居場所を探して読みきり編

たった一つの命をその手に抱いて
中編
かごめの手術の日が決まった。 手術の時間、説明など犬夜叉とかごめの母達が真剣に聞き書類など諸々の 手続きを終えた。 そして手術日前日。 「かごめ。大丈夫?何か心配事とかある?」 「ううん。大丈夫よおかあさん。私のほうこそ心配かけてごめんね」 病室。 かごめの母と草太が見舞いに来ていた。 ベットの横で犬夜叉は持ってきた洗濯物を戸棚にしまっている。 「それよりね。満のことをお母さん達にお願いしたいの。珊瑚ちゃん 達にまかせっきりで・・・。あの子ね、ちょっと敏感肌で湿疹とかでやすいから。 これつけてあげてほしいんだ」 そう言いながら、母に今日、皮膚科でもらってきた 薬のチューブを手渡す。 「かごめ・・・」 すっかり母親になっている娘の姿に 切なさがかごめの母の胸に込み上げる。 「わかったわ。満君のことは任せて・・・。あんたは 自分の体のことだけ考えなさい」 「そうだぜ。姉ちゃん!甥っ子面倒は叔父のオレに任せろ」 「うん。ありがとう。お母さん。草太」 心強い家族の言葉・・・ 感謝の念にかごめは勇気付けられる。 「それじゃあ・・・。明日またくるから」 「うん」 かごめ母と草太は心配気な顔をよぎらせて 病室を出て行く・・・ 犬夜叉はそんな二人の背中に 深くお辞儀して見送った・・・ 「・・・あーあ・・・。なんかみんなに迷惑かけちゃって・・・ 本当に申し訳ないね・・・」 「そうだな」 「・・・私の心臓ってば!駄目だぞ!こんな弱くちゃ! もっと強くならなくちゃ!」 自分の胸をポンポンと叩くかごめ。 「や、やめろよッ。お、お前・・・」 「な、何そんな青ざめてるのよ。冗談よ冗談・・・」 「わ、わかってるけど・・・」 かごめの心臓に 必要以上に神経質になる犬夜叉。 「・・・一個しかねんだから・・・。大事にしねぇと・・・」 「うんそうね・・・。でも・・・何かあった・・・?犬夜叉」 「な、何も・・・。た、ただ・・・」 あの恐ろしい夢の感触が 手に残ってる・・・ 「・・・。ごめんね。犬夜叉にも気苦労させちゃって・・・」 「ばっ・・・。お前が誤ることじゃねぇ・・・。 謝るのは俺の方だ・・・」 「・・・。自分がアメリカに行ったせいの難産で・・・。私の心臓が悪くなったって思ってるのなら・・・ そう思うのはやめてね」 「・・・!!」 心を見抜かれて犬夜叉はかごめを見つめた。 「やっぱり・・・思ってたか。すぐ分かるよ」 「・・・で、でも事実そうじゃねぇか・・・。オレと桔梗のすったもんだで お前に精神的な負担を・・・だから・・・」 「・・・。”オレと桔梗”・・・」 はっと犬夜叉は自分の口に手を当てた。 「あーんたのそういう煮え切らない所も含めて私は結婚したのよ。精神的負担なんて 感じてないわよ。っていうか負担をエネルギーに変えていくぐらいの 気持ちよ?何年”悲恋に苦しむ犬夜叉と桔梗”を見てきたと思ってんのよ。 甘く見ないでね。私を」 (・・・。なんか・・・やっぱかごめはすげぇな(汗)) 病院食をパクパクかごめはほお張る。 犬夜叉の神経質さを吹き飛ばすほどに・・・ 「あんたが”自分のせいで”って思う方が負担だわ。 私に罪悪感感じている暇があるなら満の世話、頑張ってよ。 ね!」 (かごめ・・・) 遠まわしに励まされている・・・犬夜叉はそう感じた。 「・・・かごめ。お前は恐くないのか?」 「え?」 「・・・心臓にメスいれるんだぞ・・・?成功率の高い手術だっていっても・・・。 不安じゃないのか・・・?」 (・・・やば・・・今、オレバカなことを・・・) 不安なことがあっても見せないのがかごめだ。 なのにそれを無理やり抉り出すようなことを言ってしまった・・・ 「あ、いや、ごめん。いいんだ・・・応えなくて・・・」 「・・・怖いよ」 「え?」 かごめは犬夜叉のワイシャツの裾をひっぱった。 「・・・麻酔かけられて意識飛ばされて・・・。手術台に寝転がらされて・・・。 何されるか分からないんだもの・・・」 担当医に色々説明は受けたが 自分がどんな治療をされるのかいまいちわからない。 ただ、メスが入る、動いている心臓に刃物が入るということだけは 分かって・・・ 「でもね・・・。もっと怖いのは・・・。犬夜叉と満に会えなくなったら・・・って こと・・・。