居場所シリーズ 「うたた寝天使」 3: 枯葉さえも生きる糧になる しわくちゃのTシャツ。 何も無い部屋。 (部屋の汚さは変わらないのね) 「・・・」 りんごをかじる犬夜叉が・・・。10歳のかごめをじっと 睨んでいる・・・。 (な、何よ。不貞腐れれる時代だからって 負けないわ!) かごめもじっとにらみ返した。 「・・・。おい。ガキ・・・。なんでオレの名前・・・。 知ってやがった?」 「え?」 「川原でぶっ倒れるとき・・・。オレの名前、 よんだだろう」 (あ・・・) 気を失うとき・・・犬夜叉の名前を読んだ・・・。 「あ・・・。えっと・・・」 「言え・・・。何で知ってた・・・」 ぐっとかごめを睨む・・・。 「・・・かっ勘よ!!勘!」 「は?いい加減なこと言うな」 「大体あんた!アタシが寝てる間、変なこと しなかったでしょーね!?」 「へ、変なこと!?ばっ。俺が。そんな趣味わねぇッ・・・。 って、てめえ何してやがる!」 かごめはカップラーメンのからや散らかっているゴミを 片付け始めた。 「まーったく。不衛生極まりないわね! 昔からかわってない」 「よけーなことすんな!お前、元気になったんなら 家、帰れよ」 かごめはぴくっと犬夜叉の顔を見た。 「・・・お母さんが・・・。家出しちゃって・・・。 うっううう・・・」 泣きまね少女、かごめ。 「・・・ん、んなこと知るか。なら警察でもいけ」 「うぅうううう。うわあああん!」 おお泣きするかごめ。 「・・・。わ、わかった。暫くなら置いてやっても いいだから泣くんじゃねぇ」 (えへへへ。大成功) ぺろっと舌を出すかごめ。 「・・・となれば掃除よ。掃除!」 姿かたちは10歳だが、本当は二十代うら若き主婦。 かごめはたちまち、犬夜叉の部屋を綺麗にした。 「ったく洗濯ものもためこむ!」 「うるせー!触るな!」 洗濯もして、まぁ本当にこぎれいになった。 「これでよし・・・!と」 自慢げに部屋を見回すかごめ。 「・・・勝手にいじりやがって・・・。やっぱ 放り出すか!?」 「いいじゃないの!アンタそんなフケツににしてちゃ、 好きな人だって離れてくわよ!!」 「!!」 今、犬夜叉の脳裏に浮かんだ”好きな人”は自分ではないとかごめは 察知。 「というわけで・・・。あ、そうだ。私名前 いってなかったわね。私はかご・・・。か、か、かごじゃなくって、かおる」 「かおる・・・?変な名前」 「あんたよりマシよ。じゃああたしは寝るから。 おやすみ」 かごめは犬夜叉のせんべい布団に横になってすぐに眠った。 「・・・なんでい・・・。このガキは・・・」 川原で倒れていたかごめを見つけたとき・・・。 何故か・・・ 助けなければいけないと想った ほおっておけないと・・・ (・・・ちっ。オレとしたことが・・・。面倒なモン 拾っちまったぜ・・・) 待っていたのはこんな子供じゃないのに・・・ 「桔梗・・・」 約束の時間に来なかった・・・。 (でも・・・また会えるさ・・・) 携帯のメールに・・・ 『来週・・・3時』 と桔梗からの伝言があった・・・。 「・・・。二股野郎」 「!!」 かごめの寝言に異常にびびる犬夜叉・・・ (な・・・なんだ!?ふ、二股ってことばに こんなにびびるんだ・・・(汗)) 犬夜叉はごろんと大の字になる・・・。 そういえば・・・。 誰かが隣で眠るなんて初めてだ・・・。 (かなめ・・・か。) 「変なガキ・・・。拾っちまった・・・」 一人じゃない夜。 