デッサン2
水色の恋

第34話 水里の恩返し
〜白薔薇の花言葉〜



太陽は『鶴の恩返し』という絵本を水里に読み聞かされていたとき、



ふと思う。。





(ますたーにもお世話になってるなぁ)











「みぃーまま、ぼくもだれかに”おんがえし”したい」





「え?」






「おせわになってるますたーにしたい」





と、絵本を水里の目の前にぐっと近づけて訴える太陽。






(・・・。そうだな。鶴もお世話になったお爺さんとおばあさんに恩返ししてるんだ!
人間の私がしなくてどーする!)




何だかむちゃくちゃな理屈だが、『鶴の恩返し』の絵本を片手に持った水里は




『春さんに恩返し大作戦』などと決意を新たにしたのだった・・・








翌日。水里は太陽を連れて陽春の元へやってきた。






「・・・え?してほしいこと?ですか?」




「はい!何でもお申し付けください!」






「もうしつけ、くらさい!」




ピカチュウエプロン大(水里)小(太陽)並んで陽春に尋ねる。





「・・・(汗)お申し付けくださいって言われても・・・。どうして急にそんな」







「いや。ここ最近なにかと春さんにはお世話になっておりますので
なんというか”恩返し”をしようかなって。ね、太陽!」





「うん!つるのおんがえし!」






水里と太陽は手をパチン!と叩いて言った。









「そんな恩返しだなんて大げさな・・・」






「何かありませんか!?何でも致しますね!太陽!」






「ハイホー!!」




太陽、陽春に向かって敬礼!








元気者二人を前にして陽春もくすっと顔が綻ぶ。






「そうかぁじゃあ・・・。裏の庭のラベンダーとミントが植えてあるんですが・・・
雑草が生えてきてるんです。お願いできますか?」





「草むしりですね!?うゎっかりました!では、太陽隊長
早速、仕事にとりかかりましょう!」







「ラジャー!!」






水里と太陽は陽春に向かって敬礼をし、元気な掛け声で






裏庭にむかった・・・









「・・・本当にあの二人はいつも元気だなぁ。ふふ・・・」






二人の元気な様子に陽春は安堵していた。




(・・・。記事の一件で二人とも・・・。特に水里さんは落ち込んでいたから・・・)








いつもの元気さを取り戻した水里を見て陽春は
ホッとしていた・・・







一方。




”マスターのお庭、綺麗にしよう隊”の2人は・・・









「綺麗・・・」






「きれーいなおはながいっぱいー!」






ラベンダーが咲き乱れ、たくさんのハーブの香りが畑じゅうから
香る。








ラベンダーの他に白薔薇やカスミソウもさいていた。






(小さな庭園だな・・・。ホントに春さんは何でも出来る人・・・なんだぁ)




