居場所シリーズ 「うたた寝天使」 1:入院 イブの出来事が過ぎ、大晦日も過ぎた一月初旬。 年末のいざこざが祟ったのかかごめの体調不良が悪化した。 念のため、検査入院することに。安静もかねて二週間ほど 入院することになった。 「えーっと・・・。タオルと着替え・・・は、 そっちの棚」 「かごめ、お前は寝てろ。午後から検査なんだろ」 ベットの横の戸棚に持ってきた荷物を仕舞う犬夜叉。 「検査ってどんな検査だ」 「ちょっと肺の細胞をとるんだって」 かごめは手首や腿あたりを指差して説明。 「・・・(汗)そ、そんなトコから 細い管、入れんのか?痛くねぇのか」 「大丈夫よ。検査だけだから」 (・・・検査だけって・・・からだン中に変なもん入れるんだぞ・・・?) やれ注射だ。やれ点滴だ・・・。 かごめの細い体に刺されて、薬入れられるなんて・・・。 かごめの胸には満出産時の手術の痕がまだ生々しく 残っている・・・ (検査だけでも体に負担を・・・。全部俺のせいだ。 今回はオレはもう、かごめの側をはなれねぇ) というわけで。 「二週間、休み取った。ずっとお前の看病できるからな!」 鼻息を荒くしてどすっと犬夜叉も荷物をベットの横に置いた。 「あのね、でもここ、完全看護だから大丈夫よ」 「いいや!!オレはお前の看病をする!決めたんでい!! だからかごめはゆっくり休んでくれ」 (・・・逆に安心できない気が(汗)) かごめの心配どおり。 「はい。犬飼さん。心音聞きますよ」 担当医が回診に来て聴診器あてようものなら。 「てめぇ!!かごめのどうする気だ!!」←絶対に胸タッチ阻止の構え・笑 とやきもち(笑)を焼いて困らせたり。 「なんでい。この味の薄い飯は。醤油かけてやる」 と、病院食に醤油やらソースやらかけまくりで・・・ 「旦那さん!!いい加減にしてください!! でないと帰ってもらいますよ!?」 と、婦長さんに怒られて・・・ 「すみませんでした。婦長さん」 かごめに謝ってもらっている犬夜叉でした・・・ (オレとしたことが・・・。しくじった・・・) と、ちょっと反省・・・ でもちょっと良い事もありました☆ 部屋の階にある洗濯場 かごめの服をお洗濯・・・ (///) さっき脱ぎたてのかごめのブラとショーツに頬を染める 犬夜叉なのでした(笑) さらに。こんな場面にも出会った。 隣の病室の患者は80過ぎのおばあさん。 おばあさんには旦那のおじいさんがいるのだが、この老夫婦は とても仲が良く有名で、おじいさんのおばあさんを看病する 姿に、皆、勇気付けられているという。 「あ・・・。犬夜叉。見て」 かごめの検査が終わり、犬夜叉が車椅子で病室へ帰る途中。 おばあさんたちの病室の前で立ち止まった・・・ おばあさんの背中や腕を、おじいさんが一生懸命に 拭いていたのだ・・・ 「ばあちゃん。どっか、痒いトこ、ないか?」 「・・・下の方。痒い」 「わかった。なら少し強めに拭いとくぞ」 腰が曲がったおじいさん。タオルで力を加減に気をつけながら 動けないおばあさんの体を拭いていく・・・ 手や足・・・”すっきりしたかのぅ?””綺麗にしとかんとなぁばあちゃんや” 優しいことばをかけながら・・・。 「・・・いいなぁ・・・。私達もあんな夫婦になりたいよね」 「・・・」 「・・・。犬夜叉?」 犬夜叉・・・なんか思考、ここにあらずって顔です。 (・・・風呂はいれねぇんじゃ仕方ねぇな・・・。お、 俺が拭いてやるしかねぇな・・・///) 「・・・。犬夜叉。私、体なら自分で拭くから 結構よ」 (え) 「・・・考えてること、バレバレ!!少しはあの おじいさんを見習いなさい!!ふん!」 かごめは呆れ顔で一人で車椅子をおして病室へ帰る 「か、かごめ!お、オレは決してやらしいことは考えてねぇぞッ」 かごめと犬夜叉はいちゃつき過ぎの若夫婦というこで 有名になりましたとさ(笑) だが、入院はそんなのんびりした生活ではない。 体と心が磨り減ることが多い。 病院は病気と闘う現場だ 沢山の命の物語がある 入院3日目・・・ 今朝は朝から、肺の細胞をとるという検査だ。 気管支鏡を口から肺に入れて肺の細胞をとるのだ。 「朝食はなしで・・・、少し熱出るかもだって。 はぁ・・・」 「かごめ。嫌なら受けなくてもいいんじゃねぇか?」 「ううん。体のことはきちんとしなくちゃ。 大丈夫。犬夜叉。心配しないで」 かごめは検査を受けたあと、やはり少し微熱が出て 苦しそうだった。 夜。犬夜叉はそっとベットに眠るかごめの額に冷やしたタオルを置いた。 「かごめ・・・」 疲れきって眠るかごめ・・・。 かごめをこんな検査づくしの体にしたのは自分の性だろうか (・・・俺が・・・かごめの命、縮めてるんだ・・・) 桔梗がらみのことで・・・ それだけじゃなく・・・ 普段の生活でも・・・。 かごめが何でもしてくれることが当たり前だった・・・ (かごめ・・・) 犬夜叉がかごめの寝顔を見つめていると・・・。 