居場所を探して・一話完結読みきりシリーズ
たんぽぽアルバム
第9話 公園デビュー
「満、お散歩いこーね」
乳母車に乗せ、かごめは近所の公園へお散歩。
「珊瑚ちゃん!」
公園で珊瑚と待ち合わせし、ベンチに座って早速、おしゃべり開始。
「・・・でね。弥勒ったら携帯に知らない女の子の名前居れてたんだ。
とっちめてやったら同僚だって言うんだけど・・・」
「んまぁ。ふふ・・・」
お互いの旦那の話やら。
「ねぇねぇ。どこのベビー服安いかな。ワタシ、
よくわからなくて」
「よかったら私、作ろうか?満の服も全部ワタシが作ってるの」
「すごーい」
お互いの子供の話。公園という場所は母親にとって
情報交換の場でもあるらしい。
「かごめちゃん。知ってる?隣町の中央公園って凄いんだって」
「何が?」
「若いママさんたちの溜まり場なんだって。あそこに
初めて行くままさんはまさに”公園デビュー”ってわけ」
「こ、公園デビュー・・・(汗)」
うわさでは聞いたことがある。
中央公園に近くには集合団地や社宅が多く建っていて
若い夫婦が多くすんでいるらしい。
「・・・ワタシね。誘われたんだ。この前。トモダチから
今度中央公園へ来ないかって。でもなんかさ・・・。
出来上がってるグループに入っていくみたいでなんだか
気乗りしなくて」
「そっか・・・。うん。いいよ。ワタシも社会勉強の
つもりで行ってみるのもいいかな」
「ホントー?よかった。かごめちゃんが一緒なら安心だ」
こうして、かごめと珊瑚は”公園デビュー”することになったのだが・・・。
(な、なんか・・・。公園っていうより・・・)
”若いままさんたちの社交場”
子供の声より母親達のおしゃべり声が響いていて・・・
あっちの集まり、こっちにも集まり・・・。
いくつものグループができているようで
かごめたちはどこの誰に声をかけていったらいいかわからずに
公園の隅でしばらく立ち尽くしていた。
「あら・・・。貴方達・・・。新顔さん?」
「え、あ、は、はい。今日初めてこの公園に来ました」
「そう!で、どこの団地の方?それとも社宅の方?」
「え、えっと・・・どちらでもないんですが・・・。
隣町から・・・」
かごめがそういうと若い母親は少し難しそう顔をして
他のママ達ともそもそ会話して・・・。
「そうなの隣街から・・・。大変だったでしょう。
ふふ。じゃあごゆっくり・・・」
とそそくさとかごめたちから離れていった・・・。
「・・・なんだ。感じ悪いな・・・。私達がどこの”所属”か
確かめにきたような感じだよ」
「珊瑚ちゃん・・・」
かごめと珊瑚は何だかどのグループにも入れない。
団地や社宅といった知らない人間関係の世界に入っていくのが
少し怖かった。
(あれ・・・あの人・・・)
公園のベンチに一人・・・ぽつんとどのグループにも入らず
座っている若い母親が・・・。
(あの人・・・。あの人もどのグループにも入れなくて
困ってるのかな・・・)
「ねぇ珊瑚ちゃん・・・。あの人に声、かけてみよう」
かごめと珊瑚はベンチの母親に静かに近づいて声をかけた。
「あの・・・。こんにちは。ワタシ、今日、初めてこの公園に来たんですが・・・」
「そうですか・・・」
「・・・隣、座ってもいいですか?」
母親は静かに頷いた。
「なんか・・・。凄いですね。沢山のグループがあって・・・。
圧倒されちゃった」
「・・・ここは・・・”大奥”です。若い母親達の・・・」
(お、大奥・・・)
かごめと珊瑚はちょっと怖い女の世界があるのかと想像した。
「・・・私みたいに気が弱い母親には・・・居づらくて・・・。
でも他の公園って知らないし・・・」
深刻な顔ではなす母親・・・。
(なにか・・・抱えてるのかな)
かごめは直感した。
「・・・あの・・・。よかったら隣町の児童公園来ませんか?
