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デッサン・番外編 「透明ママ」 〜君はきっと其処に居る〜 6:太陽の涙と透明ママ 「こんにちはーー!!」 「みぃーママぁ!!」 夕方。水里は太陽の元を尋ねた。 「やった!!みーまま特製カレーだ!!」 ピカチュウカレールーをいれてくれるので 太陽はダイスキだった。 「いっただっきまーす!!」 二人で合掌。 楽しく夕食をとる・・・。 「昨日ね、パパ・・・。”雪さん”の写真じっと 見て・・・。泣いてたんだ」 「え・・・」 「・・・やっぱりパパ・・・。雪さんのこと の方が大事なのかな」 (太陽・・・) 太陽の台詞は・・・。 水里の台詞そのものだ。 「・・・早く全部思い出せばいいのに・・・。 早く・・・」 「太陽・・・」 「・・・あ、ごめんね。ママとお約束したのに・・・。 パパが自然に思い出せるまで頑張るって・・・」 自分の気持ちでいっぱいいっぱいだった 自分を恥じる。 大人たちの事情で太陽の心が 揺れっ放しだったのに・・・。 「太陽・・・。大丈夫。きっと大丈夫だから・・・」 「ママ・・・」 水里はそっと太陽を抱き寄せた。 (・・・んー?) 太陽、水里のお腹になにやら異変を感じた。 「どうかした?」 「ねぇ・・・。みぃまま。ママのお腹って・・・ ごろごろ動くの?」 「え?」 「なんか・・・なんか、お腹に生き物がいるみたい」 (・・・!) 「うん。いるんだよ・・・。 もっとごはんくれーな宇宙人が」 「えー!!」 「へへへ。だからみーママはいっぱいご飯をたべるのだーーー!!」 がつがつ。 水里はほおばる。 「僕も僕もーーー!!」 そんな二人のやり取りを・・・ 帰って来た陽春は玄関で暫くきいていた・・・。 (・・・山野さん・・・。太陽に心配かけまいと・・・) 自分の感情は捨て去らねば (オレは変わらず太陽の父親として振舞うだけだ) 「ただいま」 「おかえりーー!!」 太陽が陽春に飛びつく。 「あ・・・お、おかえりなさい」 「た、ただいま・・・」 なんだかぎこちない空気が流れる・・・。 (なんか・・・へんだな) 太陽はすぐに感知。 「ねーねー!ママもパパも笑ってよ」 「え?」 「・・・なんだか・・・。二人とも・・・お顔が笑ってない。 笑ってないよ」 俯いて涙を滲ませる太陽。 (あ・・・) 太陽の涙。 大人の悶々とした空気の中で 太陽はずっと耐えてきた・・・。 「太陽・・・。ごめん。ごめんな・・・」 「・・・仲良くして。みーママもパパも。お願い」 必死に訴える太陽の瞳に・・・ 水里も陽春も言葉が返せなかった・・・。 「太陽・・・。今、寝ました」 「そうですか・・・」 ピカチュウのぬいぐるみをだいて太陽はようやく眠った。 眠るまで何度も何度も ”喧嘩しないで、仲良くして”と訴え続けて・・・。 陽春は水里にお茶を淹れた。 「・・・」 「・・・」 沈黙が流れる。 太陽の涙に何も返せなかった自分が情けなくて・・・。 「・・・あ、あの・・・。山野さん」 「は、はい」 「・・・暫く・・・。太陽の面倒みてくださるの、お休み していただけませんか」 「え・・・?」 水里は湯のみを静かに置いて陽春を見つめた。 「・・・きっと太陽は・・・貴方に母親を求めている。 いや求めすぎて・・・。雁字搦めになってるんだと思います。 太陽の母親は雪なのだから・・・」 「・・・」 「それに僕の記憶の混乱が影響して・・・。僕と貴方の間で 板ばさみだ・・・。だから・・・」 「・・・。わかりました。でも電話だけ・・・。電話だけは 許していただけますか?」 陽春は頷いてくれた。 