居場所を探して 読みきりシリーズ
「イヴの奇跡」 第一話 衝撃
居場所シリーズ読みきり編
「イヴの奇跡」
1: 衝撃
約束したよね・・・?
ずっと一緒だって・・・。
私信じてる。
信じてるから・・・
※
「んぁああ〜♪」【散歩だ散歩だ】
乳母車で満が楽しそうに歌っている。
「ふふ。ご機嫌ねぇ」
大分肌寒くなった12月。
今日は久しぶりに晴れたので外出したかごめと満。
「あいあ〜。くりすましゅ〜♪」【クリスマスだぜ。うまいもんがたらふく食えるぞ】
サンタクロースのぬいぐるみを持って喜んでいる。
「今年のクリスマスは3人で過ごせるんだ。ふふ。
楽しいクリスマスになるといいね。満」
「あい!」【おうともさ!】
幸せなクリスマスをこのときまでは二人とも夢見ていた。
・・・でもそれは・・・
幻のクリスマスになる・・・
※
「ね、犬夜叉、イブはお休みとれるんだよね?」
「え、お、おう、た、多分な」
(・・・?)
犬夜叉の微妙な態度の変化に・・・
「ふ、風呂はいってくる・・・!」
かごめが疑いを持ったことを察知したのか犬夜叉はあわてて
その場を逃げた。
(何なのよ・・・)
今までとは違った態度にかごめは少しずつ不安が蓄積していく。
そのとき、犬夜叉の携帯のバイヴが震えた。
「あ・・・ど、どうしよう」
(・・・)
女の第六感とは鋭いものだ。
今、この携帯に犬夜叉の態度の秘密が隠されているのではと
勘が走る。
(駄目・・・。駄目よ。夫婦でも勝手に見ちゃ・・・)
でも・・・
あの犬夜叉の態度は今までとは違う。
しいて言うなら・・・
”桔梗と会っているときの顔”
に近い・・・。
(・・・そ、そんなことは・・・)
かごめの中で犬夜叉を信じる気持ちと疑いがぶつかり合う・・・。
ガちゃん
「あ・・・」
かごめの手から携帯が落ちて・・・開いた。
かごめは静かに拾う・・・。
その画面には・・・
『送信者 K・T』
と・・・
ポト・・・。
かごめの手から・・・。携帯が落ちた・・・
(K・・・T・・・)
そんなイニシャル
たった一人しか居ない・・・
(なんで・・・どうして・・・)
かごめの頭の中がぐるぐる回る・・・。
そりゃ・・・。
”彼女”と犬夜叉の絆は誰にもどうにもできない
でも・・・
(・・・隣にいていいのは・・・私だって・・・私だって・・・
信じて・・・)
自惚れじゃない・・・
家族として
妻として
認めてくれてたと
思っていたのに・・・
「かーたん・・・」【かーちゃん。どうしたんだよ・・・怖い顔で・・・】
「・・・!」
かごめの顔を心配そうに見上げる満・・・
「み・・・満・・・」
「かーたん・・・」【なんか、
かなしーことでもあんのか?なんかオレまでかなしくなってくるぜ】
(・・・そうだ・・・。私が混乱してちゃ駄目よね・・・。
満に心配掛けちゃ・・・。それに・・・きっと理由があるのよ。
桔梗と連絡取り合う何か特別な・・・)
”桔梗・・・”
理性で理解しても
犬夜叉が桔梗の名を呼ぶあの低くて切ない声が
過ぎって胸がいたい
”桔梗・・・”
体から搾り出すような・・・声
「・・・ッ」
不安が
嫉妬が
「・・・ふぅ・・・っ」
かごめの心臓に圧力をかける・・・
「かーたん!?」【かーちゃん!?どした!?】
「大丈夫・・・。大丈夫だから・・・。
少し・・・ママとねんねしよう・・・満・・・」
ストレスが
かごめの体を苦しめる。
「かーたん・・・」
満を抱いたままこたつに横になる・・・。
葛藤が渦巻く心を必死に耐えていたのだった・・・
不安は日増しに大きくなる。
犬夜叉の行動が
かごめの不安と
犬夜叉は携帯を日々体から離さなくなり
「悪い・・・ちょっと今日遅くなる・・・」
さらに帰りも遅くなって・・・
それでもかごめは
犬夜叉に一度も疑惑をぶつけなかった・・・
(犬夜叉を信じるんだ・・・。信じるんだ・・・)
葛藤する気持ちは
かごめの体にこの世で一番切なく
苦しいプレッシャーを与え続ける。
「・・・血圧が・・・大分あがっていますね・・・。
顔色も悪い・・・」
定期健診。
「いえ・・・大丈夫です。季節の変わり目だから
です・・・」
医者の言葉に笑顔で答えるかごめだが・・・
精神的な疲労は周囲の人間も気づくほどに
出ている・・・。