手術は成功するって言われても・・・”もしも”の時のこと 考えちゃうの・・・」 「かごめ・・・ッ」 犬夜叉はかすかに震えるかごめの肩を そっと抱いた・・・ 「・・・駄目だね・・・。さっきは強気なこと言ったのに・・・。 やっぱり・・・。怖いよ・・・。怖さが収まらないよ・・・」 「かごめ・・・」 (本当に・・・。オレは・・・バカだ) 今、かごめにするべきことは 謝ることじゃなかった。 ただ・・・ こうして一緒に恐怖の感情に向き合うことだったのに・・・ 逆の立場なら、 かごめが自分の立場だったらそうするはずだろうに・・・ 「・・・オレも戦うから・・・。だから・・・。一人だなんて思うな・・・」 「うん・・・」 「・・・大丈夫・・・。手術は成功する・・・。そして満を連れてどっか行こう・・・。 どこがいいかな・・・」 「・・・どこでもいいよ。3人一緒なら・・・」 「そうだな・・・。3人一緒なら・・・」 二人は思い浮かべる・・・。 3人で お弁当もって 温かい野原で・・・ 笑って・・・ 空の大きさを 二人で満に伝えてあげるって・・・ そんな風景を思い浮かべる・・・ 「・・・かごめ・・・?」 「スー・・・」 犬夜叉の腕の中で いつの間にか眠って・・・ (かごめ・・・) 犬夜叉はかごめを静かに寝かせた そして手を握る・・・。 「・・・大丈夫・・・。絶対に大丈夫だ・・・」 こんなにあったかいかごめの手・・・ 冷たくなるはずなんて ない・・・ (大丈夫だ・・・) 犬夜叉は面会時間が過ぎても かごめの傍から離れなかった・・・。 そして夜。 「・・・」 不安で眠れないかごめ 何度も寝返りを打つ。 コチコチコチ・・・ 時計の秒針さえ うるさいと思うほどに 過敏になって・・・ かごめは枕元に置いてある満の写真を手に取った。 (満・・・) もっとだっこしてあげたい。 お乳も飲ませてあげたい。 風邪はひいてないか。 泣いてないか・・・ 色んな思いがこみあげる・・・ (満・・・。ごめんね・・・。一緒にいてあげられなくて・・・) まつげが涙で濡れる。 ”万が一”のことがおきたらどうしよう 生まれて間もない子を 残してしまったら 保育園、小学校の入学式も 行ってあげられない 誕生日も祝って上げられない・・・ 「・・・」 かごめは何を思ったか戸棚から便箋と封筒を取り出して 何かを書き始めた。 『大好きな満へ』 すべての便箋の出たしはそんなフレーズで・・・ 全部で5通。かいた。 満へのメッセージ。 1歳になった満へ 5歳になった満へ 10歳になった満へ 15歳高校生になった満へ そして ・・・二十歳の満へ・・・ 5年毎に 成長していく我が子へ・・・ おめでとうを最初の一行に書く・・・ 書きながら・・・ 成長した満の姿を思い浮かべる・・・ ハイハイして立ち上がった満 ランドセルしょって元気に走る満 サッカーボールを元気に蹴る満 学生服を着て友達を笑いあう満 ・・・スーツ姿で犬夜叉とお酒を飲む満・・・ ”お母さんはずっとずっと貴方が大好きです・・・私の宝物だから・・・” と必ず書いて・・・ こぼれそうになる涙をぐっと抑えて かごめは書き続けた。 (・・・犬夜叉にも・・・) 最後に・・・犬夜叉へ・・・ 今までの思い出と・・・ そして想い・・・ 便箋3枚にありったけの気持ちを込めて書く 思い出すと 今でも胸が痛い 切ない想いも・・・ 最後に締めくくる言葉は・・・ 『・・・私と出会ってくれてありがとう・・・』 と・・・ 「ハァ・・・。なんかこれじゃあ、遺書みたい・・・」 縁起でもないことかもしれない。 成功すると医者に言われていても でも 拭えない不安が かごめの心を動かしてそれを形にしようとする。 万が一・・・ということがあったとき 哀しみに苦しむ 友を 我が子を 愛しい人を 見たくはない。 縛りたくない。 (・・・。私の生死で・・・大切な人たちの心を重くしたくはない・・・) もしもの時があったとしても その時まで頑張って生きなくちゃ 希望を捨てないで 投げやりにならず 深刻な状況におぼれず酔わず 不安と戦って・・・ (この手紙は・・・。自分への戒め。絶対にげんきにならなくちゃ・・・ね) カーテンから朝日が漏れる いつの間にか朝だ・・・ (さぁ・・・。かごめ、今日一日始めるわ・・・。泣かないのよ。 満のためにも・・・犬夜叉のためにも・・・) 白い朝日。 目が覚めたとき・・・ 犬夜叉の顔が見られますように 満に会えますように 朝日に祈り かごめの手術が始まった・・・。