続 居場所を探して
〜タンポポの種〜

其の三十八 姉の夢


「桔田梗子、ならぬ、月島響子は桔梗の姉さんだったのですか・・・」


「うん・・・。あ、珊瑚ちゃん、これ、希ちゃんの靴下」


楓の部屋で洗濯物を畳むかごめと珊瑚。



希の産着やちっちゃな靴下、布団カバーなどをたたむ。



「親が子供に果たせなかった自分の夢を託すみたいな・・・。要するにそんな
パターン?」



「さぁ・・・。でも桔梗と桔田さんには・・・他人にはわからない何かがある気がする・・・。
って珊瑚ちゃん?」



「・・・かごめちゃんはかごめちゃんだね・・・」



「え?」



珊瑚は一つ、重たいため息をつく。




「・・・ひどいことされた相手なのに・・・気遣うなんてさ・・・」



「珊瑚ちゃん」



「正直、私、我慢できないよ。桔田にしても桔梗にしても・・・。
自分達の行動がどれだけ他人を傷つけているか・・・。それにも気づかないで・・・。
自分達の感情ばっかり優先して・・・」



洗濯物のバスタオルをぎゅっと握り締める珊瑚の手が力む・・・。




「だってさ。だって・・・。最後の最後に一番損をこうむるのは・・・
辛いことが起こるのはかごめちゃんじゃない。いつもいつもいつも・・・!」



「・・・」



「犬夜叉と桔梗二人のいざこざにかごめちゃんが巻き込まれて・・・
当の本人達はそれがどんなに理不尽なことか気づいても居なくて・・・」




興奮する珊瑚の背中を優しく摩るかごめ。



「・・・珊瑚ちゃん、ありがとう。そこまで私を心配してくれて・・・。でも
私は大丈夫。だって珊瑚ちゃんって心強い友達がそばにいるんだもん」



「かごめちゃん・・・」





「・・・ま。犬夜叉には”色々”と正直、お腹に溜まってることは
たーくさん。あるけど・・・。ふふ。でも・・・誰かと一緒に生きていくって
”受け入れあう、許しあう”ことだと思うの・・・」




かごめは希の産着を丁寧にたたむ・・・。



桃色のベビー服。



胸のところには星のマークが刺繍してあって・・・。




「・・・私は幸せだよ・・・?こんなに可愛い赤ちゃんの笑顔がみられて・・・。
ね?希ちゃん」



ベビーベットの中で眠る希のピンクのほっぺをつんつんするかごめ。



「・・・あ。返事してくれた」



かごめの白い人差し指をぎゅっと小さな手が掴む・・・




「ふふ・・・。ありがとう。希ちゃん」




どんな心のモヤモヤも・・・。



無垢な寝顔の前では消えうせる・・・。




(かごめちゃん・・・)



