デッサン 第二部 第25話 崩れていく男
デッサン
第26話 痛い雨
”お願いです・・・。水里さん・・・。社長を救って・・・。 お願い・・・” 切羽詰った奈央の声・・・ 水里は戸惑いを覚えたが和也が精神的に追い込まれているのだと感じて 和也のマンションの前まできていた・・・ インターホンを少し不安げに水里は押す・・・ (・・・。和兄・・・) ピンポーン・・・ 何度も押すが返答がない・・・ (・・・まさか・・・) ガチャッ 嫌な不安が過ぎり水里は 濡れた傘をドアの外にたてかけ中に慌てて入っていくと・・・ 「和兄・・・?和兄・・・!!!」 ソファにうつ伏せになり倒れている和也に駆け寄る水里。 「和兄・・・!しっかりして!!」 和也を心配そうに覗き込む水里・・・ 「・・・。ふっ。死んじゃいねぇよ」 「!??和兄!!」 酒臭いさを漂わせ和也は起き上がった。 「・・・騙したな!?人が心配してきたのに・・・」 「・・・。奈央が電話でもしたか・・・。余計なことを・・・」 「余計なことじゃないよッ。・・・和兄・・・。みんな心配してるんだ・・・。 自棄になってるんじゃないかって・・・」 「・・・おお。それはそれは・・・。ご丁寧に。 ご覧の通り、俺は自棄酒で夢心地さ・・・。満足したか?え?」 和也は今度はワインの瓶をあけ、ゴクゴクと一気飲み・・・ 「・・・。お前何しに来たんだよ・・・。オレのこと嫌ってる癖に・・・。 え?」 「・・・。和兄と酒のみに来たんだよ」 水里は和也からワイングラスを取り上げ、自分もゴクゴク飲み干した。 「・・・。ぷは・・・。あたしも色々最近苛苛してて・・・。 特にワイドショーに対して腹がたってるんだ!ね!ちょっと和兄、こっち座ってよ」 和也を引っ張りソファに座る水里。 そして和也の記事が載った雑誌をドサッとテーブルに置いた。 「・・・何する気だ・・・?」 「ゴシップ記事なんてね・・・。こうすりゃいんだ・・・!破るべしッ!!!」 ビリリリ!! 水里は両手で雑誌を引きちぎり始めた。 「・・・行き過ぎた記事しかかけない雑誌なんて・・・!活字でどれだけの人が傷つくか・・・!! くだらん記事は資源の無駄なだけだ!!」 ビリリリッ!! ビリ!! 文句を言いながらひたすらに引きちぎる。 破る 破る・・・ 「和兄もやってみなよ・・・。自棄酒よりはすっきりするよ」 「・・・水里。お前・・・」 「・・・辛いときはね・・・。部屋の中で大暴れしたっていい・・・。者に八つ当たり したっていい・・・」 ビリリリリ! 「・・・どん底まで落ち込んでいいんだ・・・。そしてまた這い上がれることさえ 忘れなければ・・・」 ビリリリリ・・・! 手にインクがついて黒くなって・・・ 水里は破り続ける・・・ 「和兄・・・。負けないでよ・・・。八つ当たりしてもいいから 自棄酒でもいいから・・・。自分にだけは負けないでよ・・・」 ビリリリ・・・! 「水里・・・」 人の励まし方なんてわからない ただ 自分ができることは 精一杯にエールを伝えることだけ・・・ 「・・・くっ・・・。お前らしい・・・励まし方だな・・・。大雑把っていうか 不器用っていうか・・・」 「・・・なっ・・・」 でもだからこそ・・・ 水里らしくて 可愛らしくて・・・ 「よし。オレも破るか!こんな馬鹿記事は!!うりゃあ!」 和也も分厚い週刊誌を一冊てにとりびりっと真っ二つに割った。 「すごい・・・。流石男の力だね・・・。でも私も負けないもんね!えいッ」 ビリッ 水里と和也。 二人で週刊誌を破り捨てまくる・・・ 部屋中、散らかして・・・ 「うりゃ!えいッ!!」 自分を必死に励まそうとしている水里・・・ ”かずにぃやん、かずににぃやん・・・” 母の死で誰も信じられなかった自分。 けれど水里だけはどれだけ邪険にしてもくっついて そばにいた・・・ (今も昔も・・・。俺のそばにいてくれるのは・・・。お前だけだ) すぐ目の前にいる水里を抱きしめたい衝動が湧く・・・ 「ふぅー・・・。