居場所を探して・一話完結読みきりシリーズ
第16話 醒めない夢 A
「あ・・・あぁ・・・」
言葉が出ない
目の前の光景が
あまりにもあまりにも
悪夢すぎて・・・。
「夢だ。夢だ。夢だ。醒めろ醒めろ醒めろ・・・」
犬夜叉の神経はもう尋常じゃない
かごめの笑顔の写真を撫でながら
「夢だ夢だ夢だ醒めろ醒めろ醒めろ・・・」
経を読むように呟く・・・
だが醒めない。
いくら体をつねっても
髪を鷲掴みにしても
醒めない
醒めない
「だ・・・誰か・・・俺を起こしてくれ・・・。こんな夢から・・・
誰か・・・誰か・・・」
誰がひっぱたいてもいいから
蹴り倒されてもいいから
夢から出してくれ・・・
こんな夢から・・・
ギィ・・・
ドアが開く・・・。
「・・・犬・・・夜叉・・・」
沈痛な面持ちの弥勒・・・。
「弥勒・・・。そうだ・・・。これ・・・またお前らの仕業なんだろ・・・?
ほら・・・満が生まれたときみたいによ・・・」
「犬夜叉・・・」
「たちの悪すぎるぜ・・・。今回も・・・なぁ・・・そうなんだろ・・・?」
だが・・・
弥勒は何も言わない・・・。
手足が震えだす犬夜叉・・・。
(夢だ・・・これは・・・)
「お、おい・・・おい、弥勒・・・。これ、夢なんだろ・・・?
俺の腹、蹴ってくれ。殴ってくれ。妙な夢から出られないんだ・・・」
弥勒のズボンの裾を鷲掴みにして頼み込む・・・。
「犬夜叉・・・」
「早く・・・。早く。ここから出してくれ・・・。
悪夢から早く俺を出してくれ・・・」
「犬夜叉・・・ッ」
「出せよッ!!!こんな夢から出してくれよッ!!!
かごめに会わせろッ!!会わせろーーーーッ!!」
弥勒の襟をつかんで
絶叫する犬夜叉・・・。
「・・・い、嫌だ・・・。これが現実なんて・・・い、いやだ・・・
嫌だ嫌だ・・・あぁああ・・・」
絨毯を
何度も何度も叩く・・・。
「犬夜叉・・・」
かける言葉などあるものか・・・
やりきれない想いだけが弥勒と・・・
ドアの向こうですすり泣く珊瑚の胸に込み上げる・・・。
(かごめかごめかごめ・・・っ)
悪夢はいつになったら醒めるんだ・・・
「醒めてくれよ・・・頼むから・・・誰か・・・誰か・・・ッ」
醒めない
何度も叫んでも拳を打ち付けても・・・
「・・・神様・・・お願いだから・・・。醒ましてくれ・・・
お願いだから・・・」
醒めない・・・。
目の前の・・・
写真の中のかごめの笑顔が・・・
これが現実・・・と
犬夜叉に告げていた・・・。
ポチャン・・・ポチャン・・・
窓についた雨だれが・・・水溜りに落ちる・・・。
食堂。
「犬夜叉は・・・?」
「・・・。出てこない・・・ずっと・・・」
部屋に閉じこもってしまった犬夜叉を案じる弥勒と珊瑚・・・。
今朝からなにも口にせず
ずっと出てこない・・・。
犬夜叉は・・・。
かごめの写真抱いたまま・・・
体を九の字にして横になったまま動かない・・・。
(・・・)
息をしているのか
分からない。
まだ・・・
夢の中にいるようだ・・・。
(かごめ・・・)
きっと帰って来る。
満と買い物にいっただけなんだ・・・
(帰って来る・・・きっと・・・きっと・・・)
錯覚がみえる・・・
かごめが笑って・・・そこにいる・・・
机に座って・・・
「かご・・・め・・・」
朦朧と・・・。机に近づく・・・。
ガタタンッ!!!
ドサッ!!
