続 居場所を探して
〜タンポポの種〜

其の四十二 純粋な束縛

”もう・・・犬夜叉の事、愛せない・・・” かごめの最後の言葉だけしか 犬夜叉には聞こえない。 朝になっても、雀の鳴き声も何も聞こえない。 放心の犬夜叉は かごめの部屋のドアに背中をもたれさせ、 膝を抱えて座っていた。 「・・・。犬夜叉。邪魔なんだけど。ホテルに泊まるかごめちゃんに 着替え、詰めたいの。どいてよ」 珊瑚がバックを持って犬夜叉の足をつつく。 「・・・かごめちゃんにフラレていじけるなら自分の部屋でしてよ」 「・・・」 珊瑚の声も 聞こえない。 ピタリと動きもしない。犬夜叉。 「どうして追いかけないの。犬夜叉?フラレた上に、追いかけるなんて 惨めな男になりたくない?」 「・・・!」 犬夜叉はハッと珊瑚の言葉に反応して顔を上げる。 「・・・お、お前に何がわかるってんだ・・・」 「分かりたくないね。最後の最後まで自分の殻に篭ってかごめちゃん追いかけもしない 男のことなんて。自分保身しか考えない男なんて」 「・・・」 「あんた、耳悪いの!??かごめちゃんが言ったのは”もう、愛してない”じゃない! ”愛せない”だろうが!!愛せないってことはまだ今は”まだ”愛してるってことじゃない!!」 「うるせぇ!!小難しいことなんて分かるか・・・っ。要するにオレはかごめに愛想を尽かされた、 ふられたってことなんだろ!!」 廊下に犬夜叉と珊瑚の声が響く。 「・・・。犬夜叉・・・。あんた、ほんっとに子供だ・・・。いや、 子供より悪い・・・。今、一番辛いのは誰か分からないなんて・・・」 「・・・かごめってんだろ!!わかってる!!それでオレが悪いってんだろ?? 分かってる、分かってんだよ、分かって・・・っ」 廊下にうな垂れる犬夜叉・・・ もう珊瑚に言い返す気力さえない・・・ 「・・・。だったらわからせやる。来い・・・っ!!!」 珊瑚は犬夜叉腕を掴み、風呂場へ連れて行く。 「頭冷やして・・・。考えろ・・・ッ!!!」 そしてシャワーの蛇口をひねって犬夜叉に頭からかけた。 犬夜叉はただ、されるがまま・・・。 「珊瑚!何してるんだ!!」 騒ぎに弥勒が慌ててかけつけ、シャワーの蛇口を閉めた。 「・・・どうして止めるんだ。弥勒様!コイツは自分の感情しか見えてないのに・・・っ」 「それはお前も同じだろ・・・。気持ちはわかるが落ち着け・・・」 「・・・」 珊瑚の瞳から悔し涙が止まらない。 どうしてかごめの気持ちがわからないのか。 かごめはいつまで犬夜叉と桔梗の影を引きずらなければいけないのか そして・・・ (私は親友として何もかごめちゃんにしてあげられない・・・) 友として不甲斐ない自分が・・・。 「・・・。すまねぇ・・・。珊瑚・・・」 「すまねぇすまねぇって・・・。一体何回かごめちゃんに同じ台詞言うの。 結婚したあとも言い続けるの?結婚するってことは・・・。完全に桔梗を 思い出にするってことでしょ・・・?なのにあんたは・・・っ」 「・・・。珊瑚。犬夜叉にも犬夜叉の気持ちが・・・」 弥勒の手を振り払う珊瑚。 「犬夜叉の気持ち!?犬夜叉の気持ちが何!?かごめちゃんはいつだっていつだって、犬夜叉の 気持ちを第一に考えてきたんだよ・・・?その重大さにも犬夜叉は気づかないで・・・。ううん・・・。 ”かごめはきっとオレを・・・”って心のどっかでそうタカくくってたんだよ・・・」 「珊瑚。言いすぎだぞ・・・」 「いいんだ。弥勒・・・。珊瑚の言うとおりだ・・・。オレは・・・」 犬夜叉の長い濡れ髪が滴る・・・ それはまるで涙のように・・・ 「・・・。ねぇ・・・。犬夜叉。考えてみてよ・・・」 「・・・」 「何度も何度も、犬夜叉と桔梗の断ち切れない仲を見せ付けられて・・・。 我慢して我慢して・・・。我慢してさらに自分の中で昇華させて・・・。 それでいいのかな。かごめちゃんを無理やり強くさせていいのかな・・・?」 「・・・」 「嫌がらせされて・・・。大好きだった仕事も失って・・・。 あんたに当たる意外、どうするっていうの・・・」 ”私だって生きてる人間なのよ!?何も感じない神さまじゃないのよ!?” かごめの言葉が犬夜叉の頭に過ぎる・・・。 「・・・」 「大体・・・。あんたが本当に分かってないのはね・・・。 どれだけ、あんたを想ってるかをってことよ・・・。かごめちゃんがあんたを 見捨てる訳なんてないじゃない、そんなこと、あるわけないじゃない・・・」 珊瑚は犬夜叉の肩をつかんで体を激しく揺らす。 