居場所シリーズ読みきり。
「晴れの日に」
子供の頃は
自分の小さな手の平ほどの価値観しかわからなかった。
大人が悪者に見えたし、自分を守ることに必死だった。
・・・今もそうだけれど。
親になるということがどういうことか
子供を育てるということがどういうことか
自分が同じ立場になって少しだけわかった気がする。
おなかで温めてきた命が
日に日に成長していく。
笑って泣いて
怒って。
時々、それに戸惑って苛苛することもあるけれど。
それでも笑い返してきたときの嬉しさは
どんな甘いお菓子より
甘くて愛しい気持ちをくれる。
・・・母へ
貴方は今、何を思っていますかー・・・。
※
「ばーたん」【これ、かーちゃんのかーちゃんか?】
少し色あせたアルバム。
かごめの膝の上に乗っかって、満がかごめの少女時代の写真を
見つめていた。
「早いなぁ・・・。もうあれから○年・・・」
十代は前向きに生きていくことに魂を注ぎ込んでいた。
”前向きで”なければならなかった。
疲れていても笑顔を忘れちゃいけないって思っていた。
「・・・。やっと少し・・・。休憩タイムって感じね・・・。
ふふ・・・」
時間の流れがゆっくり感じられる。
心の流れも・・・
「休憩タイムよ。満。ふふ。あなたがくれたんだわ。
穏やかな時間・・・」
子供を持ってみて
色んなことが見えた。
子供は体全身で相手に訴える。
良いも悪いも必死に。逃げずに。
(・・・育ててるつもりが・・・。親も育てられているのね。
月並みな発見だけれど・・・)
「おかち」【あー。腹減った。おやつ、くれ】
「あーもう。やんちゃなことしないでよー・・・」
満がテーブルに手を伸ばしてべちゃっとお茶をこぼした。
「おかちおかち」【菓子くれ。あまいヤツ】
「駄目!虫歯になるからおかきにしましょうね」
と、満に昆布入りのおかきの袋を満に手渡した。
「・・・ちぇ」【けっ。仕方ねぇか】
「ふぅ。元気なところは最近父親に似すぎて困っちゃうわね」
かごめが呟きと同時にその頃
「ヘクショイッ!」
職場でくしゃみする旦那(笑)
「うめぇうんめぇ」【これもわるくはねぇか】
生え立ての奥歯でかじかじと
ちっちゃなおかきをほおばる。
(ふふ・・・。本当に色んな表情するわね。子供って・・・)
いいこともわるいことも
隠さない。
だが大人は
自分の価値観だけで
物事を見てしまう。
子供はそれを覆すことをする。
反発し、反抗し・・・。
「・・・うぐッ」【あー。出ちまったらしいぜ。かーちゃん】
満のオムツがこんもりふくらんでにおってます(笑)
「あーもう!満ったらー・・・!」
新しいオムツを持って、逃げ回る満とおいかけっこのかごめかーさん。
子育ては大変。
とっても大変。
体力も気力も使うし
自分の時間がなくなるし
でも・・・
でも
とっても楽しいこともある。
「きもちえー」【すっきりしたぜ。かーちゃん】
おむつを替えてもらってご満悦の満。
機嫌がいい満をだっこしてお庭へ。
「ほら。満、たんぽぽいっぱいよ」
「たんほほ」【かーちゃんが好きな花だろ?】
たんぽぽの綿毛を満のお鼻の下でくすぐってみる。
「キャハハハッ」【くすぐってぇ!五感が悶えるぜ!】
満面の笑みを見せる。
たんぽぽのようにぱぁっと満とかごめの顔に笑顔が咲く。
(私も昔・・・。母と一緒にひなたぼっこしたっけな・・・)
厳しい現実が重なった子供の頃。
痛む心を
そっと母は撫でるように
抱きしめて
一緒に空を見上げた。
(・・・お母さん。今頃何してるかな・・・)
二人の母が居る。
記憶の中の母は育てた母でいっぱいだ。
・・・自分を置いていった母への複雑な気持ちは
まだ少し残っているが・・・。
(・・・一人の人間だって思えるようになった)
自分の母であることに変わりはない。
だが、やはり、”心の母”は・・・
(やっぱり・・・私と一緒に空を見上げてくれたお母さん)
世の中には色んな母がいるだろう。
父もいるだろう。
大切なことは
大切なことは
(一緒に何かを乗り越えてくれたこと・・・)
「さ、満、一人で歩いておいで」
「あいさ!」【歩く練習か。いいぜ】
だっこは止めだ。
満を下ろして数メートル離れる。
「さ、満、一人で歩いていらっしゃい」
「あいさ!」【んなのへっちゃらさ】
満はトコトコ・・・
大好きなかごめママに向かって歩き出す。
「かーちゃんかーちゃん」【早くかーちゃんトコいきテェ】
満はまだ少しおぼつくちっちゃな二本の足で
かごめの元へ歩く。
「あっ」
ぽてん!
草と草のくぼみで転んだ満。
かごめは駆け寄りたい衝動を抑え、ぐっと見守る。
「・・・いちゃくねぇ!」【痛くねぇよ。こんなもん】
ピンクのまあるい鼻とほっぺに着いたどろを自分で払い、
再び歩き出す・・・。
(満・・・)
我慢強くなった。
すぐ、ぐずつかなくなった。
ちっちゃな変化
でも大きな成長。
「かーちゃぁあん!」【ゴールしたぜ!!】
かごめの腕にトコトコっと走り寄る満。
「おかえりー!!満。がんばったねぇ!!」
「あい!!」【そうだろう?そうだろう?】
満が一番すきな”かーちゃんとほっぺすりすり”
かーちゃんの匂いがいっぱい嗅げる。
あったかいかーちゃんを独り占めだ。
(・・・でも”夜”は、もう一人の”子供”が布団の中で
暴れるのよね・・・(汗))
「ヘックショイ!」
旦那、また職場の瓦の上でクシャミ(笑)
「はー。お布団いれちゃおうか」
物干し竿に朝から干していたお布団。
「そおれッ!」
二人で布団の上にダイブ。
ほかほかお布団に離陸しました(笑)
「あー。お日様の匂いー・・・。
いいね・・・」
「あい!」
ふかふかお布団。
温かいので
かごめと満を夢の中へお誘いしていきます。
「スー・・・」
おひさまの子守歌で
二人はすやすやとお昼寝へ・・・。
(・・・お母さん・・・)
かごめを夢の世界へ誘います。
あの晴れの日に
母と見上げた青い空に・・・
”おそら、あおいねぇ。おなかがすくくらい”
”うん”
”かごめと一緒に見るからあんなに綺麗に見えるのよね”
”うん。お母さんと一緒だから”
(・・・お母さん・・・)
晴れの日に
母と交わした言葉を呟いて・・・
かごめと満の昼下がりが過ぎていったのだった・・・。
PS。
「・・・かごめ。今晩は・・・」
「駄目。満と一緒にお風呂の日にしたの。パパは
後回し。ごめんね」
「・・・涙」
というような会話が脱衣所でされたかごめ家でした・・・(笑)