・・・忘れたころにやってきたプレゼント。
それは・・・
まるで私を忘れないでという亡き人からの
言葉のようだった・・・
※
「えっ。明後日、春さんの誕生日?」
「そう。んで。まー。弟しちゃあ、一応なんかプレゼントしようかって
思ってさ・・・。何がいいと思う。お前」
筆で水里をつつく夏紀。
「どうでもいいが、夏紀くん。閉め切り間近なんじゃないの。いちいち
私のところで時間つぶすのやめてくれないかい」
仕入れた画材の種類訳作業をしながら水里は
夏紀の話を聞いていた。
「ちっ。オレが気を利かせてせっかく兄貴の誕生日教えてやってるのに・・・」
「なんで教えに来るのさ」
「お前だってなんか贈りたいだろ?違うのか?」
「別にあたしは・・・」
伝票をめくりながら
夏紀から視線を逸らす水里。
「・・・。ちっ。いつまでもじとじとと・・・。いいか?只でさえ兄貴って男には
亡き妻をいつまでも想い続ける男って役目がついてんだ。アプローチはどんどん
しねぇと・・・」
「アプローチも何もありません!もういいから帰って!」
バタン!!
夏紀を追い出れ・・・
「んっとにわかってねぇな・・・!くそ・・・」
(特に・・・今年の誕生日は・・・)
”お前もなにか贈るんだろ・・・?”
電卓を打っていた水里の手が止まり
カレンダーをみる・・・
(明後日か・・・。春さんには色々お世話になってるし・・・)
その日の夕方。
水里は駅前の骨董品アンティークショップにいた。
(いい色だな・・・)
白のガラスで蓋にはステンドグラスで雪の結晶の模様が
細工されていた
目を閉じて開けるて耳を当ててみる・・・
(なんの曲だろう・・・。綺麗な音色・・・)
心が落ち着く・・・
まるで・・・
(まるで・・・。雪が深々降ってくるみたい・・・)
白い粉が
地上に静かに降るような・・・
舞い散る雪が浮ぶ・・・
(これに決めた・・・!)
水里がオルゴールの値段を見ると・・・
『6,6000円』
(・・・)
思わぬ高額に元の位置に戻す水里。
そして財布の中身をちらっと覗く・・・
・・・福沢諭吉2人分しかない。
(汗・・・)
「お決まりですか・・・?」
店員が近づいてきて水里はあわてて店を出た・・・
「ふう・・・。十万なんて・・・。流石に骨董品屋だな・・・」
でもあのオルゴールの音色がまだ耳に残ってる・・・
(もう少し安かったらな・・・。でも財布事情が・・・)
悶々と悩んだ水里だったが・・・
(やっぱりあの音色が忘れられない・・・!出費だけど買おう!)
銀行のキャッシュで気合を入れてお金をおろし、再び骨董品屋に行った水里だったが・・・
「え・・・。売れた・・・?」
あのオルゴールの姿はなかった・・・
「売れた・・・。というか非売品だったんです」
「非売品?」
「ええ。店長が知り合いの誰かとの約束で贈り物にするとかで・・・。というわけで
すみません」
「・・・」
せっかく気合を入れてお金をおろしてきたのに・・・
がっくりと肩を落とす水里。
と、その水里のある一つの小箱が眼に入った。
棚の奥にすこしほこりをかぶっているが・・・
小さな宝石いれのような木箱・・・
(可愛いかも・・・)
「あ、あの、このオルゴールは・・・」
「あぁ。それはかなりの安物ですよー。ほら、傷だって少しあって・・・。でも
中のオルゴール自体は平気です」
開けると・・・
(あ・・・)
あの乳白色のオルゴールの音色とは違うが・・・
ゆっくりとしたメロディライン。
小さな雨の雫が水面にリズミカルに落ちるような
小刻みだけどどこか楽しい気持ちなる・・・
(これも・・・いいな・・・)
耳を澄ませて音色を聴く・・・
「あ、あの。これ、くださいッ」
「え・・・。構いませんけどそれ、ただ同然な値段ですよ?」
「いいんです!!これください!!」
ただ同然の値段・・・
本当にそうで
夏目漱石一人分ぐらいで・・・
(ちょっと目立つ傷はペイントして隠す・・・!私の特技の出番だ・・・♪)
その夜、水里はすぐに作業にとりかかった。