犬夜叉は久しぶりにすうっと眠りについたのだった・・・。 不思議なうたた寝。犬夜叉の夢にも・・・。 「・・・犬夜叉!」 「ん!?」 パイプ椅子でうたた寝をしていた犬夜叉。 かごめの声にはっと起きる。 「かごめ・・・。ああ、もう朝か」 「うん。ごめんね。起こしちゃって・・・」 パジャマ姿のかごめ。 犬夜叉は時計を見た。 「9時・・・。かごめ朝飯は!?」 「食べた。看護士さんが持ってきてくれたから・・・」 「すまねぇ・・・。オレ・・・」 「いいのよ。犬夜叉、顔疲れてる・・・。一度 家に帰って休んで」 「何いってんだ。オレは側をはなれねぇって言っただろ。 それに・・・」 ”ばあちゃん・・・。ばあちゃん・・・” 昨夜の・・・ あのおじいさんの声が過ぎる・・・。 (かごめと離れていたくねぇ・・・。片時も・・・) 「犬夜叉・・・?」 「お前はオレに頼ってればいいんだ・・・。いや・・・ そばにいさせてくれ・・・」 犬夜叉はそっとかごめをだきしめる・・・ 「犬夜叉・・・?」 「かごめ・・・」 犬夜叉は昨夜のおじいさんのことをかごめに話した・・・ 「そんな・・・そんな・・・!犬夜叉、 お願い、隣の病室に連れて行って!」 犬夜叉はかごめを車椅子に乗せておじいさんの病室へ・・・。 「加賀さん(おじいさんの苗字)・・・」 おじいさんは手足を縛られていた紐は解かれていたものの 遠い目をして覇気のない顔で眠っていた・・・ 何度も暴れたのだろう。 手足に痣ができていた・・・。 「ひどい・・・どうして・・・」 「・・・爺さん・・・。暴れまくったから・・・」 「・・・加賀さん・・・。おばあちゃんに会いたかったのね・・・ 会いたかったのね・・・」 かごめは縛った紐のあとが残るおじいさんの手をそっと・・・ 握った・・・ 「・・・せめて・・・。夢の中で会えるといいね・・・」 かごめはその日から、おじいさんを訪ねるようになった。 「犬夜叉。悪いけど、売店に言ってお花、なんでも いいから買ってきて」 そう言って花を一輪、勝ってこさせて 「加賀さん・・・。ほら。おばあちゃんに 見てもいませんか・・・?」 チューリップの花をコップに いけて窓辺に置いた。 おじいさんはかごめの言葉にもぼんやり 聞いているだけだが・・・ 「・・・奥様も・・・見ていらっしゃるといいですね・・・」 微かに頷くおじいさん・・・ (・・・加賀さん・・・。元気になってなんて 言えません。でも・・・。それでも生きてください・・・) かごめの願い 犬夜叉には手に取るように 伝わってくる・・・。 屋上。 木枯らしが吹く。 枯葉がおくじょうまで舞い上がって・・・ 「寒くねぇか」 「うん・・・」 犬夜叉はジャケットをかごめに着せた。 「・・・加賀さん・・・大丈夫かな・・・」 「かごめ・・・」 「・・・加賀さんの痛みは・・・。加賀さんにしか 分からない・・・。どうしたら・・・いいんだろうね・・・」 枯葉が飛び上がる おじいさんの心はこの枯葉のように ちょっとでも刺激を与えたら 軽く破け散る そんな心にどうやったら 寄り添えるのだろう 「・・・よくさ・・・”私が死んだら”どうのって 言うけど・・・。簡単に言っちゃ・・・いけないね・・・」 「ああ・・・そうだな・・・」 「死んでもいいなんて・・・。絶対に言っちゃだめだ・・・」 ”絶対に駄目だよ!!” (え・・・) かごめの言葉・・・ 前にどこかで聞いた気が一瞬して・・・。 