ちょっと破りすぎましたかねぇ。 掃除が大変だけど、いい?」 「ああ。散らかってるのは慣れてる。てお前顔・・・インクついてっぞ」 「え」 鼻の頭に黒いインクが・・・ 「くくく・・・。すげぇ似合ってる・・・」 「笑いすぎだ。ったく・・・」 水里はこうやって自分を笑わせてくれる 笑顔になれる (・・・水里が側にいれば・・・ずっと側にいれば・・・) 「よかった。和兄、笑える元気、少し戻ったみたいだね・・・」 「ああ。お前のお陰だ・・・。オレは大丈夫だ」 「・・・よかった・・・」 安堵の表情を浮かべ、一つ息をつく水里・・・ 「でも・・・。オレが大丈夫なのはお前がそばにいるからだ」 「え・・・」 和也の声色が変わり水里はビクッと心臓が反応した。 「・・・和・・・兄・・・」 真直ぐ水里を射抜くように見つめる・・・ 想いをぶつけるような・・・ 「・・・。あ・・・。あたしか、かえる・・・ね。じゃあ・・・」 (!!) だが水里の手をぐっと掴む和也・・・ 「・・・逃げるなよ・・・」 「逃げてなんか・・・」 水里の腕を掴む和也の手に力がこもる・・・ 「・・・。離してくれ・・・」 「嫌だ・・・。オレは・・・。何を失ったって平気だ・・・。でも・・・太陽と・・・。 水里・・・お前だけは・・・。失いたくない・・・っ」 (・・・!!) 水里の腕を引き寄せ強く抱きしめる和也・・・ 「・・・。ずっとこうしたかったんだ・・・。思いっきりお前を・・・」 「い、嫌だ・・・。は、離してくれ・・・」 (・・・怖い 怖い・・・!) 水里の脳裏に 蘇る・・・ 8年前のあの日・・・ 和也の生々しい光景・・・ (・・・嫌だ・・・!!怖い・・・っ。気持ち悪いよ・・・っ) 体が拒否する 全身に言いようのない不快感が走る・・・ <「・・・離しくれ・・・!触らないでくれ・・・ッ!!」 ドン・・・ッ!! 水里は激しく和也を突き飛ばした・・・ 「水里・・・」 水里はぶるぶる震えて・・・ 「な・・・。なんだよ・・・。震えるほど俺を嫌いなのか・・・?そんなに・・・そんなに・・・」 極度の水里の拒絶に激しいショックをうける和也・・・ 「・・・お前まで俺を・・・オフクロと同じように見捨てるのか・・・?」 目つきが変わった和也・・・ 水里を部屋の隅に追いやるように近づく・・・ 「・・・か和兄・・・。よ、寄らないで・・・」 「・・・お前まで俺は失いたくないんだよ・・・」 和也の変貌に水里は恐怖を感じる・・・ 「・・・。お前だけは絶対に離さない・・・。オレだけのものにすれば・・・」 「痛・・・!!」 水里の手をぐいっと掴み両手を壁に束ねて押さえつけられる 「・・・や、やめて・・・」 「水里・・・」 万歳させられるように壁に押さえつけられ・・・水里は動けない・・・ 「・・・大事に・・・するから・・・」 (・・・やだ・・・) ブラウスのボタンに和也の手が掛かる・・・ 「太陽・・・ッ!!!!」 パリーン・・・ッ 和也の手を振り払い その拍子にメガネのレンズが飛び散る・・・ ポタ・・・ 絨毯に赤い斑点が染まる・・・ はっと我に帰る和也・・・ 「み・・・水里・・・」 水里の手の甲から・・・ 血が・・・ 「・・・ご・・・ごめ・・・。俺・・・」 水里はガタガタ震え・・・ 後ずさりして和也に寄ろうとしない・・・ 三つ編みは乱れ・・・ 「・・・水里・・・」 「女は・・・。女は・・・。女は男の感情の捌け口の ためにいるんじゃないだーーー・・・!」 奥歯を噛み締めて・・・ 水里の悲痛な声が 和也にぶつけられた・・・ 「・・・。水里・・・。すまない。すま・・・」 水里はグッと湧き上がりそうな涙を抑えて 立ち上がる・・・ 「和兄・・・。和兄は太陽のたった一人の”命のパパ”なんだ・・・。 それを忘れないで・・・」 「水里・・・っ」 玄関まで水里を追いかける和也・・・ バタン・・・ッ! 