水里はただただ・・・感心するばかり。






「ん?」



水里のエプロンをクイクイっと引っ張る太陽。






「くさむしり。おそーじおそーじだよ!みーまま!」





「あ、そうだね!任務は草むしりだ!頑張るぞ!太陽隊長!」




「アイアイサーー!」







二人は元気に敬礼して、スコップと鎌を手に二人は早速草むしり開始する。







「太陽。ラベンダーの茎おらないように間のちっちゃな草、とるんだよ。
」






「うん。しんちょーに、しんちょーに・・・」











太陽はダボダボの軍手で花と花の合間を顔を近づけて
草をとる。







「へくちっ」





ラベンダーの花の先が太陽の鼻の穴にはいってくしゃみ。







「ふふ・・・。太陽ったら・・・」











ラベンダーの香りに包まれて・・・





水里と太陽は丁寧に草を取り除いていく









その様子を厨房の小窓から陽春は穏やかな眼差しで見つめていた











「・・・兄貴。ホントにいい笑顔だすようになったな」







「夏紀・・・」










寝起きの夏紀。Tシャツにパジャマのズボン姿でご起床。







「お前な。着替えてから降りて来い。全く」






「ったく。水里と太陽のはしゃぐ声で目が覚めちまった。
朝っぱらからまぁ、元気だねぇ」






夏紀はサラダのきゅうりをポリポリと噛み、つまみぐいする夏紀。




「ああ。本当に良かったよ。水里さんも太陽君も元気そうで・・・」









「兄貴。あの花壇って・・・。雪さんが植えた白薔薇だろ?」






「ああ」








「それ今、水里に言ってやったらきっとアイツ・・・。申し訳なさそうーな
顔に一片に変わるぜ」








陽春の心をさぐるように夏紀は







遠まわしな言い方をする。




「・・。何がいいたい。お前」














「男ってのは女で負ったトラウマは健気な女で埋めるってのが
相場だ。だからそういう意味じゃ水里は。いい『道具』ではあるのかと」










「馬鹿なことを言うなッ!!!」




陽春は夏紀のTシャツを思わず掴んだ。









「・・・。兄貴・・・。もうそろそろさ・・・。”新しい季節”に気がついてもいいじゃねぇかな・・・。
」








「・・・」






スッと夏紀のTシャツを陽春は離す・・・


















「・・・。夏紀・・・。小説の中なら、季節が”冬”でもすぐ次のページ捲れば春になる。
だが・・・現実は・・・。分かるだろ・・・」








陽春の遠い瞳が夏紀には







切なく




少し苦しそうに・・・













(・・・。まるで空気が薄いみたいに・・・。そんな顔して・・・。兄貴・・・。
悩むほど・・・)








「水里。お前の恋愛も・・・一筋縄じゃいかなそうだぜ。ったく・・・」









顔に泥をつけて、太陽と笑い会う水里を見て呟く夏紀だった・・・













「わぁ・・・。綺麗になった・・・」





お昼過ぎ、半日かけて水里と太陽はピカチュウエプロンを
泥だらけにして、小さな雑草から太陽の背丈在る雑草まで全部ぬいた。








「ついでだったからお店の回りもやっちゃいました。ね!太陽」




「あい!やっちゃいました!」









水里と太陽、同じ場所に泥がついている。








「ふふ。ありがとうございます。さぁさ。二人ともお昼ナポリタン作りました。
食べてください」







「はーい!」






水里と太陽。




カウンターで並んですわって



ほかほかと湯気がたつオムライスをスプーンでほおばる。








「本当にありがとうございました。本当は僕が休日にしようと思っていたのですが・・・」








「お役に立てて嬉しいですふふ」



グラスに水を注ぐ陽春。










「こうえんです!」







「・・・。太陽。ソレを言うなら光栄!でしょ。ったくも〜。ほら、ほっぺ
にケチャップつけて」






「あはは。そういう水里さんもついてますよ」







水里はあわてて口元についたケチャップを袖口で拭く。







「あははは。みぃまま、おくちまっかだ〜」










カウンターで3人





本当に楽しそうに笑いあう









3人とも心が何かに満たされている。












(・・・親子じゃねぇかよ。あの雰囲気は・・・。
あんな幸せそうな笑顔してるの・・・。兄貴は自覚してねぇのかよ・・・)










”小説と現実は違うんだ・・・”






そう言った陽春の言葉が夏紀にはわからない。







どうしてそこまで自分の心に蓋をするのだろうか・・・。






夏紀は陽春の至福に満ちた微笑を複雑そうに見つめていた・・・











昼食が済んだ水里と太陽。




午後から買い物に行く予定だった。






「じゃあ、ごちそうさまでした。春さん」





帰ろうとする水里を陽春は何かを持ってきて呼び止めた。









「水里さん。よかったらこれ持っていてください」





陽春がもってきたのは新聞紙に包んだ




庭に咲いていた白薔薇。







「春さん、これ・・・」






「お店にでも飾ってくだされば・・・」





(?どうしたんだろう・・・?)



水里の顔が曇る。







「・・・。春さんあの・・・。ごめんなさい。貰えません」








「え?どうして・・・」










水里は少し間をおいてから呟いた。





「だって・・・。これは雪さんが植えたもの・・・。ですよね?さっき
夏紀くんに聞きました」






(・・・アイツ・・・)





「切っちゃ駄目ですよ。勿体無いし・・・。
雪さんの気持ちがきっとこもってる・・・」





水里は陽春に白薔薇を返した。






「水里さん。感謝の印と大好きなこの花をお礼に差し出す。雪もきっと同じ事をしたと
思います。だから・・・。変な気遣いしないでください」






「でも・・・」










戸惑う水里のズボンをくいくいと太陽がひっぱる。












「みぃまま。きれいなお花は、たくさんの
ひとにみせてあげたいよね」










「・・・。太陽・・・」






太陽はにこっと笑った・・・







「太陽君の言うとおりです。雪はこの花をよく近所の人にも
わけていた。だから・・・」













(・・・。そうだよね。何を変に意識してるんだろう。私・・・。
春さんは丹精込めて植えた雪さんの花だからこそ、単に純粋に”お礼”の気持ちで
くれるっていうのに・・・)




「・・・はい。じゃあ・・・いただいていきます。うちの店のウィンドウに飾らせてもらいます」








「わぁい!まっしろなおはな、ミニピカにも見せてあげようっと♪」





太陽は嬉しそうに花を覗き込む。








「春さん、美味しいオムレツとお花、ごちそうさまでした!ふふ」








水里の顔には笑顔戻ったが・・・。





だが・・・。








(・・・水里さん。どうして貴方は・・・遠慮ばかり・・・)






