デッサン
scene22 天国からの贈り物
「世の中はクリスマスモード一色ですなぁ」
商店街もクリスマスセールで大忙し。


街路樹につけられた沢山の電灯。



すっかりクリスマスの雰囲気だ。




「かわいいクリスマスローズだ・・・」



”四季の窓”のドアにも柊で作られたクリスマスロースが
飾られ、いい雰囲気を醸し出していた。



「マスター。クリスマス、お暇ですか?
『風の唄』でクリスマス会やるんです・・・。もしよかったら・・・。というか
これ」



水里が陽春に見せたのは。



黄色の色画用紙で作られたぴかちゅうのカード。



なかを開くと。




『ますたあへ。こんどのにちようび、くりすますかいをするのできてください。
みさとままとみんなでけーきをつくってまっています。たいよう』


とお誘いの言葉が・・・。




「太陽君、しっかりした字、書けるようになりましたね。ふふ
是非参加させていただきます」




「よかった。太陽も喜びます!」



喜んでいるのは太陽だけではない。




(今年はマスターと一緒のクリスマスか。・・・なんか
いいな)



水里も嬉しかった。




それにしてもちょっと困ったことが・・・ある。




(今年、太陽へのプレゼントどうしよう・・・)





そして、今日は12月25日。 一年で一番、家族や恋人同士、友達同士が笑いあう日かもしれない。 クリスマス。 ケーキ屋ではもっとも忙しく、オモチャやもそうだ。 「こりゃー!生クリーム塗り過ぎじゃ!太陽!」 『風の唄』学園の台所では、水里と太陽、ほかの子供達が特大『ぴかちゅうケーキ』 の製作に勤しんでいる。 太陽はお気に入りのぴかちゅうのエプロンとバンダナを巻いて ぴかちゅうクリスマスである。 真っ白な丸い、生クリームのキャンバスに 黄色のマロンクリームでぴかちゅうを描いていきます。 「おお。なかなかおいしそうなピカチュウですなふふ」 水里の言葉に太陽はバッとケーキを隠した。 「・・・何?力作を簡単に食べるなと・・・?太陽画伯」 太陽は”うむ。そうであるぞ”と言わんばかりに頷く。 「わかってますよ。ふふ。マスターもまだだし。さ、早くつくちゃおう!」 ”ラジャー!”と言わんばかりに親指をたてる太陽。 「こんにちはー!」 玄関から陽春の声が。 太陽は生クリームホイップを投げ出して玄関に等特急で出迎えます。 「太陽君!お久しぶり!」 紺のコートを来た陽春に向かって抱きついて太陽は出迎えます。 「マスター!」 「お言葉に甘えて伺いました。なんだかいいおいがしますね」 「丁度今ケーキ焼けた所なんです。どうぞ!」 陽春は太陽を肩車して、食堂に向かう。 「あッ!水里姉貴のコレ!だ!」 少年が親指をたてて陽春に言った。 バコ! 水里の天誅が入った。 「失敬なこと言ってないで勝はお皿の準備してきな!マスター すみません・・・」 「い、いえ・・・(汗)」 苦笑する陽春。 元気な子供達に元気な水里。 陽春も活気な気持ちになる。 食堂では子供達がお皿片手に「ケーキはまだか」と言わんばかりに 椅子に座って待っている。 「お待ちどうさま〜!」 でん! 「お〜!!」 テーブルの上に、二つケーキが並んだ。 一つはごく普通のイチゴケーキ。 もう一つは・・・。 「特製ピカチュウケーキ。作。太陽」 えっへん! と言わんばかりにみんなの前で胸をポン!と叩く太陽。 「太陽クン、上手にできたね」 ”ま、これがぼくの腕だよ” と言うように陽春にもVサインする太陽・・・。 「太陽の自慢話はいいから早くくっちまおうぜー!」 