かごめが手術室に入って2時間が過ぎた。 医者は2時間ほどで終わるといっていたのにその2時間が過ぎ、犬夜叉達の 顔に焦りが見え始める。 「成功率が高い手術なんでしょ?なのにどうして・・・」 満を抱いた珊瑚が落ち着かなく立ち上がったり座ったりする。 「珊瑚。満君と一度家に戻ったほうが・・・」 「名に行ってるの!目が覚めたかごめちゃんが見たいのは 真っ先に満君の顔でしょ!ね、満君、もう少し頑張れるよね」 あぶぶ【おう!あったりまえじゃねぇか!母ちゃんの一大事に ねてられっか!!】 もうおねむの時間なのに満はがんとして眠らない。 「すまねぇな。珊瑚・・・」 「いいんだよ。それよりかごめちゃん・・・」 手術室のドアが余計に重たく感じる・・・ この奥でなにが行われているのか どんな治療がなされているのか 自分達には何もわからない。 かごめの動いている心臓にメスがはいるということだけしか・・・ 「・・・ね・・・ねぇ。た、楽しいこと考えよう。犬夜叉。 あんた言ってたよね。手術が終わったら家族3人でどこかへ行きたいって。ど、どこ いの?」 「・・・どこがいいかまだ決めては・・・」 「な、ならさ。私の友達の温泉なんてどう? 知り合いのよしみで安くしとくって!」 珊瑚は必死に 重たい空気をなんとかしようと話しかける。 「・・・珊瑚。無理するな」 「む、無理だなんて・・・!!」 「・・・今は・・・。静かに待とう・・・。時間が過ぎるのを」 弥勒は珊瑚を諭すように言った。 「・・・弥勒さま・・・」 珊瑚の肩を抱く弥勒・・・ 「満、こっち来い」 そんな珊瑚の様子を見かねた犬夜叉は満を 抱っこした。 「お前の母ちゃん今・・・こんなかで頑張ってからな・・・」 あぶあぶ【わかってらい!!母ちゃんに会えるまでオレも ねむらねぇ!!だからとーちゃんもしっかりしろ】 そういわんばかりに小さな手をグーにさせて もそもそ動かす・・・ 「けっ・・・。一著前にオレを励ますってか・・・。ふふ・・・」 小さな命の励ましが 心強く・・・ ぎゅっと抱きしめる・・・ あぶあぶ【とーちゃん!オレが可愛がってくれるのは嬉しいけど、ひげが痛てぇよ】 ちょっとだけ嫌がる満。 その満。何か、感じた。 「ンアアッ」【今、母ちゃんが笑った顔が見えた!】 「!?わ、笑った・・・?」 満の笑顔が見たとたん、手術室のドアがガーっと開いた。 そして中からものもしく担架に運ばれてくるかごめ・・・ 「かごめ・・・!!」 「かごめちゃん!!」 担架にかけよる一同。 「・・・大丈夫ですよ。奥さんはよく頑張れました。 成功しました。奥様の頑張りです」 医者の微笑みに 一同はほうっと安堵の息をついた。 「かごめ・・・!!」 「ただ・・・。これから色々通院治療やまだまだ大変なことがありますが 時間がかかります。ご家族の支えが必要です」 「わかってます!!何だってオレはします!」 医者は犬夜叉の肩をポン!と叩いた 「ありがとうございました・・・!」 犬夜叉と珊瑚達は去っていく医者に深々と頭を下げて・・・ かごめの麻酔が覚めるまで ずっとそばにいた。 あぶぶ【よかった。母ちゃんと会える・・・!】 もちろん満も・・・ 眠るかごめ・・・ そのかごめが見ていた夢は 家族3人で 野原に寝転がって 空を見上げる夢 (一緒に・・・お弁当もって空見にいこうね・・・) そう祈りながら・・・ 手術と向き合ったのだった・・・ 「・・・ン・・・」 目を覚ますと そこには 楓荘の面々が全員そろっていた。(病院なのでゴマちゃんは除いて(笑)) 「かごめ・・・!!」 