・・・かごめの笑顔が・・・やはり少し切なく見える珊瑚だった・・・。










「・・・ちょっと。どういうつもり!??アルバム製作から降りるですって!?」 レコード会社の会議室。 すごい剣幕で桔梗を問い詰める桔田。 「もう私はお前の会社では仕事はしたくない」 「・・・それが貴方の私への”反抗”なの・・・?」 「・・・」 桔田は怒りを必死に抑えて煙草を一本吸う。 「やっぱり・・・。貴方には”彼”が必要なのね・・・」 「犬夜叉は関係ない!いい加減に他人を巻き込むのはやめろと言っている・・・!」 「ムキにならないでよ・・・。まぁいいわ・・・。でもとにかく、アルバム製作には 参加して。これはビジネスよ。子供じゃないんだから」 「お前こそ子供染みた思想は消せ。私はお前の代わりではない」 桔田は吸っていた煙草をぎゅっと灰皿に押し付けて消した。 「・・・貴方は私の夢・・・。唯一”残された夢”なのよ・・・」 「・・・。残された・・・?」 「そう・・・貴方は私の・・・」 PPPP! 桔田のスーツの内ポケットの携帯が鳴った。 「はい・・・。もしもし・・・はい。解りましたすぐ行きます」 携帯を切る桔田。 仕事の打ち合わせが入っていたらしい。 「とにかく・・・。アルバム製作には参加してもらいますからね。桔梗。 何もかもあなた自身のためなのよ・・・。解って頂戴・・・」 桔田は切なくそういうと、会議室を慌てて出て行った・・・。 「・・・」 ”最後に残った私の夢・・・” (どういう意味だ・・・。何か、ある) 桔梗は桔田の言葉の真意を考えていた・・・。
「・・・よかったね。珊瑚ちゃん。希ちゃん健康そのもので・・・」 「うん」 某病院の産婦人科。 希の検診に珊瑚とかごめは来ていた。 病院の会計をしている珊瑚を待合室で待っていると・・・ (あ・・・。桔田さん・・・?) どこか虚ろな顔の桔田がエレベーターから降りてきてかごめの前を通り過ぎようとした。 「あら・・・。これはこれは」 「桔田さん・・・」 「こんなところで会うなんて・・・」 どことなく桔田の顔色が悪くかごめには見えた。 「あの・・・大丈夫ですか?何だか顔色が・・・」 「・・・。別に・・・。まぁ。どこかの誰かさんが彼と別れてくれないから 色々と大変でね・・・」 「・・・」 口調は相変わらずだ。 「あの・・・。私は友人が待っているのでこれで・・・。って・・・。桔田さん!?」 「う・・・」 突然桔田は胸を押さえ、苦しみだした。 「うぐぐ・・・っ」 「桔田さん!??ど、どうしたんですか!?だ、誰か・・・!誰か来て・・・!!」 かごめは通りかかった看護婦を捕まえて助けを求めた。 桔田はすぐさま、担架に乗せられて処置室へと運ばれる。 「貴方、この患者さんの身内の方!?」 「いえあの・・・」 「とにかく話をきかせてください」 看護婦から呼ばれたとき、会計を終えた珊瑚が戻ってきた。 「かごめちゃん。どうしたの・・・?」 「珊瑚ちゃんごめん。先帰ってて・・・!」 「かごめちゃん・・・!?」 かごめも慌てて処置室へと駆け込む 「何があったんだろう・・・」 「桔田さん・・・!」 処置室では桔田は酸素マスクをつけられ、心電図もつけられ 慌しい雰囲気に包まれる。 「貴方、この患者さんの知り合いですか!?」 「え、あ、は、はい・・・」 「じゃあ、患者さんのご家族に連絡先教えてもらえますか」 「え・・・あ、えっと・・・」 かごめの脳裏に桔梗の顔が浮ぶ。 (・・・桔梗が来てくれるだろうか・・・。でも・・・やっぱり実のお姉さんだものね) 「あの・・・。多分、携帯電話の中に・・・」 かごめは桔田のバックの中の携帯を取り出す そしてアドレス帳から桔梗の番号を見つけ、かけ、そして看護婦に渡した。 (桔梗・・・。来てくれるかな・・・) かごめは何だか不思議な気がした・・・ (私が・・・。桔梗を待つなんて・・・ね・・・) そして1時間後・・・ 応急処置も終わり、苦しそうだった呼吸も落ち着いて点滴を打たれ眠っていた。 ピッピッピ・・・ 心電図の機械音だけが病室に響く・・・ (桔田さん・・・) 自分に散々嫌がらせをした人物。 好まざる人間なのに 痛々しく眠るその姿を前に かごめは桔田が一体何を抱えているのか・・・そんな思考に囚われていた。 「き・・・きょ・・・き・・・きょ・・・」 桔田がうわ言。 かごめは思わず手を握ってしまった・・・ 「・・・ききょ・・・わたしの・・・わたしの・・・」 (桔田さん・・・) ガラ・・・。 「・・・!」 振り向くとクリーム色のワンピース姿の桔梗が立っている・・ 「・・・。桔梗・・・」 桔梗は無表情で眠る桔田を見下ろす。 「・・・あ、あの・・・。お、お医者様の話によると心臓の方が大分悪いって・・・。 すぐに手術が必要だって・・・」 「・・・。”最後の夢”とはこういうことだったのか・・・」 (最後の・・・夢・・・?) 「・・・こういう時だけ・・・。”身内”という関係が必要になるのか・・・皮肉なものだ・・・」 (・・・) 桔梗はそっと丸椅子に座り、桔田の手を握る・・・。 「・・・。世話になった・・・。後の事は私が・・・」 「・・・じゃ、じゃあ・・・。失礼します・・・」 かごめはコートとバックを手に取るとそそくさと部屋を出ようと ドアノブに手を掛けた。 「・・・もう・・・」 (え・・・?) 「お前や犬夜叉の前には現れることはないだろう・・・。 例えどこかで再会したとしても・・・」 (・・・) 「犬夜叉の縁は・・・。もう・・・。別の人間の道に続いている・・・」 かごめの瞳をまっすぐに見つめる桔梗・・・。 「・・・。桔田さん・・・お大事に・・・。そして・・・貴方も・・・お元気で・・・」 かごめは軽く会釈して 病室を後にした・・・。 病院を出て、桔田の病死の窓を見上げるかごめ・・・。 ”犬夜叉の縁は・・・別の人間と繋がっている・・・” (・・・) 刹那が篭った声が・・・かごめの耳に残る・・・。 ポツ・・・。 (雨・・・) 小雨・・・ まるで誰かの涙のように・・・ 静かに降り続けるのだった・・・。