水里は会釈し・・・静かに立ち上がる。 「・・・山野さん」 立ち止まる水里。 「あの・・・。お、お体・・・くれぐれも大切に・・・。具合が 悪くなったらすぐ病院に行ってくださいね」 「・・・?は、はい。失礼します・・・」 パタン・・・。 ドアの音が・・・ とても寂しく響いた・・・。 (・・・。これでいいんだ・・・。太陽にとっても・・・。 山野さんにとっても・・・。そしてオレにとっても・・・) 距離を置いたほうがいい。 (・・・どうか・・・。体だけは・・・お大事に・・・) 弟の恋路の成就を願う。 (・・・幸せに・・・) 一方・・・。 水里は・・・。 自分の部屋で 太陽の実母・陽子の写真を見つめていた。 ”太陽の母親は雪ですから・・・” 陽春の言葉が突き刺さる。 「・・・陽子。なんか・・・限界かもしれないな・・・。 春さんがもし・・・。このままの状態だったら・・・」 考えなければいけないかもしれない。 本当のことを話す。 太陽は陽春の実の子ではないこと。 「話をどう・・・結びつけたらいいもんかな。話が 複雑すぎて・・・。陽子・・・」 本当のことを話せば・・・ 陽春はただ混乱するだろう。 色んな記憶がごちゃ混ぜになって・・・。 (・・・隠さずに話すしかないか・・・。今までのいきさつは・・・) でも・・・”一つ”だけは隠さなければいけない。 (・・・記憶がごちゃ混ぜになってる 春さんに・・・これ以上の負担はかけられないから・・・) 光の赤い腹巻。 その意味だけは・・・。 ガラ・・・。 窓を開ける・・・。 「雪さん・・・。”最後の宿題”は・・・本当に難しいです・・・」 風が強く光の前髪を靡かせた。 (風が強いな・・・そうだ・・・。花壇のチューリップ・・・大丈夫かな・・・) その夜・・・。 陽春は夢を見た・・・。 庭の花壇・・・。 髪の長い・・・ 白いワンピース姿の・・・ (雪・・・?雪なのか・・・?) 手を伸ばす・・・ 雪がダイスキだったピンクのチューリップ。 (雪・・・。出来ることなら・・・。戻ってきてくれ・・・。 オレと・・・太陽の元に・・・そうすれば・・・全部解決するんだ・・・) 長い髪の女性が振り向く・・・ (雪・・・。) 「・・・雪・・・!!」 カーテンをあけると 花壇にはビニールハウスが設置されてチューリップは無事だった (・・・。これは・・・) 誰が? (あ・・・) 一瞬・・・過ぎった小さな背中・・・ 誰だ・・・? (いや彼女じゃない・・・。彼女は花壇に植えられているなんて しらないはずだし・・・。太陽さえしらない) 陽春がこっそり・・・一週間前に植えたもの・・・。 (雪なのか・・・?) 姿はないけれど ”誰か”に見守られている気がする・・・。 (雪・・・。お前なら・・・。そばにいるなら・・・。 ちゃんとオレの夢の中で・・・顔を見せてくれ) 「・・・雪・・・」 揺れる心を繋ぎとめて欲しい。 (早く・・・。すっきりしたい) 「・・・よ。兄貴おはよぅ」 「なんだ。夏紀」 「・・・ううん。女友達のベットの中から帰ってきました」 (こいつは・・・) 自分を挑発してきていることを感じる。 「オレッちもさぁ、いちおーパパになるわけで 身辺整理きちっとしてきましたー」 「・・・」 陽春は夏紀の言葉も無視して茶碗の後片付け 「・・・でもメンドクサイよなー・・・。女子供に束縛なんて やっぱりされたくねー」 陽春は無言でスポンジに洗剤をしみこませて泡立てる。 「・・・っていっても現実は変わんないんだし・・・。 いっそのこと、アイツの方から身を引いてくれないかな」 「・・・」 水道の蛇口を思い切りひねって水を出して 水の音で夏紀の声を消す。 