続・居場所を探して読みきり編 〜祈り〜
前編
かごめの部屋・・・。 薄暗く・・・ 今晩は犬夜叉と一緒に出産の呼吸法をするはずだったのに 犬夜叉の姿はない・・・。 一番・・・。行ってほしくない場所に 今はいる・・・ 遠い海の向こう。 桔梗という名の 女性の元へ・・・ 「・・・ごめんね・・・。でもね・・・。パパの大切な人が大変なことになって・・・だから・・・ ママが”行きなさい”って言ったの・・・。パパが悪いんじゃないのよ・・・」 大きなお腹に話しかけるかごめ・・・ かごめの声に応えるようにお腹の命が動く・・・。 「・・・そう・・・わかってくれたのね・・・。仕方のないことなの・・・。 でも・・・。貴方は何も心配することないからね・・・。ないからね・・・」 お腹の中の命を 優しく撫でるかごめ・・・ だけど・・・ 薄暗い部屋・・・ 分厚い雲に覆われた夜空が・・・ 寂しさを倍増させる・・・ ”かごめ・・・。すまねぇ・・・。絶対帰って来るから・・・” (・・・。犬夜叉・・・) 微かに感じるお腹の痛み・・・ たった一人 不安を抱えながらも かごめは・・・ お腹を守るように両手で包んでいた ひとりぼっちの部屋で・・・
「ヒッヒフー・・・」 出産時の呼吸法のビデオの前で。お腹の大きなかごめが練習している。 「ちょっと。犬夜叉も一緒にやってよ」 「う、うるせーな。お、男がそんな恥ずかしいこと・・・」 犬夜叉は出産本を読んでるだけで、そっぽをむいております。 「恥ずかしい!??一体誰の子供が産まれて来ると思ってんの! 女性を馬鹿にする発言は許さないわよ!!」 「・・・(怯)」 かごめの迫力に負け、犬夜叉も一緒に。 「ひーひーフゥー」 恥ずかしそうにお腹に手を当ててご一緒に呼吸法を実施 「ひーひー、じゃなくて”ヒッヒッ”だよ!もう!」 「うるせぇな。似たようなもんだろ」 ビデオを見ながら、夫婦で勉強。 ケンカしながらですが、これも共同作業。 楽しいひとときです。 「ふぅ。しかし子供産むってのは大変なこったな」 「そうよ。でも大変だけど喜びも凄い・・・。なんてったって 自分の分身、好きな人の分身を生むんだから・・・」 (好きな人・・・(喜)) そのフレーズだけ、犬夜叉の耳には届いてます(笑) 「・・・はぁ・・・。なんか疲れたな・・・」 「かごめ。あんま無理すんな」 犬夜叉はビデオのスイッチを切り、かごめに肩をかして ベットに寝かせる。 表は犬夜叉はぶっきらぼうだけど・・・ 子供ができてから犬夜叉の優しさが増えたような気がする。 「なんかかごめ・・・。顔色わるくねぇか」 「大丈夫。ちょっと疲れてるだけだから・・・」 「・・・とにかく休め・・・。寝るまで側にいるから」 (犬夜叉・・・) 辛いとき・・・。甘えられる人がいる幸せを感じるかごめ。 「・・・じゃあ・・・。犬夜叉疲れを癒してくれる・・・?」 「え?」 かごめはすっと目を閉じた (///。かごめの奴・・・) かごめからの”おねだり” 犬夜叉は恥ずかしそうに・・・ でも嬉しそうに・・・ かごめの頬に手を添えて・・・ ベットのかごめにキス・・・ 「ン・・」 不思議なもので・・・。かごめのお腹の微かな違和感が 消える・・・ 「・・・どんな薬より・・・。効き目あるね・・・」 「///。そ、そうかよ」 「うん・・・」 いつもはかごめに甘えている自分が かごめに甘えられている・・・ そんな自分が どこか嬉しい・・・ 「・・・んじゃもう一回・・・したら治るんじゃねぇか・・・?(チラ見)」 「うん。お願いします・・・」 ギシ・・・っ ベットの軋む音・・・。 犬夜叉はかごめのお腹を摩りながら 二度目の優しいキスをした・・・ 幸せな夜。 