居場所シリーズ 「タンポポの綿毛が舞い落ちて・・・ 〜遠い空〜」 第七話  今という時を生きてる 犬夜叉の席は会場の一番奥。 隣に陽子が座っている。 小さな町のホール。 舞台から遠目だが、犬夜叉の姿は分かるかもしれない。 (・・・どんな顔で・・・聴くんだろう・・・) 昔の恋人の 曲を どんな気持ちで (お互い・・・姿を見つけたらどうするの・・・?) 陽子にはこの先に何が起こるのかわからない。 (いいの・・・。昔のことは・・・。それより・・・ 今日は・・・。彼のそばに私は・・・いられる・・・) 昔の恋人より 妻であるのかごめより (誰より・・・近くに・・・) 「おー、始まったぞー」 静かに幕があがる・・・。 (・・・) 犬夜叉はただ黙して見つめている。 指揮者の横に メインであるバイオリン・桔梗の姿がそこに・・・。 白と赤のラインがはいったシンプルなドレス 指揮者が桔梗に合図をおくる同時に 激しい弦の奏でる音色が会場に響き渡り始めた・・・。 一曲目の題名は「運命の恋」 (・・・なんて・・・。激しくて・・・。 そして・・・哀しい・・・) 抑揚があり、激しさと刹那さを前面に押し出すような 音色に・・・ (・・・。この女性は・・・きっとこういう愛が・・・ 欲しかったのね・・・) 二曲目は「花の色」 一曲目とは違い、ゆったりとした、静かだがきらきめきのある 音色だ。 まるで・・・ (花畑をかけめぐる子供の顔が浮かぶ・・・) 気がつけば・・・陽子の瞳から涙が・・・。 (なんて・・・奥深い・・・) 陽子がちらりと犬夜叉の顔を見た。 ただ・・・。 じっと舞台を見据え、演奏が終わると他の客と同じく拍手を 送っていた。 (・・・。どんな・・・恋だったんだろう・・・。 そしてどんな・・・気持ちだったんだろう・・・) 想う人の昔のこと。 知りたい。 知りたいという思いが陽子を突き動かしていた・・・。 コンサートが終わり・・・。 「あの・・・」 「どうかしましたか?」 「・・・。月島さんに・・・。あって・・・行かれないんですか・・・?」 「・・・」 犬夜叉はしばし沈黙して・・・。 呟く・・・。 「・・・。オレはただの”観客”として来ました」 「でも・・・。避ける事だって・・・」 「そりゃ・・・見に来ない選択も考えました。でも それはただ、小難しくなることから”避ける”だけだと思ったんです」 「・・・」 「もう・・・。皆・・・別々の道を歩んでるんです。例え、会ったとしても・・・ 1ファンとして応援するだけです。オレにはただ一人だけだから・・・」 はっきりと犬夜叉は言い放った。 「・・・私には・・・分からない・・・。どうしてそんなに・・・」 「・・・」 犬夜叉は困惑した様子の陽子を会館の外に連れ出した。 ベンチに座り、缶コーヒーを渡す。 「飯田さんは優しい人ですね。オレのことを気遣って くださって・・・」 「い、いえ・・・」 「確かに昔は色々ありました・・・。でも・・・だからこそ 今が在るんです・・・。本当に大切なものを・・・オレも桔梗も見つけられた・・・」 (なんて・・・やさしい瞳・・・) 「・・・。それは・・・。奥さんのおかげ・・・ですか?」 犬夜叉は静かに微笑んだ。 (・・・奥さんを・・・とても信頼して・・・。感謝してるんだ・・・) 犬夜叉の微笑みに・・・。 陽子はかごめと犬夜叉の固い絆を感じた・・・。 (昔のことを”避けないで”向きあって 奥さんへの想いを貫いてるんだ・・・) 「家族の絆ってすごいな。私も・・・自分の家族と向き合わなくっちゃ・・・ なんて。すぐには無理だけど・・・」 「飯田さん・・・。大丈夫・・・飯田さんならきっと・・・」 優しい犬夜叉のまなざしに陽子の心が踊る。 (・・・彼と・・・。一瞬だけど心が繋がった・・・ でも・・・彼の隣の女性はただ一人だけ・・・) 「犬夜叉さんたち家族に愛のパワーに圧倒されちゃった。 ふふ」 「・・・飯田さん・・・。ありがとう」 「それは奥さんに言ってあげてなくちゃ。