居場所シリーズ読みきり編 「イヴの奇跡」 5:信じてる 待ってる 「・・・24にち・・・か」 日めくりカレンダーめくる犬夜叉。 ・・・手紙はかごめに届いただろうか。 ・・・かごめは来てくれるだろうか・・・。 (いや・・・。かごめが来てくれなくてもおれは行く。 そしてプレゼントを渡す・・・) かごめと満へのプレゼントを手に・・・。 犬夜叉はそのまま仕事に出かけた。 待ち合わせの時間は午後6時。 (・・・一目でいいからかごめの顔が見たい・・・) 影からでいいから一目・・・。 犬夜叉は逸る気持ちを抑え仕事に励む。 一方かごめは・・・。 「ふぅー。冬ってお洗濯物乾かないから 困るよね」 パンパン。 朝からたまった洗濯物を干して精を出すかごめ。 「ね、ねぇかごめちゃん・・・。今日・・・どうするの・・・?」 「・・・」 重たい沈黙・・・。 「・・・。そうね・・・、雪が降ったら・・・。 行こうかな・・・」 だが、イヴなのに今日は朝から晴天。 小春日和。 「・・・。かごめちゃん・・・」 (・・・。行きたいんだね・・・。でも・・・) 発作が治ったわけじゃない。 街の中で倒れでもしたら・・・。 「かーたん。とーたんは?」【とーちゃんそろそろ一人でさみしがってねぇか?】 「満・・・」 「さんたくろーしゅ、とーたんおねがい」【サンタクロースって野郎にオレ、とーちゃん 迎えに来いって頼んでやるよ】 と、もう一つのサンタクロースのぬいぐるみをかごめに渡す満。 「満・・・」 満を抱いて空を見上げる・・・。 (せめてお願い・・・。雪・・・降って・・・。 大切な人の下へいく勇気を私にちょうだい・・・) 晴天の空にかごめは祈る・・・。 そして夕方5時・・・。犬夜叉はあのクリスマスツリーに 向かっていた。 イブとあって、街の中はカップルや家族連れでにぎわっている。 (・・・かごめ・・・) 満と同じくらいの子供が通るたびに 重なる・・・ (・・・満・・・。アンパンマンのぬいぐるみ 欲しがってたよな・・・) 紙袋の中にはアンパンマンのぬいぐるみと (・・・かごめには・・・) 綺麗な包装紙の包み かごめへのプレゼントだ。 (・・・かごめ・・・。できることなら・・・。 直接渡したい・・・。でも・・・) かごめが来なかったらプレゼントをクリスマスツリーの前に置いて 帰ろうか・・・。 いや・・・ (一目でいい・・・。かごめの顔が見たい・・・) かごめの笑顔が 遠くからでいいから・・・ 「あははは。やっだぁ。 じゃじゃ丸とポロリ喧嘩してるよー満」 「ちゃちゃみゃる」【ねこのくせにかおでけぇな】 満と夕方からはいる教育番組『おかーちゃんと一緒』 を見ているかごめ。 (かごめちゃん・・・) 時計を見る珊瑚・・・。 (行かなくていいの?) そう声をかけてあげたいが・・・。 (・・・こればっかりは・・・誰も口出せないんだよね・・・) 希と夕食の用意をしにキッチンへ行く珊瑚。 「あ、こら満、リモコンいじっちゃだめよ」 「あー。ぼたん、おしゅ」【じゃじゃ丸飽きた。他のチャンネルいれてえぇな】 P! 満はめちゃくちゃにリモコンのボタンを押すと 夕方のワイドショーの生中継が・・・。 「街はすっかりクリスマスモード。家族連れや カップルでにぎわっています!」 アナウンサーの言葉どおり街中は 仲良く歩く家族連れで・・・ ”3人でクリスマス過ごそうね” そう約束した・・・ (犬夜叉・・・) ”桔梗・・・” 「・・・ッ」 あの声・・・ 犬夜叉のあの声が・・・。蘇る・・・ 「・・・ッ・・・ケホッ」 息苦しくなってきて・・・。 (でも・・・。でも・・・。私行かなくちゃ・・・!) 「かーたん!」【おうかーちゃんどうした!?】 「満・・・。おいで・・・。パパのところへいこう・・・」 「あい?!」【おい、なんでいかーちゃん。おい】 咳き込みそうになるがそれをのみこんで・・・ 満を抱いて・・・ かごめは飛び出していった・・・。 「かごめちゃん・・・?」 ドアに音に気づいた珊瑚・・・ かごめのブーツがなくなっていた・・・ (・・・かごめちゃん・・・) 一方・・・。 