紙やすりで表面の艶をだし、
油性の絵の具でペイントしていく・・・
ふたにはラベンダーの花の絵を添えた
(モロ手作りって感じだけど・・・。きっと喜んでくれる・・・。
春さんはそういう人だよね)
ボディの色は白にしようと思い、ホワイトの絵の具を掴んだ。
(・・・)
だが何故か水里の手はライトブルーの絵の具を手に取り
絵皿に出す・・・
(・・・。あの綺麗な乳白色はとても出せないよね・・・)
しっとりとした・・・柔らかいおしとやかな色・・・
まるで
(・・・雪さんの笑顔みたいだな・・・)
2、3度の面識しかないけれど
とても印象に残っている・・・
(・・・私にはあの『白』は出せない。だからせめて
気持ちいい青空の色で・・・)
水里は陽春の笑顔を思い浮かべながら・・・
スカイブルーをオルゴールに
丁寧に塗っていった・・・
そして。日曜日。
「太陽。マスターへのプレゼント、用意できた?」
”ラジャー!”
と親指をたてて水里に一枚の画用紙を見せる。
画用紙には陽春の似顔絵が書いてあった
「おー!太陽画伯。なかなかどうして。素晴らしい似顔絵でございますよ」
「えっへん!」
太陽は胸をポン!と叩いて自慢。
そして画用紙を丸めてブルーのリボンで束ねた。
「みィママのは?」
「私?私のは・・・。それは後のお楽しみvv」
紙袋をさっと隠す水里。
「さて・・・。じゃあ、マスターのお誕生日お祝い作戦れっつゴー!!」
「れっつらごーー!」
水里と太陽はパチン!と手を叩きあってうきうきしながら
陽春の店に行った・・・
夏紀との打ち合わせでは買い物から帰って来た陽春にクラッカーで
お出迎え・・・という寸法。
「いいか?兄貴が入ってきたらいっせいにパーンと鳴らすんだ。わかってるか?太陽」
「ラジャー!」
クラッカーの尻尾を指差して太陽に説明。
「あ・・・。兄貴だ・・・!」
スーパーの袋を両手に持った陽春が近づく
カラン・・・
「ただい・・・」
パパーン!!
一斉にクラッカーが鳴り、赤や黄色のリボンが宙を舞う
「誕生日、おめでとう〜!!!」
「・・・な、なんだ・・・?」
呆気にとられ、かぶった紙テープを取る
「兄貴のバースディだろ?ふっ。ちょっと凝った演出してみました〜」
夏紀の足元で
太陽がなにやら苦戦している。
クラッカーの線をひっぱっているのに開かない。
「ふふ・・・。太陽君、もっと力入れて引っ張るんだよ。一緒に
鳴らそうか。いちにのさんでいくよ」
”うん”と太陽は元気に頷く
「じゃあ、いち・・・にの・・・さん!」
パアン・・・!
太陽のクラッカーは一番高く大きくなりびびいた・・・
「ますたあ。おたんじょーびおめでとさん!」
「ありがとう!」
陽春は太陽をぎゅっと抱きしめた。
太陽は嬉しそうに頬を摺り寄せる・・・
「というわけで・・・。今日はパーッと楽しくやろうぜ!」
密かに買っておいたケーキがカウンターに・・・
「・・・蝋燭はさんじゅう・・・」
「夏紀、数えなくていいぞ」
「兄貴ー。男は三十代から油がのってくるんだぜ。太陽。30+2が
兄貴の年だぜ」
「ひぃふぅみぃー・・・」
太陽は指を数える。
「太陽、あんたも数えなくていいのッ」
貸切(?)になってようで
4人は笑いあって楽しく過ごす・・・
(・・・こんなに明るい声が響くようになったんだな・・・。オレの
周りは・・・)
自分の誕生日を祝ってくれる人間がいることが
嬉しいと感じられる・・・
雪がいたころは二人きりの誕生日だった。
『ふたりきりで祝うのもいいけど・・・。やっぱり沢山の人
におめでとうっていってもらうのって嬉しいわよね』
雪の言葉を思い出す陽春・・・
「さーて!いよいよ。メイン。兄貴の三十二回めのこの日に
贈り物を致しましょ〜」
パチパチ・・・
ノリノリの夏紀に太陽が大きな拍手を送った。
「んじゃまぁオレから・・・。はい。兄貴殿」
「・・・『切なさを抱きしめて』・・・?」
真新しい単行本だ。
「・・・。これ、お前の本じゃないか(汗)」
「そうです!新鋭作家藤原 夏紀、待望の新作!!