私たちいつもそこにお散歩に来るんです。ね、珊瑚ちゃん」
「うん。小さな公園だけど静かで穏やかで・・・。
ゆっくりできるよ」
かごめと珊瑚は母親ににこりと笑った。
「・・・はい。じゃあ・・・今度行こう・・・かな」
母親はかごめと珊瑚に好感を持ったのか
穏やかに笑った・・・。
こうして約束したかごめと珊瑚。
翌日、早速あの母親は児童公園にやってきた。
母親の名前は香織という。
「・・・本当・・・。ここは静かで・・・。
グループ同士のいざこざもなくて・・・」
「・・・」
香織はぽつりぽつり母親同士の間でのトラブルを話し始めた。
香織は、つい最近隣町へ引っ越してきた。
少し口下手な香織は必死にお母さん達の中へ入っていこうと
努力したのだが、
”香織さんがいるとなんとなく・・・。気を使って
息苦しいわよね”
陰口を聞いてしまってそれからというもの一人きりで
あの公園にいることが多くなったという。
「かー!!どーして女ってのはこう群がると
いびつな空気になるんだろ!女子高のトイレと一緒だ!」
珊瑚は拳をにぎって力説。
「・・・でも社宅の関係って上手くこなさないと
主人の会社での関係にも影響するし・・・。私、どうしたらいいか・・・」
「・・・。暫く・・・ここへお散歩に来てみませんか」
「え?」
「社宅の事情はよく知らないけど・・・。香織さんがまずは
心がほっとしなくちゃ。赤ちゃんが不安になっちゃう」
香織は乳母車の子供顔を見た。
「・・・そういえば・・・。最近この子笑わなくなったて
思ってたんです・・・。そうか私が不安な顔してたから・・・」
香織は乳母車から子供を抱き上げた・・・。
「ごめんね。ママ。自分の都合ばかり考えてた・・・」
ぎゅっと抱きしめると赤ちゃんは嬉しそうに手足をばたつかせた。
「よかった・・・。赤ちゃん喜んでる・・・」
「かごめさん。ありがとう。あの・・・。今更ですけど・・・。
私と友達になってくれますか・・・?」
珊瑚とかごめはにこっと顔を見合って
何度も頷いた。
それから香織は児童公園にたびたび来ては
かごめと珊瑚と楽しいおしゃべりをするようになった。
そんな中、香織がとあることで困っているという。
「私・・・。パートでもいいから働きたいんです。
でもこの子預ける保育所探したんですがどこも
いっぱいだって・・・」
「そうですか・・・」
「それに理由がもう一つ・・・。この子、ちょっと喘息の発作があるんです。
酷くはないんですが、調子を崩すとすぐ・・・」
”申し訳ないですが、ご病気のお子さんだと
いざ発作がおきる度にお母さんにお引渡ししなければいけません。
責任がもてないのです”
「何よソレ!病気の子は手がかかるから駄目ってことなの!?
保育所のつごうじゃないか!」
珊瑚はかなり激怒した。
かごめにも身に覚えがあった。
病気やハンディを抱えた子を受け入れてくれる保育所や
幼稚園はまだまだ少ない。
”お預かりするには・・・お母さん同伴でなら
受け入れますが・・・”
”いざというとき・・・対応が分かりませんし、専門的な知識を持った
職員もおりませんので・・・”
色々保育所側の理由もあるのだろうが結局、
責任をとることを恐れているだけのようで・・・。
「・・・ったく・・・。どうなんてんだ世の中・・・。
母親達の付き合いはいびつだし、保育所は大人の都合ばっかりだし・・・」
「・・・でも私・・・。この子にもっと外の世界のこと知って欲しいんです。
体が元気な時は・・・」
母親は子供を膝の上に乗せて小さな手をぎゅっと握り締めた。
母親のその手が・・・
かごめには自分の心に”たすけて”と言っているように聞えた。
(・・・)
「あの・・・。私の知り合いに・・・個人で”託児所”している
人が居るんです。その人は色んな事情の子を預かってるんです。
病気の子も何人もいて・・・。病院とのパイプもあって・・・」
「本当ですか・・・!?」
「はい。私、実は元保母なんです。太鼓判おします!」
かごめは香織の手をぎゅっと握った・・・。
「・・・大丈夫・・・。香織さんは一人じゃないですよ・・・」
「かごめさん・・・。ありがとう・・・。本当に・・・」
香織はかごめの手を力強く握り返した。
公園デビュー。
仲がいい沢山のグループには出会えなかったけど
変わりにとても大切な友人に出会えた・・・
かごめと珊瑚は香織の出来るだけのサポートをしようと
誓ったのだった。
そのことを犬夜叉に話したかごめ。
「へぇ・・・。女達の世界ってのはなんかすげぇんだな」
「うんでも・・・。私は一人、いい友達に出会えてよかった」
(かごめが嬉しそうだ・・・。なんか俺も嬉しいな)
パジャマに着替えながら犬夜叉はかごめの笑顔に心穏やか・・・。
「ねぇ。犬夜叉」
「はぁ!?オレが?いやだよ。女達の群れなんて」
「ふふま、流石のあんたも”大奥”にはおびえるのね」
「けっ。でもな・・・。女の群れは嫌いだけど・・・。
にょ、女房は別だぞ///」
犬君、かごめにちゃっかりラブ視線を送ってますv
「んもう。今日は・・・おあずけ!じゃ、おやすみ」
「・・・え(涙)」
かごめはさっさと布団に入り眠りにつく。
(そ、そんな・・・。やっと満の夜泣きが治ってきたのに・・・)
「・・・くおら!かごめ!お前だけ先に寝るなんて許せねぇ!」
「きゃっ。犬夜叉」
犬夜叉は無理やりかごめの布団の中に潜り込んで・・・
「んもーーー!犬夜叉ったらー!」
掛け布団がもそもそと
激しく動いておりますvv
これぞ愛の掛け布団(笑)
だぁああ【父ちゃんは公園デビューじゃなくて”布団デビュー”ってわけか。
ふふ。ところであのさ、そろそろおしめが・・・】
相変わらずらぶらぶの両親にちょっと嬉しいやらちょっと迷惑やら・・・満はフクザツなのでした(笑)