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デッサン3

〜君と共に生きる明日〜

第2話 3人の誕生日

今日は太陽の誕生日。



・・・というわけで。



「太陽!飾りつけOK?」


「オッケー!!」


水里のアパート。朝から部屋の中を水里と太陽は飾りつけ。


折り紙で作ったわっかを窓につけております。


「よーし!飾りつけOK!ケーキOK!ジュースOK!」


テーブルに並べられたご馳走を指差し確認する水里と太陽。


「よーし!太陽、準備は揃った。あとは春さんを待つだけだね!」



太陽はにこにこして水里とパチン!と手を叩きあう。



(でも太陽は・・・大丈夫かな)



水里には一つ気になることがあった。陽春のことだ。


太陽に、それとなく、陽春のことは話した。



”いい?太陽。マスター・・・。心が真っ白になっちゃったの”



”まっしろ?”



”そう・・・。それでね・・・太陽や私のこと、忘れちゃったんだ”



”・・・ふうん・・・”



太陽はどれだけ理解したのか・・・。





コンコン。




「あ!来たかな!?」




ガチャ・・・




水里がドアを開ける・・・



「いらっしゃい!」


水色と白のチェックのブラウスにTシャツ。そしてジーンズ姿の陽春。



(・・・わ、若い・・・(汗)ってんなことどうでもいいだっけ。それより太陽が・・・)



「こ、こんにちは・・・」


陽春は緊張した面持ちでぺこっと笑った。



「ますたーー!!」




太陽は問答無用で陽春に飛びついた。


抱きとめる陽春。





「た、太陽・・・」



「ますたー。ボクのことも覚えてないの?」



(・・・!す、ストレートすぎる質問・・・)



水里は焦ったが・・・




「すみません。太陽くん」


「そっかー。でも僕ますたー好きだよ。それは忘れないでね!」



「はい。わかりました」



「うん!」


ぎゅうっと陽春に無邪気に抱きつく太陽・・・

陽春は太陽の髪をそっと撫でる・・・




(・・・。気を回しすぎたかな・・・。太陽の笑顔は無敵なのかもしれない)



陽春と太陽のやりとりにほっとする水里。



水里は思った。変に意識することの方が陽春に気負わせてしまうのかもしれない・・・と。



「ささ。春さん、狭いところですが、どうぞどうぞ」



陽春は少し緊張した面持ちで奥の部屋に入っていく。



「さ、こちらへどうぞ」


水里は座布団を敷いた。


陽春は静かに座るが・・・


「・・・なんか緊張します」



「え?」



「女性の部屋にお邪魔するのは・・・なんていうか・・・その」




「・・・(照)」



あまりにも初々しすぎる陽春のリアクションに水里の方が赤面。




もじもじしあう二人・・・



「・・・??」


太陽は二人の顔をジーッと不思議そうに覗き込む。



(へんだな〜。どうしたんだろうなぁ〜)





「・・・(照)ケーキ作ったんです!」




「わぁあ!」



テーブルの上にピカチュウケーキ。太陽がチョコでミニピカを描きました。



それにちらしご飯にミートボール。



「水里さん。料理お上手なのですね」



「・・・いや(照)」


「あのねぇますたぁ。ミニピカ僕がかいたの。たべてね」


「はい。いただきます」



太陽は陽春の横にちょこんとすわり、二人はケーキにろうそくをつけた。



「んじゃ電気消しまーす」


水里は部屋を暗くし、三人、ケーキの上の7本の蝋燭をじっと


見つめる・・・。







ゆらゆらゆら・・・





小さな炎が揺れる。





とても温もりのある灯火・・・





「さ・・・。太陽。一気にふぅって消してごらん」




太陽は頷いてふぅ・・・っと小さく息を吐く・・・



「太陽、誕生日おめでとう〜!!」



「太陽君おめでとう〜!!」


水里と陽春は目いっぱいの拍手・・・



太陽は嬉しそうに体を揺らしてにこにこして笑う。





水里も太陽も。誰かに誕生日をこうして祝ってもらうことは
あまりない。






(うれしいなぁ。みぃママとますたーと僕でお誕生日できるなんて)