「まぁ・・・検査をするほどでもないですが症状が
酷くなるようでしたらすぐに診察に来て下さい。
いいですね?」
「はい・・・ありがとうございました」
医者から・・・
いつも飲んでいる胸の薬と・・・
軽い安定剤を処方してもらったかごめ。
(・・・。私って・・・。いつのまにこんなに弱い人間になったんだろう・・・。
自分の気持ちに負けてしまうなんて・・・)
体まで弱るなんて・・・
(しっかりしなくちゃ・・・。私はもう一人じゃない。
母親なんだから・・・。しっかり構えてなくちゃいけない・・・)
満の顔が過ぎる・・・
一番辛い思いをするのは小さな心。
(薬でもなんでも頼ってでも・・・頑張ろう)
薬袋をながめながらかごめは公園通りを歩く・・・。
そのとき・・・
(あ・・・。あの傘は・・・)
紺色の傘。犬夜叉の傘だとかごめはすぐわかった。
駆け寄ろうと公園の入り口に近寄ると・・・。
(えッ)
燃える炎のような赤の
傘がもう一つ・・・
ちらりと見える長い髪は・・・
(・・・桔・・・梗)
久しぶりに見る桔梗・・・
その美しさは変わらず
いやもっと増したようにも見える・・・。
ドクンドクン・・・
冷や汗が・・・
額と脇の下ににじむ・・・
(二人で・・・一緒・・・)
見詰め合う・・・
降る雨さえ熱くなるな
情熱なひとみで・・・
ドクンドクン・・・
体の力が抜けていく・・・
さらに・・・
かごめの目を覆おうような・・・
光景が・・・
(えッ・・・)
パサッ・・・
桔梗は傘を放り投げ・・・
白いハイヒールのつま先でたって・・・
犬夜叉と桔梗の体が重なった・・・
「・・・やッ・・・」
犬夜叉の唇に触れていた・・・。
(やだ・・・!!やだ!!!)
まるで地震がきたみたいに
かごめの膝がガクガク震え・・・
そして・・・
「・・・ひッ・・・あ・・・あ・・・」
桔梗の唇を・・・
犬夜叉の唇も激しく返した・・・
顔の角度をかえ
深く
まるで桔梗の唇を貪り食うよう・・・
深く
長い・・・
激しい口付け・・・
(や・・・や・・・やだ・・・ぁあ)
「やだ・・・ぁッあああ・・・ぁ・・・がッがッ・・・」
衝撃に
ろれつが回らない・・・
あんな犬夜叉みたことない
知らない
知らない・・・
「やぁッ・・・」
小さな悲鳴をと共に・・・
かごめはその場を逃げる
逃げないと
見えないところへいかないと
心が壊れてしまう
「・・・あ・・・あ・・・」
言葉にならない衝撃・・・
嫉妬とか不安とか
ただただ・・・
衝撃だけが体を支配して・・・
「きゃあッ」
バシャン!
水溜りで転ぶかごめ・・・
泥だらけの自分の顔が
顔だけが
映る・・・
「・・・う・・・」
蘇る二人のあの光景・・・
桔梗から・・・
口付けされたとしても
・・・離れてくれると思った
桔梗を自分から離してくれると
なのに・・・!なのに・・・!!
犬夜叉から・・・
返した・・・。
桔梗の唇を求めて
吸い込むような
生々しく
激しく・・・
”桔梗ッ!!”
「いやッ!!」
バシャン!!
水溜りを叩く・・・
バシャン・・・
「・・・あ・・・う・・・」
崩れていく・・・
何かが
切れて・・・
今まで自分にくれた犬夜叉の微笑みも
ぐしゃぐしゃに割れた
全部
嘘だったと
割れた・・・
「・・・もう・・・駄目・・・」
限界
体が
心が
悲鳴を上げて訴える
桔梗への嫉妬でもない
犬夜叉への憎悪でもない
・・・与えられる圧力に耐えられなくなっただけ・・・
(満・・・ごめんね・・・ごめんね・・・)
かごめの心の中で
唯一保てていた”母親”という柱さえ・・・
この瞬間崩れていったのだった・・・
・・・恋愛はストレスだらけです(何)
文中のなかのかごちゃんの悲鳴は”アレ”を見たときの
管理人の悲鳴に近いです(泣)
っていうか”アレ”を見た反動らしいです(汗)
しかし。
・・・嗚呼ーーー!!私って!!
なんだかんんだいいながら、葛藤して悩むかごちゃんが好きらしい(爆)
でもどんな苦境に置かれても葛藤して前に進むかごちゃんを描くことが
ダイスキなのです。
勿論ラストは幸せにするつもりですが
やっぱりキーマンは満でしょうか。子は鎹(かすがい)といいますので・・・
ラストはやっぱりクリスマスイヴ・・・。
ってことで数話、お付き合いくださいませ・・・