続 居場所を探して
〜タンポポの種〜

其の三十四 優しい雪の中で


『おう。かごめ。雪、見にいくぞ。支度しろ』



突然の犬夜叉の申し出にかごめは戸惑うがとりあえず、支度をした。


そしてかごめを車に乗せて高速道路を走る。


「・・・」



「ハンドルを握る犬夜叉を助手席でじっと見るかごめ。


「・・・犬夜叉って・・・いつのまに車の免許とったの?」


「18ン時。単車の免許と一緒にとったけど、オレ小回りきく単車の方が
性にあってんだよ」



「ふぅーん・・・」


「・・・なんでい。そのものめずらしそうな顔は」



「ううん・・・。なんだかハンドル握る犬夜叉の横顔って・・・ちょっとカッコいいな・・・って」




「・・・なッ(照)きゅ、きゅ、きゅうに何言い出して・・・」



ちょっと余所見をしてしまった犬夜叉。



「きゃああ!犬夜叉、前前〜!!」



目の前にダンプが。



犬夜叉はスピードを落とし、車間距離をとった。



「・・・た、たく・・・う、運転中にみょ、妙なこと言うな・・・(汗)」



「ご、ごめん・・・。でも・・・なんか犬夜叉の新しい一面が見られて・・・嬉しい」




「・・・(照)」




犬夜叉、なんだか腰辺りが


くすぐったく・・・



(・・・い、いかんいかん。運転に集中しねぇと・・・)




ドキドキ・・・。




考えてみたらはじめてのドライブ・・・



(なんか・・・助手席に乗ってるって・・・”彼女”って感じがして・・・いいな)




犬夜叉をチラ見。



犬夜叉の方も・・・



(・・・。か、”彼氏”って感じがするっていうか・・・(照))



かごめをチラ見。




バチ・・・と視線があって互いに逸らす・・・




(・・・)



(・・・)




なんだか車内の空気がくすぐったい・・・






別荘につくまで二人は黙ったままだった・・・。






「へぇー・・・。素敵じゃない!」



白樺が生い茂る森。


林道の脇にログハウスが一軒たっている。



「待ってろ。今鍵で開けてやる」




ポケットから鍵を取り出し玄関のドアを開ける。




「わぁああ!木の香りでいっぱい・・・!」



かごめはログハウスに入るなり、あちこち中をはしゃいで見て回る。



二階には物置と一つだけ部屋がある。



「へぇ。キッチンも結構綺麗なんだね」




冷蔵庫に持ってきた食材をいれるかごめ。



「あ、お風呂もみてこよっと」



かごめの嬉しそうな様子に犬夜叉は少しほっとする。



(かごめ・・・思ったより元気そうだ・・・)





この旅行は



かごめを元気付けるための旅行。




(・・・オレが・・・。いつまでも踏ん切りつけられねぇせいなんだ。全ては・・・)




桔田梗子の言葉が浮ぶ。




”私が何かしかけたとしても貴方達がしっかり繋がっていれば
いいことでしょう??”



「・・・犬夜叉?どうしたの。深刻な顔して」


「え、い、いや・・・」



「さぁあてと!早速食事の支度にとりかかろっかな」


バックの中からエプロンを取り出すかごめ。


「犬夜叉はテレビでも見てて。ハンバーグつくるから」




「あ、お、オレも手伝う」



「いーの!犬夜叉は座って待ってて。ね♪」



テレビの前に犬夜叉を座らせ、かごめはキッチンで夕食を作り始めた。



やがてしばらくすると。

トントン・・・


野菜を切る音。



「・・・」


犬夜叉は手持ち無沙汰で落ち着かない。



振り向いてかごめの後姿を見つめる・・・



エプロン姿で。


台所に立っている・・・



(///)



犬夜叉くんの脳裏。またまた妄想劇場が始ったようです(笑)


裸身エプロン姿のかごめが犬夜叉に言う。


”犬夜叉・・・。おかえりなさい。夕食にする・・・それとも・・・”





「犬夜叉。どっちにする?」




「え!??」




「ねぇ。どっちにするの・・・?早く決めて・・・」




「そ、そんな。かごめ。まだ時間早いし・・・(お、俺的にはかごめが・・・)」


「何言ってんの?あんた?」



(!?)