自分しか知らないかごめの痛みを伝えるように・・・ 「・・・かごめちゃんの”愛せない”っていうのは・・・。もっともっと 犬夜叉を好きでいたい・・・そういう叫びなんだよ・・・?」 「・・・」 「・・・でも・・・。かごめちゃんは優しいから・・・。あんたの前では 嫌な女にも 弱い女になりきることもできなくて・・・。あんたの気持ち第一の考える から・・・。」 「・・・珊瑚。分かった。分かったから・・・」 「弥勒様・・・っ」 弥勒の宥めに珊瑚は 堪えきれなくなりその胸で泣く・・・。 「・・・犬夜叉。珊瑚はお前を悪者にしたい訳じゃないんだ。だた・・・。 かごめ様の気持ちを伝えたいだけなんだ・・・」 珊瑚の背中をさすりながら弥勒は犬夜叉に告げる。 犬夜叉は深く深く頷く・・・。 「・・・。ここが正念場だぞ・・・。かごめ様を手を離すか離さないか・・・」 かごめの服が詰ったバックを犬夜叉に渡す弥勒。 「かごめ様を連れ戻すまで帰って来るな。惨めな男、結構じゃないか。 それで大切な人が失わずにすむなら・・・」 「・・・。弥勒・・・」 手渡されたバック。 その中には かごめと犬夜叉の幸せを願う弥勒と珊瑚の想いが詰っている。 「わかった・・・」 そのバックをしっかり握りしめて 犬夜叉は・・・ (かごめ・・・!) かごめが泊まっているホテルに向かった。
隣町のビジネスホテル。 一泊5000円という割安だが、小奇麗で落ち着いた雰囲気。 そのホテルのフロントで犬夜叉とフロントマンが言い争っている。 「ですから・・・。ご宿泊のお客様はお会いしたくないと申しておりますし・・・」 「うるせぇ!てめぇ、かごめを隠してるんだろ!?」 「なんで手前どもが隠す必要があるんですか」 「とにかく、かごめにあわせろ!!会わせるまでオレはうごかねぇぞ」 犬夜叉はホテルの自動ドアの前にあぐらをかいて座り込み、 従業員と問答。 ホテルの従業員から電話を受けたかごめがロビーに慌てて下りてきた。 「犬夜叉!あんた何やってんの!」 「かごめ・・・」 「すみませんでした。ご迷惑かけて・・・」 従業員達に頭を下げてかごめは犬夜叉をホテル裏の駐車場に連れて行く。 駐車場には一台も車が止まっていない。 「一体どういうつもり!?あんな騒ぎ起こして・・・」 「お、オレはお前に・・・。いやその・・・。荷物を持ってきた。珊瑚が・・・」 かごめの顔を見ると 何を言っていいか分からず・・・ 「・・・。暫く一人にしてって言ったでしょ・・・。荷物ありがとう・・・」 「あ、かご・・・」 『待て』と言えない・・・。 かごめの背中が言っている。 言葉少なに立ち去るかごめの背中が 怒っている。 また突き放されることが 怖い・・・。 ”かごめ様を連れ戻すまで絶対に戻ってくるな・・・!” 弥勒の喝も 犬夜叉の背中を後押しできない・・・ (かごめ・・・) 8階立てのホテル。 かごめは何階の部屋なんだろう。 ホテルの窓を見上げる犬夜叉・・・。 その上から 白い粉が降って来た・・・。 チッチッチ・・・ かごめは腕時計を確かめる。 (7時か・・・) 一眠りしたかごめ・・・ (コンビニでも行って何か買ってこようかな・・・) ふとカーテンを開けて窓の外を見ると・・・。 (えっ・・・) 白い絨毯のように雪が積もった駐車場。 街灯の下に体を丸めて座っている黒髪・・・。 (犬夜叉・・・!??) 長い黒髪に 雪が帽子がわりに積もって・・・。 かごめは時計を見た。 犬夜叉とさっき駐車場で別れてから数時間はたっている・・・。 (凍えちゃうわ!あのまんまじゃ・・・) バタン! かごめは自分のコートを片手に部屋を飛び出した。 「・・・犬夜叉ッ!!」 外の雪は地面5センチ程の高さは積もっていた。 かごめの足跡がつく。 「犬夜叉!!ちょっとしっかりして!」 犬夜叉の体中に積もった雪をかごめは手で払い落とす。 (・・・熱がある・・・。とにかく部屋に連れて行かなくちゃ) 「犬夜叉・・・。ほら立って・・・。しっかりして・・・」 かごめは犬夜叉の手を首に回し、肩を背負う。 「お、お客様、大丈夫ですか!??」 フロントの従業員が駆けつけ、犬夜叉の左肩を支える。 「すみません・・・。ご迷惑します・・・」 従業員とかごめに支えられて、エレベーターに乗り、 犬夜叉は部屋まで運ばれた。 すぐにベットに寝かせ、濡れタオルを額にあてる。 「お医者様をお呼びしましょうか・・・?」 「大丈夫です。一晩寝れば多分・・・。お世話をおかけしました」 従業員に申し訳なさそうに頭を下げるかごめの姿が熱に うなされる犬夜叉はぼんやり見えた・・・ (かご・・・め?) 