居場所を探して・一話完結読みきりシリーズ
第15話  醒めない夢 @ 生きている。 今、生きている。 心臓が動いていることも 普段は意識してない これが明日、止まったらなんて考えもしない。 でも 止まることだってある 誰も予想しない出来事で ・・・もし・・・命の期限を知ってしまったら 貴方はどうしますか? 何をしますか? 何を・・・残しますか・・・?
「満ー・・・。今日もいい天気ねぇ・・・」 「あぅああ」【おう。いい空気だねぇ】 かごめと満。お気に入りの公園でお散歩中。 秋の空。うろこ雲。 乳母車をおしながらかごめは満に色んなものを指差す・・・。 かごめは満に何でも見せたい。 (・・・この・・・心臓が動いているうちに・・・) 数日前・・・。 軽い体調の違和感を感じたかごめ。 犬夜叉にも内緒で病院に診察へ行った。 そして医者からすぐに入院しろ言われ・・・。 医者の態度が気になったかごめ・・・。 ”先生・・・。私の心臓・・・。そんなに悪いんですか・・・。 お願いです。本当のことを言って下さい” 医者は・・・ 重たい沈黙を破った・・・。 ・・・次に発作が起きた時は覚悟が必要です。すぐに 入院して検査を・・・ 「んぁああ!」【母ちゃん!?】 「・・・!?」 バサバサバサッ!! 我に返ったかごめを確認したように 鳩達は空へ高く高く飛び立っていく・・・。 「・・・んぁああ・・・」【母ちゃん・・・。どうしたんだ・・・? なんか・・・。なんか・・・母ちゃんが遠くへいっちゃうような気が・・・】 心配そうにかごめを見上げる満・・・。 「・・・ごめん・・・。ごめんね・・・。子供に こんな顔させるなんて・・・」 「んぁあ・・・」【ど、どうしたんだ・・・?母ちゃん。母ちゃん・・・】 不安そうに満の目が少し潤んできた・・・。 「・・・大丈夫よ・・・。大丈夫・・・」 かごめは満を乳母車から抱き上げる・・・。 「・・・満・・・。あったかい・・・」 「・・・んぁあ」【母ちゃん・・・。なんで・・・なんで・・・泣いてんだ・・・?】 満の温もり 抱きしめられなくなる日がくるなんて・・・。 「・・・あったかい。あったかいよ・・・」 抱きしめて 抱きしめて・・・。 昼間の公園・・・ 周囲の音さえ聞こえない・・・。 今はただ・・・ 我が子の温もりに浸っていたい・・・。 夜・・・。 コチコチ・・・。 真っ暗な部屋・・・。 今晩は楓も犬夜叉もいない。 誰も居ない夜だ。 誰も・・・。 誰も・・・。 (・・・) トクントクン・・・。 この鼓動が 消える 消えて手も足も動かなくなって 意識もなくなって そして・・・ ”死ぬ・・・ッ!” ドクンッ 寒気と吐き気が・・・ 「い・・・いやぁああッ!!!」 ドンッ バサバサッ!! 手足が震え 雪崩のような恐怖を どこにぶつけたらいい・・・ 「嫌・・・。嫌、嫌ゃあああッ!!!」 本棚 箪笥 蹴って叩いて 引掻いて・・・ 「やだ、やだやだやだやだ・・・ッ」 自分の髪の毛も掻き毟って ドンドンドンッ!! 「いやいやいや・・・ッ!!!消えたくない、一人になりたくない・・・ッ!!」 絨毯に拳を打ち付けて 当たって・・・。 「・・・神様、私なんにも悪いことしてないよぉ・・・!!! 頑張って生きてるのに 一生懸命生きてるのにどうしてどうしてどうして・・・ッ」 目に見えない存在に 怒りをぶつけるしかないの・・・ バサッ!! 投げつけた新聞紙・・・。 『税金横領疑惑』『福祉大幅削減』『強盗殺人犯逮捕』 そんな文字が目に入る。 「・・・。もっと悪い人間いるじゃない、酷い人間いっぱいいるじゃない・・・ッ。 