きっと 本当は気にしてる・・・」 「・・・」 その頃。 かごめは・・・ (今頃・・・桔梗のバイオリンを聴いてるのね・・・) 洗濯物を干しながら 空を見上げていた。 割り切っている。 切なさがないとはいわないけれど (もう・・・みんな大人・・・。私は犬夜叉を信じてるだけよ・・・) もう泥沼な三角関係は卒業した。 (桔梗は犬夜叉の心の一部・・・。それを受け入れたのは私だもの) PPP! そのとき。 犬夜叉からのメールの着信音。 そこには一文章・・・。 携帯のメールに 『オレを信じてくれて。ありがとう』 そして最後に・・・。 『何があってもオレには絶対お前だけだ』 (犬夜叉・・・) かごめは携帯をぎゅっとエプロンの胸元で 両手で握り締めた。 ・・・本当は嫌だった ・・・不安だった ・・・気持ちがぐちゃぐちゃしていた。 正論とか理屈とか抜きにして・・・。 それを全部吐き出せばすんだかもしれない。 けど・・・ ”今までの痛みを無駄にしたくない!” (・・・明日からまた笑顔で・・・。犬夜叉の帰りを待っていられる・・・) 痛みはなかなか強さには帰られないけど・・・ ・・・信じ合う気持ちを宝物にはできる・・・。 確かな信頼関係を感じられたら かごめは満たされる。 生きていける。 切ない生傷は今も疼いて 泣きたくなるけれど・・・。 ”今を信じて生きよう” かごめが見出した応え。 ・・・生きていこう。 今という時間を・・・ かごめは顔を上げて子供達の夕食の準備を始めたのだった・・・。 ※ (・・・かごめに会いたい) 久しぶりに聴く桔梗のバイオリン。 それはすでに哀しい初恋の音色ではなく、 懐かしい初恋の音色に変っていた。 (こうして穏やかな気持ちでいられるのも・・・。全部 かごめのおかげだから・・・) 過去を幸せに変えてくれたのはかごめ。 (・・・会いたてぇ・・・会って・・・○△×■) 「・・・犬夜叉さん」 「!!!い、いい飯田さん」 ちょっとまずい妄想をしていたためかなり挙動不審に驚いた犬夜叉。 「どうかしたんですか?」 「いえ・・・」 「奥さんに会いたい・・・とか」 「えっ?」 「ふふ。分かります。分かりやすいもの」 携帯の待つ受け何度もチラ見、目撃されておりました。 「・・・飯田さんには適わないな」 「ええ。恋愛面では貴方よりハードな経験してますから」 「・・・はは(汗)」 「何かあったら私になんでも相談してください。 聴くだけならいつでもOK!奥さんへの愛でもなんでも聞きますから!」 「・・・そ、そこまでは(汗)」 「ふふ。冗談ですよ。ご家族・・・。奥さん大切にしてあげてくださいね!」 「・・・ど、ども///」 ぺこっと照れくさそうに頭を下げる。 そんな犬夜叉の態度に 痛みが走るが・・・。 (仕方ないわ) 始まってもない恋を断ち切って 切ないけれど 人と人の絆の強さを知った。 (・・・人の心が壊れるような恋愛に何が残るか 私が一番知ってる) 父が母を裏切った。 父を恨んだ。 うらんでうらんで・・・ (嫉妬や妬みで生きていけるほど・・・。 強くない・・・。疲れるだけだ・・・) ・・・世間を憎んだ・・・ けど・・・ 少しそれは やめてみよう・・・。 陽子は空を見上げた。 「ホント・・・優しいお月様だわ・・・」 犬夜叉、かごめ・・・皆を ”今”という時を生きる皆に優しく光り輝く 満月だった・・・。
この話は・・・。何度も書き直しました。ある意味、トラウマとの闘いで・・・(汗&涙)
けど原作では 召されましたが、この話の中では桔梗は”生きて”いる設定である以上、いつかどこかで会ってしまうかも知れない。
なら、”避ける”ということはやっぱり 逃げになる気がして・・・。
というわけで、昔の痛みに塩を塗るみたいな 感じなったかもしれませんが(汗)逃げちゃ駄目だって気持ちで犬かご二人の絆の強さを書きました。
今後も こんな感じで二人の絆の再確認の作業みたいな感じに書いていきたいのでよろしくおねがいします。