クリスマスツリーのあるホテルへ行こうとした 犬夜叉。 その犬夜叉の前に現れたのは・・・。 「桔・・・梗・・・?」 「犬夜叉・・・なのか・・・?」 何年ぶりだろう・・・。 信号が赤になる・・・ 『クリスマスツリーの前で待ち合わせをした恋人達は幸せになれる』 本物の桔梗・・・。 犬夜叉は神を呪う。 (・・・。なんで・・・なんで”今”会うんだよ・・・?) 「ひさし・・・ぶりだな」 「あ・・・ああ・・・」 変わらない声・・・。 「家の物に聞いたらここだと・・・」 (楓ばばあのやろう!なんでいいやがったんだ) 「・・・犬夜叉・・・。少し・・・。話がある・・・。ちょっといいか・・・?」 「え・・・?」 「頼む・・・」 切羽詰った桔梗の声に・・・。 犬夜叉は断れ切れずに・・・ 二人はホテルに消えていく・・・。 ホテルの前の信号を渡ろうと赤信号を待つかごめ。 「犬夜叉・・・!ハァハァ・・・」 かごめは急いでホテルの前のクリスマスツリーへと走る。 横断歩道を渡ればすぐに・・・。 (え・・・!?) 横断歩道の向こう・・・。 ホテルへ入っていく桔梗と犬夜叉の姿を・・・見てしまった。 今度は見間違いじゃない・・・。 確かに・・・確かに 桔梗・・・。 (嘘・・・嘘。嘘嘘嘘嘘・・・) かごめの全身が震え始める・・・ 場所は・・・ホテル・・・。 ホテル・・・ (・・・そんな・・・。嘘・・・) ”待ってる・・・。お前が来なくても待ってる・・・” 葉書の言葉・・・ 「ゲホ・・・ゴホッ!!」 激しく咳き込む・・・。 (ホテルでなにするの、どうするの、なんでなの・・・!?) かごめの頭の中で 抱き合う犬夜叉と桔梗の姿が・・・。 ”犬夜叉・・・” ”桔梗・・・” 抱き合って・・・ ベットに倒れる二人の姿が・・・。 「ゲホッ!!ゴホゴホッ!!!!」 咳が止まらない・・・ かごめは思わず座り込んだ・・・。 かごめはバックから携帯していた薬を 取り出して飲んだ・・・ 「ハァ・・・ふぅ・・・」 「かーたん!!かーたん!」【かーちゃん大丈夫か!?】 満が心配そうにかごめを覗き込む・・・。 「満・・・。ゴホ・・・ッ」 「かーたん・・・」【かーちゃん、心配だよ】 満は目に涙をためて心配・・・。 「満・・・。ごめんね・・・」 「かーたん・・・」【そんな顔しないでくれよ・・・】 (満が心配かけてしまって・・・。私ったら・・・) このままここで犬夜叉と待っていていいのだろうか。 (怖い・・・。やっぱり会うのが・・・怖い・・・!) 会ってしまえば 責めるだろう。 ”今度は本物の桔梗と何してたの・・・!?しかも あんな場所に入っていって・・・!!” きっとそう攻めまくるだろう。 クリスマスツリーの木下で。 (満にそんなところは見せたくない・・・) 帰ろう。 (やっぱり・・・。無理なんだ・・・。犬夜叉を 信じきれる力が・・・。私にはないんだ・・・) かごめは少し発作が落ち着いて・・・。 そっと満の手をとり帰ろうとした・・・。 「やッ!」 「え?」 だが満はかごめの手を払う・・・。 「満・・・?」 「・・・とーたん。いっちょ。かえる」【とーちゃんと一緒じゃねぇのか?】 「満・・・」 「とーたん。みちゅる、かーたん、みんないっちょ・・・。 いっちょ・・・!!」【とーちゃんあそこにいるんだろ・・・?待ってみようぜ。もう少し】 満はやっぱり涙と鼻水をたらして かごめに訴えた・・・。 「・・・満・・・」 そうだ・・・。 ここでまた帰ってしまったら。 帰っても 何の結論も出ない・・・。 このストレスから来る発作も乗り越えられない・・・。 「イヴはまだ・・・終わってない・・・。まだ・・・」 時計は午後6時・・・ せめて・・・明日になるまで待ってみよう・・・。 (信じよう・・・。犬夜叉を信じる自分を信じよう・・・) かごめはホテルの駐車場前の信号の下で 待つことにした・・・。 (12時を過ぎるまで・・・。頑張るんだ・・・。 でないと私は・・・。自分に負けてしまう・・・) かごめは手に息を吹きかけて 犬夜叉を待つ・・・ (信じるんだ・・・。) かごめの目の前を・・・ 親子連れが通り過ぎていく・・・ (・・・本当は・・・。