どうして私なの、どうして私なの、どうして私なのよ・・・っ!!!」 グシャッ!! 「どうして私じゃないといけないのよ・・・っ」 勝手な理屈で現実が変わるわけじゃないのに 分かってるのに・・・ 「・・・なんで・・・よ・・・なんで・・・」 我侭な子供に戻る・・・ 駄々をこねる・・・。 「・・・う・・・うう・・・ぅ・・・」 隣の部屋に子供が居るのに 赤子のように泣いて 嗚咽を出して 「うぅう・・・」 どうしてなんだろう どうして・・・ ”私” なんだろう・・・。 「ンァアアッ!!!」 (満・・・ッ) 隣の部屋から 満がけたたましく泣く・・・ 泣いている・・・。 (・・・そっか・・・オムツの時間・・・) 「ウエエエエッ!!」 自分を求めて 母親の自分を求めて泣いている。 (・・・満・・・) 滴り落ちる涙をぐっと堪えて満の下へ・・・。 「ウエエエエ!!」 「・・・ごめんね・・・。今綺麗にするから・・・」 かごめが来てふっと泣き止む満・・・。 笑う満・・・ (・・・そんなに嬉しいの・・・?嬉しいの・・・?) 「アゥアァウ・・・」 手足をばたつかせてにこにこして・・・。 (・・・満・・・。そうだよね・・・。私・・・。 私・・・) 自分を必要としている命がある・・・ 「満・・・」 おむつを取り替えて・・・ 満は気持ちよさそうに笑っている・・・。 (・・・私が・・・不安がってちゃ・・・。満も不安になる・・・。 私は・・・。私は・・・) 「マゥマ・・・マァマ・・・」 かごめに向かって小さな手を伸ばして かごめを求める・・・ 「・・・まぁま・・・ママ・・・」 まるで・・・ ”ここにいて・・・” 「まぁぁ・・・マーア・・・ママ・・・」 ”大丈夫・・・ここにいて・・・” 「まぁま・・・」 「満・・・っ」 (・・・ごめんね・・・。ごめんね・・・) 小さな命に必要とされている・・・ 「満・・・。ママ・・・泣かない・・・よ・・・。泣かないから・・・」 母を求める小さな腕を かごめはしっかりと抱きとめる・・・。 (・・・泣かないから・・・満の命が・・・あったかい・・・あったかいから・・・) 満の心臓の音が聴こえる・・・。 小さな体の中で確かに動いている鼓動・・・。 (私の命の分身・・・。確かにここに生きてる・・・) 小さな確かなぬくもりが・・・ 恐怖で強張ったかごめの体を解していく・・・。 (満・・・あったかい・・・あったかいね・・・) かごめは其の夜・・・ 満を抱いたまま・・・ 眠り・・・。 ・・・枕には涙の跡が残っていた・・・ (私に出来ることはなんだろう・・・私の出来ることって・・・) 犬夜叉の休日。 かごめは突然言い出した。 ”満のオムツと食事のさせかた完全版” 徹底的に指導したいといいだした。 「一体何だよ。休みの日に・・・」 「いいから・・・いいから!!」 (な、何だよ・・) 眠たそうにしていた犬夜叉をたたき起こしてベビーベットで眠る 満の下へ連れて行く。 「・・・満のオムツ、とりあけてみて。それからミルクも」 「いきなりなんだよ」 「いいから・・・!真面目にやってほしいのよ!!」 少し苛立ちを見せるかごめ・・・。 (どうしたってんだ。ま、とにかく言うこときいといたほうがいいな) かごめの機嫌がよくなればいいかと・・・軽く思った犬夜叉。 かごめに促されるまま、オムツ交換、そしてミルクをつくってみる・・・。 ちょっとこなれてきた犬夜叉。 (どうでい。かごめの機嫌もなおるだろ) だが・・・。 「違うでしょ!オムツ交換のときは必ず天花粉つけるの! それから粉ミルクの分量違ってる!!」 「え?」 かごめは犬夜叉が作ったミルクを哺乳瓶から流して捨てた。 