デッサン2
水色の恋
第三話 ペンダントの意味 





陽春が帰ってきた








陽春目当ての常連だったOLや
おばさんたちがどっと戻ってきて
日々賑やかな『四季の窓』





マスター代行終了のはずなのに、




水紀ときたら







「もうしばらく置いてくれ」





といって結局居ついてしまった。







陽春といえば、日本に帰ってからも『某国災害基金』を慈善事業団の
仲間達と設立して活動をして日々忙しいかった。






今日も朝から支援物資のリストなどを作っていた





「兄貴・・・。オレにも救いの手を・・・」



「働くもの食うべからず!」




朝からモップをもたされ、陽春にさっそくこきつかわれております。











きゅっきゅと床を磨く夏紀。




「兄貴・・・。そろそろ”イケメンマスター”復活しろよー!兄貴の
店だろ!!」







「まだ”人気作家”のお前が代行さ。・・・先月の売り上げ、小遣いに
ちょろまかした罰」







(・・・ギクリ)





ちゃんと帳簿をチェックした陽春。










夏紀は神妙になり、お掃除を・・・







「・・・ぷっ・・・。そのリアクション・・・お前・・・素直になったな」







「・・・はぁ???」








「水里さんの影響だろうな。メールで逐一、お前の情報や日々の様子は
水里さん経由で入ってきてたからな」






「・・・」









影響されているのは自分だけでないだろうと切り返したかったがやめた。




(それよりも・・・聞きてぇのは・・・)





「兄貴」







「なんだ?」





「水里にやったペンダント・・・。あれ・・・」






カラン!!







夏紀の言葉を遮るように水里の登場。




「こんにちは!」





何か紙袋を両手に持っている







「春さん。あの・・・。昨日、話してた・・・」






ガサゴソ・・・





段ボール箱の中身・・・




それは数十冊のスケッチブックと色鉛筆のセットだった。






陽春から向こうの子供達の話をきいた。




厳しい現実を生きているのにも関わらず彼らは



ガレキやレンガをキャンバスに絵を描いて笑っているという・・・










「うちの在庫の余りあつめたんですが
取りえずこれだけしか・・・。あ。でも知り合いの画材店さんに掛け合ってみます」








「ありがとうございます!助かります。協力してくださる
方がすくなくて」






「あの・・・。私でよければ何か手伝わせてください。
できることがあれば・・・」






「はい。またお願いします」






陽春のとなりにすわり

二人は援助物資や団体の活動についての話に花を咲かせる






「・・・」





夏紀は思う。




陽春が日本にかってきてから・・・




二人の距離が微妙に近くなったのではないかと・・・







(本人達はどう思ってるかしらねぇが・・・)







水里がくびからかけているペンダントを少し複雑そうに見ていた・・・





















「兄貴ー。風呂次はいってくれ」





Tシャツの夏紀が缶ビールを飲みながら陽春の部屋に入ってきた。







だが陽春はメガネをかけ、机に向かい、様々な書類の整理や計算をしている。






「まーだやってんのかよ。ったく兄貴はよー。帰ってきたばっかなんだから
ちったぁ休めよ」





「オレがのんびりしてる間にも残してきた子供達の一人の命が
失われかけてる・・・。そう思うといてもたってもいられないんだ」






「相変わらず、まじめで優秀でございますなー。ふぅー・・・」





缶ビールをごくごくと飲む。








「兄貴。一つ聴いていいか?」





「・・・なんだ?長い話ならあとでな」







夏紀は缶ビールを床に置き、陽春をまっすぐつみつめた。







「・・・。なんであのペンダント水里にやったんだよ」






「なんでって・・・。水里さんには本当に色々お世話になってるし・・・」





「単なる”感謝の印”っていうのか?雪さんに渡すはずだったペンダント」






パソコンを打つ陽春の手が止まった。







そしてギィっと椅子を回し、夏紀に振り返る。





「・・・何を・・・。言いたいんだ?」







「・・・。兄貴にとっては感謝の印でもな・・・。ペンダントの意味を知ったら水里にとっちゃ
いつか”重たい贈り物”になるかもしれねぇんだぜ」







「・・・。そんな・・・」






「女ってのはそういうもんだ。恋愛に疎い水里はどうかはしらねぇけど・・・。
あいつだって『一応』は女だからな」







「だから・・・。何が言いたんだ。夏紀・・・」












「兄貴の中で。新しい季節が始まっているのか・・・?」










夏紀は陽春の心の”何か”射抜くように見つめた・・・













「・・・。ま。オレは見物させてもらいます。んじゃおやすみなさい〜」










夏紀はもう一本の缶ビールを机の上にそっと置いて部屋を出ていった・・・










パタン・・・










「・・・。ったく・・・。アイツは何しに来たんだ・・・」








陽春は再びパソコンで援助物資のリストを作り始めたが・・・







”兄貴の中で・・・新しい季節が始まっているのか?”









夏紀の言葉が過ぎってマウスを持つてが止まる・・・












「・・・フゥー・・・」











陽春はメガネを外し、少しだるそうに





前髪を両手で掻きあげる・・・









プシュ・・・ッ






缶ビールを開けゴクッと一口ふくんだ・・・











”雪さんの季節は終わったのか・・・?”










夏紀の言葉がなんとなくひっかかる・・・










(終わるはずなんてないだろう・・・。雪はまだオレの中で・・・生きてる)












雪の写真を見つめながらビールを飲む陽春・・・










すぐ目の前に雪の笑顔がある。








けど・・・










生きている人間は






”現実の人間との関わり”を求めてしまう。





どんなに忘れられない人がいても・・・







カチカチ。





パソコンのメール受信画面をクリックする。







水里へ送ったメールと受信したメールばかり・・・














向こうにいるとき。






思うように進まない救護。




助けても助けても消えていく命の数に・・・嘆いた・・・




陽春自身も何度も体調を崩し倒れた・・・








そんなとき陽春に届いたメール。









『太陽とミニピカ、泡風呂の巻』





泡だらけの太陽とミニピカの写真。




そしてメールにしたためられた水里の陽春を労う言葉




『春さん。体は変わりありませんか・・・?瘠せたりしてませんか?
力になれないけど・・・。春さんの優しい気持ちが沢山の命を救っていることを
私は誇りに思っています。でも春さん、絶対に無理はしないでね・・・』




微笑ましいその写真がと水里の労いのことばが・・・





が陽春の心の支えにいつしかなっていた・・・












「・・・」






陽春は窓をあけ






煙草を取り出し一本吸う・・・









「雪・・・。星が・・・綺麗だ・・・」





窓際の写真たてに話しかける。








だが写真たては笑っているだけで




返事はしない・・・





それを物足りないと感じてしまう・・・






(オレはなんて欲張りな男だ)









”雪との記憶”以外のものを求めてしまう自分が・・・







(雪の記憶は”思い出”にしなければいけないが・・・。それはまだずっと先のことだ・・・
オレはまだ・・・)






「・・・。暫くお前と話してなかったよな・・・。雪・・・」










戒めないといけない。






雪の記憶を忘れないように・・・













次の日。



陽春は久しぶりに雪の墓に向かった。




雪の好きだったカスミソウを携えて・・・







(・・・ん?)






墓に近づくと線香の煙があがっている。






(誰かいるのか・・・?)





よくみると・・・







(水里さん・・・??)









水色のパーカーを羽織った水里がしゃがんで手を合わせていた・・・