刷りたての第一巻でございます!ささ、ご遠慮なくおおさめくだされ〜」
「・・・はいはい。有難く頂戴いたします。新鋭作家様殿。ふふっ・・・」
呆れ顔だけど
弟のお茶目さが微笑ましい。
「んで次は太陽だな」
太陽はちょっと恥ずかしそうに画用紙を見せた。
「見せてもいいかな?太陽くん」
”うん!”と頷く太陽。
カサ・・・。静かにリボンをはずす陽春。
「おお!太陽。お前、うまいじゃないか!」
画用紙を夏紀が覗き込む
画用紙には
コーヒーカップにコーヒーを注ぐ陽春の姿が描かれていた。
「太陽くん、ありがとう・・・!とっても嬉しいよ。絵、上手になったねぇ」
太陽の髪を優しく撫でる陽春。
太陽は恥ずかしそうに頭をぽりぽりかいた。
「でも母親代わりの水里も太陽ぐらい素直な女ならなぁー・・・」
ぼこ!
「余計なお世話だ」
水里からのげんこつのプレゼントをもらう夏紀。
「てぇ・・・。んじゃ最後、水里、お前の番だぞ」
「え・・・。あ・・・」
陽春がじっと水里を見つめた・・・
(そ、そんなに注目せんでも・・・)
緊張した面持ちで椅子の下の紙袋を持とうとしたとき・・・
「藤原さん、宅急便ですー・・・」
小包が届いた。
「んー?誰からだー?もしかして、兄貴の隠れFANからの贈り物だったりして」
「そんなわけないだろ。ったく・・・」
(!?)
「?兄貴、どうし・・・。ってこれ・・・!?
」
差出人の名の欄を見て一堂、驚く・・・
『藤原 雪』
「・・・雪さん・・・って。どういうことだよ!?誰かのたちのわるいいたずらか!??」
「・・・騒ぐな夏紀・・・。とにかく開けてみよう・・・」
楽しかった雰囲気が一転・・・
緊張した空気が張る・・・
カサ・・・
包みを開けると・・・
(あ・・・!それは・・・)
乳白色のガラス・・・
ステンドガラスの細工模様・・・
そう。
水里が最初目星をつけていたあのオルゴールだ・・・
「これ・・・」
包みの中に手紙が入っていた。
『初めまして。藤原陽春さま。突然の贈り物にさぞ
驚かれていると思います。私は駅前のアンティークを営んでおります、井口と
申します』
「駅前の・・・。そういえば昔、一度雪といったことがある・・・」
(・・・)
”店長が非売品と申して・・・”
店員の言葉を思い出す水里。
なんとなく事情が飲み込めてきた・・・
『実は奥様から6年後の今日、貴殿に
贈って欲しいとこのオルゴールを預かっておりました。
夫の誕生日プレゼントとして驚かせたいと・・・。それで奥様のおっしゃったように
お贈りした次第です。それで奥様直筆のメッセージカードをオルゴールの中に
いれておきました。奥様の想いが伝われば幸いです・・・』
「・・・雪が・・・」
ポロン・・・
静かにオルゴールを開ける・・・
(この音色・・・。覚えてる・・・)
カサ・・・
メッセージカードを広げる・・・
「雪の字だ・・・」
『陽春へ 6年後の誕生日に・・・。びっくりしたかな。
陽春がこのオルゴールをとても気に入っていたでしょ?
