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続 居場所を探して
〜タンポポの種〜

其の三十五 真意

ホテルの一室。 シャワー室から白いバスタオル一枚、巻いた桔梗が出てきた。 「・・・担当マネージャーと言えども・・・。勝手に部屋に入るのはどうかと思うが・・・?」 桔田がベットに座り、煙草に火をつけていた。 「・・・。綺麗ね・・・。女の私から見ても貴方は綺麗よ・・・。 彼氏に見せたらすぐ落とせるんじゃない・・・?」 桔梗の濡れ髪に手を伸ばす桔田。 その手をパシっと払う桔梗。 「・・・。一つだけお前に忠告しておく。もう犬夜叉には関わるな」 「あらまぁ・・・。関わっているのは私じゃなくて・・・。貴方自身でしょ・・・?」 「・・・もう・・・。私達は別々の道に居る・・・。だから犬夜叉にはもう 余計な真似はするな」 鏡の中の桔梗は、桔田を鋭く睨む。 「・・・凛々しい台詞・・・。ふふ。でも・・・。貴方の心は正直よ」 桔田は桔梗がしていた髪留めを手にした。 「・・・”元彼”の贈り物・・・。まだ持ってるなんて・・・。貴方も乙女ね・・・初々しいじゃない」 「・・・」 髪留めを桔梗の手のひらに乗せる桔田。 「貴方の音楽に”足りないもの”のためなら私は何でもするわ。 例えソレが・・・。貴方自身が否定しても・・・」 「・・・」 くす・・・っと笑い桔梗の頬に軽くキスをする 「・・・貴方は私の夢・・・。貴方が世界でもっともっと認められる 事が・・・私の・・・すべて・・・」 「・・・着替える。出て行ってくれ」 「はいはい。お嬢様。明日は10時から打ち合わせだからよろしく。ふふ・・・」 桔梗は赤い髪留めをじっと見つめる・・・。 犬夜叉から貰ったただ一つの・・・贈り物。 露天商で売られていた・・・1000円ほどの髪留め。 まだ・・・持っている・・・。 (・・・もう・・・別々の道に・・・いるのだ・・・) ”女ってのは・・・。こういうモン好きなんだろ・・・” 不器用に照れながら くれた・・・髪留め。 (犬夜叉・・・) 濡れ髪を一つに髪留めで束ねる・・・ 犬夜叉の照れ顔を浮かべて・・・ 鏡の中の桔梗の心はまだ・・・あの頃に飛んでいた・・・。
「はい。犬夜叉。お弁当」 ピンクの包みを玄関先で犬夜叉に渡すかごめ。 「・・・おう」 ちょっと嬉しそうに受け取る犬夜叉。 「今日は何時に帰って来る?」 「・・・メシまでには帰る」 「そう。じゃあ、犬夜叉に好きな肉じゃが作って待ってるね」 にこっと笑ってかごめは犬夜叉にリュックを担がせる。 ・・・お約束的な新婚さんの朝の光景。 「・・・い、行って来ます(照)」 「はい。行ってらっしゃい」 (・・・) だが犬夜叉、何か”まだ足りない”というような顔をしている。 「・・・何よ。何か忘れ物?」 「・・・べ、別に・・・。んじゃ行ってくる」 ちょっと不満そうに犬夜叉が立ち上がったとき・・・ CHUッv 「・・・”忘れ物”でしょ・・・?」 「///」 しばしほわあんとした空気が二人の間に流れ・・・ 「オラの前でいちゃつくのはかまわんがどいてくれんかのう」 「わッ」 大人顔の小学生七宝。 ランドセルをしょって、照れる二人を通り抜け登校していく。 「・・・犬夜叉、い、行ってらっしゃい」 「い、行ってきます・・・」 お互い、こそばゆい気持ちを抑えて朝の二人の”儀式” は終了。 まだ少しニヤケ顔の犬夜叉。 ランドセルをしょった七宝が門の前で犬夜叉を待っていた。 「なんだよ。遅刻すっぞ」 「・・・犬夜叉。かごめはもう本当に大丈夫なんじゃろうな?」 「・・・ガキが余計な心配すんじゃねぇ」 「かごめは・・・。笑った分だけどこかで泣いておるからな・・・」 子供の方がよほど、かごめを見ている。 よく、見ている。 「もう・・・。オレがかごめを泣かせねぇ。絶対・・・。だから心配すんな・・・」 「・・・約束じゃぞ。約束」 「わかってらぁ・・・」 犬夜叉は七宝の頭をそっと撫でる・・・。 力強く・・・ 絶対に約束は守ると・・・。 「〜♪」 脱衣所で洗濯機から洗濯物をかごに入れる。 「もー・・・。犬夜叉ったらまーた、ポケットの中にティッシュいれたまんま だったのね」 パンパンと犬夜叉のジーンズをはたくと白いティッシュの残骸が飛び散る。 