私達も・・・。あんな風に楽しい クリスマスを迎えるはずだった・・・) 今頃は・・・ ケーキを囲んで夕食を・・・。 (犬夜叉・・・) 犬夜叉に会ったらもしかしたらまた 苦しくなるかもしれない。 でも・・・ (会いたい・・・会いたいから・・・) かごめは待つ・・・ 「へくちっ」【さみー。鼻がむずむずしてきやがったぜ】 「満・・・。寒い?お鼻ちーんして」 満の鼻からたらーんと鼻水がたれて、ティッシュでふいて 待つ。 「・・・満まで風邪ひいちゃ駄目ね・・・。 どうしよう」 「かごめちゃん」 珊瑚がそっとかごめに背中からショールをかけた。 「珊瑚ちゃん・・・!」 「ったくー・・・。心配かけないで」 「ごめん・・・」 「ほら。待ってるなら車の中で待とう。 二人して風邪ひいたら大変だ」 かごめと満は珊瑚の車で待つことにした。 ちょうど、クリスマスツリー正面が見える場所に 車は止めてある。 「それにしてもあの二股男、どこいったんだ?」 「さぁ・・・」 「帰るわけないよ。アイツは確かに二股でいつまでたっても 昔の女の匂い漂わせてるしょーもないやつだけど 真面目ではあるから」 (・・・。ほ、誉めてるのかな(汗)) だが・・・珊瑚が来てくれてかごめは本当に心強かった・・・。 (私を応援してくれる人が居る・・・頑張ろう) かごめは珊瑚の車の中で待つことにしたのだった・・・。 珊瑚の車の時計・・・ すでに7時半を回っていた・・・。 時間を気にしつつかごめは気持ちを立て直す。 (珊瑚ちゃんの前。しっかりしなきゃ) 「・・・珊瑚ちゃん。ところで弥勒さまはイヴに は帰って来られなかったの?」 「そうなんだよ。馬鹿亭主。仕事がはいってって・・・ ま、仕方ないけどね・・・」 (珊瑚ちゃん・・・) 本当は珊瑚も弥勒とイヴを過ごしたいはずだ。 (ごめんね・・・。私につきあわせちゃって・・・) そのとき。 pppp! 珊瑚の携帯がメール着信。 『愛する珊瑚と希へ。イヴは間に合わないけど 明日には戻れそうです。希、プレゼント買ったので まっててねー♪珊瑚には僕の体をあげちゃいます☆ じゃあね〜♪』 「・・・///な、何が僕の体あげちゃいます、だ。 助平サラリーマンめ・・・」 けれど珊瑚は笑顔が浮かぶ・・・。 「ふふ。よかったね。珊瑚ちゃん」 「・・・べ、別に・・・///」 (あ・・・。かごめちゃん・・・) しきりに窓の外に視線をやる・・・。 カップルの姿はあるのに・・・ 「あ・・・」 ふわり フロントミラーに白い粉雪が落ちる・・・。 「雪・・・。だね・・・」 ”雪が降ったら・・・。会えるかな・・・” ふと呟いてみたけれど・・・ 雪が降ってきても・・・ 犬夜叉の姿はない・・・。 9時がまわり・・・。 「あ・・・。満・・・寝ちゃった・・・」 「スー」【もう、オレは夢の中へ〜】 すやすや・・・ 「ったく・・・。犬夜叉の奴、ほんっとに一体どこに・・・」 「・・・。珊瑚ちゃん。私、やっぱり外で待ってる」 「え、で、でも・・・」 「満のこと、お願い・・・」 パタン! かごめは珊瑚に満を託して再びクリスマスツリーの前に 戻った。 (かごめちゃん・・・) 会うことに不安がまだあるだろうに・・・。 でもそれでも会いたいんだ・・・。 (犬夜叉・・・。お願い・・・。早く・・・来て・・・) "ホテルの中でなにやってるの!?" (信じてるから・・・。犬夜叉・・・) ”どうして出てこないの・・・。何やってるの・・・!!” 心の奥で聴こええる 闇の声。 この声に負けたら・・・ (・・・犬夜叉と別れるしかない・・・。だから・・・。 負けちゃ駄目なんだ・・・!駄目なんだ・・・!) 必死に言い聞かせる。 何度も 何度も・・・。 何してるんだろう 今頃二人は・・・? (お願い・・・。犬夜叉・・・早く来て・・・) 何度も願う。 だが・・・10時も回った・・・。 辺りには人もまばらで・・・ 11時を過ぎたときにはもう誰もツリーの周りにはいなくなった・・・。 