このオルゴールのタイトルってね。「永遠に舞う雪」っていうの・・・
なかなかナイスなタイトルよね。
なんか私の分身みたいで。
最も私には”永遠”はないかもしれないけど・・・
でも・・・。
一秒でも一分でも降っていたい。陽春 あなたの周りで・・・。なーんてね。ちょっと少女漫画チックかな?
もし6年後、あなたのそばに私がいなかったとしても・・・。きっと貴方は笑顔で
貴方を慕う人たちに囲まれた誕生日をおくっていると思います。
貴方の笑顔は人を呼ぶから・・・
だからずっと笑顔でいてね・・・。それで時々で良いから・・・
私のこと思い出してくれたら・・・いいかな(笑)
・・・私の大切な人へ・・・
お誕生日おめでとう。
雪』
綺麗な万年筆で書いた雪の文字・・・
懐かしい・・・
”このオルゴールいいな。でも値段がな・・・”
”ふふ。でもきっと季節外れのサンタクロースがいつか
くるかもしれないわね”
ポロン・・・
陽春は目を閉じて耳を澄ませる・・・
「雪・・・」
店の中に
粉雪が舞う
ポロン・・・
「・・・雪・・・」
雪の優しい微笑が
陽春を包む・・・
「・・・。おかえり・・・。雪・・・」
陽春は胸にぎゅっとオルゴールを
握り締めた・・・
(春さん・・・)
くいくい。
(ん?)
太陽が水里のズボンを引っ張る
”ますたーどうしたの?”
という顔をしている。
「シー・・・」
水里は太陽のおでこをそっと撫でた・・・
「・・・あ・・・。ごめん・・・。みんな・・・。なんか・・・。浸ってしまって・・・」
「いやいや・・・。なんつーか・・・。オレ、それ、ネタに使わせてもらおうかな。
純愛小説にはいいスパイスになるぜ!」
「馬鹿野郎・・・。お前の新刊読んでから判断するよ。ふふ・・・」
仲のいい兄弟。
(きっと雪さんは夏紀くんにとっても・・・)
大切な姉だったのだろう・・・
水里はオルゴールをじっと見つめ改めて感じる・・・
(雪さんは・・・。こんなにしっかり・・・”生きて”るんだな・・・)
姿はなくとも
その存在は確かに・・・
「・・・ところでよ。水里。お前のプレゼントは?」
「えっ・・・」
陽春がちらっと水里に視線を送る。
「あ・・・。あたしはあの・・・」
”おかえり。雪・・・”
水里は足元の紙袋をそっとテーブルの下に隠す。
「ご・・・。ごめんなさい。春さん。色々忙しくてその・・・買う暇ないから
あ、えっと。私も絵をかきます」
「あ〜?お前、太陽と同じってどういうことだよ。ったくんっとに
センスがねぇな」
「夏紀・・・!水里さん。いいんですよ。気になさらないでください。
こうして今日来てくださっただけで本当に嬉しいですから・・・」
「は、はい・・・」
水里が足でぐいっとさらにテーブルの奥に紙袋を押し込むのを
太陽はちゃんと見ていたのだった・・・
そして帰り道・・・
ケーキのお裾分けを箱にもらい
太陽はるんるん気分。
だけど・・・
「・・・」
(・・・みぃママ。なんかげんきないなぁ・・・)
水里の顔を心配そうに覗く太陽。
「・・・。あ・・・。ごめん。太陽・・・。心配しないで。ちょっと疲れただけだから」
「・・・」
理由の分からない脱力感。
なんだろう。
目の前に急に明るくて綺麗な遊園地が現れた・・・
でもその景色はあまりにもきれい過ぎて
自分とは似合わないことを悟ったような・・・
(・・・)
信号で立ち止まる水里と太陽。
後ろにいちゃつくカップルがいて
ドンッと太陽の背中を押した。
「た・・・太陽!!」
水里は紙袋を放り投げて太陽の手を引き、歩道に引き戻した。
「あ・・・!みぃママの・・・」
ガシャン・・・ッ
紙袋は道路の真ん中にに叩きつけられ・・・
ガシャシャーーン!!