「そうだ・・・!事故にでもあって腹うったりとか・・・」 ガタン!! 「うぐ・・・ッ」 泡のついた手で・・・ 夏紀の胸倉をつかんで冷蔵庫に押し付ける・・・。 「・・・お、オニイチャン・・・イッツ、ブラックジョーク、 ジョーク・・・」 「何がジョークだ・・・っ。言っていいことと悪いことが・・・ッ!!」 「・・・すんごい形相だぜ・・・?兄貴・・・? ”悪いことをいった弟を叱る兄の顔”じゃねぇなぁ・・・あ?」 「・・・。兎に角・・・!!もう二度というな・・・ッ!!」 可愛い弟を・・・。 こんなに激しい憎悪を抱くなんて・・・。 (・・・オレは・・・いつからこんな・・・) 「・・・兄貴・・・。いい加減・・・。悩みグセやめろよ・・・。 アイツにしたって・・・。すぐバレる芝居なんかしやがって・・・」 「芝居・・・?芝居ってどういう意・・・」 ピンポーン。 インターホンが鳴って・・・ 「客だぜ。でねぇでいいのか」 「あ、ああ・・・ 」 陽春は夏紀の応えを聞きたそうな顔で 玄関に出て行った・・・。 (兄貴の・・・馬鹿や郎・・・。オレはいつまで 悪役になってりゃ・・・いいんだよ) 「あ・・・。いつも野菜、ありがとうございます」 「いーえ」 陽春の家に毎週二回、野菜を配達してくれる 町の八百屋さん。 「本当に美味しい野菜です。きっと坂田さんが 丹精込めて作られているんでしょう」 「え?何言ってんるんです。奥さんがうちの畑 で作ってお宅に持っていってて頼まれ・・・はっ」 八百屋の奥さんは慌てて口に手を当てた。 「奥さん・・・?あ、あの妻はもう亡くなってるんですが・・・」 「あ、あぁそうでしたね。私ったら何を言ってるんだか。 最近呆けたかしら」 (・・・) 毎日届く新鮮な野菜。 八百屋の好意でもって来てくれていたとばかり 思っていたが・・・。 「あ、あの・・・。もしかして・・・」 「あらいけない。次の配達先行かなきゃッ。じゃあ またね!藤原さん!」 「あ、ちょ・・・」 慌てて八百屋の奥さんは野菜を置いて出て行った。 不自然な態度・・・ 違和感・・・。 ”野菜、いい形で成ってたんですよ!ほら!” (え・・・) 一瞬かすむ・・・誰か。 玄関先で混乱する陽春。 次から次へとお客が・・・ 「こんにちはー!頼まれたクリーニングもって来ました!」 「え・・・?うち頼んで・・・」 「あ、いけない・・・。だ、旦那さん、いらしたんですか・・・。 いない時間帯にって言われたのに・・・」 次から次へと 知らなかったこと。 「こんにちはー!新聞の集金デース!あ、そうか。 郵便受けから取ってくるんでしたよね」 「え?」 次から次へと 自分以外の”誰か”の 存在が・・・ 明らかになる・・・ (・・・どうして・・・。”誰”が・・・) 「透明ママだよ。パパ」 「太陽・・・!」 二階から太陽が何かを持って降りてきた・・・。 その手には一冊のスケッチブックが・・・。 「太陽・・・」 「”透明ママ”が・・・この前描いたの。 ”雪ママ”じゃないよ」 スケッチブックには・・・。 (こ、これは・・・) 陽春が花壇に一人でこっそり・・・ チューリップの球根を植える背中が描かれていた・・・。 「ど、どうして・・・」 「”透明ママ”は・・・。夜遅くにみんなが ねむってから様子をみにきていたんだ」 「・・・夜って・・・」 (あの風除けを作ってくれたのは・・・) 「・・・”透明ママ”はね・・・。水色がダイスキなひとで ピカチュウ卵やきつくってくれるんだ」 「・・・!」 「・・”透明ママは・・・。民宿にいるよ」 「太陽・・・」 「ボクのママは・・・雪さんじゃない・・・。 透明ママだ・・・」 ガタンッ!! 