「うぅがぁあああ・・・!!いややぁあ!!」 (!?) 物凄い声に犬夜叉は病室を出て隣の病室を覗くと・・・。 「ばあちゃん、ばあちゃん!!ばあちゃん!!」 隣の病室・・・ おじいさんの泣き叫ぶ声が廊下に響く・・・ ベットの上のおばあさんは・・・ 顔は青白く・・・。起きない・・・。 「ばあちゃん、ばあちゃんばあちゃん!! あの世行くが、まだ早い!!ばあちゃん、閻魔さま、 ばあちゃん連れてかんでくれぇええ!!」 物言わぬおばあさんにすがりついて泣き叫ぶおじいさん・・・ そのおばあさんの死に顔に 犬夜叉は思わず目をそらしてしまった・・・。 鼻の穴に二本の管。 枕の周りには吐いたと思われる血が びっしりとしみこみ・・・ ギョロっと白めを向いて半開きの口で・・・ 口からは唾液が垂れ、泡をふいた・・・。 犬夜叉は正視できず・・・ 人がよく言う”安らかな”そんな顔じゃない・・・ 綺麗な死に顔ばかりじゃない。 病気とはそういうもの 病と闘うとはそういうこと その凄い形相のおばあさんにおじいさんは すがりつく。誰にも渡さんとばかりにすがりつく・・・。 「ばあちゃん!!ばあちゃん!!ワシのばあちゃん!! ずっと一緒におるんっじゃあ・・・!!!」 看護士たちはすがちつくおじいさんを3人がかりで ベットから離した。 「ばあちゃんどこ連れて行くんだ!!ばあちゃんに これ以上なにするだ!!人でなし!!医者たち お前らがばあちゃん殺したんだ!!わぁあああッ!!」 若い看護士に押さえつけられたおじいさんは だが、 ベットの車輪を歯で噛んで何が何でもベットを 行かせようとしない 「空きのベットに寝かせて、鎮西剤打って!! 早く!!」 錯乱するおじいさんに看護士は空きのベットに寝かせ 馬乗りなっておじいさんの腕に無理やり注射して・・・ 「嗚呼、ばあちゃん!!ばあちゃん!! ワシのばあちゃんがぁあああああッ!!!!」 だみ声が 子供の泣き声に聴こえる・・・ 「ばあちゃん!!ばあちゃんぁああああぐあああッ!!」 (駄目だ・・・。もう聞いてられねぇ) 犬夜叉は思わず耳を押さえ・・・ 病室に背を向けてしまう・・・ それでも聴こえてくる・・・ 壮絶なおじいさんの抵抗・・・。 「ばあちゃん・・・!!ばあちゃん!!」 押さえつけられながらも・・・ 手を伸ばして、空に手を伸ばして 叫ぶ・・・。 「ばあちゃん!!嗚呼ばあちゃん・・・。 ワシを一人にせんでくれぇ・・・。ワシを残して 逝かんでくれぇ・・・ばあちゃん・・・ばあちゃん・・・うぅう・・・」 逝かないでくれ 俺一人残して 一人残して 逝かないでくれ・・・ 「逝かんといてくれ・・・ばあちゃん。ばあちゃん・・・」 おじいさんの・・・切ない呟きが・・・ 犬夜叉にあの”悪夢”を思い出させる・・・ 白い 小さな箱になったかごめを・・・ 「ばあちゃん・・・ワシのばあちゃん・・・」 おじいさんの声が・・・ 途絶えてきても・・・ 犬夜叉の心に 突き刺さる・・・ あのおじいさんの叫びは 涙は 自分かもしれない (かごめ・・・。かごめ・・・!) 不安に駆られる かごめが・・・ちゃんとそこに生きているか (かごめ・・・!) かごめが・・・ ぬくもりがそこに在るか・・・ 犬夜叉はすぐに病室に戻り かごめの手を握った・・・ (あったっかい・・・) イキテル。 犬夜叉は何度も確かめる・・・ (アッタカイ・・・。イキテル・・・) 手の温もりが 伝える・・・ ・・・かごめが生きているよ・・・と・・・ 生きている 生きている それだけで それだけで・・・ 満たされる・・・ 「・・・かごめ・・・」 安堵して・・・ しすぎて・・・ 涙が出そうだ・・・ かごめが此処にいるから 生きているから・・・ 「かごめ・・・」 眠るかごめ・・・ 「・・・。オレを・・・一人置いていかないでくれ・・・」 ”ばあちゃん!!ワシ置いていかんといてくれぇ!!” 「頼むから・・・。頼むから・・・。オレを置いていくな・・よ」 ”ばあちゃん!!ワシのばあちゃん・・・” あの・・・ おじいさんの叫び・・・ 今の犬夜叉なら分かる・・・ 「オレを・・・一人にしないで・・・くれ・・・」 かごめの手を握る犬夜叉の手に・・・ 雫が落ちる・・・。 死ぬということは 体が消える そして遺される人の心も・・・ 死ぬ・・・ 「・・・かごめ・・・。一人に・・・しないでくれ・・・ 約束・・・だぞ・・・」 何度も何度も何度も・・・ かごめに呟く・・・ 額の汗を拭いながら・・・。 (犬・・・夜叉・・・) 犬夜叉の呟きが・・・かごめに微かに聞こえて・・・。 夢の中で・・・。 「犬夜叉・・・」 かごめは目を開けた・・・。 (あれ・・・?ここ・・・何処?) 見慣れない風景。 川原にいる。 それに・・・。なんだか視線が低いような。 (えっ) 水溜りに写った自分の姿。 (10歳の・・・私!?) 白いワンピ姿。10歳のかごめが そこにいた・・・。