いのち。
心臓がいっこ、体の真ん中にあって。
心臓だけじゃない。体の中の部品が全部一生懸命動いて、働いて
いのちが生きてる。
生きてる。
毎日。毎日。
意識してなくても
生きてる。
この世でたった一つの
命が・・・。
※
フンギャアア!!
「あー。満ー。泣き止んでー!犬夜叉!おむつ!」
「お、おうっ!」
朝から、犬夜叉とかごめの長男・満君生後3ヶ月が元気に泣いております。
犬夜叉パパは、紙オムツをかごめに手渡す。
「はい。綺麗になりました!」
流石、かごめ母さん手馴れた手つきでオムツを交換。
一方、犬夜叉パパはただ、感心して正座しております。
「犬夜叉・・・。あんたも上手に交換できるようになってよ」
「お、おう。ま、そのうちにな」
と言って、犬夜叉パパ、ぷいっと知らん顔。
「もー。それじゃあ犬夜叉。満寝かせないと。ベビーベットに運んでくれる?」
「おう」
犬夜叉は、ちいさくて壊れそうな満をベビーベットまで運び
寝かせた・・・
すやすや小さな寝息をたてる我が子を・・・
二人はぽちゃぽちゃのほっぺにふれて・・・
幸せなあったかい気持ちが・・・
二人を包む・・・
「・・・なーんか・・・。幸せだよね・・・」
「・・・。ガキの寝顔見ることが・・・そんなに幸せなのか?」
「うん・・・。夫婦でこうして一緒に過ごせて・・・。そして
子供の寝顔を見つめられるこの時間・・・。3人一緒・・・」
当たり前だけど
当たり前じゃない。
もしかしたら無かったかもしれない。
犬夜叉と出会わなかったかもしれない。
・・・他の女性が犬夜叉の隣に居たかもしれない・・・
(・・・奇蹟かもしれない・・・)
過ごせなかったこのぬくもりに満ちた時間・・・
「・・・おい・・・。な、何ないてんだよ」
かごめの頬を一筋、涙が流れる・・・
「ご、ごめん・・・。な、なんか・・・」
「ったく・・・。泣きもろくなったんじゃねぇか」
犬夜叉はティッシュでかごめの涙を拭った。
「ありがと・・・」
「べ、別に・・・誤ること・・・ねぇ」
かごめの涙・・・
何度も見たけれど・・・
やっぱり澄んで綺麗だ・・・
「・・・。犬夜叉・・・。私たち・・・。ずっと一緒・・・だよね・・・?」
「あ、当たり前だろ?何言ってんだ」
「ごめん・・・。幸せすぎて・・・なんか恐いような・・・嬉しいような・・・。
気持ちが込み上げてきて・・・ごめん・・・」
やっとここまできた。
切なかったことも
別れを決意したことも・・・
色々あったけれど・・・
それらが思い出されて・・・
かごめの気持ちは・・・
犬夜叉にも伝わって・・・
かごめを抱きしめる・・・
「・・・ずっと一緒に決まってるだろ・・・。オレと・・・かごめと・・・
満の3人・・・。ずっと、ずっと・・・」
「うん・・・。そうだよね・・・」
犬夜叉はかごめの頬を伝う涙を拭う・・・
「もう・・・。泣かせたりしないから・・・。守るから・・・」
「うん・・・。信じてる・・・」
すやすやと
眠った満を確認して・・・
二人は久しぶりのキス・・・
でもちゃあんと満君はそれを知っております。
あぶあぶ【とーちゃん。かあちゃん。ラブラブだな。ちなみに二人目は妹がいいな。オレ】←満君・心の声
と、思いながら・・・(笑)
幸せだった。
満とちょっとやきもち焼きのお父さんと優しいお母さん。
幸せだった。
3人で毎日泣いて笑って・・・
3人でこれからずっと一緒にいられると思っていた。
一緒に・・・いられると
思ってた・・・
元気に3人で・・・。暮らしていけると思っていた・・・
当たり前のように
信じていた・・・
※
「犬夜叉。行ってらっしゃい!」
「おう!」
玄関で満を抱いたかごめは犬夜叉を見送る。
「行ってらっしゃーい!今日の夕食はカレーだからねー!」
「分かったから」
満の手を犬夜叉に振ってかごめは犬夜叉の姿が小さく
犬夜叉の手から
携帯が落ちた・・・
”かごめちゃんが倒れた・・・”
(かごめが・・・。倒・・・れた・・・?)
