・





机の引き出しから白い便箋と封筒を取り出す・・・





封筒の表には・・・








『辞表』




と二文字を書いた・・・。