太陽のずっと夢だった



(お父さんとお母さんと一緒にケーキ食べること・・・)




大好きな水里ママとマスターが一緒だからとっても嬉しい。





「さー。ケーキ食べましょう〜!太陽にはピカチュウのところあげるv」



太陽のお皿にピカチュウの顔の部分。



「いっただっきまーす!!」




口元をくりーむだらけにしてほおばる太陽。



「ほらほら。口にクリームつけて・・・」


水里がエプロンの裾で太陽の口元のクリームを拭く。



「へへ。えへへへ・・・」



「ん?太陽。何、そんなに嬉しそうに・・・」



太陽はにこにこーっと笑う。




「みぃママとますたー。ボクのパパとママ
になってくれたみたいでうれしいんだぁ」




「えっ」



何気ない太陽の言葉に、水里はちょっと困惑。




「ボク・・・。パパとママと3人でお誕生日したかった。だからうれしいんだ!
みぃママもますたーもうれしいー??」




太陽は二人の上目でみて覗き込む。





「・・・」



「・・・」



水里と陽春は思わず顔を見合わせる。



「ねぇ、うれしいよねぇvみぃママ♪」


「え・・・。あ、う、うん」


「うれしいよね♪マスター」



「え、あ、は、はい・・・」



太陽はにこっとして二人の間に入り、二人の手を繋がせる。



「ふ。ふふふ・・・v」



水里と陽春は困惑しつつも太陽の笑顔にとりあえず合わせるのだった・・・



ケーキと夕食をたいらげ、太陽と陽春。



水里は後片付け・・・



”みぃままとマスターがボクのパパとママになったみたいだ”


ピカチュウの玩具で遊んでいる二人を見つめて・・・。


まるで本当の家族になった気分に少し浸る・・・


(・・・。はっ!。私としたことが何、想像してるんだ。太陽の影響かな・・・)



水里は我に返り、洗い物に精を出し・・・。




陽春は水里の後姿をじっと見つめる陽春・・・。



(・・・)


「ますたあ!ますたあったら!」


「えっ。あ、す、すいません」


はっとする陽春。



「あのねぇ。これ、僕のアルバム。見せてあげる」



太陽は水里が綴ったアルバムを陽春にこっそりみせた。




アルバムには太陽の生まれた頃からの写真がびっしり。



「これね、これね、運動会のとき。それから・・・」



”太陽、1等賞!よかったね!”



”太陽、幼稚園入学!おめでとう〜!!”


綺麗に綴られた太陽の写真・・・。水里のイラストつき。



写真の一枚一枚から水里の太陽への愛情が伝わってくる・・・



「あのね。ぼくにはね、命のママと心のままがいるんだ。
この人だよ」



太陽が陽子の写真を指差した。

「命のママと心のまま・・・?」


太陽はうん!と元気よく頷く。



「命のママは僕をうんでくれたよーこママ。心のママは
僕といっつも一緒にいてくれるみーママ」



”太陽君は水里さんの親友・陽子が遺した子供。水里さんは
我が子のようにいつも太陽君を見守っている・・・”



陽春は記憶を失う前の自分の日記の中の一文を思い出した。




「そうか。水里さんが心のママ・・・か。うん。そうですね」



「あのね。それでね。ますたーはね、僕の心のパパなんだ」



「え・・・?」



「僕の夢はね。みーママがますたーとけっこんして
僕のパパとママになることなんだ」



「・・・そ、そうなのですか・・・」


太陽の唐突な言葉・・・。



陽春は返す言葉を探すが・・・。



「でも・・・。水里ママがどう思っているか・・・。そ、それにあの、
僕は太陽君のパパになれるような人間じゃないし・・・」




「ますたー嫌?ぼくのこと、きらい?」



「そ、そんなことは・・・(汗)」



「じゃあ、水里ママに聞いてくる!」



「えっ。あ・・・」


洗い物をしている水里にとことこっと走っていく太陽。

そしてエプロンをくいくいと引っ張った。



「ねぇ。みーママ」


「な^に?」



「ミーママますたーのこと、大好き?」



「えッ」



水里の手から泡がついた皿が歩ロット落ちた。



「大好きだよね?」




「・・・い、いや、あの・・・」




水里は無意識にちらっと陽春に視線がいってしまう。



そして目が合って・・・





(ど、ど、どうって・・・)





