犬夜叉がアメリカにたってから一日が経った・・・
かごめや珊瑚、弥勒達は一日中、電話のベルがいつ鳴るか、電話の側で待っていた
だが一向になる気配がなく・・・
「あれ・・・?かごめちゃんは?」
かごめの姿がないことに気づく珊瑚。
「もしかして・・・。またかごめは日暮神社に・・・」
「お参りって・・・。外はこんなに雪降っているのに・・・」
珊瑚は傘とマフラーを持ってすぐさま、日暮神社に走った。
(か、かごめちゃん・・・!)
傘も差さず、素足でかごめは大きなおなかのまま何度も何度も
賽銭箱の前を行ったりきたりして
お百度参り・・・
「かごめちゃん・・・!何やってるの!!」
「珊瑚ちゃん・・・」
珊瑚はかごめにマフラーとコートをかけた。
「嗚呼・・・手も足もこんなに冷えて・・・。かごめちゃん、
もうやめて。お腹の子に何かあったらどうするの」
「ごめんね・・・。でも・・・私いてもたってもいられなくて・・・」
珊瑚はかごめの肩と頭に積もった雪を払う・・・
「・・・私に出来ることっていったら・・・この位だから・・・」
「かごめちゃん・・・」
かごめの・・・冷え切った手足が・・・切なく・・・痛く珊瑚に伝わる・・・
「かごめちゃん・・・。どうしてそこまで・・・そこまで・・・
許せるの・・・?」
「・・・どうしてかな・・・。自分でもわからない・・・」
「かごめちゃん・・・」
珊瑚はかごめを抱きしめる・・・
もう臨月・・・
いつ、何がおきてもおかしくない時期で
色々なことが不安なはずなのに・・・
「かごめちゃん・・・。かごめちゃんの気持ちはわかったから・・・。
家に帰ろう・・・?かごめちゃんとお腹の子になにかあったら
私・・・。私・・・」
「珊瑚ちゃん・・・」
「かごめちゃんの健気さが・・・痛いよ・・・」
堪らず珊瑚の方が泣く・・・
「珊瑚ちゃん・・・。ごめんね・・・。心配掛けちゃって・・・。
ホントにホントにごめんね・・・。それから・・・ありがとうね・・・」
親友の優しさが・・・
温い・・・
かごめの瞳から自然と涙が流れた・・・
「・・・かごめちゃん・・・」
「・・・痛・・・っ」
「・・・!?か、かごめちゃん!??」
雪の上で・・・かごめがお腹を押さえて蹲る。
「痛・・・」
「え!?嘘。じ、陣痛!??で、電話・・・!」
珊瑚は携帯で救急車を呼ぶ・・・
(・・・犬夜叉・・・桔梗・・・どうか・・・どうか無事で・・・)
激痛に耐えながら・・・
かごめは犬夜叉と桔梗の無事を
祈った・・・
※
(かごめ・・・!?)
アメリカの某州。
樹と共に桔梗が泊まっていたというホテルに犬夜叉はいた。
「犬夜叉さん?どうかしましたか?」
「いや・・・なんでも・・・」
かごめの声が聞こえた気がしたが・・・
「それより樹。桔梗と桔田の行方はまだわからねぇのか!」
「警察の方に何度も問い合わせをいれてるんですが・・・」
ほてるのフロントで苦悩する犬夜叉と樹・・・
地元の警察に何度も足を運んだのだが、まだ、捜索中としか
返って来ず待機するしかなかった。
「くそ・・・!!オレたちはなにもできねぇのか!!」
「犬夜叉さん・・・」
「・・・頼む・・・。生きていてくれ・・・」
ソファで手を合わせる犬夜叉・・・
首にかけられた勾玉を握り締めて・・・
「ああ、もうじっとしてられねぇ!!オレが探しに行く!!」
「犬夜叉さん!!」
犬夜叉がもう我慢できず、ホテルを出ようとしたとき・・・
ホテルの自動ドアが開いた。
「き・・・き・・・桔梗・・・!!」
右手に包帯をまいた桔梗と桔田の姿が・・・
そこに・・・
「桔梗!!!」
犬夜叉は桔梗に駆け寄る・・・
「い・・・犬夜叉・・・。どうしてここに・・・」
「お前が・・・事故で行方不明って聞いて・・・。嗚呼・・・。
よかった・・・。お前・・・。生きてるんだな・・・」
「犬夜叉・・・。それでわざわざ・・・」
「・・・よかった・・・。本当によかった・・・っ」
桔梗の肩に触れて・・・
無事を確認する・・・
犬夜叉を安堵感が包む・・・
「犬夜叉・・・すまん・・・。心配を掛けて・・・」
「いや・・・いいんだ。無事なら・・・。お前が無事ならそれで
オレはいいんだ・・・」
犬夜叉の優しい言葉が・・・
桔梗の心に染みていく・・・
「・・・病院で手当てをしていたんだが・・・。なかなか
こちらに戻れなくてな・・・」
「・・・桔梗・・・。怪我はそれだけなんだな・・・?」
「ああ・・・。たいしたことはない・・・」
「・・・そうか・・・」
2年ぶりの犬夜叉との再会・・・
もうあの熱い想いはないけれど・・・
犬夜叉が自分のために海をわたって着てくれたことが
桔梗は嬉しかった・・・
「犬夜叉さん。再会の余韻を邪魔しますが、日本の皆さんに連絡
した方がいいんじゃないんですか?」
「あ、そうだな・・・。桔梗。すまねぇ。お前は部屋で休んでろ・・・
ゆっくり休むんだぞ・・・?」
「あ、ああ・・・」
犬夜叉はホテルのフロントの電話に走る・・・
(犬夜叉・・・)
犬夜叉の背中が・・・遠く感じる桔梗・・・
(・・・そうだな・・・お前はもう・・・)
犬夜叉の後姿が
遠かった・・・
犬夜叉が電話をかける。
食堂の電話のベルが響く・・・
トゥルルルル・・・
(くそ・・・。なんで誰もでねぇんだよ・・・)
トゥルルルル・・・
幾ら待っても誰も出ない・・・
(・・・なんか・・・。あったのか・・・!?)
