デッサン 番外編 「透明ママ」 7:三人家族 目の中に入ってきたのは 小さいのに妙に馬鹿力で 自分が淹れた珈琲を本当に嬉しそうに飲んでくれて 太陽を育て上げて 三つ編みで水色が好きな・・・ 「・・・水里さんだ・・・」 「藤原さん・・・?」 「・・・やっと・・・。会えた・・・」 優しい目で 見つめる・・・ (・・・。こ、この目は・・・いつも・・・カウンターで・・・ 珈琲を淹れてくれてるときの・・・) 「・・・って。藤原さん、あ、あの怪我は?」 「・・・!そ、そうだ、あ、水里さん、 貴方こそ怪我・・・っていうか体!!!」 (か、体!?) 陽春は水里の手首に触れて脈を確認。 「お腹・・・!痛くはないですか!?異常はないですか!?」 「え・・・?」 ひょいっと水里の小さな体を抱きあげた。 「ちょ、しゅ、藤原さん!?」 「すぐ病院にいってレントゲン、MRI検査すぐ しましょう!あ、いやそれより婦人科でエコーで調べた方がいいか」 「・・・!?ちょ、ちょちょちょっとたんま!!」 「暴れないでください!!お腹に響くでしょう!!」 「ストーップ!!」 水里は陽春の手から無理やり降りた。 「水里さん・・・!転んだらどうするんです!!」 「藤原さん、何勘違いして・・・」 「勘違い!?だって水里さん、貴方のお腹には・・・」 陽春は水里の帯を指差して言った。 「・・・(汗)ただの食べ過ぎによる胃腸炎と診断されました(汗)」 (え・・・) 「あ、あの・・・。なんていうか”そういう” 疑い、は確かにあったんですがその・・・。ふ、不合格・・・でした・・・///」 「・・・(汗)」 陽春はぺたり・・・と草の上に座り込む・・・。 「・・・あ、あの・・・。春さん・・・」 「・・・ぷ。ククク。あはははは・・・!」 (?) 「アハハハハ・・・。ふぅー・・・」 ぱたり・・・。陽春は笑うだけ笑って草の上に大の字になって 寝転がった。 「・・・あ、あの・・・藤原さん・・・?」 「・・・水里さん。もう・・・”春さん”で いいですよ」 「え・・・?わ・・・っ」 ぐいっと水里の手をひっぱって隣に寝転がらせた・・・ 「・・・病院にタライ背負ってくれて・・・」 「え?」 「”愛してる”って・・・絵文字で伝えてきたし・・・」 (春さんそれって・・・) 優しい目・・・ 珈琲を”おまちどうさま・・・。どうぞ・・・”って 淹れてくれる時の・・・ あのときのめだ・・・ 「・・・。やっと会えた・・・。なんか・・・。 忘れたり思い出したり・・・色々したけど・・・」 「春さん・・・」 「やっと会えましたね・・・。水里さん・・・」 優しい手つきで・・・撫でられる 三つ編み・・・ 「・・・もう・・・。”透明”じゃなくて・・・。 水色が大好きな水里ママになって戻ってきて・・・?」 「春さん・・・」 ポタ・・・ ポタ・・・ まんまるの水里の目から 涙が落ちる・・・ 「・・・返事は・・・?」 「・・・」 「・・・帰って来て・・・。オレの元に・・・ 太陽の元に・・・」 水里はこくん・・・と深く深く頷いた・・・。 「・・・。おかえりなさい・・・。水里ママ・・・」 「ただいま・・・。春さん・・・」 小さな体を抱き寄せる・・・ 大好きな三つ編みを見下ろして・・・。 「・・・おかえりなさい・・・。春さん・・・」 「ただいま・・・。水里さ・・・。水里・・・」 自分のために 駆け回って 透明にまでなろうとした 小さな体・・・ 愛しい体を優しく・・・優しく抱きしめる・・・ やっと記憶のパズルがそろった・・・ 一番大事なパーツ・・・ 水色のパーツを やっと見つけた・・・ 包む温もりを ずっと探していた・・・ (雪さん・・・。やっと解けたのかな・・・) ”最後の宿題・・・。最後の・・・” 夢の中の雪が水里に課した宿題 それは・・・ ”幸せになる努力をもっとすること” 雪がつかめなった 味わえなかった 幸せを・・・。 (雪さん・・・。応えは・・・これでいいですか・・・? 雪さん・・・) そして・・・ また3人の穏やかな日々が始まった。 