お互いの気持ちが・・・ 確かに通じ合っている気がした。 気がしてた・・・。 してた・・・ 筈なのに・・・ 筈だったのに・・・。 翌日。 「おい。かごめ。お前、本当に大丈夫なのか?腹」 「犬夜叉!あんたね、お箸でお腹差さないでよ」 犬夜叉、食堂で納豆ご飯を食べています。 「なんだよ。人が心配してやってンのに・・・」 「大丈夫。それより。犬夜叉。あんたまたご飯粒くっつけて・・・」 ひょいっと犬夜叉の口元のご飯粒を 食べるかごめ。 「///。お、お前な・・・」 「なによ。そんなに赤くなるほどのこと?」 「べ、別に・・・。と、とにかく体、無理だけはするなよ」 犬夜叉とかごめの新婚&もうすぐパパママになる二人の横で 済ました顔で味噌汁をすする楓。 (ふー・・・。こりゃ子供が生まれたら騒がしくさらに いちゃいちゃするんじゃろうな。はー。ワシも恋がしたいのう) ワンワン!【わたしもよ!楓ばあちゃん!】 お庭の外のごまちゃんも同意権らしい(笑) 「テレビでも見るかのう」 P。 楓がリモコンでテレビをつけた。 ワイドショーが相も変わらず芸能人のスキャンダルで 盛り上がっている。 (くだらんのう・・・) たくあんをポリポリ食べながらチャンネルをいじっていた。 そのとき・・・ 「えー・・・。只今速報が入りました。アメリカのミネソタ州〇〇で 列車同士が正面衝突し・・・多数の死傷者が出ている模様ですなお・・・ その中に数名の邦人がいる模様・・・ えー。行方不明者の邦人の氏名が分かりました。読み上げます。タナカイチロウさん・・・」 アナウンサーが原稿を読み上げる。 犬夜叉とかごめはワイドショーをチラリチラリと見ながらも 朝食を取っていた だが・・・ 「ツキシマキキョウさん・・・ツキシマ」 犬夜叉の箸が・・・ カタン・・・と 床に落ちた・・・ 「えー・・・。ツキシマキキョウさん、あのバイオニストの月島桔梗さん と思われます。コンサート会場へ向かう途中に事故に遭遇したとの情報が 入っております。えそして次の方は・・・」 「い・・・犬夜叉・・・」 恐る恐るかごめは犬夜叉の様子を伺う・・・ 明らかに・・・ 顔が引きつって・・・ 目が泳いでる・・・ ”自分には絶対見せない犬夜叉の顔” になってる・・・。 P・・・。 だが・・・犬夜叉はテレビの電源を消した・・・ 「・・・犬夜叉・・・?どうして消すの・・・?」 「・・・。別に・・・。オレにはもう・・・。関係のないこと・・・だろ・・・」 「・・・関係ない?だって桔梗が・・・」 「うるせえ!!!悪い、ちょっと 風にあたってくる・・・」 犬夜叉は動揺を隠すように 食堂から出て行った・・・ (犬夜叉・・・) 「・・・あのあほが・・・。全然忘れとらんじゃないか・・・」 楓が呆れ顔で言う・・・ 犬夜叉の気持ちは 本人よりかごめの方がわかっている。 自分への気遣いながらも 犬夜叉の心はもう・・・ (アメリカに飛んでるのよ・・・。桔梗の安否が知りたくて・・・) 「楓おばあちゃん。後片付けちょっとお願いできる?」 エプロンを脱いで楓に手渡すかごめ。 「かごめ・・・。無理するな」 「うん・・・。ありがと。楓おばあちゃん」 大きなお腹を抱えて かごめは二階に上がっていく・・・ (・・・本当に・・・。無理はするな・・・) 心配そうにかごめを見上げる楓だった。 「犬夜叉・・・」 暗い部屋。 電気もつけず犬夜叉はただ、背中を丸めてうな垂れていた・・・ 電気をつけ、犬夜叉の向かいに座るかごめ。 「・・・犬夜叉・・・」 「・・・」 「・・・。犬夜叉。アメリカに行ってきなさい」 「・・・!?」 突然のかごめの言葉に・・・犬夜叉は驚き、顔を上げた。 