吉岡太陽。 6歳と数ヶ月。 再び人生最大の難題に頭を抱えている。 『恋人とはなんぞや?』 きっかけは同じクラスの女の子たちの会話。 ”私ね、●組の〇〇くんに恋しちゃったの。恋人になりたい” やたら楽しそうに話していた。 「こいってなにかなぁ・・・」 布団の上でミニピカに尋ねる太陽。 ミニピカは肉きゅうをぺろぺろとなめている。 ワウワゥ【恋?恋人?それっておいしいの?お魚の鯉じゃないの?】 ↑太陽とミニピカ、心の会話。 「ううん。食べ物じゃない」 ワゥワゥ【水里ママにきいたら?】 と、ミニピカが言ってので、台所で洗い物をしていた水里のエプロンをひっぱって たずねた。 「・・・恋人ってどういう人かって・・・?」 ”うん!”と太陽は力いっぱい頷いた。 「うーん。そうだなぁ。えっと・・・。友達より好きな人で・・・。一緒にいると 優しい気持ちになれてずっとそばにいたいって思う人かなぁ」 太陽を抱き上げる水里。 「ともだちよりだいすきな・・・人?」 「そう。太陽、恋人はいる?」 太陽はポン!手をたたいた。 そしてととと・・・と走って何かを抱えて戻ってきた。 「ボクのコイビト・・・ミニピカ!!」 「・・・。ふふっ。そうかぁ。太陽のコイビトはミニピカなんだ。 そうだよね。二人は仲良しだもんね」 ぎゅうっとミニピカを抱きしめる太陽・・・ 「でももうヒトリいる」 太陽は水里指差した。 「みぃママもコイビト。だいじな人・・・」 水里の膝にぎゅっと抱きつく太陽・・・ (太陽・・・) 「太陽っ。あたしもだよ!!」 水里はミニピカごと太陽を抱きしめた 餃子の具みたいにぎゅうっと。 「世の中でいっちばん大好きだよ!太陽!」 「きゃははは・・・」 ちっちゃかった太陽。 今はもうこんなに大きくなって・・・。 「・・・優しい・・・とっても素直な子に育ってるよ・・・。陽子・・・」 本棚の陽子の写真を見つめる・・・ 陽子と太陽と水里3人は 短い間だったけどこの家で一緒に過ごした。 毎日、太陽の成長が楽しくて嬉しくて・・・ 最愛の父親を亡くしてこの家でずっと一人で生きていくのだと思っていたから 本当に嬉しかった・・・ (・・・陽子。今・・・。陽子が生きていたらいっぱい 抱かせてあげたいよ・・・。陽子・・・) 太陽の髪を撫でながら・・・ 親友の笑顔を想う・・・。 (太陽が・・・。大人になるまであたし・・・。最後まで見守るから・・・。 空で・・・太陽の成長見ててね・・・) 夜空にそう声をかける・・・ 次の日。 (・・・陽子。確かに太陽の成長を見てていったけど・・・) 「ねぇ、みぃママ」 くいくいと水里のズボンをひっぱる太陽。 最近また始まった”太陽のしつもん攻め” 今回はグレードアップして・・・。 「みぃママ。”こうび”って・・・」 「・・・」 固まる水里。 「あ、あの太陽・・・」 「あのねー。ボクしってるよ コイビト同士がねこうびしたらね、赤ちゃんうまれるの」 「・・・」 返答に悩む前に 太陽は生命の神秘の”真実”を即答され、さらに凝固する・・・ 「・・・た・・・。太陽。そ、そんなことどこで・・・」 「『どうぶつ奇想天●』っていうてれびでやってたよ」 (・・・どうぶつ番組か) そういえば 馬の赤ちゃんがうまれるシーンが映っていたっけ・・・ 「ねぇ、みィママ。”こうび”って”どうやって”するの?」 「すっするって(汗)あの・・・」 もはや逃れられない・・・と観念する水里。 洗濯物かごをおき、太陽と一緒にベランダに座った。 「あのね。太陽・・・。”イノチ”ができるためにはこうびっていうのが必要なんだよ」 うんうんと頷いて水里の話をきく。 「男の人と女の人二人”コイビト”になって・・・お互いを大好きになって・・・。 それで”イノチ”がうまれるんだ。