「犬・・・夜叉・・・」 涙目の犬夜叉・・・ 「ふふ・・・なに・・・泣いてるの・・・?」 「ばっな、ないてなんか・・・そ、それよりかごめ・・・ 具合はどうだ・・・」 「うん・・・。なんとか・・・生きてるみたい・・・」 「あ、当たり前だろ・・・」 かごめの声・・・ かごめが確かに生きていると 感じて・・・犬夜叉は緊張して耳を傾ける・・・ 「犬夜叉・・・。満は・・・?」 満の姿を探すかごめ。 「ほ、ほら・・・。ここにいるぞ・・・」 満をかごめに見せるように抱く犬夜叉。 「・・・満・・・」 あぶぶ・・・【かあちゃん・・・!!会いたかった・・・!!】 「満・・・」 かごめは満に頬寄せ 抱きしめる・・・ 「満・・・」 青白いかごめの顔が・・・ 我が子を抱いた母の顔になる・・・ 「満・・・。ごめんね・・・。寂しい想いさせて・・・」 ンアァッ【うん。でもとーちゃんの方が寂しがってたぜ】 「いい子ね・・・。大好き」 あぶぶ【オレもだよ。母ちゃん!】 かごめの言葉に答えるように満は声を出した。 「かごめちゃん!」 どかっと犬夜叉を押しのけて駆け寄る珊瑚たち。 (なっなんだ・・・。この雰囲気の主役はオレとかごめだぞ) ちょっとご機嫌斜めな犬君。 「・・・珊瑚ちゃん。弥勒さま。みんな・・・。心配かけてごめんなさい」 「ううん。そんなこと・・・。かごめちゃんが元気になってくれたら・・・」 珊瑚は少し瞳を潤ませてかごめの手を握った。 「珊瑚ちゃん・・・。本当にありがとうね・・・」 「かごめちゃん・・・」 湿っぽくじわっとした感動が病室を包む・・・ だが。 「ンアァッ」【うおッ。見事に出ちまった】 (ん・・・?) かごめ、満のオムツがこんもり膨らんでいるのに気づく・・・ 「・・・犬夜叉!!オムツだわ!!オムツオムツ!!」 「おおお、ちょ、ちょっとまってろ!!車ン中に忘れたーー!」 「早く早くーー!」 「うおおおーーー!!」 かごめが目覚め、皆が喜びに満ちたシーンだったのに・・・ 満のオムツ交換が始まって・・・ 「かごめちゃん、貴方は横になってないと!犬夜叉オムツ貸して!」 「ありがとう。珊瑚ちゃん。やっぱり頼りになるわ。男親って駄目ね」 「・・・けっ・・・」 拗ねる犬。 まるでいつもの騒がしい光景が 戻ったよう・・・ (感動的なシーンが・・・オムツ交換なんて・・・。ふふ・・・) 弥勒は娘の希を抱きながら思う。 微笑ましい笑い声が 病室に響く・・・ (・・・俺たちは・・・。誰一人欠けてはいけない・・・。 かけがえのない仲間なんだから・・・) 何気ない この騒がしさが とても貴重なものに弥勒は思える・・・ 小さな雑談が 些細な冗談が ひとつひとつ・・・ 人が 生きていて 声を出し 話をして 笑って怒って・・・ 病というきっかけで 当たり前という名の幸せを振り返る。 そしてかみ締める。 かごめの手術は成功した。 だが、それで完治したわけではない。 「かごめ。あんま無理するな・・・」 ベットで病室を移動するかごめに付き添う犬夜叉。 手術から2週間。 かごめは一般病棟に移された。 胸の手術の痕の傷。 抜糸はされたが痕生々しく残り・・・ パジャマのボタンをはずして胸元を見ているかごめ。 犬夜叉、斜め下に目線が。 「・・・痛いか」 「ううん。もう痛くは・・・ってあっちむいててよ・・・(汗)」 「はっ。ご、ごめん」 犬夜叉、ちょっとだけ確信犯(?)だったのか 申し訳なさそうに後ろを向く。 パジャマの上から左胸に手を当てるかごめ・・・ (ちゃんと・・・。動いてる・・・) トクントクン・・・。 朝、目が覚めると真っ先にすることは 自分の鼓動がちゃんと動いているか・・・ 一秒後 10秒後 一分後 止まってしまったらどうしよう。 