「な・・・何言い出すんだ・・・」 「本気よ」 「身重のお前を置いていけるわけがないだろう!!」 かごめは犬夜叉を正座してまっすぐ射抜いた。 「・・・建前はいい。犬夜叉の心はもう・・・アメリカに行っちゃってるでしょ・・・?」 「ばっ・・・そんなこと・・・あるわけ・・・」 犬夜叉はかごめから視線を逸らす。 「目は正直なんだから・・・」 「・・・」 「・・・。犬夜叉。今は建前なんていってる場合じゃないわ。 生死が掛かっている話よ・・・。私もこのままじゃ心配で仕方ないもの」 「そ、それなら・・・。大使館でも、樹にでも連絡すればいい。 身重のお前を一人きりになんてできねぇよッ!」 犬夜叉はかごめの肩をしっかりつかんだが・・・ かごめはその手を払った・・・ 「考えちゃいけないけど”万が一”があったらどうするの・・・? 一生・・・。犬夜叉は後悔することになる・・・」 「かごめ・・・」 「大丈夫・・・。桔梗はきっと生きているわ・・・。だからね・・・?」 「かごめ・・・」 犬夜叉はかごめを抱きしめた・・・ 「・・・すまねぇ・・・。かごめ・・・」 「・・・犬夜叉の”すまねぇ”。久しぶりに聞いたな・・。ふふ」 「・・・絶対帰って来るから・・・。かごめ・・・」 「・・・うん・・・」 ”万が一” なんてことは考えたくもない それは それは・・・ 犬夜叉が永遠に帰らないことを意味する・・・ 翌日・・・ 犬夜叉はパスポートを取った。 玄関でバックを手渡すかごめ。 「犬夜叉・・・。何かわかったらすぐ連絡してね。私も 珊瑚ちゃんたちも連絡待ってるから・・・」 「かごめ・・・」 「ほら!!そんな辛気臭い顔しないの!大丈夫!母親は強しっていうでしょ」 「かごめ・・・」 かごめの優しさが痛い。 日本にいても桔梗の安否のことで頭が一杯になる 心を自分より知っているかごめが・・・ 「・・・。きっと・・・生きてる・・・。桔梗は生きている・・・。 私も祈ってるから・・・?ね・・・?」 (かごめ・・・) 犬夜叉はかごめを思い切り抱きしめる・・・ 「・・・何があっても帰って来るから・・・。だから・・・待っててくれ・・・」 「・・・うん・・・」 犬夜叉は静かにかごめから離れ玄関を後にする・・・ 「あ、犬夜叉。待って・・・!」 かごめはサンダルをはいて犬夜叉を追いかけた。 そして犬夜叉の首に何かをかけた。 「かごめ・・・?」 「お守りのペンダント・・・。きっとそれが 犬夜叉と桔梗を守ってくれる・・・」 翡翠の勾玉・・・ とても優しいグリーンをしている・・・ 「かごめ・・・」 「さ・・・。早く行ってきなさい・・・!私は日本で祈ってるから・・・」 「かごめ・・・」 犬夜叉は勾玉を握り締めて・・・ かごめをもう一度抱きしめて・・・ 日本を発ったのだった・・・ ゴー・・・ 犬夜叉を乗せた飛行機をかごめが頭上を飛んでいく・・・ (犬夜叉・・・) ”絶対帰って来るから・・・” 犬夜叉の言葉・・・ かごめは祈る・・・ (神様・・・。お願い・・・。桔梗を助けてください・・・) カランカラン。 日暮神社の鈴を鳴らす・・・ 今、自分が出来ることは 祈ることしかない・・・ (桔梗のために・・・。犬夜叉のために・・・ううん・・・ そして) 生まれてくる子のために (神様・・・。お願い・・・。最悪な現実だけは・・・ 与えないで・・・。もう・・・みんな苦しみました・・・ だから御願いです・・・) カランカラン。 何度も何度も願う。 (・・・お願い・・・。神様・・・) おなかの微かな痛みを我慢しながら かごめは只管祈る・・・ 雨が・・・ 雪に変わって寒くなっても 何度も何度も・・・ 祈った・・・