「太陽ー!起きてー!」 「みーママ!」 ピカチュウ布団から飛び出してエプロン姿の水里に抱きつく。 「こらぁ。甘えん坊。もう3年生なんだぞ」 「だーって・・・。やっと戻ってきて くれたんだもん・・・」 「太陽・・・」 太陽にも寂しい思いをさせてしまった・・・。 水里は大分重たくなった太陽の体をぐいっと 抱き上げた・・・ 「太陽・・・。重くなったー。ふふ。もう だっこキツイや」 「じゃあ。もっとおっきくなったときには ボクがだっこしてあげる」 「・・・ありがと。ふふ」 ぎゅっと頬をすり合わせる・・・ 「さ、顔を洗って・・・ってわっ」 ひょいっと広い腕に水里の体がお姫さまだっこ。 「春さん・・・!!」 「太陽が無理なら・・・今はオレがママをだっこしよう」 太陽は陽春の足元できょとん、と水里を見上げている。 「あ、あのお、下ろしてくれませんか///」 「・・・却下。その敬語、直してほしいって言ってるじゃないですか」 「しゅ、春さんだって・・・!」 「ふふ。オレはいーの!さ、朝ごはんにしましょうね」 そのまんま水里を台所までだっこしていった陽春。 なんだか仲がいいのか謙虚なのか そんな二人の様子を太陽はにこにこしながら見ています。 (よかったな・・・vみーママもパパも仲直り! あれぇそーいえば・・・) ”太陽。みーママとおまけがついて帰って来るぜ” 夏紀の言葉を思い出した太陽。 (”おまけ”ってなんだったんだろう。水里ママにきーてみよう!) 「ねー!ママ!チョコおみあげに持ってきてないのーー?」 水里の家から賑やかな声が聞こえる。 穏やか日常・・・ 掛け替えのない日常 「・・・。春さん。やっぱりやめましょう」 区役所の前でなにやら深刻な顔でたっている水里一家。 陽春の手には書類が入った紙袋が・・・ 「やっぱりおこがましいです。私みたいな半端者が ”藤原”になるなんて」 「ここまで来て置いて何おじけついてるんです!? 昨日話し合ったでしょう」 昨夜・・・実はまだ出していなかった婚姻届。 やはり、太陽の今後のためにもきちんと形上のことでも きちんとしようと結論を出したのだが・・・。 「形に囚われることやっぱりないです。私は3人で 一緒に居られたらそれで・・・」 「何いってるんですか!太陽のためにもって話し合ったでしょう。 水里さん、観念なさい・・・!」 陽春が仁王立ち。 「それともなんですか!?貴方は僕の奥さんになるのが いやなんですか!?」 「あ、いや、決してそのような・・・。こ、光栄であります!! 陽春さま」 ははーと言わんばかりに水里は頭を下げた。 「よし。水里さん。何も臆することはないんです。 貴方は僕の妻なんだから・・・」 「つ、妻・・・(照)。”爪楊枝”みたいな チビですが・・・あ、あのよろしくおねがいします」 「つ、爪楊枝・・・。ぷふふふ」 太陽と陽春、同時に噴出す。 「こらぁ!二人ともうけすぎだぞ!」 「あはは。ごめんごめん・・・。ふふ。でも 僕は爪楊枝、好きですよ。かわいくて・・・」 「///あ、いや、そ、それはどうも・・・」 新婚気分というのだろうか 少し新鮮な気持ちで窓口に書類を持っていって 「お願いします」 二人で婚姻届を出した。 (・・・こ、これで結婚したことになるのか・・・。 な、なんか簡単なような、あっけないような) と思っていると 「申し訳有りません。この書類では受理できません」 と突っ返された。 「え!?どうしてですか!?」 「・・・あの・・・。正式な”はんこ”じゃないと・・・」 「え!?」 水里の氏名の欄のハンコ。 なんとピカチュウのハンコが・・・ 「た、太陽!!あんた・・・」 「ママがね、押し忘れてたみたいだからね、 変わりにしてあげたの。へへ」 太陽はピカチュウのゴムハンコをポケットから 取り出してにこっとわらった 「た、太陽ー・・・。あんたって子は・・・」 「ふ。ふふふふ。ははははは!流石水里さんの子・・・。 最高の”オチ”ですね」 「お、オチって・・・。