耳を疑う・・・
犬夜叉は現実感がなく
ただ・・・
珊瑚から聞かされた病院へ・・・
車を飛ばし・・・
(かごめ・・・)
病室へ向かう。
点滴が打たれ
酸素マスクをつけられ・・・
心電図の器具が痛々しくかごめの胸元に
貼り付けられ・・・
(・・・な・・・何が起こったって・・・いうんだ・・・)
あまりに痛々しい姿に犬夜叉は暫く思考が止まった。
「・・・あの・・・。ご家族の方ですか?」
「えっ」
看護士にたずねられはっとする・・・
「あ・・・は、はい」
看護士の後ろには珊瑚が居て・・・
「身内じゃないと駄目なんだって・・・医者からの説明があって・・・」
珊瑚の表情が固さに不安を感じる犬夜叉。
外科病棟の小会議室。
眼鏡をかけた割と若い医者がレントゲンを犬夜叉に見せながら
かごめの病状を説明し始める。
小難しい医療用語が並んで今ひとつ分からないが
かごめは心臓が少し肥大(大きくなっている)しており、
血管が細くなっているのだという。
発作がおきたわけではないのだが、将来的な危険はあるという
ニュアンスは犬夜叉も理解できた。
「・・・という訳で・・・奥様の心臓の状態は以上説明したとおりです」
「・・・。難しいことはわからねぇが・・・。そんなにやばい状況じゃねぇって
ことだな!?おい!!そこんとこ、はっきりしやがれ!!」
犬夜叉は少し声を荒げて医者に詰め寄った。
「もともと奥様には・・・生まれつき疾患があったようです。
それが難産という引き金で状態が悪化したとも・・・」
「ど、どういうことだ・・・子供生むのが大変だったから
悪くなったってことか」
「えぇええ、まぁそういうことも・・・」
(・・・オレの・・・オレのせい・・・?)
犬夜叉の体が一瞬脱力した。
「そ、それでどうなんだ!かごめの病状は・・・!!」
「は、はい。今すぐに命に関わるほどの深刻な状態ではありません
ただ・・・。手術はお勧めします」
「手術・・・?」
医者は心臓の模型を取り出してさらに説明を始めた。
「奥様の血管自体は細く血流が遅くなっています。そのために血管を広げる
手術が必要になります」
心臓の模型・・・
かなりリアルな模型で心臓の筋肉に青白い血管が何本も通って・・・
(そんなとこに、刃物いれんのか。そんな・・・)
「おう。医者。手術すればかごめは元気な体に戻るのか」
「え、ああ。まぁ。この手術は然程に難しくは・・・。成功率は80%以上ですから」
「あぁあ??80%だぁ!??ってことは20%は成功しねぇってことか!?
それじゃあ駄目なんだよ!!100%って言えよ!!」
「そ、それは・・・医学上絶対ということは・・・」
「やかましいっ!!かごめは助かるんだよ!!かごめは
元気になるんだよ!!100%って言え!いいやがれ!!」
犬夜叉は白衣を掴んで
すごい剣幕でまくしたてる・・・
「おう。てめぇ、かごめを直すっていえ・・・!
かごめを元気にするって・・・。言え!!いいやがれ!!」
「い、犬夜叉!!」
犬夜叉の声を聞きつけた珊瑚が止めに入る。
だが興奮しきった犬夜叉は珊瑚の制止もきかず・・・
「うるせえ!!離せ!!!かごめの心臓をいじくるだけ
いじくって・・・てめぇ。もしものことがあったら
オレはてめぇの心臓を抉り出すぞ!!」
「犬夜叉!!!いい加減にしろ!!!」
ガッ!!!
犬夜叉の頬にいっぱつ食らわせた珊瑚・・・。
「あんたが騒いだって・・・。かごめちゃんの病がよくなる
分けないだろ!!」
「・・・けど・・・ッ」
「・・・。今、大事なのは・・・。かごめちゃんの傍に居ることなんじゃないの・・・?