「な、何も捨てることねぇだろ!!」 「こんな熱い温度じゃ満、火傷しちゃうでしょ!!ミルクくらい作れるようになってよ!!」 かごめがヒステリックに声を荒げた。 犬夜叉もムキになって・・・。 「う、うるせぇな、俺はお前と違って四六時中世話してんじゃねぇんだ!! 母親じゃねぇんだ!俺はッ!!できねぇこと押しつけんじゃねぇよッ!!」 「・・・。出来るようになってよ。出来るようになってもらなくちゃ困るのに・・・」 (なっ・・・) かごめの涙にオロオロする犬夜叉・・・。 「・・・な、何も泣くことは・・・」 (・・・私・・・。駄目だ・・・。気持ちが不安定で・・・。犬夜叉に 当たってるだけじゃないこれじゃあ・・・) 今、自分がやるべきこと 今、自分が伝えることがあるはずなのに・・・。 「・・・満には犬夜叉しかいないの・・・。私が”いなくても” 満の面倒みれれるようになってほしいのに・・・」 「・・・?かごめがいなくても・・・?それ、どういう意味だよ」 「・・・あ、だ、だから・・・。ほ、ほら、わ、私、 じ、実はは、働きに出ようって思うのだ、だから・・・」 かごめは慌てて言いつくろった。 (・・・今・・・。犬夜叉に言えない・・・。体のことは・・・) 「・・・そうか。わかった。お前の気持ちも知らずにすまねぇ。 ちゃんとできるようになるから安心しろ」 「う、うん・・・。わ、私のほうこそごめんね・・・。な、なんか 感情的になっちゃって・・・。ちょ、ちょっと隣の部屋で落ち着いてくる・・・」 パタン・・・。 (かごめ・・・) かごめの様子の変化を感じる犬夜叉・・・。 (何かあったのか・・・?何か・・・あんな苛立って・・・。切羽詰ったような・・・) 言いようのない不安が犬夜叉の胸を過ぎる・・・。 一方かごめは・・・。 机に向かって顔を伏せて・・・。 (私・・・何やってるの・・・。犬夜叉に八つ当たりしてる場合じゃないのに・・・) 満のたった一人の父親は犬夜叉・・・。 (・・・”いつか”が来た時・・・。犬夜叉が困らないように 満が困らないように・・・) 自分がしておくべきことは 伝えるべきことは・・・。 「・・・」 かごめは静かに机の中からノート一冊・・・取り出した・・・。 そしてノートの表紙に 『満ノート』と書く・・・。 最初のページ・・・。 『ミルクの作り方』と書く・・・。 それから・・・ 『満の洋服のサイズについて』 (それから・・・。それから・・・) 書き残したいことは山ほど或る・・・。 「それ・・・から・・・」 ”それから・・・” (私には・・・”それから”が・・・ない・・・) だからこそ・・・ だからこそ・・・ ポタ・・・ ノートに沁み込む水滴・・・ (・・・犬夜叉・・・満・・・) ボールペンの字が滲む・・・。 それでもかごめは書き続ける。 煮物の作り方。 お風呂の洗い方・・・。 大切な人が困らないように ・・・自分に悔いが残らないように・・・。 かごめそれから毎日、 犬夜叉が寝静まってからコツコツと・・・ 書き続けたのだった・・・。 恐ろしい知らせは突然やってくる。 犬夜叉はかごめの主治医に呼び出されて・・・。 「な・・・」 カタン・・・。 診察室。 犬夜叉の手から、携帯が落ちる・・・。 事実をやっと知らされた・・・。 ”今すぐ奥さんを入院させてください。説得してください・・・! 奥さんの心臓はもう限界なんです・・・!” ガチャ・・・。 診察室をよろめいた犬夜叉が肩を落として出てくる・・・。 (・・・かご・・・め) 知らされた事実。 