デッサン
第25話崩れていく男


『高橋和也 衝撃の過去の盗作事件発覚!??築きあげた名声が危機に瀕す!??』





下世話な言葉が週刊誌の表紙を踊っている。






本屋で水里も週刊誌を目にしていた。






7年前と同じだ。




和也がコンクールに出展したデザインが模倣ではないかと
疑われ、傷心の和也は日本を離れた。







そうー・・・




あの雨の日の出来事の後に・・・





「・・・和兄・・・」




クシャ・・・。






水里は週刊誌を雑誌コーナーに戻し、思い足取りで本屋を出た・・・

















「ほほう。高橋和也のスキャンダル。これはこれは
いよいよ水里の恋愛模様も面白くなってきた・・・」





モップがけをしながら和也の記事が載った週刊誌を読む夏紀。





「8年前の同じような展開!傷心の高橋和也、初恋の女に救いを求めるか、否か!??
ぐふふ。新作のネタにもらっちゃおっかな」






などと笑っている夏紀の真後ろに仁王立ちする陽春が・・・





「・・・さ、殺気だった兄貴さま!??」



あとづさりする夏紀。



「掃除をさぼってお前はまた・・・。これは俺が没収する!!」





週刊誌を陽春は夏紀から取り上げかわりにモップを渡す。




「人様の事情を噂してないで掃除しろ!!」





「でもよー。兄貴は気にならないか?高橋和也の初恋の女ってのは水里
で・・・。その上太陽もいる・・・」





「・・・。オレは部外者だ。立ち入ることなんてできない」









陽春は無表情でグラスを拭き、棚にしまう。








「・・・。オレさ。出版社で聞いたことあるんだよな」





「何をだ」






「高橋和也って・・・。見た目は誠実そうな二枚目ってうりなんだが
裏では仕事でのトラブルで借金もあるって・・・」






「・・・」






「温和な反面、情緒不安定な性格で仕事でのトラブルがあると仕事仲間に暴力
奮って警察沙汰にもなったって話だ・・・。ま、要するに嫌な事があると酒や女に逃避する
ってタイプ・・・」








陽春はただ黙って・・・
夏紀の話を聞いている・・・











「・・・。なんか・・・嫌な予感。兄貴はしねぇか。オレはさ。
なんか・・・すんだよ」








「・・・。夏紀。オレたちが何を心配したところでそれは”おせっかい”だ・・・。
余計な詮索は返って人を傷つける。わかったな・・・」





”水里に伝えてください。オレはあの写真は絶対に捨てないと・・・”





挑戦的なあの和也の言葉が陽春の脳裏を過ぎる・・・








陽春の胸にも一抹の不安が湧いたが・・・





(知人として出来ることをする・・・。それ以上のことはしない・・・。それでいいんだ・・・)