あんた、出産の時にそれを嫌って程わかったんじゃなかったの・・・」
「・・・」
はっとした。
病室のかごめ・・・
”難産が引き金に・・・”
(そうだ・・・。オレが暴れたって何も・・・。かごめが倒れたのは・・・
オレのせいかもしれねぇってのに・・・)
自分が不甲斐なさがに包まれる。
かごめの命を助けてくれる医者を攻めるなんて
筋違いもいいところなのに・・・
「・・・あの・・・。すいませんでした。乱暴なことして・・・
混乱してしまって・・・」
犬夜叉は医師に頭を下げた。
「頼みます・・・。かごめを・・・。かごめをどうか救ってください。
頼みます・・・」
(犬夜叉・・・)
人に楯突くことしかできないあの犬夜叉が。
床に頭をこすり付けて
人に頭を下げている。
「かごめを・・・。どうか・・・どうか・・・」
大きく広い犬夜叉の背中が・・・
珊瑚には少し痛々しく見えた・・・
その夜・・・
「犬夜叉は?」
「ああ・・・。なんかかなりショックだったみたい」
満にミルクを飲ませながら食堂で話す珊瑚と弥勒。
「ったく・・・。あいつったら自分の気持ちにすぐこもる。
満君のことすっかり忘れてるよ。可哀想に・・・」
心配そうに満を見つめる珊瑚。
だが満は元気よく哺乳瓶のミルクをごくごくと飲む。
「だからこそ俺たちに任せたんだろうよ。今のアイツは罪悪感の塊で・・・
何をしでかすかわからない・・・」
「・・・」
珊瑚の脳裏に医者に土下座した犬夜叉の背中が浮かぶ。
「犬夜叉は自分が出産に立ち会えなかったからかごめちゃんに
負担をかけたと思ってる・・・。ったく。やっぱり自分の気持ちしか
みえてないじゃないの。罪悪感なんて役に立たないって言うの。ね!
満君」
げぷ。【珊瑚ママさん、もうオレ、飲めねぇよ。ってか、母ちゃんはどこだ?】
返事の変わりに満はげっぷした。
背中をさする珊瑚。
「まぁまぁ・・・。でも手術すれば・・・よくなるんだろう」
「うん・・・。でも場所が心臓だからそんな安易な気持ちではいられないよ・・・。
ううん。それよりかごめちゃんが・・・。多分今、満君のこと心配してる・・・。
なんか私切なくて・・・」
満をぎゅっと抱きしめる珊瑚。
「・・・。どうして神様は犬夜叉とかごめちゃんばっかりに
色々難題試練もってくるんだろう・・・。やっと温和な日常が
戻ってきたのに・・・」
「・・・本当だな・・・」
満の寝顔を
珊瑚と弥勒は眺めて切実に思う・・・
(どうか・・・。満君のママを・・・かごめちゃんに笑顔を・・・)
満の寝顔に祈る珊瑚と弥勒だった・・・
その夜。
犬夜叉は夢を見た・・・
トックットック・・・
犬夜叉の手のひらの上に
生温かい感触
ぬるっとしたもの・・・
(な・・・なんだ・・・これ・・・)
色は薄ピンク・・・青白い血管が
浮き出て・・・
トックトックポンプのように収縮して
動いて・・・
犬夜叉はそれが何がすぐ分かった。
(しっ心臓・・・!?)
手が震える・・・
生々しい物体に
ただ慄き・・・
だが・・・
だれの心臓・・・?
(こ、これ・・・は・・・)
映画のスクリーンのように
ベットに横たわるかごめが・・・
犬夜叉にはそれがだれの心臓か
すぐ分かった・・・
(か、か、かごめの・・・)
トックトックトク・・・
その鼓動は
この世で一番愛しい命の源・・・
(かごめ・・・かごめ・・・)
トックトックトック・・・
生々しい鼓動が一瞬にしていじらしい鼓動に
変わる・・・
(・・・かごめ・・・ごめん・・・オレのせいで・・・オレの・・・)
トクトク・・・
優しい鼓動は
犬夜叉は励ますように
静かに紡がれ・・・
(ごめんな・・・)
愛しい命を両手で包む・・・
トクトク・・・トク・・・トク・・・
(・・・!?)
鼓動の異変に気づく。
段々と・・・鼓動が遅くなっていく・・・
(お、おい・・・。何だよ。と、止まるな・・・おい・・・)
トク・・・トク・・・
大きく小さく動いていた心臓が
その収縮しなくなっていく・・・
(た、頼む・・・。止まらないでくれ。た、頼む・・・頼む・・・)
トクトク・・・トク・・・
犬夜叉の願いとは裏腹に
鼓動はどんどん遅く弱まっていく・・・
(だ、駄目だ・・・。止まったらだめだ・・・。駄目だ駄目だ駄目だ・・・!!)
こすってさすって・・・
なんとか鼓動を戻そうとするが・・・
トクトク
トク・・・
トク・・・
トク・・・
(だ、だ、駄目だ・・・)
ト・・・ク・・・
トク・・・ン・・・ッ
(・・・!!)
完全に・・・
止まった・・・
(駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ・・・ああああ!!!!)
犬夜叉が叫んだ瞬間・・・
パアンッ!!
手の中の心臓が・・・
風船が割れたように破裂して・・・
ビチャッ・・・ッ
(!!!!)
真っ赤な血が・・・飛び散って溢れた・・・
(あ・・・あ・・・)
犬夜叉の手の中には
おびただしい血だけが・・・
ピー・・・
(・・・!!)
