続 居場所を探して
〜タンポポの種〜

其の四十三 本当の幸せ
大ケンカから三日目。 犬夜叉はかごめが本当に許してくれたのか、まだちょっとビクビクしていた。 「か、かごめ。いるか?」 「なあに?」 「いや・・・」 用事もないのにかごめの部屋を訪ねてしまう。 「なあに?何の用?」 「いやその・・・。あ、なんだ、明日の朝、冷えるから 気をつけろよ」 「わざわざそれ、言いにきたの?変なの。ま、いいや。おやすみ」 「・・・あ・・・」 パタン・・・。 かごめの言動に犬夜叉は本当に敏感。 (・・・や、やっぱまだ怒って・・・) ”もう・・・犬夜叉のこと愛せない・・・” あの言葉が犬夜叉の心にグサっと見事に刺さっていた。 カチャ。 閉ったドアが開き、かごめが出てきた。 「・・・犬夜叉。私・・・。あの。一つだけお願いがあるの」 「な、何だよ」 犬夜叉はまた、”離れていよう”とかいいわれるのではないかと 心臓がバクバク・・・。 「・・・。結婚は私が仕事を見つけるまで待ってほしいの」 「え?」 「・・・。あの・・・。なんていうかね・・・。私、流れにまかせたまま 何かを決めるのはいやなの・・・。ちゃんともう一度仕事を見つけて。 きちんとしたいの」 「かごめ・・・。わかった。お前の思うとおりにしたらいい」 「ありがとう。色々我が侭いってごめんね」 「我が侭なんて・・・。お前・・・」 (別れようって言われるよりはずっとマシだ) 「犬夜叉?」 「・・・いや・・・。オレは別に構わないから。お前のこと・・・待つ・・・から・・・」 犬夜叉は少し照れくさそうに前髪をいじくる。 「・・・ありがとう。犬夜叉。私・・・。ちゃんと犬夜叉の所に行けるように・・・。 頑張るから・・・。じゃ、おやすみなさい」 「///。ああ。おやすみ・・・」 なんとなく・・・ くすぐったい。 素直になるということは。 けど・・・。 (かごめも頑張るなら・・・。オレも頑張らなきゃいけねぇ。 かごめのために) 犬夜叉は自分の部屋に戻ると 布団の下敷きになっていた本を手に取る。 『一級建築士検定問題集』 (・・・。オレも・・・。何か・・・)
犬夜叉もかごめも。 それぞれ自分の中で 新しい何かが芽生えたのを感じている。 季節も巡って。 希が1歳の誕生日を迎えようとしている。 「楓ばばあ。例の奴、できてるか?」 「ああ。仕立ての名人と言われたわしの腕を信じろ」 楓は桐箪笥の中から、着物を丁寧に出してきた。 「どうじゃ?綺麗じゃろう?」 それは、犬夜叉の母が楓に託した着物。 楓が汚れやシミをぬき、そして新しく仕立て直した。 「・・・流行の純白のドレスもいいが・・・。ふふ。ま、この着物は お前の母がお前の嫁に着て欲しいと残したものだからな」 「・・・」 「犬夜叉。ワシは結婚経験はないが・・・。老いぼれの説教と思って聴け」 犬夜叉はドスンと座布団に座る。 「誰かと人生を添い遂げる・・・。ということは生半可なことじゃない。 だがな・・・」 楓は着物に描かれた番の鶴の部分を撫でる。 「振り向いたらそこに・・・笑ってくれる誰かがいる・・・。 それに勝る幸せは無いぞ」 「・・・ああ」 「女を”守れる”男ではなく・・・。女を”支えられる””尊重”できる男になれ」 「・・・ああ」 庭先の花壇のチューリップが揺れている。 かごめが好んで植えた・・・。 ピンクのチューリップの花言葉は小さな幸せ 果たして犬夜叉とかごめの幸せはと・・・? 「・・・え。仕事、決まったのか?」 「うん」 かごめの声が弾んでいる。 食堂で赤いお鍋のカレーをご飯に善そうかごめ。 「私立の保育所・・・。認可されてないところなんだけどね・・・。 そこじゃあ、色々な事情の子供を受け入れて預かっているの。遣り甲斐も あると思って・・・」 「そうか」 「うん」 ほかほかのカレー。 湯気が食欲を誘う。 「犬夜叉は?何か話があるって言ってたでしょ?」 「あ、ああ・・・。今週の日曜・・・。明けといて欲しい」 「うん。いいけど・・・」 いつになく真剣な犬夜叉の態度にかごめは首を傾げる。 (何かまたあったのかな) 嫌な予感だけは妙に働く。 (やめよ・・・。