他のみんなはもう甘い匂いに我慢できず食べはじめていた。 口の周りを生クリームだらけにしながら・・・。 「マスター。どうぞ。太陽の力作です(笑)」 陽春も『ピカチュウケーキ』を一切れ水里にお皿ににもってもらい、 食べる・・・。 太陽は味の方はどうかな・・・という目で陽春の反応を待った。 「うん。おいしいよ。太陽君。僕のお店で出したいくらいだな」 陽春の言葉に太陽は3本指を出した。 「え・・・?もしかして300円で売って欲しいって?」 太陽はまるで大阪の商売人のような顔で 手をこすりながらうなずく。 「300円?ちょっと高くないか?太陽」 水里の言葉に抗議する太陽君。 商売人魂が燃えたぎっています。 「んじゃ、350円!」 太陽、まだ値上げを要求。 「幾らなんでも400円は高すぎる!太陽シェフ!」 「ふふふ。太陽君。なんだか競りしているみたいだね」 水里と太陽の掛けあい・・・。 親子の様な・・・。 友達のような・・・。 ・・・仲間のような・・・。 不思議な関係。 二人のそばにいると心が和む。 去年までは一人きりのクリスマスだったから・・・。 「UNO!」 「えー?もうUNOかい!?」 ケーキを食べ終わると食堂ではゲーム大会で盛り上がる。 「マスター強いなァ。よしもう一回!」 学園の子供達からも”マスター”と呼ばれすっかり馴染む陽春。 ことさら女子からは大人気で 「ねぇマスターはどんな子がタイプ?モーニング娘。でいえば?」 なんて質問責めだ。 食堂はゲーム大会で盛り上がり明るい子供達の声が木霊する・・・。 「おーい!みんな、庭に出ておいでー!」 庭から水里の声がして、ゲームも中断し子供達も陽春も庭に出てみると・・・。 「スイッチONー!」 「わぁッ・・・」 芝生の庭。右の隅に植えてある杉の木が赤や青のランプが 点灯した・・・。 「よいしょっと」 脚立から水里が降り、飾り付けた電球のつき具合を観察。 「うん。綺麗についてる・・・」 「水里さん、これ・・・」 「毎年あの杉の木をライトアップするのが私の役目なんです。ふふ。 私から子供達へのクリスマスプレゼント・・・ってかんじかな」 「そうなんですか・・・。すてきなプレゼントだ・・・」 「・・・(照)」 ちょっぴり嬉しい水里。 「だけど背がちびだから脚立がいるんだけどな」 横から勝がつっこみ、 バコ! 「痛ってぇな!だから男ができねぇんだ」 「やかましいわ!これは勝へのクリスマスプレゼントだ!」 となんとも痛い贈り物・・・。 「・・・お手柔らかに・・・水里さん(汗)」 きらきらした瞳で水里が飾り付けた天然クリスマスツリーを 見上げる子供達・・・。 陽春は子供達から何だか元気を貰った気がした・・・。 「モーニング娘、ラブマシーンいきまーす!」 ゲーム大会の次はカラオケ大会。 食堂のテレビはカラオケ機に早変わりし、子供達 は自慢ののどを鳴らす。 (あれ・・・?そういえば水里さんと太陽君は・・・) マイクを持たされた陽春が気がつく。 さっきまでポケモンソングを熱唱していたのに・・・。 「ねぇ。勝君。水里さんと太陽君の姿が見えないんだけど・・・」 「・・・多分、聖堂の方だと思うよ。”お祈り”しに行ってるんだ」 「”お祈り”・・・?」 陽春は勝に言われたまま、食堂をそっと抜けだし、 併設する隣のの聖堂の方へ行ってみる・・・。 キィ・・・。 ドアを開ける・・・。 静まり返った聖堂内。 奥にはステンドグラスを背にマリア像。 数本のろうそくに照らされてなんとも慈悲深い顔をしている。 そのすぐ下で。 水里と太陽がひざまずいて祈りをささげていた。 