心電図の停止音・・・
(か・・・)
物言わぬ
腕をぶらりとたらしたかごめが
そこに・・・
(あ、ああああ・・・)
声も
出ない
ただ・・・
崩れ落ちていく
かごめの
笑顔が
消えた・・・
「・・・ぐゎああああ・・・ッ!!!!!」
額に汗びっしょりかいて犬夜叉は目を覚ます・・・
そして自分の両手を見つめた・・・
「ハァ・・・ハァ・・・」
震えが止まらない・・・
夢の中の感触が
温度が
リアルに残って・・・
いや・・・
かごめの心臓が
飛び散ったあの瞬間の音が・・・血の色が・・・
(・・・ま・・・まさかまさか・・・)
ガタンッ!!
犬夜叉はそのまま
サンダルのまま、家を飛び出した・・・
素足で走って走って・・・
(まさか・・・まさか・・・)
あの恐ろしい夢が
予知夢ではないのか
不安で
押しつぶされそう
かごめの
ぬくもりを確かめないと・・・
確かめないと・・・
確かめないと・・・!!
「あ!?ちょ、ちょっと!!」
警備員を振り払い、夜間外来の入り口から階段を素足でかけあがる。
(かごめ・・・!かごめ・・・!!)
ガラガラッ!!
薄暗い病室・・・
「ハァハァ・・・かごめ・・・ッ!!」
ベットに駆け寄ると
かごめは静かに眠っていた・・・
犬夜叉はかごめの手を握り・・・
そのぬくもりを確かめる・・・
(あったかい・・・生きてる・・・あったかい・・・あったかい・・・
生きてる・・・)
確かに感じるぬくもりに
やっと安堵できた・・・
「・・・っ。っ・・・」
堪えていたものが
解かれて
嬉しいのか哀しいのか
わからない気持ちが涙にかわる・・・
ピ・・・
心電図の音が
かごめの命の音に犬夜叉は聞こえて・・・。
「・・・。頼むから・・・。頼むから止まらないでくれ・・・。
命・・・止まらないでくれ・・・頼むから・・・」
たった一つの心臓
たった一つの命・・・
それが止まったら
それが動かなくなったら・・・
「・・・かごめの命・・・。止まらないでくれ・・・」
かごめの手を握る犬夜叉・・・
もうそこには
変な意地も
プライドも
なにもない。
在るのは
大切な人の命が続きますようにと
願う想いだけ・・・
当たり前の日常。
食べて
飲んで
美味しいと感じて
好きなことをして楽しんで
好きな友と恋人と一緒に過ごして・・・
笑って怒って寂しがって・・・
今、在った、出来た事柄が
不自由になり
それがなくなってしまう。
ドラマや小説のような綺麗な死などない。
哀しく綺麗で盛り上がる死などない。
死を意識させて多くの人が共感する悲しみを背負っていとしても
哀しくて綺麗なだけ
麗しいメッセージを残し、自らの命を絶っても
残った遺体は皆同じ。
死に際も
苦しんで
痛がって
臭がって
リアルな感触しかない。
”私が死んでもだれも悲しまない”
”私は死んでいるも同然”
そんな風に安易に命を絶った者は
残された者を永遠に
難題を残していく。
”何もしてやれなかった”
”どうして助けてといってくれなかったの”
悔いという
苦しみの重たい鎖で残されたの心を縛ってしまう。
そして残された者の
・・・心の”命”を奪ってしまう・・・
(・・・オレのせいだ・・・。オレが・・・みんなオレの
半端な気持ちが・・・)
かごめの手のぬくもりに安堵しつつも
自分の責め立てる気持ちが止まない。
(頼む・・・。頼むからかごめの命も心も・・・止まらないでくれ・・・)
かごめの手を
頬にこすりあてる・・・
少しでもかごめの温もりを感じていたい・・・
(・・・神様・・・)
目に見えない物に願ってしまうほどに
切なくて・・・
ピッピッピ・・・
心電図の音
犬夜叉の願いに応えるように
懸命に
病室に響いていた・・・
普段から物語りを書く上で”簡単に人の生き死にや病気”
で話を盛り上げたくはないって言っているのに
かごちゃんを病人してしまいました(汗)
ただ、ちょっとあまりにも毎日テレビのニュースなどで
『殺人』とか『死亡』なんて辛い言葉のオンパレード
されているので健康体の有り難みっていうか
そういうことを意識しております。
・・・っていうか私自身が色々持病で
ふてくされてるだけなのかもしれませんが(滝汗)
綺麗事って言われてしまえばそれまでなんですが
だけど朝起きて、今日一日また過ごせるんだっていう
ことがどれだけ幸せなことかかごちゃん達を通して
伝わればいいなぁと思います。・・・説教臭くなってきたのは
年のせいということで・・・(逃走)