本立てが崩れ落ちた・・・。
ぼんやり・・・
ピンクのノートが犬夜叉の目に入った・・・
『犬夜叉・満ノート』
(・・・かごめの・・・字・・・)
ペラ・・・。
捲ってみる・・・。
『第一章 満の世話全般 其の@。ミルクの作り方』
最初のページ・・・。
かごめの・・・優しい字で・・・。
(・・・かごめ・・・。お前・・・いつのまにこんな・・・
こんな・・・)
知らない間に
自分の生命の期限をさとったかごめが
・・・犬夜叉と満に残したもの・・・
犬夜叉が満を育てていけるように・・・
ノートに・・・
通帳が・・・。
コツコツと貯めたかごめのへそくり・・・。
二人の生活が
困らぬように・・・
「・・・かごめ・・・お前・・・。お前・・・ッ」
自分の壊れそうな心臓より
家族の食事を
家族の健康を
考えていたのか・・・
「かごめ・・・かごめ・・・ッ」
何もしらなかった
逝ってしまった間際まで
自分は・・・。
「かごめ・・・ッかごめぇーー・・・ッ」
写真の中のかごめの笑顔・・・
もう二度と見られない
もう二度と・・・
「わぁああああーーーーッ・・・!!!!」
絶叫・・・
かごめの・・・
笑顔がもう
見られないことを・・・
やっと・・・
悟った犬夜叉だった・・・。
何もする気になれない。
何も感じない
かごめがいない
かごめがいない
その現実に耐えられない・・・
ふらりと・・・
はだしのまま外へ出て行く犬夜叉・・・。
電気屋の前で立ち止まる・・・
”ねぇ犬夜叉、新しいテレビ買おうか”
(どっかにいる・・・かごめは・・・)
八百屋の前で立ち止まる
”にんじん買ってくよ!栄養付けなくちゃ”
(かごめ・・・)
きっとどこかに
かごめが
居る気がして・・・
いるわけないのに・・・
いるわけがないのに・・・
”ふふ。この本・・・今すごくはまってるんだ”
本屋の前で立ち止まる・・・
タイトルは・・・『よみがえって会いにいきます・・・』
”死んでしまった奥さんが・・・。半年だけ帰って来て
もう一度家族と絆を深めていく・・・っていうお話なの・・。
なんかいいよね・・・”
(・・・はずねぇだろ・・・)
・・・。会えるはずないじゃないか。
戻ってくるはず、ないじゃないか
もういないんだ。
会えるはずないじゃないか
何言ってるんだ
奇跡なんて起きるはずないじゃないか
「・・・会えるはず・・・ねぇだろーーーッ!!」
グシャッ!!
犬夜叉はその本を地面にたたきつけた・・・
「戻ってくるわけねぇだろ、生き返るわけねぇだろッ!!!
もういえねぇんだよ、もうどこにもいねぇんだよーーー・・・ッ!!」
小説が羨ましい。
ドラマが羨ましい
簡単に人が蘇る。
幽霊になって
生き返って・・・。
「・・・誰か・・・なぁ誰か、かごめを生き返らせてくれよ・・・。
この本みてぇに・・・なぁなぁ・・・」
「ちょ、ちょっと何よッ」
犬夜叉は本を持って通行人にすがりつく・・・。
「誰か・・・。幽霊でもいいからかごめに会わせてくれ・・・。
誰か・・・誰か・・・」
幽霊も
蘇りもしない
仮想の現実が羨ましい
誰か
かごめが蘇る、
かごめに会える
(現実に連れてってくれ・・・)
「お巡りさん!!この人なんとかして・・・!!」
警官に拘束されて・・・
弥勒たちが犬夜叉をむかえにきた・・・。
「・・・犬夜叉・・・」
憔悴しきった犬夜叉
珊瑚たちに手に負えなかった。
犬夜叉の・・・
衰弱ぶりに・・・
「犬夜叉・・・」
誰も・・・
救えない・・・
街での騒動の翌朝・・・。
意外な人物が犬夜叉を訪ねてきた・・・。
(かごめ・・・。なぁ・・・。幽霊でいいから・・・
会いにきてくれよ・・・)
かごめが読んでいた小説を抱いて
壁に寄り掛かる犬夜叉・・・
覇気の無い・・・
瞳で・・・。
ギィ・・・
ドアが開いた・・・
チラリと視線を送る犬夜叉・・・。
(・・・かご・・・め・・・?)
・・・じゃない・・・。
かごめに良く似ているけれど・・・
優しい匂いじゃない・・・
「・・・犬夜叉・・・」
「・・・桔・・・梗・・・」
空ろな犬夜叉に
桔梗は駆け寄った・・・