居場所を探して・一話完結読みきりシリーズ
たんぽぽアルバム
10ページ目 お母さんがひとりぼっち
夜。
満の泣き声がちょっと変なことにかごめは気づいた。
「んぁ・・・うう」【母ちゃん。なんか・・・すんげぇ体が熱いんだ。
それに腹もいてぇ。昼間、ミルク飲みすぎたか?】
「満・・・!?す、すごい熱!!犬夜叉、起きて!満が!!」
「どうした!」
ぐったりとする満。
ゲップゲップとすっぱいものがあがってくるのか
口から涎が止まらない。
目が空ろで、顔色が真っ白の満・・・。
いつもとは違う満の症状に幼子の病気はいくつか見てきたかごめだが
あわてふためく・・・
「ど、どうしよう、と、とにかく体温計とッ」
ピピ!
体温計は39度をさしてます。
「どうしよう大変だわッ。きゅ、救急センターに
連れて行かなくちゃ、早く・・・早く・・・」
赤信号がもどかしい。
今日だけ全部青信号にならないか。
気持ちだけ焦って
満を抱くかごめの手は震えていて・・・。
かごめは満を毛布で包み、
犬夜叉は救急外来にすぐかごめたちを乗せて走った。
「満・・・!」
満はすぐに処置室に運ばれ宿直の医師に診察。
「あの・・・」
「・・・ちょっと呼吸の音が荒いな・・・。肺炎おこしてる
可能性が有りますね。色々検査もしたいですし・・・入院が必要です」
「!!」
(満・・・!)
小さな手や足に
細い針が打たれ
酸素吸入される満の姿に・・・
かごめは直視できず・・・。
「あ、かごめ・・・!しっかりしろ」
かごめはふらっと足元がふらついた。
犬夜叉が受け止め、廊下の椅子に座らせる。
「大丈夫か。お前まで倒れるな・・・」
「ごめん・・・」
(ったくなんでこんなときに。かごめだって
本調子じゃないのに・・・)
ただでさえかごめの体は
育児で疲れているのに・・・。
(オレがしっかりしねぇと!)
だが犬夜叉の心配を余所にかごめは満の
そばから離れない。
1週間入院することになったのだが・・・。
つきっきりで看病すると言い張って・・・。
「私ずっと満のそばについてるわ」
かごめは満のベットから離れようとしない。
「気持ちは俺も一緒だ。でもお前もやすまねぇと・・・。
頼むから・・・」
「犬夜叉・・・」
懇願する犬夜叉に・・・
「わかった・・・。じゃあ1時間ほどだけ眠るわ・・・」
「い、一時間かよ。たった」
「じゃあ・・・。それまで満のこと、お願いね」
そっとかごめは廊下のソファによこになった。
かごめは5分とたたないうちに眠ってしまった・・・。
(かごめ・・・)
一睡もしてなかったかごめ。
自分の体より子供の体を心配するのは母親なら当然だろうが・・・。
(オレはどっちも心配だ・・・。二人とも
大切な家族だから・・・)
昔の自分なら絶対に考えないこと。
自分以外の誰かをこんなにも心配したり気にかけたり・・・。
(・・・守るから・・・)
そっとかごめに毛布をかけて
硝子越しの満の寝顔を犬夜叉は見守った・・・。
入院して7日目。
回復してきた満。
普通の病室に戻された。
熱も下がり、まだ少し下痢はあるものの
主粥程度食べられるようになった。
「はい、満オムツ完了!」
「んぁあぁ♪」【おー。気持ちいいぜ。母ちゃん!今日は調子、いいみてぇだ】
ガラガラを持った満。
オムツを交換してもらって気持ちよさそうだ。
「ふふ。よかったね。満。肺炎も大分消えたみたいだし・・・。
このままならあと2、3日で退院だって」
「あぅああ!」【そうか。家に帰ったらオレ、早速ゴマの姉貴に挨拶するぜ!】
にこっと笑う満。
そのとき。
「樹里ーーーー!!」
女性の泣き叫ぶ声が廊下に響いてかごめはとっさに
出てみると・・・。
「いやぁ。樹里、樹里が・・・っ」
担架に運ばれて処置室に入っていく娘にすがりつく母親。
「樹里になにするの!?絶対助けてくれます!??
