ジリリリリーン!! 水色堂の黒電話のベルが響く。 ジリリリーン!!! けたたましく 水里を必死に呼ぶように鳴る・・・ 「はい!もしもし?!?」 妙な不安を感じた水里が受話器をとる シスターからだ。 「え・・・!??た、太陽が入院!???」 突然の太陽の入院・・・ 昨夜の夢がよぎり不安にかられる・・・ (太陽・・・!!) そして太陽の状態を聞いて水里は電話を切るとすぐに店を閉めて 病院に走った・・・ 其の頃。 『四季の窓』には珍しい客が陽春を尋ねていた。 「・・・愛子さん・・・?」 「お久しぶりです。陽春さん・・・」 以前、陽春に見合い話があったときの相手の愛子だった・・・ 某大学病院の令嬢で陽春と雪の事情ことも全て知っている。 雪にどこか面影が似ており、陽春が初恋の相手だったという・・・ 「突然おしかけてしまってごめんなさい・・・」 口調が重たい。 陽春はともかく愛子を座らせ、水を差し出した。 「一体・・・。なにがあったんですか・・・?」 「・・・。父が・・・。父が・・・。倒れたんです・・・」 「・・・!院長が・・・?」 愛子の病院に以前、陽春は勤めていたことがあり愛子の父とも入魂の中である。 「肝臓が弱って最初は過労だろうと思っていたのに・・・。精密検査の結果が・・・」 「・・・。何か・・・。見つかったんですか・・・?」 「・・・もしかしたら・・・」 愛子は一瞬押し黙り・・・陽春は検査結果がどうだったのか なんとなく察知した・・・ 「・・・。担当の医師がそう”確定”して告知したんですか?」 「いえ・・・。でも担当のお医者様は最悪の結果もありうると・・・」 スカートをぎゅっと両手で握り締める愛子。 「その医者は医者失格だな」 「え・・・?」 「医師はあらゆる検査結果を総合的に判断して患者に告げます。 これといった『原因』が見つからない段階で 患者を不安にさせることを言うなんて・・・。許せませんね!」 ドン!と愛子の前に焼きたてのクッキーを置いた。 「これを食べて元気だしましょう! ・・・きっと大丈夫・・・!僕からも病院にそれとなく訪ねてみます。だから 元気を出して・・・。ね・・・」 「陽春さん・・・」 陽春は心強く頷く・・・ 「・・・ハイ・・・」 愛子の胸がキュン・・・と高鳴る・・・ 初恋の・・・ 鼓動が蘇りそうだった・・・ 一方・・・ 「太陽・・・!!」 太陽の入院をシスターから聞かされ、病院にすっとんでいった水里・・・ 小児病棟で感動の(?)再会を果たす水里と太陽・・・ だが太陽は眠っていた・・・ 「なんですか!水里。静かになさいな・・・ったく・・・」 「あ・・・。すいません・・・(汗)」 「で・・・。盲腸って聞いたんですけど大丈夫なんですか?シスター」 「ええ・・・。虫垂炎になりかけてはいたけれど・・・。薬でなんとか治りそうなんですって。 でも一週間は安静だそうよ・・・」 「そうですか・・・」 おにゅーのピカチュウパジャマを着てベットに横になっている太陽・・・ 病気という病気をしたことがない太陽。 小さな手の甲に太い管の点滴を打たれ、痛いしく感じる水里・・・ 「・・・太陽・・・。ごめんね。すぐ来てあげられなくて・・・。でも 退院するまでずっとそばにいるよ・・・」 「水里貴方、太陽に付き添うつもりなの?」 「ハイ。だってシスターには保育園があるでしょう?」 「貴方にだってお店が・・・」 水里は顔を横に振って否定した。 「シスター。私、約束したんです・・・。太陽をずっと見守っていくって・・・。 それに・・・。病院にヒトリボッチ・・・その寂しさは私が一番よく知ってる・・・」 「水里・・・」 水里は点滴が打たれる太陽の手をそっと包んだ・・・ 「太陽・・・。