居場所シリーズ読みきり編 「イヴの奇跡」 3:おにぎり かごめが満を連れて出て行ってから1週間・・・ 犬夜叉は抜け殻だ・・・。 何をする気力もなく・・・。 (かごめ・・・。体に症状がでるほど俺が嫌になったのか・・・) 犬夜叉はかごめを何度も迎えに行ったが かごめは犬夜叉の顔を見るだけで呼吸が苦しくなり 咳き込む・・・。 「病気の元はあんたなんだ、犬夜叉。 暫くはかごめちゃんを休ませてやるしかないだろ!!」 バタン!! 固いドアを閉められ・・・ かごめには会えなかった・・・。 (俺が・・・病気の元・・・、全部オレのせいなのか・・・。俺が かごめを弱らせてる・・・) 不甲斐なくてどうしようもない・・・ かごめが辛かった時・・・ 自分は何をしていた・・・? かごめにばれないよう 気を使ってばかり・・・。 「オレは・・・最低な男だ・・・っ!!」 ドンッ!! 壁に拳を激しく打ち付ける・・・。 この痛みはかごめの痛み・・・。 (・・・かごめを・・・。迎えに行く資格なんてねぇ・・・。 かごめを苦しめるだけなら・・・) でも・・・ でも・・・ 「会いてぇよ・・・。かごめに・・・会いたてぇよ・・・」 一人の部屋が こんなに寂しいなんて 牢屋の方がまだマシだ・・・ 「かごめに・・・会いたてぇ・・・」 蹲って・・・肩を震わす・・・ 会いたいけれど・・・ それはかごめを苦しめる でも会いたい・・・ 「かごめ・・・かごめ・・・」 指輪を置いていった・・・。 (・・・かごめ・・・) ”もし・・・症状が治らなかったら・・・?” 自分はかごめのそばにはいられない そばにいればかごめを弱らせるだけ・・・ でも でも・・・ でも会いたい・・・! (・・・嫌だ・・・!!別れるなんて・・・ッ!!) 「・・・かご・・・め」 激しく雨が降る・・・ 気がついたら珊瑚のマンションの前・・・ かごめがいる部屋の窓を見上げる・・・ (・・・せめて・・・。顔だけでも・・・顔だけでも・・・) だが・・・。分厚いカーテンが閉められて・・・。 (かごめ・・・) その分厚いカーテンの向こうでは・・・ 隙間から外を覗くかごめが・・・。 「犬夜叉・・・」 「・・・かごめちゃん。そんなに心配しなくていいよ。 アイツには少しお灸をすえてやらないと・・・!」 「・・・。犬夜叉・・・。濡れてる・・・。傘・・・ もって行ってあげないと・・・」 かごめが玄関へ行こうとした だが・・・ 「ケホッ」 犬夜叉と会う・・・そう思った瞬間、かごめは激しく咳き込んだ 「駄目だよ。かごめちゃん・・・!無理しちゃ・・・!」 「で、でも・・・ケホ」 「・・・かごめちゃん・・・。アンタって子は・・・」 自分の体より犬夜叉を心配する 浮気まがいの現場を目の当たりにしたのに・・・ 「・・・わかった。わたしが渡してくるよ。何か伝言は・・・?」 「じゃあ・・・」 かごめは珊瑚にあることを託した。 そして・・・。 「・・・かごめちゃんに余計な心配かける気か?」 「珊瑚・・・」 珊瑚はビニール傘を犬夜叉に手渡した。 「かごめ・・・は・・・?」 「・・・あんたに傘渡そうと玄関までいったんだけど やっぱり・・・苦しくなって無理だった」 「・・・かごめ・・・オレ・・・!」 「・・・アンタ・・・。どうしてかごめちゃんに”休養”を 与えて上げられないのさ・・・。そういう優しさ知らないのか?」 「・・・」 わかってる でも・・・ かごめに会いたくて会いたくて 「・・・。とにかく・・・。お互いに休養が必要なんだ・・・。 理性的になれ・・・」 珊瑚が去ろうとして立ち止まる。 「あ・・・。そうだ・・・。かごめちゃんからの伝言」 「かごめから・・・?」 「食器棚3段目を見て・・・ってさ。じゃあな」 (食器棚・・・?) 犬夜叉はすぐに家に帰る・・・。 そして食堂の食器棚をあけた・・・ (あ・・・) 白い平皿に・・・ おにぎりが・・・2個・・・ ラップしてあった・・・ そしてメモが・・・ 『ちゃんと食べてますか・・・?おかか入ってます 食事はちゃんととってね かごめ』 「・・・いつの間に・・・」 「・・・お前が不貞腐れて寝ている間・・・。かごめが 様子を見に来て作っていったぞ・・・」 楓が・・・ 静かに教えてくれた・・・ 「・・・。お前の顔が見られないけど・・・。 お前の体のことが心配じゃったんじゃろ・・・。 ほれ・・・味噌汁もそこに・・・」 「かごめ・・・」 「・・・犬夜叉。時期を待て・・・。慌てて感情に流されては 本当にかごめを失ってしまうぞ・・・?」 楓は犬夜叉の肩をポン!と叩いて自分の部屋に戻っていった・・・。 「・・・かごめ・・・」 かごめがつくったおにぎり・・・ またほんのり温かい・・・。 一口・・・ 食べてみる・・・。 (あ・・・) 犬夜叉が好きな・・・おかかが沢山はいっていた・・・。 「・・・かごめ・・・うめぇよ・・・うめぇ・・・」 おかかの優しい味・・・ 犬夜叉の強張った心を溶かしていく・・・。 (・・・かごめ・・・) かごめが一番辛いはずなのに・・・ かごめに励まされているなんて・・・ (かごめ・・・。オレは待つから・・・。お前が会ってくれるまで・・・。 どれだけでも・・・。そして・・・お前の”決断”もちゃんと受け止める・・・) かごめが置いていった指輪が”結論”でも・・・ (かごめ・・・) おかかのおにぎり・・・。 あったかい・・・。 おいしい・・・ こんなにおいしいおにぎり食べたこと無い・・・。 「うめぇ・・・うめぇよ・・・かごめ・・・」 おにぎりがこんなにおいしいなんて・・・ かごめのおにぎり・・・ 犬夜叉の目が・・・ 少し濡れていた・・・ しょっぱいのは・・・おにぎりの味じゃなくて・・・ 涙の味・・・。 自棄になりかけた犬夜叉の心に エネルギーを与え・・・ 救ったのだった・・・