「ねぇ大好きだよね?」





太陽の駄目押し・・・。




(・・・春さんが見てる・・・)




「ね!」



「え、あ、あ、あう、うん・・・」




「やったぁあ!ますたー!みぃママもますたーのことすきだってー!」




「た、太陽・・・っ」




嬉しそうに陽春の膝に帰ってく太陽・・・



(しゅ、春さんの顔がみれん・・・)



水里は顔を染めながらきゅっきゅとスポンジで皿を洗う・・・



「僕も手伝います」



「えっ」




陽春は腕をまくり、皿を拭き始める。




「しゅ、春さんは休んでください」



「いえ。やらせてください」



「でも・・・」





二人はスポンジの取り合いをしていると・・・。太陽がととと・・・走ってきた。



「僕もお片づけする!3人でおカ片付け〜」



ピカチュウのエプロンをつけて、踏み台に登って、陽春が拭いたお皿を戸棚に入れていく。




鼻唄を歌いながら・・・





「太陽・・・」



太陽の嬉しそうな顔・・・




(今日は太陽の誕生日・・・。太陽の望むままに・・・)


「春さん、すいません。太陽がなんか・・・」

「いいえ。僕も楽しいです。それに・・・」



「それに?」


「・・・あったかくて・・・。水里と太陽君のそばは・・・あったかくて・・・」



(春さん・・・)



穏やかな陽春の表情に水里の心も鳴る・・・



考えてみたら・・・。このアパートに引っ越してきて初めて感じる・・・。




(この部屋・・・。あったかいな・・・)


「ますたあ、次のお皿くださいな」



「はい。太陽くん」



太陽がいて・・・陽春がいて・・・。




みんな笑っていて・・・




(こんなくつろいだ気持ち・・・。久しぶりだ・・・)






水里も陽春の心に穏やかさが流れる・・・




時間が過ぎていくのが早く感じる。




3人の笑い声が台所から絶えず響いていた・・・。







コチコチ・・・



時計の針が9時を回り。



人生ゲームで盛り上がっていた3人・・・。


「と。、太陽そろそろお開きに・・・」



トイレから出てきた水里。戻ってみたら・・・




「あら・・・」





炬燵(こたつ)に陽春と太陽が九の字になってすうすう
眠っていた・・・


ぎゅっと手を繋いだまま・・・。




「・・・春さ」



水里は陽春を起こそうと揺らしにかかったが
、あまりにぐっすりの寝顔に水里の手は止まる。





「・・・で、春さんには泊まってもらおうと思うんだけど・・・。夏紀くん」



夏紀に一言連絡した水里。



「わかったよ。ところで水里・・・」



「ん?」



「兄貴、寝込み襲うなよな〜」


「ばっ・・・(爆照)変なこというなッ」



ガチャン!



レトロな黒電話の受話器を思い切り切る水里・・・


受話器の向こうの夏紀の笑いが聞こえそうだ。





「・・・ったく・・・。」




水里は夏紀から聞いていた。




”兄貴の奴・・・。早く『前の自分』みたいに戻りたいつって
てんぱってんだ・・・。毎日点滴と薬の副作用で辛いはずなのに・・・。”




(それなのに・・・。春さん・・・。今日は太陽のために来てくれて・・・)




「ありがとうございました。春さん・・・」




水里はそっと陽春と太陽に毛布をかける・・・。





「おやすみなさい」



静かに水里は電気を消した・・・。








コチコチコチ・・・。






目覚まし時計の秒針の音が響く。






「・・・ん・・・」





冷蔵庫にもたれ、毛布をかぶって眠る水里。







コチコチ・・・。




もそもそ動いて毛布が落ちる・・・



「・・・。風邪ひきますよ。こんなところで寝ては・・・」


陽春がそっと掛けなおす・・・




「・・・ふにゃ・・・」





鼻のあたまを無意識にかく水里・・・。







陽春はくすっと笑った。





”今日はありがとうございました”