犬夜叉の妄想劇場終了。現実に帰ってまいりました(笑)




「明日の朝食・・・パンにするかどうか聞いてるのよ」


「な、なんだ・・・。そんなことか・・・」



「・・・なによ。あんたまさかまた変な想像して・・・」




「ばっ・・・んなわけねーだろ。んなわけねーだろ」



完全に態度で自白の犬夜叉。



「もー・・・。人が一生懸命夕食作ってるっていうのに。・・・ふふ。でもなんかこういうのって・・・
いいね」



「なにが」



「ケンカして仲直りして・・・。あたし達らしいっていうか・・・」




甘々な新婚シーンもいい。


でも・・・




「こういう・・・明るくて楽しい・・・家族になれたらいいね。だったらこどもは
沢山作らなくちゃ」



「・・・(照)」



「うふふ。犬夜叉。あんた今日照れてばっかりね。もーっと照れさせてやろうっと」




「お、男をからかうな!」



かごめは犬夜叉をキッチンにつれていき、カレーの味見をさせる。



「はい。あーんしてv」




「ばっ・・・な、なんちゅうことを・・・」





「はい、口あけて。あーん・・・」



スプーンで犬夜叉の口元までもっていくと・・・あらら不思議。かってに口が開きます。



むすっとしながらももぐもぐ・・・ごっくん。




「どう?おいしい」




「・・・おう(照)」




「うふ。アリガト」



CHU!




「・・・!!」



犬夜叉の頬に軽いキス。



「もうちょっとで出来るから犬夜叉、お皿だしておいてね!」



(・・・(照))


完全にかごめのペース・・・。


真っ赤なお顔ででも果てしなく嬉しそうな犬夜叉くんです。



(・・・かごめの奴・・・元気になったのかな・・・)



照れながらもかごめの心を案ずる犬夜叉だった・・・。






夕食も終わり。




「あー!!犬夜叉。ずるい!今、私のカード見たでしょ!!」


「見るわけねーだろ!負けは負けだ!」


リビングの暖炉の前でトランプして遊ぶ二人。



かごめは大声をあげるくらいに



明るく



「もーー!!もっかい!もっかい勝負よ!!」



はしゃいで




いる・・・






(・・・でも・・・)





笑っている分だけ




かごめは・・・




(・・・どっかで泣いてンだよな・・・)






笑顔の裏には涙。



涙を押し込めた・・・




痛い笑顔。





暖炉の灯はあたたかいけど・・・かごめの心は・・・どうなのだろう・・・?




チッチッチ・・・。



「・・・あ・・・」




窓を覗くと・・・



白いふわふわの綿帽子が・・・




舞い降りていた・・・。





「・・・寒いはずだよね・・・」




かごめは両腕をさすりながら、暖炉の前に腰を降ろす・・・。





「・・・あったかい・・・」




「・・・」





オレンジ色の暖炉の灯が・・・



かごめの頬に照り返す・・・。






「犬夜叉・・・」




「・・・ん・・・?」






「・・・今日は・・・。アリガトね・・・。私を元気つけようとして・・・
誘ってくれて・・・」




「かごめ・・・」





かごめはマグカップをそっと床に置く・・・。





「嬉しかったよ。ホントに・・・」



「・・・ホントか?」



「うん」




「・・・。それが元気って面かよ」





犬夜叉はかすかに震えるかごめの肩をそっと引き寄せる・・・





「・・・なんだよ」




「ううん・・・。なんか犬夜叉・・・。今日は”紳士”だなって・・・」



「・・・ばっ・・・(照)」




かごめはくすっと微笑んだ・・・






「わ、悪いかよ・・・」



「ううん・・・。悪くないよ・・・。犬夜叉の優しい気持ち・・・伝わってくるから・・・」





犬夜叉の胸板にかごめはそっと頬を寄せて・・・







「かごめ・・・」





「なあに?」





「お前・・・。オレ・・・誰かを励ましたり・・・元気付けたり・・・そ、
そういうの苦手だから・・・わかんねぇけど・・・言ってみてくれよ」




「え・・・?」






かごめの痛み。




本当に心を痛めていること・・・




それが知りたい。




知って上手な言葉が出てくるわけでもないけど





知りたい。





恋人の痛みを





知りたい・・・。







「・・・犬夜叉・・・」





「お、お前が一番何が辛いのか・・・俺は馬鹿だから
わからねぇから・・・」







(・・・初めて・・・)







こんな・・・





犬夜叉の優しい瞳・・・。







自分の心を知ろうとしてくれている




その優しさが




嬉しかった・・・







「・・・。何ナノかな・・・。自分でも分からないんだ・・・。ただ・・・辞めることより・・・」






”かごめ先生は悪いことしたんだ!!”





