居場所シリーズ うたた寝子守唄 最終話 咲いたチューリップ かごめが入院して一週間。 検査の結果が出た。 「・・・。少し・・・血流が弱くなってますが・・・。 まぁ・・・心配ないでしょう」 心臓の方の結果が気になっていたかごめと犬夜叉。 医者の言葉にほっと胸をなでおろした。 「ですが肺炎の方が・・・。ほら。まだ少し 炎症が残っているようです」 レントゲンをさす医者。 「もう少し・・・。抗生物質の投与を続けましょう。 熱も下がっているようですしあと2、3日すれば通院で結構です」 入院が数日伸びたがとりあえず経過は良好とのことで 一安心。 「かごめ。よかったな」 「・・・うん」 診察室から出てきたが・・・。かごめの顔が浮かない。 病室に戻っても・・・ 「どうした。かごめ。結果は良好だって・・・」 「・・・」 ”オレは桔梗のためなら死ねる” 昨日の夢・・・ 夢だと分かっていても モヤモヤして・・・。 「ねぇ。犬夜叉・・・。もしさ。時間が戻せるとしたら何したい?」 「なんだよ」 「桔梗と・・・”あの川原”ですれ違わなかったら・・・。 どうなってたかな」 かごめの突然の問いに犬夜叉は混乱。 「・・・何言ってんだ・・・。もう過ぎちまったこと言っても しかたねぇ。オレと桔梗はそういう運命だったってことだ」 「そんな・・・。簡単なものなの?」 「大事なのは”今”だろ・・・?かごめ。お前らしくないぞ そんな考え・・・」 犬夜叉ははっきり断言する。 そう言ってくれるのは嬉しい。 だけど・・・。 「・・・。ごめん・・・。なんかちょっと変な夢・・・みちゃって・・・」 「・・・どんな夢だ・・・?昨日・・・。泣いてたぞ・・・」 「・・・」 いえない。 犬夜叉と桔梗の過去の夢だなんて。 「・・・。なんだかしらねぇが・・・。かごめ。 オレはもう未来しかみてねぇ・・・。お前と出会って・・・。 満が生まれて・・・。その”今”が一番大事なんだ」 「犬夜叉・・・」 「・・・本当だ・・・。偽りない・・・」 (・・・そうよね・・・。今が大事・・・今が・・・) 大事な仕事も全部休んで 付きっ切りでいてくれる。 その犬夜叉を信じきれないなんて・・・ 「・・・なんか・・・。私まだまだだめだな・・・」 「かごめ・・・」 「全部わかってる。私の心の問題・・・。 わかってるの・・・。わかってるの・・・」 イブの日のことにしても あの夢のことにしても 桔梗の陰に怯えているのは犬夜叉じゃなくて 自分・・・ 「かごめ・・・」 ”本当の嫉妬って言うのはね・・・。相手への妬みを通り越して 自分が壊れていくんだ・・・。壊れて・・・” いつか、珊瑚に言われた言葉が過ぎった。 「かごめ・・・オレ・・・オレはどうしたら・・・」 「・・・。チューリップ・・・。見せてもらおう・・・」 隣のおじいさん・・・ チューリップが咲いて・・・ かごめは点滴をぶらさけて、自分の足で おじいさんの病室へ・・・ 「こんにちは・・・加賀さん」 「・・・」 おじいさんは依然、ぼんやりと窓の外を眺めていた。 「チューリップ・・・。咲きましたね・・・」 「・・・」 「・・・奥様・・・。きっと・・・。きっと 奥様が咲かせてくれたんですよ・・・」 「・・・。ばあちゃんが・・・」 季節外れのチューリップ・・・ 見えない魂が咲かせてくれた おじいさんに通じる言葉かどうかわからないけれど・・・。 「・・・私は信じます・・・。きっと奥様が加賀さんのために 咲かせてくれたんだって・・・」 「ばあちゃん・・・」 「信じます・・・」 信じます・・・ それはおじいさんに言ったのか それとも・・・ (私も信じなくちゃ・・・) 心の闇。 立ち向かえるのは自分だけ・・・ 「じゃあ加賀さん・・・。また・・・来ますね・・・」 おじいさんに微笑むかごめ・・・ 微笑み返しては暮れないけれどきっとかごめの声は 届いている・・・ 病室を出るかごめ・・・ 「きゃ・・・」 「かごめ!」 よろめくかごめを受け止める犬夜叉・・・ 「だいジョブか!?」 「うん・・・。ちょっとふらっとしただけ・・・。 平気。一人で歩けるから・・・」 「でも・・・」 「お願い・・・。一人で歩かせて・・・。 自分の力で・・・」 犬夜叉の腕を払い・・・廊下の壁をつたい・・・ 一歩・・・一歩・・・歩く・・・ そうだ。 