そんな不安に襲われる。 「・・・かごめ。なにしてんだ」 「・・・。ちゃんと・・・。私の心臓動いてるか・・・確認中・・・」 「かごめ・・・」 「・・・へへ・・・。なんか・・・急に臆病なっちゃった・・・」 そう言って微笑むカゴメの笑顔は・・・ 不安の裏返し・・・ 「・・・担当医の先生から言われてる・・・。手術は成功したけど・・・。 発作が起こる確率が低くなっただけで・・・。一切の不安が消えたわけじゃないって・・・。 だから・・・」 「かごめ・・・」 「お薬を沢山飲んで・・・。予防して・・・定期的な検査もきちんとして・・・。 それから・・・それから・・・それ・・・から・・・」 胸元に当てられたかごめの手が 震えだした・・・ 「・・・犬夜叉・・・ごめんね・・・。これから・・・治療でお金も かかりそう・・・それに・・・子育ても思うように出来るか・・・ごめんね・・・」 「ばっ・・・お前が謝ることじゃねぇだろ・・・」 犬夜叉はそっと かごめの手の震えをとめるように 優しく肩を引き寄せた。 「・・・お前は何も心配しないで・・・体を直すことだけ専念してくれ」 「でも・・・。私の病気に・・・犬夜叉と満もつき合わせなくちゃいけない・・・ いつかきっと負担になるよ・・・」 「負担だ・・・?馬鹿言うな・・・。お前が負担だなんて思うはずないだろ。 お前がいなくちゃ俺も・・・満も駄目なんだから・・・」 「・・・犬夜叉・・・」 「・・・生きてりゃいい・・・。生きてりゃいんだ・・・。 それ以上・・・。何も望まない・・・」 かごめの肩を 優しく そして強く抱きしめる・・・ 生きていることを確かめるように・・・ 「かごめ・・・。オレも・・・確かめていいか・・・?」 「え?」 「・・・お前の心臓の音・・・」 (犬夜叉・・・) かごめは深くうなづいて犬夜叉の手を 左胸にあてた。 「・・・。変な気持ちにはならないでね」 「///。わ、わかってる・・・」 トクントクン・・・ (・・・うごいてる・・・。かごめの・・・命が・・・) 手のひらに 伝わる 確かな音・・・ (・・・ずっとずっと・・・。動き続けてくれ・・・。 オレが生きている間・・・ずっとずっと・・・) そう祈りながら・・・ 犬夜叉は かごめの命の音を 暫く 確かめていた・・・ それから三日後・・・ かごめの退院する日も決まり、落ち着いた日々を過ごしていた。 ある日の午後。 仕事を早引きしてきた犬夜叉。 (・・・なんか・・・) 「・・・少し・・・庭に出るか・・・?」 「うん」 犬夜叉はかごめを車椅子を押して 病院の庭に出た。 犬夜叉の様子が少し違うことにかごめは気づいて・・・。 「ねぇ・・・。犬夜叉・・・。どうかした・・・?」 「・・・」 桜の花の木の下・・・ 犬夜叉は車椅子を止めて ポケットからあるものを取り出した・・・ 「あ・・・」 手術の前の日の夜に かごめが犬夜叉と満に書いた手紙・・・ 「・・・ふざけたもん書いてんじゃねぇよ・・・」 「・・・ふ、ふざけてなんて・・・」 「・・・。これじゃあ・・・。遺書みてねじゃねぇか・・・」 車椅子のもち手を握る犬夜叉の 手が 震えている・・・ 「縁起でもねぇ・・・。こんな・・・」 「・・・ごめん・・・。手術が不安で仕方なくて・・・。だからって・・・ こんな手紙書くのって間違いよね・・・。ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」 かごめは深く俯いて謝る・・・ 「ごめんなさい・・・。