「・・・」 信号の向こうのクリスマスの電飾は・・・ 赤、青、黄色 鮮やかに光っている・・・ それがやけに寂しく・・・ 切なく・・・ (犬夜叉・・・) ナンジカンモ ホテルで ナニシテルノ・・・? 「・・・ケホッ・・・。ゴホッ」 ぶつかり合う疑念と信念。 信じたくて でも信じ切れなくて。 「ケホ・・・ッ」 『ずっと待ってるから・・・』 かごめは咳き込みながら・・・ バックから犬夜叉から届いた葉書を取り出す・・・。 『待ってるから・・・』 (・・・。信じる・・・。信じるんだ・・・) 自分の中の 疑惑に負けないで (犬夜叉と結婚したって事は・・・。 相手の全部を信じるってことなんだから・・・) かごめは葉書をぎゅっと握り締めて待つ・・・ 待つ・・・。 待つ・・・。 雪が・・・ 肩に 頭に 積もっても・・・ (犬夜叉・・・) 待つ・・・ クリスマスツリーの・・・ 灯りが消えても・・・。 (犬夜叉・・・) 早く来て 来てくれるだけでいい 信じさせてほしい 信じられる可能性を残してほしい (犬夜叉・・・責めないから・・・。 お願い・・・来て・・・。早く早く・・・) ホテルの回転ドアを 見つめ続けるが・・・ (犬夜叉・・・。イヴが終わっちゃうよ・・・早く 早く・・・) デジタル掲示板の 時計が・・・ 午前零時を示した・・・ イヴは・・・ 終わった・・・。 雪のじゅうたんに・・・座り込むかごめ・・・ (どうして・・・どうして・・・ッ!) 『ずっと待ってる・・・』 そう書かれた葉書を・・・ ぐしゃ・・・っと 潰す・・・。 「犬夜叉・・・」 ぽた・・・。 雪に・・・ 沁み込む ・・・涙・・・。 「犬夜叉・・・どうして・・・どうして・・・」 ヤッパリキキョウとイッショナンダ 私は手の先も足の先までつめたいのに・・・!! あの二人は今頃 暖かい部屋で 互いのぬくもりを感じあって 私のことなんか忘れて 愛し合ってるんだ・・・!?? 「・・・わぁあああッ!!」 ドン!! 沸きあがった疑念を・・・ 叫びに変えて吐き出す 「かごめちゃん・・・!!」 満を抱いた珊瑚が駆け寄った。 (・・・。満・・・) 「大丈夫!?」 「うん・・・」 (・・・。満がいる・・・。満だけでいい・・) かごめは・・・静かに立ち上がり・・・ 珊瑚の車へ戻ろうとした・・・。 「かーたん」【かーちゃん・・・】 「・。満・・・」 珊瑚の腕から満を受け取る。 「かーたん・・・」【かーちゃん、どこいってたんだよ】 「さっき目、覚まして・・・。かごめちゃんが いないって気づいたらまぁ大泣きしちゃって・・・」 「んぁあ・・・かーたぁあん・・・」【かーちゃん】 かごめの顔を見るなり再びぐずりはじめる満・・・。 「よしよし・・・。ごめんね。満・・・」 「うぁああああん・・・!」【とーちゃんもいねぇし、かーちゃんも・・・! 寂しかったんだぞ!!】 「ごめんね・・・満・・・」 「うわぁあああああわん!!」【とーちゃんのやろう!今、どこにいんだ!!】 クリスマスツリーの前で・・・ 満は大合唱・・・。 「うえぇええええん!!わぁあああん!!」【かーちゃん泣かんじゃねぇよ!! とーちゃん!!寂しいんだぞ!!】 「なかないで・・・。満・・・」 満はまるで誰かに 呼びかけるように 泣く・・・ 今にも流れそうな涙をかごめはぐっと目のふちで止める。 自分まで泣いてしまったら・・・。 満はもっと傷つく・・・。 「・・・満・・・。ごめんね・・・。もう・・・ もう帰ろう・・・」 満をあやしながら・・・ かごめは珊瑚の車へ戻る・・・。 パタン・・・。 車にもどっても 満は泣き止まず・・・ 「うええええええん!!」【とーちゃん・・・!!】 「よしよし・・・。眠たいんだね。すぐ変えるから・・・」 必死にだっこしてなだめるかごめ。 「かごめちゃん・・・。もう少し・・・待ってみる?」 「・・・。ううん・・・。いい・・・。 満も眠たがってるし・・・。珊瑚ちゃんにも迷惑かけられないから・・・」 (かごめちゃんの方が・・・今にも泣きそうだよ) 珊瑚は奥歯を噛み締めながら・・・車のエンジンをかけ・・・ (犬夜叉の・・・阿呆!!) アクセルを踏んだ・・・。