結局また繰り返しだものね・・・) 変に暗く勘ぐって 想像をめぐらせて。 しまいには犬夜叉自身への憎悪にもなってしまう。 (・・・犬夜叉の中の”桔梗”を受け入れることが・・・私の運命なら・・・ 越えなきゃいけない。私自身が) 「あ、こら、犬夜叉!たまねぎ残すんじゃないの!」 「うるせー!嫌いなもんは嫌いだ」 「だったら食べなくてよろしい!」 皿ごと犬夜叉からカレーを没収する。 犬夜叉はへそをまげてお菓子を食べだす。 「犬夜叉〜!!」 こんな風にきっと・・・ 犬夜叉と毎日を積み重ねていくのかな。 例え、犬夜叉と桔梗が完全に会わなくなったとしても ”存在”は消えない。 (・・・桔梗という影がちらつくこともあるかもしれない) それも犬夜叉積み重ねる”日常”の一部に 自然になっていくのかな・・・。 (・・・頑張らなくちゃ) 笑顔を絶やしていけないと自分に言い聞かせるかごめ。 幸せになるはずなのに 何かが足りないと感じるのは何故だろう・・・ 「犬夜叉!今日の夕飯はお預けよ!」 いつもと変わらない夜なのに 寂しいのは何故だろう・・・ 微かに感じる虚無感をかごめは笑顔で打ち消そうとしていた・・・。
そして約束の日曜日。 「だれもいない・・・?」 かごめがちょっと洗濯物を干している間に 家の中には誰の姿もない。 「・・・。どこいっちゃったんだろ。みんな・・・」 かごめが食堂をキョロキョロしていると食堂の壁のコルクボードに 目が留まった。 『かごめちゃんへ。幸せが待ってるから、犬夜叉と初めて出逢った 神社までおいで。 珊瑚より』 「・・・?どういう意味・・・?」 ともかくかごめは日暮神社に向かうことに・・・ エプロンをしたまま自転車を走らすかごめ。 (ついでだから、用事済んだらお買い物して帰ろうっと) キ・・・。 境内までの長い階段の前で自転車を止める。 「・・・。変わってないな。ここは・・・」 犬夜叉と初めて出逢ったあの雨の日。 (・・・まさか恋愛になるなんて思ってなかったけど・・・) 変わらない。この場所・・・。 雨のあの日。何かに導かれるようにこの長い階段を登った・・・。 (そして・・・。御神木が・・・) 太く大きく・・・ どっしりとして空高く葉を広げて・・・ この袂で(たもと)・・・ 「・・・かごめちゃん」 「さ、珊瑚ちゃん・・・?」 希を抱いた珊瑚。 「かごめちゃん、こっちこっち」 珊瑚はかごめを手招きする。 境内の方に・・・ 「一体、何なの?」 「いーから・・・」 境内の通り過ぎ、神社の中へと珊瑚はかごめを引き入れる。 広い畳。奥は仏像が祭られている。 そして・・・。 (え・・・) あの犬夜叉の母が遺した着物が、衣文掛けにかけられていた・・・ 真っ白な生地に二匹の鶴が描かれ 鶴を包むように牡丹の花びらが舞う・・・ 「ワシが仕立て直したんじゃ」 「楓おばあちゃん・・・?」 得意げに着物を撫でる楓。 「色々考えたんだけど・・・。やっぱり”花嫁”の衣装はこれがいいと思ったんだ。 ね、かごめのお母さん」 (えっ) 「かごめ!」 「姉ちゃん!」 「お、お母さん!??」 着物姿のかごめの母と学生服を着た草太。 「ど、どうして・・・」 「どうしてって娘の花嫁姿見にきたのよ」 「お母さん・・・」 珊瑚はかごめの手をひいた。 「ごめん、かごめちゃん、あんまり時間ないんだ!さーさ。お色直し!」 「え・・・あの・・・」 かごめは有無を言わさず、着物を着せられ、髪を束ねられる。 「きゃあ♪きれいー!」 髪は後ろで丁寧に丸くまとめられ、白の牡丹の髪飾りをつけた。 「花嫁の準備はよし!弥勒様、犬夜叉の準備、できた?」 「ええ。立派な”新郎”ですよ。ほら。犬夜叉。出てきなさい!」 障子戸から、弥勒が黒い裾を引っ張る 「ええい。この後に及んで恥ずかしがってる場合か!!」 ぐいっと引っ張ると、 紋付袴に身を包んだ犬夜叉がご登場。 「ふぅ。やっとお披露目できました。着物着せるのに暴れる暴れる・・・」 弥勒の言葉も他所に一同犬夜叉の姿に注目・・・。 「・・・ぷ・・・くふふふははは・・・!」 (なっ!!) 一同、一斉に吹き出して・・。 「・・・な、な、なんだ!!」 「だーってさ。