居場所を探して・一話完結読みきりシリーズ
たんぽぽアルバム
6ページ目 瞼の母
「はーい。満、あーん」
さつまいもの煮っ転がしをかごめがスプーンで
柔らかくしてスプーンで満に食べさせている。
「もう離乳食なんだ」
「うん。煮物類がいいんだって。っていうか
小さい頃から野菜食べさせないと将来この子が困るものね」
楓荘食堂。
かごめの母が尋ねてきていた。
「あーあ・・・。すっかりあんたも母親の顔ね」
「ふふ。そうりゃそうよ。だって母親だもん」
「そして私はばあちゃんです」
「お母さんたら」
くすっと笑いあうかごめと母。
久しぶりだ。
母とこうして穏やかに過ごすのは・・・。
「お母さんが来てくれて嬉しい。だって
経験者がそばにいてくれるのって心強いもの」
「そうかい。それは何より・・・。でもかごめ。あんたには
もう一人・・・。母がいるでしょう?」
「・・・」
かごめの顔が少し空ろになる。
そうかごめには生みの母がいる。
かごめが幼い頃に行方を消して成長したかごめと再会した。
再婚して今は、病弱だったが退院したと今年来た年賀状には
書いてあった。
「満の顔・・・。見せに言ってお挙げなさい」
「・・・お母さん・・・」
「・・・満がこの世に生を受けたのは・・・。
生みのお母さんがいたからこそなのよ・・・」
(でも・・・。育ててくれたのは・・・)
わだかまりが全て消えたわけじゃない。
自分を置いて姿を消したことへのこだわりは忘れられなく・・・。
「かごめ。満のためにも・・・。ちゃんと節目はきちんとしなさいね。
後悔だけはしてほしくないから・・・」
かごめの母はそっとかごめの手を包んだ。
「そうだね・・・」
(でも・・・それじゃあ満のためにもならない。私のためにも・・・)
かごめは今度の日曜日、生みの母に会いに行くことにした
犬夜叉と共に。
「久しぶりだね。何年前だろ」
ハンドルを握りながら犬夜叉は山々の緑を
ながめている。
「もう大分前のような気がする・・・。ふふ」
「ああ。でも今は3人だけどな」
ベビーシートにはすやすやと満が水色のちっちゃな靴下を両足にはいて
眠っている。
あの時は
自分の気持ちだけでみんないっぱいいっぱいだった。
けど今は・・・。
(色んな人の色んな気持ちが色んな立場から分かる気がする)
かごめを置いていってしまった母にも
それなりの何かがあった
そう同じ人間として思える余裕が出来た。
(私は今、幸せだから・・・)
かごめの生みの母の実家。
久しぶりに来ると庭先で生みの母の再婚相手が
庭の木の手入れをしていた。
「あ・・・。かごめさん!お待ちしてました!」
再婚相手の夫は
かごめたちを嬉しそうな顔で家に招きいれた。
(年取られたな・・・)
ほんの何年か前なのに
白髪が増えた気がする。
「い、いらっしゃい・・・!」
台所でたくさん、煮物やごちそうをかごめの生みの母が創って待っていた。
「あ、その子・・・」
「満、もうする1才になります・・・」
「・・・なんて可愛らしい・・・。あの・・・だ、抱かせてもらってもいい・・・?」
かごめの生みの母は感極まったのか少し目を潤めて
そっと満を抱いた
「私の孫・・・。初孫ね・・・」
「・・・」
少しフクザツなかごめ・・・
娘の自分には母親との楽しい記憶はあまりないのに
孫をこんなに愛しそうに抱くなんて・・・。
(・・・でもいいの。満が愛されているなら・・・)
親の愛。
子の愛。
それぞれに
色んな形がある。
「さーさ。犬夜叉さんも飲んで飲んで」
ビールを注がれる犬夜叉。
もう6時は過ぎているのだが・・・
「す、すんません。でもオレ、帰り車あるんで・・・」
「とまって言ったらいいわ。ね、そうなさいよ」