かごめは寄り添って ただ側にいるんじゃない 転んだときこそ、手を差し伸べてくれて 倒れても自分で起き上がれまで見守って そして 待っていてくれた・・・ (かごめは・・・。いつもオレにそうしてくれた) ただ何もかもしてあげるだけが愛じゃない 「ガンバレ・・・。もう少しだ・・・」 「・・・うん・・・」 一歩一歩・・・ 見守るという愛を 待つという信念で 人を想うおう 「・・・っと・・・ただいま・・・」 ベットにゆっくりと腰を下ろすかごめ・・・ 点滴の管が揺れた・・・。 そっと・・・犬夜叉の手を握るかごめ・・・ 「・・・。よくがんばたな・・・」 「・・・ちょっと大げさだったかな・・・」 「そんなこと・・・ねぇ・・・。お前は頑張った・・・。 いや・・・いつも頑張ってる・・・いつもいつも・・・」 痛々しいくらいに・・・ 時には雨の中で 時には雪の中で 待ち続けて 励まし続けて・・・ 何度も何度も 泣いて笑って・・・ 「・・・かごめ・・・」 ぎゅっ・・・ 「犬夜叉・・・」 「いいから・・・。いいだろ・・・?」 抱きしめる・・・ かごめの心も体も・・・ 今まで・・・辛い思いばかりさせてごめん・・・ 寒かったろ・・・ 寂しかったろ・・・? 言葉の代わりに・・・ 目一杯に 抱きしめる・・・ 「・・・犬夜叉・・・」 「・・・出会ってくれて・・・。ありがとう・・・」 (犬夜叉・・・) 深い深い想いから搾り出された声は・・・ かごめの背中も 手も ・・・心も包む・・・ 「犬夜叉・・・」 (犬夜叉を・・・信じたい・・・!) たとえ昔の夢を何度も見ようとも たとえ他の誰かの影がちらついても 信じてる・・・。 犬夜叉とのこれからの未来も・・・。 抱き合ったまま動かない二人・・・。 (け・・・検温ができないわ・・・汗) ドアの外の看護士が頬を染めて・・・検温のタイミングを 伺っていたのだった・・・。 その夜・・・。 かごめはまた・・・夢を見た・・・ 「くそ・・・。どうして来ねぇんだ・・・桔梗・・・!」 あの川原で桔梗を待つ・・・。 一つ・・・ボストンバックを持った犬夜叉が・・・。 「くそ!!くそ!!桔梗!!なんでこねえんだ!!」 日が暮れても 桔梗の姿はなく・・・。 携帯もメールも駄目・・・。 犬夜叉は打ちひしがれ・・・ 川原の石にこぶしを打ちつける・・・ 「・・・結局・・・。俺たちの約束は・・・嘘だったのか・・・?」 (ちがう・・・。ちがうよ) 犬夜叉の背中をそっと撫でる10歳のかごめ・・・。 「・・・なんだ・・・てめぇ・・・。来てたのかよ・・・」 「・・・。裏切ってなんてないよ・・・。桔梗は・・・」 「ガキになにがわかる・・・!!」 「わからないけど・・・。裏切ってなんか無いよ・・・!!」 今・・・。 桔梗は事故にあって・・・ 病院にいる・・・ 犬夜叉にそういったら信じてくれるだろうか・・・? 「・・・結局オレとの事は・・・。ただの気まぐれだったんだ・・・。 天下の・・・月島桔梗だもんな・・・」 「・・・ばっかじゃないの。拗ねちゃってさ」 「・・・何?」 「すきなんでしょ!?一緒に死んでもいいって 想うくらいにすきなんでしょ!?どうして信じることやめちゃうんだよ!」 「ガキになにがわかるってんだ!!オレはもう二度と 人なんてしんじねぇ!!」 犬夜叉の怒鳴り声が川面に響く・・・。 「信じてよ・・・。きっと・・・きっと これから犬夜叉を信じてくれる人ができるから・・・」 「わかったような口きくんじゃねぇ!ただの家出娘が」 「・・・人を・・・信じることを・・・捨てないで・・・。 お願い・・・。お願い・・・」 ポチャン・・・ 川面に落ちる・・・ かごめの涙・・・ (な・・・なんで泣く・・・誰のためにないてんだ・・・?) 「・・・お願い・・・犬夜叉・・・お願い・・・」 「う・・・。うるせぇ・・・。お、お前・・・。 い、いい加減もう家に帰れ・・・。お前こそ親にいんだろ・・・?」 「・・・。そうだね・・・。帰らなくちゃ・・・。 犬夜叉が待ってる・・・」 (え?) 「じゃあね・・・。犬夜叉・・・。また会おうね」 パシャン・・・ 10歳のかごめは・・・ ゆっくりと川に入っていく・・・ 「あ、お、おいっお前ッ」 (え・・・っ) 10歳の少女が・・・ 一瞬にして大人の女性に・・・ (き・・・桔梗・・・?じゃ、ねぇ・・・) 「犬夜叉・・・。また・・・会おうね・・・」 「あッ・・・!」 