デッサン
〜水色の恋〜


第43話 告白・・・?



”側にいてくれませんか”





「・・・。あの台詞って」





水里、朝食を支度中、陽春かわいわれた言葉に・・・








(あれは・・・あれは・・・)







どういう意味・・・?








こ、告白・・・!??




水里、一時魂が宇宙のの彼方に飛び、体の動きが停止。





5分経過・・・



「はっ!!い、いかん!!い、い、いや、おちつけ、おちつけ!!そ、そんな
絶対にそんな現実あるわけがないんだ、お、おちつけおちつけ、水里、おちつけーーー!!」





といいながら、味噌汁の中に納豆をいれてかき混ぜる水里・・・







納豆味の味噌汁という怪奇な朝食が出来上がった・・・








同じ頃。




リビングで夏紀と陽春はこちらはパン食。


ハムエッグに野菜ジュースといったヘルシーな朝食だ。






「せかっく兄貴が意思表示したってのに肝心の水里の奴が鈍感とんちんかん
なもんだから・・・。側にい欲しいっていわれて”どの位ですかって聞き返す
馬鹿がどこにいる」




夏紀が呆れ顔でゆで卵をほおばる。





「普通は恋愛モード突入ってのになんで兄貴達はほんわか”微妙な関係”ライン
にいるんだよ。まだ」





「うるさいな。人は人。オレと彼女は彼女の関係、というものがある。ただそれだけだ」






「男と女の関係に色々なんてねぇだろ。ったく・・・。あーもう!
じれってーー!!」




ちょっとおこげの目玉焼きをフォークでキコキコ切る夏紀。




「・・・。お前な、目玉焼きにあたるなよ」



「うっせよ。ったくー・・・。でも兄貴。兄貴は本当に迷いはないのか?」



「・・・」






陽春は黙ってミルクを一口飲む。




「水里の味方するわけじゃないが・・・。兄貴の中に少しでも雪さんへの
”迷い”があるならよしたほうがいい・・・。でないと後々兄貴も水里の奴も
傷つく・・・」




「・・・」




「心配なんだよ。二人とも・・・優しすぎるから・・・。
優しすぎる恋ってのは・・・ただたた・・・切ないだけで・・・」





「・・・ぷっ・・・」





陽春は噴出す。



「なっ。何だよっ」




「いや・・・。お前、やっぱり根っこはロマンチストなんだなぁって・・・。
さすが恋愛小説家だよ。ふふふ・・・」





「ちゃ、茶化してんじゃねぇよッ!オレは真面目に・・・」




「・・・わかってる」




陽春はフォークを置いて真直ぐに夏紀を見つめる・・・。







「・・・。あやふやな事はしない。いい加減なことには絶対にしない。
絶対に・・・」





「兄貴・・・」





「ただ・・・。急ぎたくはないんだ。彼女を大切にしたいから
焦りたくないんだ・・・」










白いリビングのカーテンが揺れる・・・







「・・・大切にする・・・。オレの中にある雪の記憶も・・・」








ポケットから水色の絵の具を取り出し微笑む陽春・・・








「・・・これからの自分の人生と・・・。そして想いも・・・」










(兄貴・・・)





陽春のすっきりとした表情・・・



白カーテン。




少し寂しそうに揺れていた・・・













(・・・多分。いつものパターンだと、『意味ありげ』な
春さんの台詞には深い意味、はないのだけど・・・)



陽春の店のまえで悶々と考え込む水里。



「ねぇ、みぃまま、はいらないの?」


水里のズボンをひっぱる太陽。




「・・・う、うん。は、入ろうね・・・」


(太陽をダシにするわけじゃないけど・・・)

水里は緊張しながら扉を開ける・・・




「こんちはーー!!」


まず、太陽を先に入れる水里・・・







「やぁ!太陽くん、いらっしゃい!」


太陽は陽春めがけて飛びつく。





「あ・・・。水里さん、いらっしゃい」




「あ、は、はい、いらっしゃいましたです・・・っ」




陽春の表情一つ一つ、敏感に感じ取る。



いつもと変わりはしない感じだけど・・・




(・・・や、やっぱりあの台詞に深い意味はないのかな(汗))


