其の三十九 渡されたメモ
「・・・またか・・・。月島桔梗絡みでかごめちゃんが・・・」 食堂。 今日の出来事に珊瑚が憤慨している。 「犬夜叉!!あんた何してんの!!肝心なとき、いっつも いなくてさ!!」 「・・・う・・・」 「あんたがいつまでもなよなよしてるからこんな事になるんだよ!! がーーーー!!あんたのその面かごめちゃんの代わりにひっぱたいてやりたい!!」 包丁をもった珊瑚が犬夜叉に詰め寄る 「さ、珊瑚ちゃん、落ち着いて(汗)」 かごめが割ってはいるが、珊瑚の勢いは泊まりそうに無い。 「・・・珊瑚ちゃん、今回のことは仕方ないのよ。だってほら 桔田さんは病気なんだしさ。ね?」 「・・・そ、そうだけどさ・・・。もういいよ。希のおしめとりかえてくる・・・」 珊瑚は希をだっこして二階へあがっていった。 「・・・。ごめんね。犬夜叉。珊瑚ちゃんは私の事を心配してくれてる だけなの」 「・・・いや・・・。珊瑚の言うとおりだ・・・。またお前に色々・・・」 「・・・神妙な犬夜叉なんてらしくないよ。はい。お茶」 かごめは犬夜叉の専用の(かごめとお揃い)の湯飲みをそっと置いた。 「・・・かごめ。お前・・・。桔梗と・・・」 「え?」 「・・・いや・・・」 犬夜叉が聞きたいことはかごめにはすぐ察しがついた。 ”桔梗と何を話したか” 「・・・”姉が世話になった”・・・。それだけだよ」 「そ、そうか・・・」 犬夜叉はほっと小さく息をつく・・・ ”犬夜叉にもお前にも・・・もう関わることもない・・・永久に・・・” 桔梗の言葉を胸の奥にしまう。 「犬夜叉。おかわりする・・・?」 「いや・・・」 ブリの煮付けが少し食べ残されている。 お皿をお盆に乗せ片付ける。 「かごめ」 「なあに・・・」 「・・・。いや・・・」 「ふぅ。前に言ったでしょ。私はなんともないから・・・それより 私に変な気遣いしないで。ね?ほら!後片付け、手伝って!」 いつもと変わらないかごめの明るい微笑み。 犬夜叉にとっては救われた気持ちになるが・・・ (・・・逆に・・・。不安になる・・・) 笑顔の数だけかごめの心に痛みがあるかもしれないと思うと・・・。 「ほおら!犬夜叉!洗剤つけすぎー!」 「うるせー!きれーになれば文句ねーだろ!」 一緒に台所にたって、笑って怒って・・・。 楽しい時間。 結婚すればきっとこういう毎日が始るのだろう。 (けれど・・・。なんだ。この不安は・・・) かごめの微笑む横顔に理由のわからない不安を感じる犬夜叉だった。※”話がしたい。病室に来てきくれない?桔田” かごめが桔田からそんなメールをもらったのは、桔田が入院してから 1週間後だった。 (一体何だろう・・・) かごめは戸惑いながらも桔田の病室を訪ねた。 「あら。いらっしゃい」 パジャマ姿ながら、桔田は病室にパソコンを持ち込み、なにやら書類を 作って仕事を続けていた。 「桔田さん。起きていて大丈夫なんですか?」 「ふん。病院ってほんっとにすることがないんだもの。検査以外はね」 「そうですか・・・」 医者の話だと胸を患っていると聞いているが・・・ 「あの・・・。体調は如何ですか?」 「ちょっと持病が出ただけよ。ま、手術しないとやばいらしいけど」 (・・・) パソコンをカタカタ打ちながら平然と話す桔田。 桔田節は健在らしいが・・・。 「・・・あの・・・。それでお話って・・・」 「そこの棚のバックとって」 「あ、はい・・・」 かごめは黒の革のバックを取り渡す。 桔田はバックの中からメモを一枚取り出し、かごめに手渡す。 メモにはとある場所の住所らしいことが書かれてあった。 「あの・・・これは・・・」 「七宝君のお父さんの居場所よ」 「え!?」 「もう、”取引材料”としては役に立たないみたいだから。 あげるわ」 (・・・) 言葉は桔田節で、冷たいが七宝の父親の住所をこんなにあっさり 渡してくれるなんて・・・。 「・・・別に勘違いしないでね。私は自分が病気だから弱気になったわけじゃないわ。 ただ、今はご覧の通り、治療に専念しなくちゃいけないらしいから、貴方や彼にかまってる 暇ないだけよ」 「・・・桔田さん・・・」 「・・・用は済んだわ。もうすぐ検査が始るの」 「あ、じゃ、じゃあ私はこれで・・・。あの・・・。七宝ちゃんのお父さんの 住所、教えてくださってありがとうございました」 かごめは桔田に深々と頭を下げた。 「それから・・・。どうかお体・・・。大切に・・・」 「・・・」 「失礼します・・・」 「日暮さん」 呼び止められ、振り向くかごめ。 「・・・。彼と・・・。お幸せに・・・」 (桔田さん・・・) 丁寧に礼をしてかごめは静かに出て行く・・・。 (桔田さん・・・本当にお大事に・・・) 桔田にされた数々の嫌がらせは・・・正直、許せるか、と問われたら 応えに困るだろう。 けど・・・。 (負の感情を持ったまま・・・。誰かと新しい人生を歩いていくなんて・・・ 寂しすぎるものね・・・) 病院の帰り道。 歩道の梅の木・・・ 綻んでいる・・・。 「・・・もうすぐ・・・。春ね・・・」 また、新しい季節がやってくる・・・ (犬夜叉・・・きっと今年の春は二人で笑顔で迎えられる・・・よね・・・?) 空にそう問いかけるかごめだった・・・。 かごめは帰るとすぐ、食堂にみんなを集め、 桔田から七宝の父親の居所を記したメモを受け取ってきたことを話した。 テーブルにそのメモが、置いてある・・・ 注目する一同・・・。 「しかし・・・。よくあの桔田がすんなり渡してくれたよね。やっぱり したたか女も病気には勝てなかったか」 「・・・少し違うと思う・・・。きっと桔田さんと桔梗が・・・。話し合ったんだと思う。 姉妹の事情はわからないけど・・・」 犬夜叉はただ難しい顔をして腕を組んでいる。 「それより今は・・・七宝ちゃん・・・」 七宝はドキっとしたのか肩を一瞬すくめる。 「七宝ちゃん・・・。はっきり聞くね?七宝ちゃんは・・・。どうしたい? お父さんに・・・会いたい・・・?」 「・・・」 七宝は膝小僧に両手をぎゅっと握り震わせる・・・。 「オラ・・・。父ちゃんに・・・。作文見せたい・・・。見せたい・・・っ」 ポタ・・・ポタ・・・と 膝小僧に涙が落ちる・・・。 「・・・わかった・・・。七宝ちゃんの気持ちわかったよ・・・。 一緒に・・・お父さんに会いに行こう・・・行こうね・・・」 かごめは優しく七宝を抱き上げ・・・ 七宝が落ち着くまで撫で続けた・・・。 だっこしたまま・・・ 子守唄を歌って・・・。