乱暴にしめられたドアの音が 和也の心に ズシリと・・・ 響いた・・・ 「水里・・・」 ドアの前の立てかけられていた傘が・・・ 哀しく倒れた・・・ 雨 外はだた 雨・・・ (痛い・・・) 手の甲の傷口より・・・ 和也に掴まれた腕の方が・・・ (痛い・・・。痛い・・・) 体の自由を奪われ ”水里・・・” 何をされるかという恐怖感・・・ 生々しい”男”の顔を見せ付けられ 威圧され・・・ (凍みる・・・) 雨が 矢の様に 水里の肌と傷口を・・・ (・・・痛い・・・) 雨が 刺す・・・ 何が痛いのか何が哀しいのか・・・ それすらわからないほど・・・ ただ・・・ 雨の中 歩く・・・ 気がついたら水里の足は・・・ 「・・・」 『喫茶・四季の窓』 陽春の店の前に 来ていた・・・ 水里は吸い込まれるように店に足を向けるが ピチャ・・・ 「・・・!」 水溜りに映った自分の姿・・・ 三つ編みが片方ほどけて乱れ・・・ ブラウスのボタンが取れそうで・・・ (・・・。だ、駄目だ・・・。会えない・・・こ・・・こんな姿・・・ みられたくない・・・。見せられない・・・) 水里は引き返そうと店に背を向けた。 カラン・・・ッ (・・・!!) 扉の鐘の音に 水里はビクッとして・・・ 看板を持った陽春が出てきてしまった・・・ 「み・・・水里さん・・・?」 水里はさっと陽春に背を向けて姿を隠そうとするが・・・ 「どうしたんですか!?こんな雨の中・・・」 「な・・・なんでも・・・」 「なんでもって・・・・・・」 (!?) 手から血が流れているのに気づく陽春。 それに服の乱れから 水里に何があったのかすぐ察した・・・ 水里も陽春の視線で何があったか察しられたと感じる・・・ 「・・・。ほ・・・。ホントになんでもないですから・・・。さよなら・・・」 「あ・・・。ま、待って・・・!怪我の手当てを・・・」 陽春は怪我している水里の手に触れようとした 「・・・やっ・・・」 パン・・・ッ! 陽春の手を払いのけてしまう・・・ 「・・・水里さん・・・」 「あ・・・。春さん・・・ご・・・ごめんなさい、ごめんなさい・・・ごめんなさ・・・」 急に パニックが襲ってきた・・・ 「ごめんなさいごめんなさ・・・」 頭の中がぐるぐる回って・・・ 水里はその場にしゃがみこみ蹲ってしまう・・・。 「水里さん・・・」 「春さん・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・ ・私・・・わた・・・わた・・・。ごめんな・・・」 またガタガタ震えが襲ってきて・・・ フワッ・・・ (・・・!) クリーム色のサマーセーターが水里の背中に掛けられた・・・ 「・・・。大丈夫・・・大丈夫・・・」 「・・・」 「もう大丈夫だから・・・。きっと大丈夫だから・・・。大丈夫・・・」 今まで聞いた声の中で一番・・・ 優しい声・・・ 「大丈夫・・・。大丈夫だよ・・・」 水里の背中を なだめるように・・・ 静かに撫でながら・・・ 何度も陽春は呟く・・・ 「大丈夫・・・絶対に大丈夫・・・」 陽春の声が 心に沁み込む・・・ 冷たくて痛い雨が・・・ 少しずつ痛くなくなっていく・・・ 涙と一緒に・・・ 「う・・・う・・・うぁ・・・あ・・・っ。う・・・こわい・・・ こわかった・・・」 抑えていた恐怖がいっきに溢れ出す・・・ 「・・・こわ・・・。こわか・・・こわかった・・・。う・・・うぅ・・・」 氷が解けるように 雨音の中に 水里の嗚咽の中に恐怖感と安堵感いりまじる。 陽春は 自分の濡れながら水里が泣き止むまで・・・ ずっとそばについたいた・・・
なんだかマニアックな展開になってしまいました(滝汗) でもこの出来事がまたこれから二転三転するので どうしても避けられなかったというかなんとうか・・・(汗) でもこれをきっかけに主人公と陽春はかなり(??)親しくなると・・・ それにしても男の人というのは女性に『癒し』を求めると言いますが それも時と場合がある・・・。自分のはけ口にしてはいけないです。 ・・・昼ドラはそういうのお約束ですけど・・・ね(汗)