「犬夜叉・・・私は・・・生きる・・・。生きるよ。 生きられる最後の一秒まで・・・」 「かごめ・・・」 (・・・最後・・・だなんて言うな) 前向きな言葉でも 犬夜叉には・・・どこか遺言にも思えて・・・ 犬夜叉は腰をかがめて かごめの手を自分の頬に当てた。 「ちょっと・・・。どうしたの。なんか・・・感傷的 過ぎじゃない・・・」 「うるせぇ・・・」 「・・・でも私も・・・。なんか涙が出そう・・・。 どうして・・・だろうね・・・」 命の重さ 命の意味 考えても考えても 難しい課題 ただ・・・分かるのは 誰も 独りになりたくは無い 寂しさに耐えられない それでも いつか、皆、死をむかえるという現実・・・ 「犬夜叉・・・。満の声聞きたいな・・・。 電話してみようか」 「ああ・・・」 犬夜叉は静かに車椅子を押して中へ戻る・・・ 「あ・・・ストップ」 「ん・・・?」 かごめは車椅子のタイヤを指差す (あ・・・) 車輪の下 コンクリートの繋ぎ目に小さなたんぽぽが・・・ 小さな黄色。 寒い風が吹く中で 生き生きと映えている・・・ 犬夜叉はたんぽぽをさけるように少しタイヤを小回りさせて 再び押す・・・ 「・・・頑張って・・・。咲いていてね・・・」 小さな黄色 いずれそれも 舞い散る枯葉のように朽ちてしまうのだろう。 でも・・・ 枯葉はやがて新しい土の肥やしとなって また新しい花のベットになる。 消える命 新しい命に繋がっている ”絶対死んでもいいなんて・・・言っちゃ駄目” 限りある命なら最後まで精一杯生きることが 務めだから・・・ チュンチュン。 (・・・私・・・。目玉焼き作ってる(汗)) かごめ。またまた夢の世界。 犬夜叉の古いアパート。 寂れたガス代で、フライパンではなく 唯一あるアルミ製の鍋で焼いている。 「ちょっと・・・!起きなさい!二股男!」 「!?」 二股という言葉に異常に反応して18歳の犬夜叉、御起床。 「ご飯つくったから早く食べて!休みだからって ごろごろしてんじゃないわよ」 「て、てめぇ。ガキのくせに何母親面してんだ」 「うるさいわねぇ!屁理屈言わないの!」 犬夜叉の布団を剥ぎ取った。 (押しかけ女房か!このガキは!) カッと思わず手を上げるが (・・・。が、ガキに手をあげるほどオレはガキじゃねぇ) と押し込める。 (今日は遅刻しねぇようにな) 「・・・。ちょっと出てくる」 「え?あ、ご飯は?」 犬夜叉の顔をちら見。 (・・・逢引ね。顔見りゃわかるわよ) かごめ、こそっと尾行。 (・・・私・・・。夢の中で何やってんのかな(汗)) 案の定、犬夜叉は桔梗との約束の地、桜並木の川原に。 (あ・・・。犬夜叉だ・・・) すると桔梗が・・・ 先に来ていた・・・ 犬夜叉の顔が変わる・・・ 大人の男の顔・・・ 二人はしばし見詰め合って・・・ 静かに近寄った・・・ 微妙な距離・・・ 手を伸ばせばつかめる距離 (・・・) 緊張感ある距離 これが 二人の心の距離なんだ。 触れ合えそうで 触れ合えない・・・。 片言の言葉を交わして・・・ 互いにひめたる想いを 高まらせていくんだ・・・ それが・・・ (・・・二人の・・・愛のカタチ・・・) 自分には絶対に向けてくれない 大人の”顔” (・・・。分かってたけど・・・。 やっぱり・・・。辛いな・・) 夢の中まで、自分との違いを見せ付けなくても・・・ (神様。恨むよ・・・。早く現実に戻りたい) 目が覚めたら 優しい犬夜叉が待っていてくれる。 