”犬夜叉・・・”
嫌な不安が過ぎる・・・
「犬夜叉さん!ちょっと来て下さい・・・!お話が・・・」
「わ、わかったよ・・・」
不安を感じながらも犬夜叉は電話を切った・・・
”犬夜叉・・・”
かごめの声・・・
犬夜叉の耳に残って響く・・・
その頃。
日本では・・・
「かごめちゃん!かごめちゃん!!」
分娩室かごめが担架に乗せられ、運ばれていく。
珊瑚と弥勒、楓達が深刻な面持ちでついていく。
医者の話によると早産の危険があるという。
お腹の中の赤ちゃんがお腹の中で無理な体勢で
出てこようとしているらしく、かなり深刻な状況で・・・
「・・・あの・・・!!私、立ち会ってもいいですか!?」
「・・・もうしわけありません。かなり危険な出産になりそうですので
立会いはご遠慮してください」
「お願いします!かごめちゃんを一人にしたくないんです!!」
看護婦にしがみついて頼み込む珊瑚。
「・・・んごちゃ・・・。さんごちゃん・・・」
酸素マスクをはずしてかごめは珊瑚に呟く・・・
「・・・私は・・・大丈夫・・・。がんばる・・・から・・・」
「かごめちゃん・・・」
かごめの手を握る珊瑚・・・
「それから・・・犬夜叉に・・・。れんらく・・・しな・・いで゙・・・」
「え!?」
「余計な・・・心配・・・かけたく・・・ないから・・・」
「かごめちゃん・・・」
真っ青な顔のかごめ・・・
珊瑚に精一杯の笑顔を見せる・・・
そしてかごめは分娩室に入って・・・
ランプがついた。
(かごめちゃん・・・!!)
そしてかごめの長い・・・長い
出産が始った・・・
1時間・・・2時間・・・
幾ら時間がたっても分娩室のランプは消えない・・・
「ううううーーーー!!!」
かごめの悲痛な声が響いている。
必死に産もうとしている声・・・
(かごめちゃん・・・!がんばって・・・!!)
珊瑚も思わず出産の時の痛みが蘇り
分娩室のドアの前で拳を握る。
(かんばって・・・!!かんばって・・・!!)
「ううううーーーー!!くぅぅうううーーー!!!」
かごめの踏ん張る声・・・
珊瑚と弥勒は長いすに座り
かごめと一緒に力む・・・
(かごめちゃん!!かごめちゃん・・・!!!)
だが・・・分娩室に入って6時間。
かごめの声も聞こえなくなり・・・
過ぎた頃からさっきから看護婦がバタバタと何度も出入り
して嫌な空気が流れ出す・・・。
(ど、どうしたんだろう・・・。何かあったんじゃ・・・)
「あ、あの・・・っ。看護婦さん、かごめちゃんは・・・!?」
「・・・。かなりの難産になるかもしれません。お腹の中の赤ちゃんが
大きすぎて産道が通りにくくなっているんです」
「え・・・。あ、あのそれって母子共に危険ってことですか・・・!?」
「母子共に無事に助かるよう・・・全力を尽くします・・・」
「なっ・・・」
看護婦の一瞬浮かべた曇った表情・・・
(かごめちゃん・・・!!)