完璧にかごめさん、主婦しております。 (しばらく・・・こういうのもいいかな) 保育士の募集を、職安などで調べたり、知り合いに頼んだり しているが・・・ (少し休息して・・・。また頑張らなくちゃ!) 小さくガッツポーズをかまして、主婦、かごめさん、電話の音に 廊下をパタパタを食堂まで走ります。 「はい。もしもし、楓荘でーす」 「うふふ。元気そうね。日暮さん」 「・・・」 嫌味な声・・・。 声の主が誰かすぐ分かる。 「何の御用ですか。私、今、忙しいんで」 「エプロン姿とっても似合ってるわよ。ふふ。ソレ来て、噂の彼氏の所へ お嫁に行ってくれたらこっちはたすかるんだけどなぁ〜・・・」 「・・・。用が無いのなら切ります。じゃ」 受話器を置くかごめ。 「あ、そうだ・・・。知りたくない?七宝くんのお父さんの行方」 「・・・!?」 「・・・うふふ・・・」 受話器越しに聞こえる桔田の薄笑い・・・ かごめは不気味さを感じながらも 七宝の父親の事が聞けるのなら・・・と桔田の誘いに乗った。 ・・・また何か企みがあると分かっていても・・・。 「・・・あ、日暮さんこっちこっち!」 (・・・) ブランド物に身を包んでいる桔田にしては待合せの場所が意外だ。 ファミレスだなんて・・・。 「ゴメンなさいね。お腹減ってたからお先に頂いちゃってたわ」 (・・・) これまた意外。せいぜいファミレスのメニューの中で桔田が注文しそうなのは 珈琲ぐらいかと思えるのだが・・・。 なんと食べていたのはステーキ定食。 (・・・とらえどころのない人ね・・・) かごめは少し戸惑いながら、桔田の向かいの席に座った。 「注文は何にする?」 「私は結構です」 「あら、そう。じゃあ私は遠慮なく頂くわね」 かごめのリアクションを楽しむように 悠々と食事を続ける。 「・・・あの・・・。七宝ちゃんのお父さんの行方って・・・どういうことなんですか?」 「うふふー。まぁ。貴方達のことは全部調べてるからー・・・」 「・・・。犬夜叉との別れを引き換えに情報を教える・・・。そういうことですか」 かごめは真直ぐ桔田を射抜くように見つめた。 「日暮さん、勘が良くなったわねー」 「ええ。お陰さまで。どなたかのお陰でうたれづよくなりましたから」 「・・・お褒めの言葉ありがとう。光栄だわ」 「どういたしまして。でもその取引には応じる気はありませんのであしからず」 毅然とかごめはかまえる。 隙を与えればつついてくる鳥のようだ。 「ま・・・。貴方達の強情さには私も根負け・・・だし。正攻法も無理だし・・・。 諦めているわ」 「・・・」 「でもね・・・。貴方だって分かるでしょう・・・?あの二人は切っても切っても 切れないのよ。そういう運命の元にいるのよ」 かごめの心を揺さぶるような言葉を連発してくる・・・。 そういう”攻撃法”もかごめは慣れてきた気がする。 (この人はどうして・・・。どうしてこんなにも嫌な女性を演じてまでも 桔梗に拘るんだろう・・・) 桔梗の音楽に惚れこんでいるから・・・? いや・・・それだけじゃない。 それだけじゃない気がする。 「・・・私の顔に何かついている・・・?桔梗に似てるこの顔、 見てるのつらいとか・・・?うふふ・・・」 「・・・。どうしてなんですか?」 「え・・・?」 「どうして貴方はそんなに桔梗に拘るんですか?」 「・・・。これはまた・・・。変化球な質問ね」 一瞬、桔田の表情が変わった気がしたかごめ。 「月島桔梗の音楽への情熱・・・。にしては別の何か深い想いを私は感じます」 「・・・」 桔田はナイフとフォークを置き、水を一口口に含んだ。 「桔梗と貴方はー・・・。何か深いつながりがあるんじゃないんですか・・・?」 「・・・。本当に・・・。勘が良くなったわね。貴方・・・」 「・・・」 桔田は胸につけていたペンダントを外し、かごめに手渡した。 「・・・。こ、これは・・・」 ペンダントの中に小さな写真が・・・ 赤子を抱いた少女の写真・・・。 「その少女は私・・・。そして赤ん坊は・・・。桔梗よ」 「!」 桔田の声が少し甲高くなる・・・。 「私は桔梗の姉の梗子。桔梗は私の妹よ」 「・・・」 切羽詰った 桔田の表情に・・・ かごめはただ戸惑いを覚えた・・・