早く目覚めたい。 だがその日の夢は少し長めだ。 「お、おかえり」 「お、おう・・・」 (・・・。く、くち紅・・・) 夕方。帰って来た犬夜叉。 薄っすらと口紅がついていることにかごめは気づく。 「あー。口紅ついてる。”恋人”とイッショにいたんだ、キスしたんだ」 「う、うるせぇ!!ガキが干渉すんじゃねぇよッ!!」 「ふんッ!!ガキはどっちよバーか!!!」 (・・・。キス・・・してたんだ) 夢の中とはいえ。 ショックは隠せない。 (疲れた。こんな夢。もっといじめてやる) 「ねぇねぇ。お兄さんの恋人ってどんな人?」 かごめは犬夜叉の本心を聞き出そうと詰問することにした。 「どこまでいってるのー?キス以上のことはー?」 「ばっ。ガキがなにいってんだ!!」 「”ガキ”が出来るよーなこととかしてないでしょーね」 ドンッ!! 壁に拳を打ち付ける・・・ かごめはビクっと肩をすくめた。 「・・・いい加減にしねぇと怒るぞ!!オレとアイツは そんな軽い付き合いじゃねぇ!!」 ”軽い付き合いじゃねぇ” (・・・知ってるよ・・・。そんなの・・・そんなの・・・) こんな夢をみるほどに かごめは目尻にあふれそうになった涙をグッと引っ込めた。 「・・・お前にはカンケイねぇ・・・」 「・・・。駆け落ちでもするの・・・?」 「・・・!」 どうしてかごめがここまで知っているのか 犬夜叉はただ驚くばかりで・・・ 「お前・・・どうして・・・」 「別に・・・。女の勘よ・・・。駆け落ちか・・・。 すごいね」 「・・・駆け落ちなんかじゃねぇ・・・。 桔梗は言った・・・」 ”全てを捨てる・・・お前と生きる未来のために” 「・・・オレはアイツと一緒に生きるんだ。 アイツの全てを受け止める・・・」 (・・・そんな顔で・・・熱い台詞連発しないでよ・・・) 犬夜叉らしくない でもこれが本当の犬夜叉なのかもしれない 「・・・。アイツのためなら・・・。 どうなってもいいさ・・・。俺の命もアイツのものだ・・・ 死ぬときも一緒だ・・・」 「そんな簡単に言わないでよ!!」 「あ・・・?」 「・・・簡単じゃ・・・ないんだから・・・。 生きることも・・・。死ぬことも・・・」 感情が噴出す。 夢の中だろうが 犬夜叉のあの言葉だけは受け入れられない 死ぬなんて・・・ 「・・・お前・・・」 「・・・。生きてなきゃ・・・。生きてなきゃ・・・。 駄目なんだから・・・」 自分を選ばなくてもいいから 死ぬなんて選択だけはしないでほしい 言わないで欲しい 「・・・泣くんじゃねぇよ・・・。わかったから・・・」 「・・・。もう寝るね・・・」 (・・・。夢の中まで・・・泣きたいわけじゃないけど・・・。 やっぱりこの夢は切ないよ・・・) 桔梗しか見えていない犬夜叉。 二人で死んでもいい放つくらいに・・・ (犬夜叉・・・) 早く醒めて。 現実の犬夜叉に会いたい・・・。 「・・・かごめ・・・」 病室。現実の世界で 眠るかごめの頬に伝う涙・・・。 「・・・なんか・・・。悲しい夢みてるのか・・・?」 夢の中でももしかしたら また自分が・・・ (かごめ・・・) かごめの手を握る・・・。 「オレは・・・、ここにいるからな。絶対いるからな・・・」 明日、かごめが目覚めたら・・・ おじいさんのチューリップが咲いたことを教えてあげよう。 かごめが笑顔になりますように・・・ 「かごめ・・・」 犬夜叉はかごめの涙を拭って早く朝が来ることを 願ったのだった・・・。