ふわ・・・っ 水の中に・・・ 消えた・・・ (・・・誰だ・・・。あれは・・・あれは・・・) ”犬夜叉・・・” 「かごめ・・・!」 「犬夜叉・・・」 チッチッチ・・・。 時計の秒針・・・。 かごめと犬夜叉は同時に目を覚ました・・・ 「・・・。犬夜叉・・・」 「かごめ・・・」 ”どんな夢・・・みてたの?” そんな質問はいらない。 すぐ・・・。わかった。 同じ夢をみていたことを・・・。 「・・・。あーあ・・・。夢の中でも・・・ 切ない想いさせられちゃったよ・・・ふぅ」 「う・・・。ゆ、夢だろ・・・(汗)」 「うん・・・。夢・・・。でも・・・。見てよかった」 「え?」 かごめは微笑んで犬夜叉の方に体を向けた。 「・・・少し・・・。心の整理がついた気がする・・・。 夢の中で・・・。桔梗も犬夜叉も・・・。ただ・・・ 一生懸命だったんだなって・・・」 「かごめ・・・」 「だから私も・・・”今”の信じなきゃ・・・。 一生懸命生きなきゃ・・・。生きなきゃいけない・・・」 心を死なせてはいけない 心を生かせて 前を向いていかなければ・・・ 「・・・あ・・・。犬夜叉・・・。咲いてる・・・」 窓辺のチューリップ。 小さなつぼみだが少し開いていた・・・ 「犬夜叉・・・。きっと加賀さんの奥さんが・・・ 咲かせてくれたんだ・・・ね・・?」 「・・・ああ・・・そうだ。オレも信じる・・・」 見えない魂・・・ 信じれば 其処に確かに居る存在になる・・・。 「・・・犬夜叉・・・。手・・・繋いで・・・」 「ああ・・・」 繋ぐ手・・・ もうあの夢は見ないだろう・・・ 確かな手の感触が一番大切だということを 知ったから・・・。 「・・・。かごめ・・・」 「うん・・・?」 背中からそっと・・・ かごめを包む・・・ 「・・・ありがとうな・・・。結婚してくれて・・・ ありがとう・・・」 「うん・・・」 かごめに言いたいこといっぱいある・・・ これから伝えていこう。 少し照れくさくても 愛しい気持ちを 感謝する気持ちを・・・ 「かーたん!!」【かーちゃん!!】 かごめが退院の日。 ずっと珊瑚に預けられていた満が、2週間ぶりにかごめに会った。 「かーたん!かーたん!」【さみしかったぜー!!ちくしょう】 よほどかごめが恋しかったのか抱きついてはなれない。 「ごめんね。満・・・」 「かーちゃん・・・いっちょ。いっちょに。とーたんと かえる」【帰ろうぜ。いえに・・・】 よちよち歩きの満。 病室を出てると犬夜叉とかごめの間にはいって 手をつないだ。 「いっちょ。みんないっちょ」【みんな一緒だな♪】 嬉しそうににこにこして・・・ 「そうだな。家族3人・・・。ずっと一緒だ」 これから3人。 ずっと一緒に生きていく・・・。 「あ・・・。加賀さん・・・」 車椅子に乗せられたおじいさんがかごめの前に止まった・・・ 「花・・・ありがとう・・・。ばーちゃんの花・・・」 「加賀さん・・・」 「ばーちゃんの花・・・ありがとう・・・」 かごめに何度も頭を下げてお礼を言う・・・ かごめはおじいさんの目線まで腰を下ろしてそっと 手を握った。 「こちらこそ・・・。加賀さん・・・。 どうかお体を大切に・・・」 おじいさんはこのときはじめて・・・ 笑ってくれた・・・。 「・・・爺さんよかったな・・・」 「うん・・・」 病院の玄関を出る・・・ 降っていた雪もやんで 太陽が顔を出していた 「冬の太陽・・・。私好きよ・・・」 「ああ・・・。お前みたいだな」 「え?」 「・・・凍える体をそっと・・・温める・・・」 犬夜叉は精一杯かごめを誉めたつもりだ。 「や、やだ・・・。誉め言葉。それ?」 「き、決まってんだろ///」 「ふふ。ありがと」 「お、おう///」 お互いをチラ見して頬を染める二人。 そんな両親に満は・・・ 「かーたんとーたんらぶらぶ」【子供の前でいちゃついちゃってまぁ〜☆】 両親の間のちっちゃな天使。 手をつないでスキップしています。 「いっちょいっちょ。ずーっといっしょ☆」【家族仲良しだな!】 「うん・・・。ずっと一緒・・・。幸せになるって 信じながら・・・ね」 肌寒い風が吹く。 だが3人は強く手をつないで 歩いていく 自分達の家に 未来に・・・ 幸せは繋ぐ手の中にあることを 信じて・・・ 3人の背中を 冬の太陽が暖かく優しく 照らしていたのだった・・・ FIN