ピッピッピ・・・
分娩室の中のかごめ・・・
あまりの痛みに意識が朦朧とするかごめ・・・
看護婦が汗をふいてくれる・・・
「・・・頑張って・・・!」
だが看護婦の声も聞こえず・・・
激しい痛みで吐き気さえしてきて・・・
(犬夜叉・・・。桔梗に・・・会えた・・・かな・・・)
ライトが・・・
ぼやけてきた・・・
一人・・・
隣に・・・
犬夜叉はいない・・・
「い・・・やしゃ・・・」
「え・・・?なに・・・?」
小声で息絶え絶えに呟くかごめの声を看護婦は耳を当てて
聞きとろうとする・・・
「い・・・やしゃ・・・。ききょ・・・。ぶじで・・・」
一言・・・
そう呟いて・・・
かごめは・・・
意識を失った・・・
「・・・!先生!!血圧が・・・血圧が・・・!!」
(犬夜叉・・・)
「・・・か、かごめ・・・!?」
樹たちとレストランで食事をしていた犬夜叉・・・
立ち上がり辺りを見回す・・・
「犬夜叉さん・・・?」
「いや・・・。なんでもない・・・」
嫌な予感が消えない・・・
かごめの声が・・・
呼ぶ声が・・・
その時。
レストランのボーイが電話の子機を持って
テーブルまできた。
樹が出ると相手は珊瑚で・・・
「・・・!?犬夜叉さん・・・。かごめさんが・・・」
「・・・!?」
子機に出ると珊瑚の泣き声が耳に入ってきた・・・
「珊瑚・・・!珊瑚か!なんか・・・かごめになにかあったのか・・・!」
「・・・かごめちゃんが・・・かごめちゃんが・・・」
「かごめがどうかしたのかよ!!」
「かごめちゃんが・・・陣痛始ったんだけど・・・。
なかなか生まれなくて・・・意識がなくなって・・・」
聞いた事のない珊瑚の混乱する声に・・・
犬夜叉の不安はさらに膨らむ・・・
「かごめちゃん・・・すごく危険な状態なんだ・・・。犬夜叉、
早く帰ってきて・・・」
「珊瑚・・・」
「・・・早く帰ってきて・・・!!早く・・・」
プツ・・・ッ
「珊瑚・・・!?珊瑚!!おい珊瑚・・・!!」
突然切られた・・・
(かごめ・・・!!)
一人・・・
一人きりで
かごめは・・・
かごめは・・・
”犬夜叉・・・大丈夫だからね・・・”
一人きりで
一人きりで・・・
「犬夜叉さん!!」
バタン!!
犬夜叉はホテルを飛び出した
激しい雨が降る中・・・
犬夜叉は道路に飛び出そうとする・・・
「犬夜叉さん!!危ない」
樹が犬夜叉を引き止める
「離せ・・・ッ!!帰るンダァ!!!」
”犬夜叉・・・”
かごめの声が
耳の奥で響いて・・・
「犬夜叉さん!!落ち着け!!」
バキ・・・っ
混乱する犬夜叉に一発いれる・・・
「帰る・・・。今すぐ帰る・・・。かごめが・・・。かごめが・・・っ」
「今すぐ航空会社に連絡してみましょう・・・。だから落ち着いて・・・」
「かごめ・・・。かごめ・・・」
雨に打たれる犬夜叉・・・
”犬夜叉と桔梗を守ってくれますように・・・”
かごめがくれた勾玉・・・
握り締める犬夜叉・・・
打たれる雨が・・・
ただ犬夜叉の体を濡らす・・・
同じ頃・・・
「かごめちゃん!!目、開けて!!かごめちゃん!!」
かごめのベットの横で珊瑚がかごめの名前を呼ぶ・・・
「かごめちゃん!!目を開けて!!」
パリンッ!!
「!!」
聞こえるはずのない珊瑚の悲痛な声が犬夜叉耳の奥で響いた瞬間・・・
勾玉が真っ二つに割れた・・・
不吉に
真っ二つに・・・
「かごめ・・・!!かごめーー!!」
空から降り突き刺す雨・・・
犬夜叉の叫び声は・・・
届かなかった・・・
翌日。朝一の便で日本へ戻った犬夜叉・・・
着くや否やかごめが運ばれた病院へ突っ走る・・・
(かごめ!かごめ!かごめ・・・!!)
静かな病院の廊下を犬夜叉は走る・・・
(かごめ!かごめ!かごめ・・・!!)
手には・・・割れた勾玉を握り締めて・・・
「かごめ!!!」
ガラガラ・・・
かごめの病室のドアを開けた・・・
(な・・・っ)
犬夜叉の手から・・・
勾玉の破片が落ちる・・・
「か・・・か、か・・・」
犬夜叉の瞳に入ってきたのは・・・
白い布が顔にかぶせられている・・・
ベットに横たわる誰かだった・・・