お願い。樹里が樹里が・・・」
「お母さん、落ち着いてください」
「いや!!樹里を助けるって約束してよ!!樹里はね樹里は・・・!!」
「大丈夫です。大丈夫ですからお母さんがしっかりしてください!」
「樹里樹里樹里・・・」
錯乱しているのか看護士が母親をなだめているが
母親は座り込んで泣き止ます・・・。
「・・・え」
そっと
母親の背中に自分のカーディガンをかけたのはかごめ・・・。
「・・・少し・・・深呼吸しましょう・・・?」
「・・・」
「ね・・・?」
かごめに促されて母親は静かに深く息をはく・・・。
すると少しだけ
母親は落ち着きを取り戻したようで・・・。
かごめと母親は廊下の長いすでホットコーヒーを
飲んで・・・。
「み、見ず知らずの人にご迷惑をおかけしてすみません・・・」
「いいえ・・・」
「・・・あ、朝起きたら・・・。突然ひきつけを起こして・・・。
あの子のめは黒い目玉がなくなって白い目玉だけになって・・・。
手と足をガタガタ震わせて・・・」
そう話す母親の手もまだ少し震えている。
「わ、私もうどうしたらいいか分からなくなって
救急車よばなくちゃってただそれだけで・・・」
「・・・そうですか・・・」
きっと自分も同じように動揺していただろうとかごめは思う。
あんな小さな体に何が起こったのか。
どんな病気なのかも分からず。
「・・・。な、情けないですよね・・・。母親がこんなに
おたおたしちゃうなんて・・・」
「そんな・・・。私もそうです。息子が熱を出して
慌ててしまって・・・」
そんなとき、
誰かが側にいてくれたら
心強いのに。
一人きりで子供の全てに注意を払い、気を張っていなければならない。
人それぞれの子育てがあるというけれど
・・・協力者がいなかったらお母さんの心もつぶれてしまう。
「樹里ちゃんきっと大丈夫です・・・。私も祈りますから・・・」
「・・・。ありがとうございます・・・」
かごめはずっと母親の背中をさすって
撫でていたのだった・・・。
夜。
樹里も入院することになった。
慌てふためいた母親だったが医者から少し時間はかかるが
薬で回復すると聞き、ほっと一安心していた。
「樹里ちゃんこんにちは。ほら、満もごあいさつ」
「んぁああ」【誰だ。このガキンチョ】
隣ベット。
かごめは満の小さな手を樹里に振った。
「阿部さん(母親の苗字)よかったですね。樹里ちゃん・・・」
「はい。昼間は本当にありがとうございました」
酸素吸入ですやすやねむる樹里にそっと毛布をかける母親。
「はぁ・・・。でも本当・・・。子供の病気にははらはらさせられます・・・」
「そうですね・・・」
「・・・母親がどれだけ注意してても・・・。病気になるときはなる・・・。
そんな言い訳したくないけど・・・だけど落ち着いた対応なんて
できないです・・・」
「・・・」
かごめが保育士をしていたころ、
母親から色んな悩みや心配事を聞いてきた。
母親の人数だけ心配事の種類もさまざまだが
共通して言えることがいくつかあった。
それは相談する誰かがいないこと。
「近所でお母さんのサークルとかも色々あるんですけど・・・。
私、人付き合い苦手で・・・」
「・・・皆が皆、誰とでも付き合える器用な人ばかりじゃないと思います。
逆にお母さん同士の付き合いっていう悩みが増えたりすることも・・・」
「・・・はい・・・」
一日中、
子供と二人きり。
寝顔は可愛いと思うけれど
一日中、この緊張感を一人きりで
背負わなければいけないと思うと・・・
出口のない迷路で迷ったようで・・・。
「あの・・・。これ・・・」
かごめはちいさなうさぎのぬいぐるみを樹里の枕元に置いた。
「樹里ちゃんが早く良くなりますように・・・」
「・・・ありがとうございます。本当に・・・」
「あ、そうだ。私、まだ名前言っていませんでしたよね。私は・・・」
ちいさなぬいぐるみ
ベットに眠る樹里と
母親にそっと微笑んでいた。
そして
不安を抱えたお母さん同志二人を
・・・友達にしてくれたのだった・・・。
「そうか。そんなことがあったのか」
満が退院して。
家まで帰る車の中。
「今も昔もお母さんって役割は大変・・・。
特に今のお母さんは”心”のエネルギーが沢山要るから・・・」
お金もいる
でも子育てには心がもっといる。
お母さんの子供への愛情は勿論のこと、
そのお母さんをいたわってあげる、助けてあげる
愛情も・・・
「ふふ。でも私は心強いよ」
「あ?」
楓荘の前に車が止めた犬夜叉に・・・。
かごめはチュっとほっぺにキスをする。
「な、な、何すんだ。いきなり・・・///」
「色々ありがとうね。とっても心強かったよ」
「・・・そ、そか・・・(照)」
ご褒美?
犬夜叉は少し嬉しそうに微笑んだ。
「・・・か、かごめと満のことはオレが絶対守るから」
「うん・・・」
CHU!
もう一度かごめがほっぺに・・・。
ベビーシートの満はこっそり両親のチュウをご堪能♪
「んぁあ」【ほっぺかい。初ねぇ♪
どうせならぶちゅーっとしてもいいのにな。ふふ・・・】
「んまぁ。満ったら・・・」
満はくすっと笑う。
赤ちゃんの心が元気なために
お母さんの心の元気で
ありますように・・・。
かごめはそう願わずにはいられなかった・・・。