「・・・。ったく・・・。あんたは一体何しに来たの・・・」 「・・・オレ・・・」 呆れ顔のかごめ・・・ 「・・・こんな雪の中駐車場で立ったままで・・・。熱出して、 私に看病させるために来たの?」 「ち、違・・・っ」 「・・・。いいよ。もう・・・」 (いいよって・・・) ・・・何だか冷めた言い方・・・ コップに水を注ぐかごめ。 犬夜叉に薬を手渡す。 「それ飲んで、今晩は眠って。朝には熱下がると思うから・・・」 「かごめ!!オレの目・・・ちゃんと見ろよ・・・っ」 「・・・」 起き上がって、かごめの手を掴んで・・・ 抱きしめたいけど 熱で体が思うように動かない。 「・・・。ふぅ・・・。ホントに・・・。しょうがないわね・・・。 ほら。とにかく薬飲んで・・・?」 母親のようだ。 かごめにコップの水を飲ませてもらい、お布団に再びおねんねの犬夜叉。 「まるで親に叱られて家出したけど、熱出して 還って来た・・・子供ね。ホントにあんたは・・・」 「・・・んだよ。家出したのはかごめの方・・・だろ。ケホ」 「・・・。そうだね・・・。犬夜叉に酷いこと言ったし・・・。でも あんた、桔梗が絡むとあまりにも露骨な態度とるから・・・」 「・・・」 その部分については言葉が返せない。 「・・我が侭でだし・・・。短気だし・・・。こんな男、一生添い遂げたい 人なんて誰もいないわよねぇ」 「お前・・・。病人に向かってそこまで・・・(汗)」 「・・・。仕方ないから・・・。私が面倒みてやるか」 「面倒みてやるって・・・」 (え?それって・・・) かごめが少し悪戯っぽく微笑む。 「・・・。かごめ」 「なあに?」 「・・・あれ・・・。取り消せ」 「何を」 かごめは犬夜叉の額のタオルを冷やしなおす。 「だから・・・。オレのこともう・・・愛せないとか言ったの・・・」 「・・・そんなこと言ったっけ?」 「お、お前・・・オレがどれだけへこんだか・・・(汗)」 「・・・。嘘よ。ごめん・・・。言っちゃいけない言葉・・・。だったよね・・・」 絞ったタオルを犬夜叉の額に乗せる。 タオルは冷たいのに・・・ かごめの手は暖かい・・・ タオル越しに・・・ 優しくて・・・。 「・・・かごめ」 「なあに・・・?」 「もう・・・。離れるなよ」 「・・・うん」 犬夜叉は毛布の裾からそっと手を出してかごめを求めた。 「・・・絶対だぞ」 「うん・・・」 熱で握り返した犬夜叉の手は熱い・・・。 「・・・。絶対だからな」 「信用ないな。なんなら手と手、縛っておく?ふふ・・・。犬夜叉の 気持ちは分かったから・・・。もう眠って。手、握っててあげるから・・・」 (・・・絶対だぞ・・・。かごめ・・・) この世で一番安心できる温み。 この世で一番優しい気持ちになれる匂い・・・ この温みと匂いとどうして離れられようか。 (絶対だぞ・・・) 「・・・おやすみ。我が侭な彼氏さん・・・」 ・・・犬夜叉の寝顔・・・。 あまりにも素直で幼い・・・。 「寝顔には騙されないよ。ふふ・・・」 きっとこれから共に生きていくとしても 今みたいにケンカ、何回もするだろう。 何回も怒って謝って・・・ 仲直りしていくいんだろう・・・ そして・・・ ・・・犬夜叉の中の桔梗は永遠に消えないだろう・・・ それでも・・・ 犬夜叉の隣にいるのは・・・ いていいのは自分だと信じたい 「・・・ねぇ・・・。犬夜叉・・・。信じて・・・いいよね・・・?」 まだ入り混じる迷い、嫉妬、不安・・・ それでも・・・ 犬夜叉と共に生きるのは 生きていいと・・・ 望んでもいいと・・・ (犬夜叉・・・) 窓の外の雪は雨に変わり・・・ 二人は手を繋いだまま 眠った・・・
「・・・ん・・・」 カーテンの隙間から漏れる朝日。 目覚めるかごめ。 (朝か・・・) 犬夜叉の具合が気になり額に触れようとすると・・・ 「え」 何かひっぱられる感覚・・・。 かごめの手首と犬夜叉の手首にタオルが巻かれ繋がれていた。 ”そんなに不安なら手と手、繋いでおく?” (まさかホントにやるとは・・・(汗)) ”絶対だからな・・・” 「・・・。犬夜叉ったら・・・」 すやすやと安心しきった寝顔・・・ この寝顔が毎日見られるなら・・・ ・・・忘れられない思い出も、我が侭も みんな引き受けられる。 「・・・我が侭さん。よろしくね」 のんきな寝顔に 軽くキス・・・ ・・・朝日が 眩しいあさだった・・・
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