陽春はジャケットを羽織って玄関を飛び出した。 「・・・。ふぅー・・・。やーっと”王子様”が動き出した・・・か」 「おーじさまぁ?」 夏紀は太陽をだっこした。 「おう。太陽。もーすぐママ帰って来るぜ」 「ほんと!??」 太陽は夏紀の頭の上で万歳三唱。 「それもでっかい”おまけ”つきでな」 「おまけ・・・?」 (おまけってなんだろう?) 太陽は、水里と共にお菓子をお土産に持ってきて くれるんだと想像。 (ピカチュウのチョコがいいな) 「すいません!!すいません!!」 民宿『みずはら』の玄関に陽春の声が響く 「はいはい・・・。あらまぁ藤原さん」 「あ、あのっ・・・。みさ・・・山野さんは 山野さんはいらっしゃいますか!?」 「え?」 「会わせてください!!お願いします!!」 女将の肩をつかんでつめよる陽春。 「ちょ・・・。ちょっと藤原さん落ち着いて」 「あ、す、すみません・・・」 女将に促され、 陽春は民宿のロビーのソファに腰を下ろした。 「水里ちゃんなら・・・自転車に乗って商店街まで 買い物に行きましたよ」 「自転車で!?そんな!何かあったらどうするんです!? 一人の体じゃ・・・」 「藤原さん・・・?思いだしたの・・・?」 「あ・・・いや・・・。で、でも・・・。山野さんがずっと 見守ってくれていたことにやっと気がつきました・・・」 陽春はぐっと拳を握った。 「・・・。やっぱり待てない。迎えに行きます!」 「あ、藤原さん。待って!」 女将は陽春にあるものを渡した。 水色の肩掛け・・・ 「・・・これは・・・」 「自転車飛ばしてきたら体・・・。冷えてると思うから。 ね・・・。”大事な”時期だから・・・分かるでしょう・・・?」 (・・・!) 女将は目で”何か”を訴えた。 「・・・は、はい・・・!」 陽春は肩掛けを手に、街へと続く一本道を 走っていく・・・。 陽春の背中に女将は呟く・・・ (頑張って・・・!お父さん!) 「ハァハァ・・・」 (どうして気がつかなかったんだ・・・。 すく気がつけば全てつながるのに・・・) 水里がベビーシッターだなんて。 水里がどうして太陽と仲がいいのか パズルの応えはすぐに出ていたのに・・・。 (・・・早く・・・。早く会いたい・・・!) 早く会って・・・。確かめたい。 ”オレッち、パパになるみたい” (父親になるのは・・・。夏紀じゃなくて・・・。 オレが・・・) ・・・”大事な時期”の体に・・・。 掛けてあげたい・・・。 (あ・・・!) 仲居姿の水里が坂道を自転車に乗って降りてきた。 だが様子がおかしい。 ブレーキもかけずに凄いスピードで走って・・・。 「山野さん!!あぶない!!」 水里の前に両手を広げて止めようと立ちはだかった。 (春さん!?) 陽春に気づいた水里。 「よ、よけてーーー!!」 キィ!!!!! 「きゃあああ!!」 「水里さんッ」 ドサッ!!!! ドサササ!!! 自転車と一緒に水里を受け止めた陽春。 そのまま道路わきに倒れこんだ・・・ 「・・・イタタタ・・・」 陽春は水里に覆いかぶさるように倒れ・・・ 「春さん・・・!!!」 水里は陽春を起こすが 気を失って・・・ 「春さん!!春さん!!」 ”陽春・・・。さようなら・・・” (・・・雪・・・?) 白いワンピース姿の雪が・・・ 消えていく・・・。 「・・・さん!!」 (・・・山野・・・さ・・・) 聞こえる声・・・ 「春さん!!」 薄っすらと・・・ 見えてくる・・・ 水色の髪留めで・・・ 大好きな・・・三つ編みの・・・ ”春さん” 「・・・水・・・里・・・」 「・・・!春さん!!」 気がついた陽春はそっと・・・ 水里の三つ編みに触れたのだった・・・