難しいけどわかる・・・?」 太陽はうーん・・・と腕組みをする。 「じゃあ、きのうのてれびのおさるさんは?」 「コイビト同士・・・おとうさんとおかあさんが・・・大好きって気持ちが一つになって それでいのちがうまれるの」 「それが”こうび”?」 「・・・ん、ま、まぁそういうこと・・・。わかってくれた・・・?」 太陽の顔を覗き込む水里。 太陽は少し首をかしげながらもコクンと返事をした。 (よかった・・・。これ以上の追求は応えようがない(汗)) 「よーこママは誰とコイビトどうしだったのかなぁ」 「え・・・」 「よーこママはだれと大好きになってボクがうまれたのかなぁー・・・」 「・・・」 太陽の言葉に・・・ 水里は返答ができない・・・ 太陽には水里はずっとこういい続けてきた。 『ようこママは・・・太陽の命のママだよ。太陽に命をくれたんだ』 でも今、自分が太陽に ”恋人同士だったお父さんとお母さんの大好きが一つになっていのちは産まれる” そう説明したのに・・・ 矛盾してくる・・・ 「太陽・・・。太陽は・・・。太陽は陽子ママが太陽に会いたい、とっても 会いたいって想ったから生まれてきたんだよ・・・」 そう言って水里は太陽をぎゅっと抱きしめる・・・ 「・・・みぃママも・・・?」 「もちろんだよ・・・!太陽はね、陽子ママと私の『大好き』が一つになって それで生まれてきたんだから・・・!」 「じゃあ、みぃママとよーこママも”こーび”したってことだね」 「・・・。ふ。ふふふ・・・。そうだねー・・・。大好きーって抱きしめあった よ」 太陽の寝顔が あんまり可愛いかったから二人でだっこした。 にこっと笑う太陽。 「じゃあ、ボクはミニピカと”こーび”しようっと」 ミニピカを想いっきりハグする太陽・・・ 「やれやれ・・・。うちの”質問大魔王”はやっとご納得なれたみたいだね」 (しかし・・・。春さんのところへいったら何を言うかわからんな・・・(汗)) ということで水里は太陽にある『防止策』を行使。 「あれ?太陽くん、風邪でもひいいたんですか?」 でっかいマスクをさせられております太陽。 「え、えぇちょっと・・・(汗)」 太陽はマスクがわずらわしいのかはずそうとするが水里の言いつけを思い出して やめる。 ”いい?マスターの前で『こうび』とか言っちゃだめだよ” (どうしてかなぁ。でもみィママが言うから聞かないけど。ききたいなぁ・・・) と思いながらオレンジジュースをストローで飲む太陽。 その太陽の目に窓際の席の若いカップルが映った。 若いカップルはやたらぴったりくっついて いちゃいちゃしている。 (あ・・・。あれはきっと”こいびと”だ!) 太陽は椅子をひょこと降りてカップルのそばに言った。 「な・・・。なんだよ。このガキ・・・」 じいいっとみてそして・・・ 「ねぇねぇ。おねえさんたち・・・こいびとどうし?」 「だ、だったら何だよ・・・」 「じゃあ『こーび』してるんだね!!」 ゴホッ!!!! 太陽の爆弾発言に水里はコーヒーを思い切り吹く・・・ 陽春も動きが止まっている。 (た、た、太陽〜!!???) 「こいびとどうしは大好きが一つになってこーびして・・・ぶがが!」 水里はあわてて太陽の口塞ぎカップルのそばから拉致。 ”公害”ならぬ口外防止する・・・ 「もがもが・・・」 水里の手を逃れようとする太陽 「太陽・・・っ。あ、あんまりおしゃべりしちゃだめでしょっ。す、すいませんっ。 春さん。すいませんっ」 太陽の頭をぐいっと何度も下げて平謝りの水里・・・ 「い・・・いえ・・・」 陽春も苦笑するしかない。 (なんでみィママがあやまるのかなぁ。ボクはマスターには聞いてないのに) 確かに水里は陽春に聞くな、と言っただけで他の人間に聞いていけないとは言ってない。 