子供たちから向けられた・・・




冷たい言葉。瞳。





一番大好きだった子供達の笑顔を失って・・・。






「・・・子供達に・・・。拒絶されたことが・・・。無視されたことが・・・。
それが・・・それが・・・。辛い・・・」









抑えていたものが吹き出すように




かごめの頬を涙が伝った・・・





「・・・私どこか図に乗ってたの・・・。子供達には好かれてるって・・・。でも子供達に
突き放されて・・・。そんな自分に気がついて・・・。自分が・・・嫌で嫌で・・・嫌で嫌で・・・っ」










湧き上がってくる嗚咽を・・・





手で口を覆って我慢するかごめ・・・。










「・・・馬鹿よね・・・。私・・・どうしようもないよね・・・」







「かごめ・・・」








「こんな・・・こんな私じゃ・・・子供達と向き合う資格ないって・・・」







「・・・かごめ・・・」







母親に叱られた




少女のように





涙を抑えるかごめ。






(・・・全部オレのせいだ。オレが・・・引き金なんだ・・・)




そう思えば思うほど




腕の中で泣くかごめが・・・





いとおしく





切なく・・・




再びかごめをぎゅっと抱きしめる犬夜叉・・・。














「犬夜叉・・・子供達の笑顔・・・。もう一度みられるかな・・・」







「ああ・・・」





「うん・・・。私・・・頑張るね・・・犬夜叉・・・アリガト・・・」








パキ・・・ッ。




薪が



軋む音が




響く・・・








お互いの




優しい気持ちが




重なって・・・





暖炉の灯。





寄り添う二人には





最高に





あったかく




最高に・・・






優しい灯火に映っていた・・・







外がどれだけ寒くても





雪がふっても






二人は平気。







互いを思いやる心があるから・・・。
















「ただいまー・・・」 次の日。 雪も止んでかごめ達はお昼になる前に楓荘に戻った。 「おかえりーーー!!かごめちゃーん!!」 弥勒と珊瑚、七宝たち全員、 かごめを出迎える・・・ 「あれ・・・?どうしたのみんな・・・。弥勒様、会社は?七宝ちゃん学校は?」 弥勒と七宝は顔を見合ってニっと悪戯っぽく笑った 「ずる休みしちゃった!」 「え?どうしてそんな・・・」 「みんなですき焼きパーティーの続きしたくって。かごめ様、復活お祝いーってね! ね、七宝君」 「そうじゃ。そうじゃ。かごめが元気がないとこの家の中が さみしゅうて」 七宝はかごめの膝に擦り寄った・・・ 「七宝ちゃん。弥勒様・・・。ありがとう。ホントにありがと・・・。 私って幸せ者ね・・・。こんなに優しいみんなと一緒にいられて・・・」 目尻に浮かんだ涙をそっと拭うかごめ・・・。 そんなかごめを仲間たちは優しい眼差しを送る・・・ 「あ、そうそう・・・かごめちゃん。かごめちゃんに届いてるものがあるんだ」 珊瑚はポケットから一通の葉書サイズの黄色の色画用紙をかごめに手渡した。 二つ折りにされた色画用紙の表面には クレヨンで 『かごめせんせいえ。』 とかいてある。 「これ・・・」 「昨日の夕方ね、かごめちゃんの保育所の子が来て、それを渡してくれって・・・」 (・・・この字・・・。まさくんだわ) かごめに一番懐いていた・・・ちょっぴり泣き虫の男の子だ。 色画用紙を広げてみると えんぴつでいっぱい、習いたてのひらがなのかわいい字が 書いてあった・・・ いっぱい、いっぱい・・・。 『かごめせんせいえ。かごめせんせいが、ほいくしょにいなくて とてもさみしい。とってもとってもないているよ。 ほいくしょもたのしくないよ。 でも、かごめせんせいのこころはもっとないているって ・・・かねこせんせいがいっていたから。 ぼくはなくのをやめたよ。せんせいのこころがげんきになりますように たくさんおいのりするね せんせいのこころのいたいいたいがとんでいきますようにって。 じゃあね。ばいばい。 まさお』 「・・・まさ君・・・。相変わらず・・・”え”と”へ”違ってるんだから・・・」 カードをぎゅっと 胸元で握り締める・・・ 「かごめ、よかったな・・・」 「うん・・・」 楓荘の黒い重たい瓦。 ふわっとした粉雪が白におおう。 「さぁああて!住人全員揃ったし恒例のすき焼きパーティーと参りましょうーー!」 痛めた心を癒せるのは 人の優しさ 温もり 何気ない言葉や態度が 一番・・・。 それを肌で感じたかごめだった・・・。