「・・・ねぇ。太陽。いくらなんでも祈りすぎだって。マリア様は太陽の願いわかってるって」 太陽は首を振ってひたすらお願い。 「はー・・・。あんたのその粘り強さには観念するよ」 困り顔の水里。 ! 「あ・・・。マスター!」 「お二人さん。一体何を祈っているんですか?」 太陽は陽春にも気がつかず、ひたすらお祈り・・・。 「それが・・・」 太陽がサンタにねがったのは 言うまでもなく・・・。 「ピカチュウと友達になりたい」 だ。 流石に困った水里。 (アニメグッズでごまかせる年じゃないしなぁ・・・) 「ぬいぐるみなんかじゃもう太陽納得しなくて。本気で ピカチュウに合えると思ってるんです」 「それは困りましたね・・・。ふふでもその気持ちわかるなぁ。僕も小さいころは 絶対にこの世にはウルトラマンといつか会えるって思っていたし・・・」 着ぐるみの中にほかの人間がいると知ったときはショックだった。 でもそのショックは大人になるにつれ、”当たり前の出来事”と なって子供のころ真剣に信じていたことがばかばかしく思えることもある。 「まぁ・・・。幼い子から信じる気持ち、忘れちゃったら哀しいですよね。 ・・・でも太陽のは一筋縄じゃないんです」 と苦笑いする水里。 「太陽。外寒くなってきたし、お祈りはもう終わり!」 しかしマリア像の前から動かない太陽。 「ったく・・・」 困り果てた水里・・・。 そのとき。 クワン・・・。 聖堂の入り口の扉の影からなにやら泣き声が・・・。 「!!」 太陽は何かを感じたように入り口の扉の後ろに走った。 するとそこには・・・。 クワン・・・。 ガタガタ震えた子犬が・・・。 (!!!) そのとき、太陽の体に稲妻が走った。 黄色に近い毛並み。 三角の耳。 つぶらな瞳。 そして。 体の黒模様・・・。 まさしくそれは。 (ピカチュウダ!) まさに運命的な出会い。 太陽は今、興奮の坩堝(るつぼ)だ。 「太陽?一体どうしたの?」 水里と陽春がしゃがみこむ太陽をのぞく。 ”ねぇ、見てよ!ピカチュウが降りてきたんだ!” といわんばかりに水里と陽春に子犬を見せる太陽。 「そ、その色と模様はまさに太陽が求めてやまなかったものそのもの だ・・・(汗)」 そして子犬を抱き上げてくるくるまわって ワルツを踊る始末。 (〜♪マリア様がくれたんだ。きっと陽子ママがマリアさまに頼んでくれたんだ) そんなことを思いつつ 聖堂で子犬と華麗な(?)ダンスを披露する太陽・・・。 「・・・。喜びの舞ですか。太陽。ったく・・・。しょうがないなぁ・・・」 喜びまくる太陽を水里と陽春は微笑んで 見守っていた・・・。 が。 ミニピカ(子犬の名前。即効太陽が命名)と太陽が 運命の出会いをしてから約10分後。 早くも別離の危機が訪れる。 「駄目です。太陽。学園で動物は飼えないの」 シスターにミニピカを学園で飼ってもいいかと頼んだが ペットは禁止。 太陽はシスターに ”嫌いなにんじんをたべますからおねがいします” とひざまづくが 「規則なの。太陽」 厳しいシスターの答えに太陽の頑固さも負けてしまう・・・。 だが、この運命的な出会いを見逃すほど太陽も 意思が弱い男ではない。 そこで太陽が考えたのが・・・ チラッと水里を見る太陽。 「・・・太陽。なぜそんな目で私を見る?」 ととと・・・とミニピカを水里の前につれてくる太陽。 じーっと じーっと じーっと水里を見る。 なんとも愛想を振りまくように・・・ (ミニピカをお願いします♪) 「・・・。イワンでもいい。太陽の言いたいことはわかるよ(汗)わかった」 ばんざーい! 