はー・・・。ふふ。ふふふ。 そうかも・・・。ふふ。ふふふ」 3人で窓口で大笑い。 窓口の職員はただ驚いて・・・。 「ふふふ。あーあ。なんか力ぬけちゃった。 ね、春さん、帰りましょうか」 「そうですね。書類なら、いつでも書ける。 ふふ・・・」 新しい婚姻届を持ち帰って 3人は区役所を出た・・・。 空は快晴。 3人は車を川原に止めて寄り道。 「パパーママー!」 川原の石拾いに夢中の太陽。 水里たちに手を振ってピカチュウの形の石をさがしている。 「・・・はー・・・。しかしよく笑いましたね」 「ふふ。ええ・・・ったく。太陽ったら最近段々 悪戯っ子になって・・・」 「成長してる証拠です。ね・・・」 「ええ・・・私もそう思います」 二人の間をつなぐ大切な心。 ちょっとおしゃべりが今でも苦手だけど 誰より優しい心を持ってる・・・。 「・・・水里さん」 「はい」 「・・・大切なことを言うの忘れていました」 「え?」 「・・・。僕と結婚してください・・・。生涯、そばに いてくれますか・・・?」 「え・・・」 「きちんと・・・。向かい合ってプロポーズの言葉、 言ってませんでした。記憶が曖昧な頃一度言ったけれど・・・」 「あ、い、いや、あの、そ、そんな・・・っ こちらこそ、あの、恐縮するばかりで、あのその・・・」 もじもじする水里。 「・・・。水里さん・・・。返事は?」 まっすぐに陽春は水里を見据えた。 「・・・。よ、よろしくお願いします・・・」 水里はぺこっと頭を下げて ごちん!と川石に頭をぶつけた。 「・・・ふふ。ふふふ。本当に貴方は・・・」 「な、ナンですか!!き、緊張したんですよ!もう・・・っ って・・・わっ」 水里引き寄せて抱きしめる・・・ 「・・・。ずっと・・・。こうして笑いあっていこう・・・。 水里・・・」 「・・・。は、はい・・・っ」 顔を近づけてくる陽春・・・ 突然呼び捨てにされて水里の緊張はマックスに・・・。 だがぎゅっと目を閉じた・・・ ぺったん。 (ん?”ぺったん”?) ほっぺになにか冷たい感触が・・・ 「あはは。みーママ、ほっぺにピカチュウハンコ つけちゃいましたー!」 「ふふふ。似合ってますよ。水里さん」 川面で確認すると確かに見事に水里のほっぺにピカチュウが 咲いておりました。 「んもーー!!二人とも!はかったなーーー!!」 「わー!太陽、逃げよう!」 バシャンンバシャン! 川原を3人で鬼ごっこ・・・ 「こらー!!待てー!!今日は夕食抜きに するからねーーー!!」 川原に3人の笑顔が咲く・・・ 太陽の光りが 3人を照らして・・・ 水里のスケッチブックにまた・・・ 新しい思い出が描かれる・・・ 『水色スケッチ』 幸せの数だけ 増えていく・・・ ささやかな日常 ありふれた日常 それが掛け替えのない営み 幸せ・・・ 平凡だなんて簡単にいわないで 一緒に家族と食事を食べること 一緒にテレビを見ること 一緒に笑いあうこと・・・ 家族が人でも欠けてしまったら 続いていた毎日が崩れてしまう だから無事に過ごせた今日という日を 大切にしよう 「太陽ーー!春さんー!」 大切な人に手を振って 笑い返してくれる・・・ 一瞬を・・・。 FIN
・・・お粗末さまでした。水里一家のちょっとした事件終わり(汗) ところで水里一家、管理人の考えるところがありまして、結婚したって 書いちゃいましたが、入籍、とかそういう形にとらわれることが正しいのかどうなのか ちょっと書いていて考えてしまいました。 太陽の将来のことを考えるならば、法律的なことは きちんとした方がいいのだろうけど、形に拘らず、 太陽は水里の親友の『吉岡陽子』の子供として生きてもいい。 今は多様な時代ですから色んな家族の在り方がっていいのだろうけど・・・。 ・・・難しい。私の単純なオツムでは応えはでないですたい。 でも色々また書くネタが浮かびました。ほのぼのした水里一家の日常など また読み切りで書いた際にはよろしかったら覗いてやってください。 ありがとうございました。