安心していいからね・・・。ずっとそばにいるよ・・・。 太陽・・・。ずっと一緒にいるよ・・・」 すうすう寝息をたてる太陽の髪をそっと撫でる水里・・・ (水里・・・) 太陽を本当の愛しそうに見つめる水里の瞳が シスターにはとても切なく映った・・・ 幼い頃の水里を思い出して・・・ 次の日。 「陽春さん!!」 満面の笑みを浮かべた愛子が入っていきなり陽春に抱きついた。 「父が・・・父の検査結果がでたんです!!陽春さんがおっしゃった 通りただの嚢胞だったんです!!」 陽春の手をとりはしゃいで喜ぶ 「そうですか・・・!よかったですね・・・。でもあの・・・」 「もう私、心がすうーっと軽くなって嬉しくて・・・!! 陽春さんに早く伝えたくて・・・!!」 「そ、そうですか。と、ともかく落ち着いて・・・(汗)」 「あ、そうですね。やだわ私ったら・・・」 愛子は頬を染めて恥ずかしそうに陽春から離れた。 そしてカウンターに座り 陽春はアイスティを差し出す。 「・・・でも。本当によかったですね。ボクも安心しました」 「ハイ。でもまだ経過観察で年に検査にはこなくてはいけないんですけれど 命に関わることじゃなくて本当にほっとしました・・・」 「・・・。愛子さんは本当にお父様を慕っていらっしゃるんですね」 「えっ。ええ・・・。恥ずかしいですけれど、父ひとり子一人ですから・・・。 こういうのをファザコンっていうのかしら」 「恥ずかしいことではありません。親を想う心・・・。とっても素敵だし 当たり前だと思います。僕は・・・」 (陽春さん・・・) 陽春の微笑みに愛子は少女のように ストローをくるくるとグラスの中ではずかしそうにまわす。 「・・・。あ、あの陽春さん、私、何かお礼がしたいわ。今日一日、 ここでお手伝いさせてください!」 「え?い、いやでもそれは・・・」 戸惑う陽春をよそにバックからエプロンを取り出しつける愛子。 「何をお手伝いしたらいいでしょう??あ、洗い物なら私もできますわ」 洗い場に入ってスポンジで皿を泡立てはじめる。 「愛子さん、結構ですから・・・あの」 「いえ、なにか させてください!私、陽春さんのお手伝いがしたいんです・・・」 「愛子さん・・・」 じっと想いを込めた目で見つめる愛子・・・ だが陽春は愛子からスポンジを取り上げた。 「・・・。申し訳ないが愛子さん。お気持ちだけで いい・・・」 「え・・・?」 「”客”として来ていただくならいつでも歓迎します。でも あやふやな理由で女性を働かせるわけにはいきません」 「・・・陽春さん・・・わたしはだたお礼を・・・」 「・・・。お礼は貴方の笑顔でいただきました。わざわざ報告しに来てくださった だけで僕は嬉しかったです。だから・・・」 優しい言葉の中に 遠まわしだけど愛子の気持ちに対しての陽春の”答え”が 入っている・・・ 「・・・すみません。愛子さん・・・」 「・・・。わ・・・わかりました。あ、あの・・・じゃあお客としてなら 来てもよろしいんですね?」 「ええ。『お客』としてならいつでも・・・」 「ありがとう・・・」 切ない愛子の微笑。 (・・・すまない・・・) 陽春も申し訳なさを感じるが曖昧な態度だけはとりたくない・・・ 陽春の誠実さがまっすぐに出てしまった・・・ 「たっだいま〜!」 スーパーの袋を両手に抱え夏紀が帰って来た。 どさっとカウンターに材料をおく夏紀 「たく〜。可愛い弟をこき使いすぎですよ。おにいさま」 「どこが可愛い弟だ。生意気な弟の間違いだろ?ったく・・・」 買い物リストをみながら袋の中身をチェックする陽春。 「あ、そうそう。水里の家の前通ったんだけど店、閉ってたぜ」 「え・・・?どうしてだ?」 「さぁー。