と、自分を戒めていた・・・。











一度噴出したスキャンダルは次から次へと 新しいものに書き換えられる。 『高橋和也、日本事務所脱税疑惑!??脱税した金は違法賭博につぎ込まれたのか!??』 高橋和也叩き第二段などと称して、あることないことを 書き立てる週刊誌が続々登場・・・。 和也が出演していた情報バラエティ番組も降ろされ、さらには 和也が監修した主婦向けのインテリア雑誌の出版も見送られ、スキャンダルの 影響が深刻化していた 「誰がこんなあられもない事実を・・・!!!」 バシッ。 奈央が週刊誌を床に投げつける。 和也の事務所兼自宅。 高級マンションの一室で奈央と和也が毎日押し寄せるマスコミへの対処を相談していたが・・・ 「・・・社長!訴えましょう!!!」 「・・・めんどくさせぇ・・・」 「そ、そんな・・・」 奥歯を噛んで悔しがる奈央。 「・・・。週刊誌ってのは確かにゴシップが多い。でもな・・・。”火のないところ”の 記事はかかねぇ。それなりの”火種”はあるのさ・・・」 「・・・。どういう意味ですか・・・。 ま・・・まさか社長・・・」 青ざめる奈央・・・ 「・・・。面倒なことはちゃんと弁護士に法律的なことは任せてある。でも・・・。 俺は確かに向こう(アメリカ)にいるときは派手にやってた時期があってな・・・。 俺に対して恨みつらみを持つ奴は結構いるんだ・・・」 黒い皮の椅子にどすっと座り頭を抱える和也・・・ 「・・・社長をねたむ奴がマスコミに吹き込んだ・・・ってことですか。 でも悪いことはしてないんですから堂々としていればいいんです」 「・・・。ああ・・・。そう・・・だな・・・。悪いが奈央。一人にしてくれないか」 「・・・はい・・・」 パタン・・・ 奈央は心配そうな顔で・・・ 社長室を後にした・・・ 「・・・」 和也はジャケットの内ポケットからあの写真を取り出す・・・ (水里・・・) ”かずやにいやん。かずやにいやん・・・” 自分にくっついてまわっていた少女時代の水里。 誰もじんじられる人間などいなかったけれど・・・ (こういうときこそ・・・お前の笑顔がみたい・・・水里・・・) 携帯のアドレス・・・ 水里の電話番号を選ぶ・・・ 「水里・・・」 ”・・・あの写真は捨ててくれ・・・” 「・・・」 P・・・ 和也は携帯の電源を切った・・・ 「・・・。8年前の二の舞か・・・」 ”かずにいやんかずにいやん・・・” 和也の耳の奥で・・・幼い頃の水里の声が響いて・・・消えた・・・ その後も高橋和也バッシングによる和也の仕事への影響は深刻化する一方だ。 大手ショッピングモール建設に関わっていたプロジェクトから和也の 会社は外され、契約していたデパートなどからの契約解消が相次ぎ・・・ テレビをつければワイドショーで 「高橋さん!盗作疑惑は事実なんですか!?」 「そんな事実はありません。調べていただけたら分かります」 事務所に向かう和也を執拗に追いかけるテレビカメラ。 和也はいたって冷静に受け答えしていたが・・・ この質問で和也の顔色が一変する・・・ 「高橋さんのお母様は自殺なさっていますよね?借金を苦に・・・」 「てめぇえッ!!オフクロのこと調べやがったのか!??」 リポーターの襟倉をつかみかかる和也。 「オフクロのことまで・・・!!てめぇらマスコミは人の過去ネタに飯ってんじゃねぇえよ!! え?コラぁああ!!」 「やめてください!!社長ッ」 リポーターを殴ろうとする和也を必死で止める奈央が・・・ ブラウン管に映っている・・・ 「俺はなぁ!!てめぇらには負けねぇぞッコラ!!かかってきやがれこの野郎!!!」 カメラの前で暴れる和也の姿が一部始終・・・ (和兄・・・) 水里はテレビの前でただ・・・ ただ・・・ 見ていることしか出来なかった・・・ 翌日は朝から激しい雨・・・ ワイドショーは和也のインタビューシーンをノーカットで ありのまま流し、放送した。 マンションのリビングで自分の映像を 缶ビール片手に見つめる和也・・・ 「・・・ふふ。いい男に映ってんじゃねぇか・・・」 朝から缶ビール20本飲みほし酔っ払って・・・ 完全に自棄酒だ・・・ 「社長・・・」 「なんだよ・・・。奈央・・・。お前も一緒に飲むか・・・。ふふ・・・」 「今・・・。東西銀行から電話があって・・・。融資は今月で打ち切りたいと・・・」 グシャッ。 缶ビールを握り潰す和也・・・ 「・・・。そうか・・・。くくく・・・。じゃあもう不渡だすしかねぇってか・・・。 くくく・・・。上等だ・・・」 「・・・それから・・・。私以外のスタッフ全員・・・辞表を置いて・・・」 「・・・」 テーブルに辞表を静かに置く奈央・・・ 「・・・ふっ・・・。見切りつけられたってか・・・。奈央・・・。お前もいいんだぜ。 早いとこ、辞めて・・・」 和也はブランデーを瓶ごとごくごく口から飲み干す 「社長!やめてください・・・!こんなに飲んで・・・」 奈央はブランデーの瓶を取り上げようとしたが 突き飛ばされてしまう。 「うるせぇえ・・・ッ!!奈央。お前だってホントは思ってんだろ!?? 俺にはもう何もないって・・・」 「そんな・・・私はただ、社長に最後まで諦めて欲しくなくて・・・。きゃッ」 和也は強引に奈央を引き寄せ抱きしめた・・・。 「お前は俺を癒せるとでも思ってるのか・・・?」 「・・・。社長・・・」 和也は奈央の髪をぐいっとひっぱり睨む・・・ 「思いあがるな・・・。俺はお前を女とも思ってねぇ・・・。分かったような顔しやがって・・・!! 消えろ!!」 奈央を乱暴に振り下ろし、再びブランデーをごくごく飲み始める和也・・・ 「どこへでも行け・・・。どうせ俺は生まれた時から一人だ・・・。 一人なんだよ・・・。一人にしてくれ・・・」 「社長・・・。わかりました・・・。私じゃ何も・・・ できないんですね・・・。無力でごめんなさい・・・」 奈央は少し涙を浮かべ・・・ マンションを出た・・・ (私じゃ駄目なんだ・・・。社長の心を癒すことは出来ない・・・。 私じ駄目なんだ・・・) 奈央は切なさを噛み締めながら 携帯を取り出し・・・ 水里の番号にかけた・・・ 「もしもし・・・。水里さんですか・・・。お願いです・・・。 社長を助けてあげてください・・・。貴方しか・・・貴方しかいない・・・」 「え・・・?」 雨が激しくなる。 電話越しに不安が過ぎる水里だった・・・