なーんかねぇ。着物に”着られてる”って感じ」 「そうじゃのう。オラの七五三の方がカッコいいぞ?のう、かごめ」 かなり散々な感想ばかり。 「ふふ。でも犬夜叉。似合ってるよ・・・。私のために来てくれたでしょ・・・?」 「・・・ま、まぁな・・・(照)」 「今度は・・・。置いていけぼりにはしないでね?私の新郎さん」 かごめは手を差し出した。 「・・・わかってる・・・」 差し出された手をしっかり握り締める・・・。 「さーさ。二人とも・・・!三々九度始るよ!」 いつのまにやら巫女服につつまれた楓が、酌と杯を持って神主に・・・ 「・・・気味が悪い巫女だぜ。酒不味くねぇのか」 「なんじゃ。この態度の悪い新郎は。なんなら変わりにワシが花嫁になろうか」 お神酒をくいっと飲んで口移ししようとする楓 「わーーー!!やめろーーーー!!」 「あ、ちょっと犬夜叉!」 ビリリリ!! 袴を踏んづけてまっぷたつに破れる・・・。 「わーー!!犬夜叉それ、レンタルなんだぞ!!どーするんだー!」 ビリッ! 弥勒が犬夜叉の着物をつかんで今度は袖が・・・ 「な、何すんだーーー!!30万ーーー!!」 「知るかーーー!!」 社の前でつかみあい、楓は三々九度のお神酒を飲みあい(笑) 「ったく・・・。どうしてこうなるんだろ・・・。せっかく かごめちゃんのための式なのに・・・」 「いいよ。こっちの方が・・・。私達らしいお式よ」 「え?」 「・・・みんながお互いを思いあって・・・。それが伝わってくる・・・。ね?そう思わない・・・?」 「そうだね・・・。ふふ・・・。私達らしいかもね・・・。ね、希」 「あぶぶ」 花のおしゃぶりをくわえた希。 小さな笑顔がにぎやかな(?)家族達を見守る。 かごめは優しい温かい家族達、仲間の思いやりを感じながら思う。 幸せは”なる”ものじゃない。 (幸せは・・・。自分で作ること・・・。見つけていくことなんだ・・・) 恋でも 愛でも 親でも 子でも・・・。 微かに感じていた虚無感。 (幸せは・・・。すぐそばにある。すぐそばに・・・あったんだ) 犬夜叉達がかごめのためにこしらえた犬夜叉の母の着物。 着物の柄は2匹の鶴。鶴は一生番で、2人で力をあわせて生きていく。 だけどかごめと犬夜叉は2人だけじゃない。 それから1週間後。 区役所の戸籍課の窓口。 捺印を押された婚姻届を職員が受け取る。 「ご結婚おめでとうございます。確かに受理いたしました」 職員は小さな鉢植えをくれた。 ピンクのチューリップ、一鉢。 「当区役所ではご婚姻されたご夫妻に祝福の心を込めて、 お渡ししております」 「ありがとうございます」 ピンクのチューリップの花言葉。 小さな幸せ。幸せを運ぶ・・・。 「・・・綺麗・・・。やっぱり私・・・この花好きだな・・・」 花びらにそっと触れる・・・ 「おめでとう。お二人さん!」 区役所から出てくると珊瑚と弥勒たちがかごめたちを待っていてくれた。 「・・・犬夜叉。袴代、今度ちゃーんと返せよな」 「うるせー!利子つけて返してやらぁ!」 「ちょっと!今、一番幸せな時なのにケンカすんじゃないの!男連中!」 弥勒のお尻に珊瑚の蹴りが入る。 「・・・イタタ・・・。犬夜叉。おなごは結婚したら 変わるものだぞ・・・。覚悟しておけ」 「・・・何?もう一発いれようか?」 珊瑚は腕をぽきぽき鳴らして・・・ 犬夜叉の背中にささっと隠れる弥勒。 「・・・犬夜叉。本当に女子は変わる・・・(涙)」 (それはお前が日頃の行いが悪いからだろ(汗)) 「さーさ。助平男もみんな!帰るよ!今日はお祝いだからね!特上のお肉 用意してあるからさ!」 犬夜叉の背中に隠れた弥勒の首根っこつかんで引っ張っていく珊瑚。 (あれが夫婦の上下関係図ね(汗)) 楽しい仲間達・・・。 賑やかなかごめと犬夜叉の門出は仲間達の思いやりに包まれ溢れている。 「犬夜叉・・・」 「ん・・・?」 「私達幸せよね・・・。優しい人たちに囲まれて・・・」 「そうだな・・・」 夕焼けの橋。 かごめと犬夜叉の手は自然につながれていた・・・ ロマンチックに溢れた門出じゃなくても みんなに祝福された。 二人はそれを身にしみて感じた・・・。