弱虫で・・・」 「・・・かごめ・・・」 かごめのごめんを聞くと・・・ かごめ責めるのはお門違いだと犬夜叉は思った。 犬夜叉が一番かっときた部分は この部分・・ 『犬夜叉へ 私がいなくなって・・・。誰か他に好きな人が出来たときは・・・。 遠慮なんて絶対にしないでね。 あんたの性格からして”昔”にこだわるはずで・・・ 生きている人は幸せを求めて生きいくべきなの 笑顔で生きていくべきだと思うから・・・』 (・・・かごめにそんな風に書かせたのは・・・。オレのせいじゃねぇか・・・) 「ごめんね・・・」 「かごめ。もういい・・・。もういいから・・・」 犬夜叉はしゃがんでハンカチでかごめの涙を拭う。 「・・・犬夜叉。手紙、全部捨てて」 「え?」 「私が間違ってた。頑張りもしないで・・・一人なんだか 生死のシリアスさに酔ってた・・・。駄目だよね。母親がこんなんじゃ・・・。 だから満宛の手紙も全部捨てて・・・」 だが犬夜叉は首を横に振った。 「どうして・・・?」 「あの手紙は・・・。お前が満をすんげぇ強く想ってるって 証拠だ・・・。それを捨てるなんてできるか」 「犬夜叉・・・」 「・・・あの手紙は満の誕生日にプレゼントと一緒に 贈る・・・。それが一番いい。・・・だろ?」 「・・・うん。そうだね・・・」 満宛の手紙・・・ 5歳、10歳・・・ 成長した満へ当てた手紙は・・・ 大切に机の中に しまわれている・・・ 「・・・桜・・・か」 上を見上げる。 満開の桜が 咲き乱れ 人の心をひきつける・・・ 「綺麗だね・・・。でも・・・足元だって満開だよ・・・」 車椅子のタイヤ。 土筆やすみれ、タンポポの小花が 小さいけれど私達も咲いているよ・・・と 主張して鮮やかに輝いている。 「・・・桜もタンポポも・・・。みんなきれい。 生きているから・・・。花の綺麗さも見られる・・・。感じられる・・・」 「・・・そうだな・・・」 頭の上にも 足元にも 懸命に”生の輝き”を放っている。 喋ることも、奏でることも 出来ない生き物でも 生きて 何かを主張している。 人間に引っこ抜かれても文句も言えない。 踏み潰されても言い返せない。 でも それでもまた種をまいて咲いて・・・。 「・・・犬夜叉・・・」 「かごめ・・・」 桜の下・・・ 花の輝きを感じながら 二人は優しいキスを交わす・・・ 互いが生きていると つたえあう・・・ 今日 もしかしたらこの瞬間。 どこかで誰かの命が消えているかもしれない。 理不尽な事故や事件 病や絶えられないほどの現実からのがれようとしたり・・・。 その命たちの痛みを知ったなら ずっと心に刻み込んで そして生きていかなければならない。 生かされていることに 意味を見出して・・・ 「・・・満君。もう5分だけお母さん達に会うの待ってようね。 今、ラブラブ中だから・・・」 さくらの木の後ろ。 満を抱いた珊瑚がかごめ達の様子を伺っている。 「・・・満君。貴方のママは・・・。本当に強いママよ」 あぶ【そうさ。イケてる母ちゃんだぜ!】 「ふふ。あと5分。待ってようね」 満の手のひらに 花びらが落ちる・・・ ぎゅっと握り締めて・・・ かごめと犬夜叉が分け与え合った命。 両親とずっと一緒にいられるように 花びらに願う・・・ たった一つの命。 たった一つの心。 代えはない。 たった一つだからこそ 輝いて 何よりも 尊く・・・。 「かごめちゃん!満君連れてきたよ・・・!」 車椅子のかごめにそっと満を抱かせる珊瑚。 「満・・・」 自分達の命のつながり。 母の温もりに 微笑んで・・・ 「満。大好きだよ・・・」 愛しさを込めて つぶやく・・・ たった一つの命を抱きしめて・・・