しらねぇけどまたどっかでのほほんと絵でも描いてんじゃねぇのか?」 りんごをかじりながら夏紀は話す。 「可笑しいな・・・。今日、太陽君と夕方寄るって言っていたのに・・・」 心配そうに時計を見つめる陽春・・・ 「また何かあったんだろうか・・・」 「きっとどっかで買い食いでもしてんだろ。そのうちくるさ」 「ああ・・・だといいんだが・・・」 (陽春さん・・・) 窓の外の通行人をじっと見つめる陽春・・・ その視界には自分はいないと愛子は感じる・・・ 愛子は複雑な想いで陽春を見つめていた・・・ (陽春さん・・・) 太陽が入院して三日目。 個室なので広い部屋におっきなベットにポツンと 一人太陽がいる。 枕の傍らには相棒のピカチュウ特大人形が。 「太陽。おしっこ大丈夫?」 「ウン」 点滴をつけているのでトイレがちと大変。 トイレは少し離れた場所にあるのでさらに太陽にとっては負担なことだ。 「みぃママ」 「なぁあに?」 水里は太陽の着替えをたたみ、ベットの上の棚にしまった。 「・・・お店はいいの?」 太陽は心配そうに聞く 「太陽・・・。そんなこと気にしてたの・・・?」 「ウン・・・。だってボクがびょーきになったから みぃママのお店おやすみしなくちゃいけない・・・」 「太陽・・・」 初めての入院。初めての個室。 引っ込み思案の太陽はきっと心細くて不安でいっぱいのはずなのに 逆に水里のことを気遣って・・・ 「太陽・・・おいで」 水里は太陽を引き寄せ抱きしめた 「お店は大丈夫だよ・・・。だから安心して。ちなみにミニピカも お隣のおばさんに頼んだから大丈夫」 「ホント?」 水里の顔を覗き込む太陽。 「うん。ホント。みぃママはね、太陽のそばにいたいんだ。 ずーっと一緒にいたいの・・・太陽はどう?」 「・・・うん!ボクも!!」 太陽はにこーっと安心した顔で水里の胸に 頬ずりするように顔を埋める。 「赤ちゃんにもどちゃったねー。太陽」 「ボクあかちゃんだもーん・・・」 あったかい 本当は太陽はずっとこうして水里にだっこしてほしかった 甘えたかった あったかい胸でだっこしてほしかった。 「ねぇ。みぃママのおっぱいはでないの?」 「・・・。そ、それは赤ちゃん産まないと・・・(汗)」 「そっかぁ。ざんねんざんねん」 「ったくー。最近太陽ちょっとエッチだぞー。こいつ〜。こちょこちょ こうげきだ〜」 「きゃははははッ」 太陽とおでこをこすりって 笑いあう・・・ 水里は入院している間は目一杯太陽を甘えさせたいと思った。 水里には太陽の気持ちが痛いほどわかるから 病院に一人 残される寂しさ 誰も見舞いに来てくれない 周りの同じ病室の子たちには親が付き添っているのに・・・ ”ママ、ご飯たべさせて” 思い切り親に甘えている子供たち・・・ 甘えたいときに甘えられないというのは子供にとって 体に栄養分を与えないくらいに 薬を飲まないくらいに大変なことだ。 まして病気や子供が苦しんでいるときに 誰にも甘えたり支えられなかったら 子供の心は ・・・折れてしまう・・・ (太陽にはそんな寂しい思いはさせたくないんだ・・・) 陽子の分まで 太陽を愛そうと水里は思った・・・ 「うっし!売店までお買い物いこっか?」 「わぁい!!ボク、りんごジュース!」 水里は太陽の点滴でころばないように手をしっかりにぎり、 エレベーターに乗る。 「おっかいもの♪売店までおっかいもの♪」 三日ぶりにトイレ以外の場所に行く太陽はうっきうっき。 チーン・・・。 エレベーターが開く。 「あ・・・」 「あら・・・」 2年ぶりに 愛子と会った水里・・・ 太陽は不思議そうにエレベータで対峙する水里と愛子を 見上げていた・・・ (なんだろうな・・・)