「みィママの・・・!」
紙袋は見事にタイヤにひかれた・・・
「みィママの・・・!みィママの・・・!」
水里に抱かれた太陽は必死に両手を伸ばして紙袋を取ろうとする。
「太陽・・・。いいんだよ」
「でも・・・」
水里は太陽をそっと下ろすと紙袋を道路から取ってきた。
中身は・・・
「あ・・・」
オルゴールも木箱も見事にばらばら・・・
オルゴールはガチャンガチャンと
金音がしてもう鳴らない・・・
「・・・みィママの・・・みィママのが・・・こわれちゃった・・・」
まんまるの瞳にじわっと涙が溢れる
「ボクのせいだ。ボクの・・・」
「いいんだよ。太陽・・・。壊れちゃったのは仕方ない。それより
太陽に怪我がなくてよかった・・・」
水里は太陽をぎゅっと抱きしめる・・・
「みィママの・・・プレゼントが・・・。天国にいっちゃった・・・。
みィママの・・・。もうなおんない??」
太陽は薔ばらばらになった木屑を持って鼻をずずっとすすって泣く・・・
「うんちょっとこれは・・・」
太陽の目にはこんもりと涙が・・・
「じゃあ一緒にお祈りしてくれる?オルゴールがきちんと
お星様になれますようにって・・・」
「うん・・・。する・・・(ぐずっ)」
水里と太陽は家に戻ると
花壇の土の中にオルゴールの破片をビニール袋にいれて埋めた。
そして二人でしゃがんで手を合わせる。
「みィママのオルゴールが天国にちゃんと行きますように・・・。のんのん・・・」
手を擦り合わせてお祈りする太陽・・・
(・・・太陽・・・)
亡くなってしまった人の魂は
邪心のない無垢で一途な心が癒す・・・
生きているものの心でさえ・・・
水里の耳の奥で、あの雪が陽春に贈ったオルゴールの音色がポロン・・・と響く。
(雪さんの心は・・・。いつも春さんを見守っているんだ・・・)
雪のオルゴールがあんまり素敵だったから
自分のオルゴールがちっぽけに思えた・・・
でも・・・
(・・・大切なのは・・・。想う心だよね・・・)
太陽に教えられた気がする・・・
「いっぱいお祈りしてくれてありがとう。太陽・・・。ありがとうね・・・」
水里は太陽のちっちゃな手をぎゅっと握って頬によせた。
(また何か春さんに新しいプレゼントを作ろう・・・。私は私の心で贈ろう・・・)
「みィママ・・・」
「太陽は本当に・・・。優しいあったかい子だ・・・」
「ぼくもみィままのほっぺもあったかぁい・・・」
水里はいっぱいいっぱい太陽をだっこする・・・。
だっこされながら太陽はふとあることを思いつく
かなりばらばらに壊れてしまったオルゴール・・・
水里はあきらめてしまったが
ピカチュウが大好きな小さな天使が死んでしまったオルゴールに
命を吹き込もうと頑張る
(天国に行く前に、もっていかなくちゃ!)