かごめがもしかしたら もしかしたら もしかしたら・・・ ・・・いなくなってしまうかもしれない・・・? (んな・・・んなこと・・・そんなことあるわけ・・・あるわけ・・・ねぇ・・・) ヨロヨロと・・・ 足元がおぼつかない・・・。 (これは夢だ・・・。夢に違いねぇ・・・) pppppp!!! 「・・・!!」 携帯のけたたましい音が 夢ではないと自覚させる・・・。 「・・・も。もしもし・・・」 押しつぶされそうな心・・・ 「・・・!!」 電話の内容が さらに 犬夜叉に追い討ちをかける・・・。 ”かごめちゃんが・・・かごめちゃんが・・・ 倒れた・・・。倒れたの・・・!!” ”今度発作が起きたときは・・・。厳しい覚悟を なさってください・・・” カタン・・・。 携帯が地面に落ちて・・・。 犬夜叉の体の力が抜けていく・・・。 (そうだ・・・。これはゆめだ・・・。きっと夢に違いねぇ・・・) 体の感覚さえ 分からない・・・ 足が動かない・・・ (これは夢だ・・・夢に・・・夢に・・・) 「違いないんだーーーーーーっ!!!!!」 ・・・なにかが・・・ 切れ・・・た・・・ 意識が・・・なくなっていく・・・ 悪夢なら醒めてくれ 今すぐ醒めてくれ 頼むから 頼むから・・・。 「・・・はッ!!」 コチコチコチ・・・。 犬夜叉の額から物凄い汗が流れている・・・。 コチコチ・・・。 気がつけば・・・。食堂。 誰もいない・・・。 (・・・。眠って・・・たのか・・・?) あまりの悪夢に・・・ 抜けきらない恐怖感・・・。 (・・・そうか・・・。やっぱり夢だったのか・・・) なんて夢。 今すぐかごめの姿が見たい。 (かごめ・・・。かごめは二階か・・・?) 犬夜叉は静かに階段を上がっていく。 (それにしても・・・。やけに静かだな・・・) 異様な静けさ・・・。 かごめたちの寝室・・・ 「かごめ・・・?いるか・・・?」 ギィ・・・。 静かにドアを開ける・・・。 ベビーベットに満はおらず・・・ (・・・誰も・・・いねぇのか・・・?) 犬夜叉は部屋を見渡す・・・。 コツン・・・。 (・・・?) 足元に何か転がっている・・・。 (かごめの・・・髪留め・・・?) ピンクのかごめの丸い髪留め・・・。 犬夜叉はしゃがみ、拾ったそのとき・・・。 (・・・!??) ・・・写真・・・ かごめの・・・笑顔の・・・ 祭壇の真ん中に・・・ (な・・・なん・・・だ・・・) ドクンドクン・・・ッ 確かに香る・・・線香の匂い・・・ 犬夜叉の動悸が・・・止ま・・・る・・・ 写真の後ろに・・・ 白い・・・小さな・・・箱・・・ 「あ・・・あ・・・あぁ・・・」 笑顔の写真のかごめは・・・ 小さな箱となっていた・・・
・・・「8月のクリスマス」という映画見た後、なんとなく書いて見ました。 生き死にネタは簡単に使うことは抵抗がいまだにあるのですが、 映画の中で命のカウントダウンされた主人公がすごく自然体で印象に残ってしまいまして。 泣いてわめいたり、だれかに八つ当たりしたり・・・ 映画の中でそういう描写もあったのですが、それより身近にいる人への配慮ということに重点が おかれていて、たとでば、DVDを上手に使いこなせない父親のために DVDの使い方を書いたノートを残していくとか、料理のノートなど・・・。 自分の悲しみと同時に家族など身近な人たちへの配慮をすることで 主人公は死と向き合っているのかなぁと思いました。 ・・・。弱虫管理人は慢性的な病気だけでもヒーヒー言いながら 生きていります。生きるわ、死ぬわってな境地は想像もつかぬ ヘタレ者ですが、家族への気遣いや優しさが表せればなぁと思います。 ・・・ラストについてはタイトルがヒントです。・・・バレバレか(汗)