陽春は分からなかった・・・。













その夜。






コンコン。




「入るぜ。兄貴」



陽春の部屋を夏紀が訪ねた。






陽春はいつもの如くメールのチェックをしていた。





「なんだ?」








「・・・。兄貴さ・・・。白薔薇の花言葉って知ってるか?」





「花言葉・・・」









「”相思相愛”って言うんだぜ・・・」








「・・・!?」

















「・・・もしかしたら・・・。水里の奴・・・。花言葉の意味に気づいたから
雪さんの気持ちを
感じてそれで、遠慮して受け取れないって言ったんじゃねぇかな・・・」









「・・・」








”雪さんの気持ちがこもっている花なのに・・・”






水里の台詞の意味したことがようやく理解できた陽春。










(・・・水里さん・・・)









陽春は自分の無神経さを責めた。









あの白薔薇は雪がいつもたくさんの人たちに見てほしい、そういって
育てていた。

だからきっと庭を綺麗にしてくれた水里と太陽にお裾分けすれば
雪も喜ぶと思った・・・








「・・・。オレは何もわかってなかったんだな・・・。雪の気持ちも水里さんの
気遣いにも気がつかないで・・・。オレって奴は・・・」






陽春は深いため息をついて髪を掻き揚げた














「兄貴はほんっとに真っ正直だな。いちいちな、
気にしてたって仕方ねぇだろ」








「・・・だが・・・」










「ま・・・。兄貴から誠実さとったらただの優男だがな・・・。ま、これでも
飲んで一服してくださいな。兄上様」











夏紀は机の上にビール缶を静かに置いて




部屋を出て行った・・・















(夏紀・・・)








ちょっと小賢しい弟の言動の裏にも兄を思いやる気持ちが見え隠れする・・・







陽春は隣の部屋の夏紀に缶ビールで乾杯と呟いて一口飲んだ・・・










〜♪





(!)






水里からのメールの着信音。










陽春はすばやくクリックする。





『春さんへ。
今日は本当にありがとうございました。オムレツも美味しかったです』












(・・・)









『それと・・・。雪さんの白薔薇の事で・・・。そのあの・・・。変な遠慮してすみませんでした。
私が気を回す理由なんてないのに。』








(”気を回す理由がない”か・・・)










そのフレーズに




微かな寂しさを感じる陽春・・・






『あ・・・。それで白薔薇、早速かざらせてもらいました!太陽ってば
気取っちゃって。↓の写真のように』






と、文章の下に白薔薇一本口に加えて気取る太陽とミニピカの写真が
添付されていた。






写真にくすっと微笑む陽春。






『短いですがお礼のメールとさせていただきます。春さん、おやすみなさい
水里』







いつもより短いメール。








陽春はどうして水里がここまで気を使うのか



人付き合いは苦手な方だと聞いているが・・・





過剰なほどに








針のように神経を尖らせているようにすら感じる・・・








”水里にはまだ塞がってない生傷があります”






和也の言葉がふっと浮んだ。








(・・・。何が”在る”っていうんだ・・・。何が・・・)












考え込む陽春ふと見上げる・・・






机の上にガラス瓶に生けられた白薔薇。











花言葉は相思相愛。









これが雪の願い・・・?







(・・・永遠の・・・願い。オレは何も知らなかった・・・)






白薔薇に触れる陽春。







(・・・わかってるよ・・・。お前の想いは・・・。絶対に分かってるから・・・)








何かを訴えるように



白薔薇は少し風に揺られた・・・












同じ頃。



水里も白薔薇に触れていた。


洗面所で


青い花瓶から取り出し、茎をきって水切りをする。





(・・・白薔薇の花言葉・・・)









花言葉を思い出したとき、



これは雪の想いの塊だと水里は感じた。









(・・・きっと・・・。ずっと春さんと一緒にいたかったんだ・・・。
ずっと一緒に・・・)









”雪が・・・”




陽春が雪を呼ぶ声に





微かに胸の奥が痛む・・・











「・・・痛っ」







白薔薇の棘が水里の人差し指に刺さって・・・
血が少しにじむ・・・








「・・・」









一瞬、雪に対して感じた嫉妬心を戒められた



気がする水里・・・













(・・・。雪さん・・・。私と春さんの間で”相思相愛”という言葉はが現実になることは

絶対ありません・・・。春さんの『唯一』は雪さんです。だから・・・。安心してください・・・)







・








白薔薇を花瓶に移し、テーブルの上に置く。










「私の相思相愛は・・・。ピカチュウ大好きっ子だもんね」







太陽の寝顔を見つめて呟いたのだった・・・