翌日。
陽春の店の前にちょこん・・・とランドセルをしょった
太陽がすわっている・・・。
「太陽君・・・!?」
中から出てきた陽春のエプロンをぎゅっと掴む。
縋るような目をしている。
「と・・・。とにかく中に入って」
オレンジジュースを太陽に差し出す。
ちゅうちゅうとどこか寂しそうに飲む太陽。
「どうしたんだい・・・?元気がないね・・・」
太陽はランドセルを下ろし、ごそごそとあるものをカウンターに置いた。
「これは・・・?」
「ますたあ、これ、生き返らせてくらさい
みぃママの・・・みィママの・・・オルゴール・・・」
「え・・・?」
太陽はことのあらましをオレンジジュースを
ちゅうちゅうとストローで飲みながら話す・・・
(水里さんが・・・。オレへの・・・)
「ますたあはなんでもなおせるおいしゃさんだから
きっとなおしてくれるとおもって・・・」
コップの中の氷をがりがり食べる太陽。
ビニール袋のオルゴールの破片や木片を手に取る陽春・・・
「ますたあ、なおる・・・?」
心配そうに上目遣いの太陽・・・
くすっと笑い、太陽の頭を撫でる。
「ああ・・・。なおるよ。きっと直してみせる」
力強い陽春の言葉にぱぁっと太陽は笑った
「やったぁあ!!みぃママのおるごーる、なおる!」
太陽は万歳三唱。
粉々になったオルゴールが元に戻る・・・。
(天国に行かなくていいんだ!)
太陽は嬉しくてたまらない・・・!
太陽は椅子からひょこっと降りてカウンターの中へはいり
陽春のエプロンを掴んでにこにこしてうったえる。
「あのね、あのね、ますたあ、
みィママ、一生懸命につくったんだ、だから、そのオルゴールにはね、
みィママのこころがいっぱいはいってるんだ・・・!」
「・・・そうなのか・・・。じゃあ僕も精一杯がんばるよ!」
「・・・うん!!」
陽春は太陽を抱き上げてパチン!と手を叩きあった・・・
小さな天使の大きな優しさ
(本当に天使かもしれないな・・・)
そう感じた・・・
(それにしても・・・)
「・・・それで太陽君。あの・・・。どうして水里ママは昨日、渡せなかったか・・・
何か言っていた?」
「え?うーんっとね。あのね、よくわからないけどね、”ゆきさんの
オルゴールはとってもすてき。すてきすぎるね”って言ってたよ」
「・・・。そうか・・・」
”あっ・・・。いえあの・・・。すいません、忙しくて準備できなくてその・・・”
水里の言葉が過ぎる
(・・・)
「ますたあ?どうかした?」
「いや・・・。なんでもないよ。そうだ。水里ママが明日くるまで絶対に
治すからね。そしてこれ・・・。僕の宝物にするよ」
「ウン!!」
にこおっと桃色のほっぺが笑う・・・
こうして。
小さな天使が知らないところでお使いをしているのも知らず水里は
「はぁー・・・。男物の服っていうのも高いな・・・」
紳士服でネクタイを選んでいた・・・
(結局また私は高値に負けて買えなかった・・・)
とぼとぼと陽春の店の前を通る・・・
(手ぶらでは入りにくい・・・)
〜♪
(このメロディ・・・!?)
聞き覚えのある音色・・・
カラン・・・
音色に導かれるように店の中に入ると・・・
(あ・・・。な・・・なんで・・・!?)
見事に蘇った水里手作りの水色のオルゴールがテーブルの上で奏でている・・・
「あ、水里さん、いらっしゃい」
「あ、あ、あのそのオルゴール・・・」
「あ、それですか・・・?昨日、ランドセルをしょった天使が僕に
治してくれともってきたんです」
(ら、ランドセルをしょった天使って・・・。太陽のこと?)
「天使の話によるとこれは・・・。ある女性(ひと)が僕の誕生日のためにつくって
くれたものということで・・・。ちゃんと頂きました」
オルゴールを優しく手のひらに乗せる陽春。
「・・・あ、いやその・・・(汗)」
「・・・ありがとう・・・。とてもあったかいいい音色です・・・」
オルゴールを耳に当てる陽春・・・
「・・・いや・・・(照)」
「聞いていると・・・。こころがあったかくなってくる・・・」
陽春があんまり優しげにオルゴールを頬にあてるので
なんだか
水里は心がくすぐったい・・・
そして思い出した。
一番大切なことを言い忘れていた・・・
「・・・あの・・・。春さん」
「はい」
「誕生日・・・。おめでとうございます」
「ありがとう」
ちょっぴり遅れたけれど・・・
不器用な音色は小さな天使のお使いで
贈りたい人へ届いた・・・