突然の申し出にかごめは戸惑った。
「でも・・・」
「・・・あ、ご、ごめんなさい。私の我侭ね。満君と
離れたくなくって・・・」
しゅんと残念そうにするかごめの生みの母。
「・・・。じゃああの・・・明日、早めに帰ります。お世話になります」
「ほんとう!?嬉しい!ありがとう!」
嬉しそうに満の手を握るかごめの生みの母・・・。
満に接する一つ一つが
有り難く思うでも・・・
どこか寂しい気持ちになるのは何故だろう。
「すいませんねぇ。部屋が小さいもので」
「い、いえ(汗)」
というわけで犬夜叉はかごめの生みの母の夫と一緒に今日は
眠ります。
今では満を真ん中にかごめと生みの母が並んで寝ている。
「・・・、ああどうしよう。夢見たい」
「え?」
「娘と・・・。孫とこうして並んで眠れるなんて」
「・・・」
つーっと涙する生みの母。
その涙が嬉しくも思うが一方で心が少しモヤモヤしているのは何なのか。
かごめは今日一日自分に問いかけていた。
「ねぇかごめ」
「はい?」
「・・・貴方はあまり覚えていないかもしれないけど・・・。
こうして小さかった貴方と眠っていたのよ」
微かに覚えている
布団の横で添い寝してくれていた・・・
「もっといっぱい一緒に添い寝してあげたかったのに・・・。
私は・・・」
「・・・。もう謝らないで・・・。私はもう恨んだりはしてない。
私は幸せだから・・・」
「かごめ・・・」
布団の裾からすっとかごめに手を伸ばす。
かごめはその差し出された手を
一瞬、戸惑うが・・・
(あ・・・)
ふっと瞼の裏に浮かぶ光景・・・
”おやすみ・・・いい夢見てね・・・”
手を握り返してくれた・・・。母の微笑み。
(そうだ・・・。私はこの人に確かに・・・)
知っている
覚えている
小さかった自分は
確かにこの人を
求めていた・・・
暗い部屋で
一人待っていた・・・
「お・・お母さん・・・」
「かごめ・・・」
手を伸ばしたかった。
置いていかれても
きっと帰ってくるって信じていたから・・・
満の頭の上でぎゅっと
やっと結ばれた
手と手・・・。
”もう恨んではいない・・・”
理屈ではわかっていたけれど
肌身で感じたかった
・・・瞼に映る母の笑顔を・・・
その夜。
かごめと母は手を結んだまま
眠ったのだった・・・。
翌日。
”今度また・・・遊びに来てね”
”はい・・・”
かごめは母とそう約束して
別れた・・・。
今度は心の中のもやもやはすっかり晴れて・・・。
「かごめ。どうした。なんかいいことでもあったのか?」
「うん・・・」
かごめは手のひらをじっと見詰める。
「オレはおっさんと寝てよ。いびきがすげぇのなんのって」
「うん。二階まで聞えてた」
「でもま、悪いおっさんではないな。なんせかごめの
かーちゃんの旦那なんだから・・・」
(犬夜叉・・・)
遠まわしに
励ましている。
不器用な犬夜叉の言葉。
だからこそ
伝わる・・・
「ありがと。犬夜叉」
「///な、なんだよ。急に」
「ううん。私はいい旦那様を持ったなって思っただけよ☆」
チュッ☆
ほっぺにかわいいキスを。
「お、おいっ運転中だぞッ(喜)」
「うふふ。もう一回」
「だぁああ。こら、それは家帰ってからにしろって(期待しまくって)」
CHU!
CHUッ♪
かごめの連続チュウに犬君、
ハンドル操作あやまりそうなくらいに・・・
(・・・火がつくだろ(汗)だ、だが今は安全運転だ!)
と理性を働かせます。
・・・家までですが(笑)
お母さん・・・。産んでくれてありがとう。
産んでくれたから
犬夜叉と・・・。
満に出会えた。私は今・・・幸せです。
ありがとう・・・)
数日後かごめから届いた
手紙にはそう記されていたのだった・・・