太陽とミニピカ。 二人合わせて万歳三唱。 「・・・というかね。最初からこうなるって予感はしてたんだよね・・・太陽くん(苦笑)」 苦笑いの水里をよそに・・・ 太陽は食堂で再びミニピカとワルツを踊っていた・・・。 (よかったねー♪ミニピカ、これでいつでも合えるよー) そんな水里と太陽のやりとりがほほえましくてたまらない陽春だった・・・。 水里と陽春は途中まで一緒に帰ることにした。 雪は数センチつもり、歩道の融雪装置から水があふれ 地面は解けた雪と水でしっとり・・・。 「はぁ・・・。でもまさか私が”クリスマスプレゼント”持って帰る とは思わなかった・・・」 水里の水色のバックからひょこっと顔を出す”ミニピカ”。 「はは・・・。でも可愛い贈り物じゃないですか。きっと聖母マリアが 太陽くんと水里さんへのプレゼントしたんですよ」 「あんなに太陽にお祈りされちゃあ・・・ね。流石のマリア様も 根負けしたのかな。ふふ・・・」 太陽のあの喜びよう・・・。 大人から見れば単に純粋な子供・・・その程度にしか見えないかもしれない。 でも子供にとっては目の前におきた出来事は とてつもなく大きな世界なんだ。 小さな体で大きな心。 何かを素直に信じる気持ちがいっぱいつまっている・・・。 「・・・でも・・・太陽には・・。何かを一途に信じる気持ち ずっともっていて欲しいな・・・」 「・・・そうですね・・・。太陽君だけじゃない。 大人でも誰でも・・・」 舞い散る雪を見上げて水里は思う。 太陽が思ったようにもしかしたら陽子があの子犬を贈ったのかもしれない。 空の上から我が子の頑固さを見かねて・・・。 そう素直に信じたい。 水里の家の前まで送った陽春。 「マスターわざわざ送ってもらってありがとうございました。 それからクリスマス会にも来てもらって・・・」 「いえ。僕も楽しいクリスマス、過ごさせてもらいました。本当に 楽しかったです」 「よかった。太陽も喜びます」 クワン。 バックから”ミニピカ”がひょこっと顔を出した。 「ふふ・・・。太陽君の友達君。よいクリスマスをありがとうって伝えてくれ」 陽春はしゃがんでミニピカのおでこを撫でた。 「じゃあ水里さん、僕はこれで。今日は本当にお招きありがとうございました」 「あ・・・はい。おやすみなさい。マスター」 紺のダブルジャケット。 陽春の後姿・・・。 降る雪の中・・・。 何だか少し・・・寂しげに一瞬感じた。 「あ・・・あのマスター・・・!」 水里の声に振り返る陽春。 「・・・め・・・メリークリスマス。素敵な夜になりますように・・・」 陽春はくすっと笑った。 「ありがとう・・・。メリークリスマス。素敵な夜になりますように」 微笑むと陽春は夜の雪の消えていく・・・。 一人きりのクリスマス。 きっと、雪が生きていたころは二人で過ごしていたのだろう・・・。 (マスター・・・) 雪が小降りになってきた・・・。 クワン。 ミニピカがバックからひょこっと出てきて水里のブーツに擦り寄った。 ミニピカを抱き上げる水里。 「・・・。ミニピカ。一緒に祈ってくれるよね。マスターの 心にも温かなプレゼントが届きますようにって・・・」 クワン! 小さな返事。 誰かに似ている。 小さな瞳。 言葉は交わせなくても相手の気持ちをとても深く汲み取る ミニピカの親友君に・・・。 「ありがとう。ふふ・・・。それからこれからよろしくね。ミニピカ君」 クワン! 雪が降る。 純粋な瞳の元へ。 大切な者をなくして痛みを抱える者の元へ。 皆の聖夜が 少しでもあたたかなものでありますように。 メリークリスマス・・・。