「・・・。僕の方こそ・・・ありがとうございました・・・。
今日・・・とても楽しかった・・・。嬉しかった・・・」







暖かい部屋。



温かい笑い声・・・。





そんな空気や声に包まれて・・・




(退院してきてから初めて・・・。安心できた・・・)





自分はここに居てもいいのだと・・・






安心できた・・・。







「・・・ありがとう・・・。水里さん」










「・・・」










”いつかね、みぃママとますたーがけっこんしてボクの
パパとママになる予定なの”








(・・・。いつか・・・。貴方を支えられる男になったら・・・。オレは・・・)









水里の三つ編みに陽春の手がそっと伸びる・・・






(いつか・・・オレは・・・)







三つ編みに口付ける・・・






可愛らしい寝顔への愛しさをこめて・・・








「いつか・・・。貴方と・・・」

















チュンチュン・・・。







ガシャンッ。





「・・・ん?」




(トーストの匂い・・・)



水里が目を覚ますと・・・



(ん・・・?私どうしてベットに?)




台所から声がする。



「太陽君、目玉焼きは固めがいいですか?それともやわらかめ?」



「やわらかめ」




ピカチュウエプロン大と小、陽春と太陽が着て、台所にたっていた。




「あ、水里さんおはようございます。勝手にキッチン
使わせて頂いてます」



「え、あ、い、いや・・・」




「みィママ。お顔あらっておいで。あさごはんできたよ」



「あ、は、はい・・・」




水里、太陽に促されるまま、洗面所で顔を洗い、戻る。



こたつの上にはトーストとちょっとこげた目玉焼き。




「さ、みぃままどうぞ!ボクとますたあが一緒につくったんだよ」




太陽はにこにこして陽春の横にちょこんと座った。





「春さん、すいません。朝食までつくってもらっちゃって・・・」




「いえ。僕の方こそなんていうか、女性の
部屋に泊まってしまうなんてなんていうか・・・」




照れくさそうに前髪をサラっとかきあげる




(そんな爽やかに照れられたらこっちが・・・)


「・・・(照)」





水里と陽春、もじもじする二人に太陽は首を傾げる。




「と、とにかく食べましょう」





「はい」




3人、一緒に手を合わせて合掌。





「いただきまーす!」





太陽はトーストのパンにほおがりつく。




「ああ。おいしいなぁ。今日のパンは一番おいしいなぁ」



「どうして?太陽」




「だって・・・。パパとママと一緒に朝ごはんみたいなんだもん!」




「・・・。太陽・・・ってば・・・(照)」




サクサク。太陽は口元に苺ジャムをべったりつけて。



「・・・楽しいあさごはん。大好きなみぃママとますたーと・・・!
うれしいんだぁ〜」



太陽は林檎ジュースをこくこく飲む。


「僕も楽しいです。いつか、本当に3人で家族になれたらいいですね」




(え・・・っ!??)



陽春の発言に水里、ぽろっとフォークを落とす・・・





「あ、水里さんも口元、ジャムがついてますよ・・・」




そっと水里の口元のジャムを指でぬぐいぺろっとそのまま口に含んだ。





(・・・(照))





「あれれ??みぃまま、お顔がまっかっか〜??」





水里の顔を覗き込む太陽。





「みぃママ??」




「あ、はははは。た、太陽、目玉焼き、とってもおいいしよっ」




水里はがーっと目玉焼きを一揆に口に入れる



「あー!それ、ボクのふたごやつだったのに〜!!」



「えっ、あ、ご、ごめんっ」



「ぶーっ。じゃあみぃママの目玉焼きもーらい!」



「あ、こら太陽〜!!」










古びたアパート



目玉焼きとトーストの香りが漂って




笑い声が絶えない朝。







水里と陽春の心に浮ぶ・・・




(いつか・・・。本当に・・・3人で・・・)





望む未来が



浮んでいた・・・