「・・・太陽・・・。い、色んなことに興味もっちゃって・・・」 「仕方ないですよ。子供は何でも興味もつことが仕事ですから。とても大切なことです」 「は。はい・・・」 (だけど内容にもよる気も・・・(汗)) 「でも太陽の質問に上手に応えられないのがちょっと情けないです・・・」 「情けなくていいじゃないですか」 「え・・・?」 「おいで。太陽くん」 陽春はカウンターから、太陽を抱き上げた。 「太陽君。今、一番聞きたいことはなんだい?」 太陽はマスクをとって 陽春をまっすぐみて言う。 「うん。コイビトってどうして”こーび”するの?みィママは 大好きどうしだからって言ってた」 「そうだね。みぃママの言うとおりだ。ところで太陽君はすきな女の子いるかい?」 「えー?」 突然の質問に太陽はちょっともじもじした。 「恥ずかしそうだね。太陽君」 太陽はコクンと小さく頷く。 「ボクも恥ずかしい・・・。それと同じでね。大好き”同士”が”こうび” したり抱き合ったり・・・。照れくさくって恥ずかしいものなんだ」 (・・・ドキ) 陽春の口から”交尾”なんて言葉が発せられてなんだか生々しくて 水里には聞こえる。 「でもボクはミニピカとハグしても恥ずかしくないよ」 「・・・。男の人と女の人同士はちょっと違うんだよ。太陽クンだって 好きな女の子にいきなりチュってされたら恥ずかしいだろう?」 「・・・ウン(照)」 「男の人と女の人の”大好き”はね・・・。ちょっと難しいんだ。 だからこそ”こうび”を大切にしなきゃいけない・・・。イノチを が大切だから・・・。わかる?」 太陽は少し首をかしげた。 「・・・いいんだよ・・・。僕も本当はよくわからないんだ。だから一緒に 考えていこう。ね!」 陽春の大きな手のひらが・・・ 太陽のサラサラの前髪を優しく撫でる・・・ それが心地良いのか太陽は ぷくぷくのほっぺをすりすりさせる・・・ 二人の微笑ましさに水里の顔も綻ぶ・・・ わからないことがあるなら一緒に考えていけばいい。 (私も太陽にそうこえてあげたら良かったのかな) けど・・・ 水里はふと考える。 (『父親』ってきっとこういう感じなのかな・・・。もしかして 太陽は・・・『父親』を求めてるのかな・・・) 『父親』。太陽の父親ー・・・ の顔が一瞬浮ぶがすぐに水里は打ち消した。 そして日も暮れて・・・ 「春さん。色々ありがとうございました」 「いえ。また来てね!太陽君」 帰ろうとする太陽と水里に手を振って見送る・・・ 「ん?太陽?」 太陽はとと・・・と陽春の元に走ってきた 「ますたあ」 エプロンをくいくいっとひっぱって何かを耳打ちした。 二人はぼそぼそと何か話している。 (・・・何話してんだろ・・・?) 話が終わったのか太陽が水里の元へ戻ってきた。 そして太陽は陽春に再び手を振る。 陽春も笑って見送る・・・ (ホントに何話してたんだろ。家に帰ったら太陽に聞こう) 男同士の会話が気にしながら水里と太陽は家路につく・・・ 一方陽春は・・・ 「・・・」 少し複雑そうな顔で洗い物をする・・・ ”ねぇ。ますたあ” ”なんだい?” 太陽が陽春にした質問とは・・・ ”みぃママとますたーは『恋人同士』にはならないの?” (・・・) キュ・・・。 蛇口を強めに閉める・・・ ”みィママは『コイビト』にならないの?” 太陽の質問に陽春は・・・ ”・・・。それは・・・。神様しかしらないんだよ” と応えた・・・ ”そっかぁ。じゃあわからないね。ボク、神様にお願いしておくよね。 みィママとますたーが『コイビト』になれますようにって・・・” 陽春は太陽の頭をそっと撫でただけだった・・・ 「・・・」 (雪・・・) 陽春は自分の心の芽生え何かを洗い流すように・・・ 食器をこすって磨いていたのだった・・・