水里はチラチラと陽春の様子を伺う・・・






「あのね、あのね、ますたー。きのう、僕とっても
怖い夢をみたの」




「こわいゆめ?」




「うん。ますたーがね、ぼくとみぃママから離れていっちゃうの・・・。
とーくに」





太陽はぎゅっと陽春に抱きつく・・・






「それでね、僕とみぃーママの事もわすれてちゃって
遠くにいっちゃうんだ。ボク・・・。寂しくて・・・」






太陽、目をうるうるさせている・・・







「大丈夫だよ。僕は太陽君から離れたりしないよ」





「ホント?」




「ああ。ずっと・・・側にいるよ・・・」





陽春は太陽の髪をそっと撫でて


抱きしめる・・・




太陽は安心して顔を埋める








微笑ましい光景に水里の顔も綻ぶ。



が。





あることに気がつく。


(・・・。やっぱり春さんの台詞は・・・。太陽のと同じ意味合い
だったんだな・・・。嬉しいような、寂しいような・・・。ま、
いっか・・・)







自分の恋より



太陽の笑顔。






「みぃママ、ますたー、ずっと一緒にいてくれるって。
よかったね」






「え・・・。あ、あ、う、うん」





(なんか太陽に心、見透かされたみたい・・・(汗))







「水里さん、クッキー焼いたんです食べてくださいますか?」





「あ、は、はい」




「じゃ、いつもの席へどうぞ」



水里はカウンターに太陽とならんで座る





いい香りが漂う・・・








こうして一番右端の席をいつも空けていてくれる・・・






”自分と陽春の特等席”




水里は時々、そう勘違いしそうな自分に気づく。



そんなことあるはずないのに。




・・・あっちゃいけないのことなのに・・・




「今日お二人が来ると思って・・・。朝から焼いていたんです」






「わぁ・・・。オイシそうですね!いっただきます」






水里はこんがりと焼かれたクッキーをぱくり。






「よかった・・・。水里さんは本当においしそうに食べくれるから
嬉しいです」




「そんな(照)ただ、食いしん坊なだけで」




「・・・大げさじゃなくて・・・。本当のことだから・・・。貴方の喜ぶ顔が
見たいんです。僕は・・・」







(・・・)






陽春の微笑み・・・




本当は嬉しいのに



前まではただ”嬉しい”だけだったのに・・・








(真直ぐに・・・春さんの笑顔がみられない・・・。ドキドキが
また・・・。鳴ってきて・・・)





自分が自分じゃないみたくなる。








「水里さん・・・?」





「え、あ、ご、あんまり美味しいンで何時もの如く言葉を失っておりました」






「ふふ・・・っ。それはどうもやっぱり嬉しいな・・・」








(・・・)






きっと。陽春にとっては”深い意味”はない言葉なのだろう。





でも・・・







(春さんの言葉にドキドキしたり・・・。がっかりしたり・・・。
こういうのを・・・こういうのを・・・。巷では”恋”というのか・・・って
何、少女漫画の一文みたいな思考を巡らせているのだ、己は・・・)













水里は自分の心の変化に




ただ



戸惑う。





そしてドキドキが止まらないのだった・・・









ドキドキはしても、 それを陽春に伝わってはいけない。 (今のこの空気が壊れてしまう) 自分と陽春の間に生々しい恋心なんていうものを入れたくない、 そんな想いも水里にはる。 「・・・。何だか元気がないですね」 「えっええぇ、別に・・・」 「また水里さん、無理してるんじゃないでしょうね?」 手首を握られ、脈をはかられる水里。 (・・・ッ!!) 水里の心臓はドキンっと激しく打つ・・・ 「あー。脈が速い・・・。疲れていませんか?」 「だ、大丈夫。ちゃんと眠っているし・・・」 (脈拍が速いのは春さんに触れられているからだ、なんていえるわけもなく) 水里はこの”ドキドキ”をなんとか隠そうと 平静を装うが何だか変になってしまう。 背中を丸くしてもじもじする水里・・・ そこへ・・・入ってきたお客。 「こんにちは。お久しぶりです。陽春さん」 「佐和子さん」 結構美人の雪の親友の佐和子。 (・・・。なんか・・・。込み入った話かも) 水里は少し控えめにカウンターの席から窓際にカップをもって移る。 気を使った水里の気遣いに気がついて陽春の視線は水里を追うが 目の前の佐和子にとりあえず水を出す。 「佐和子さん、今日は一体・・・」 「ええ。ちょっと陽春さんに見てもらいたいものがあって」 カサ・・・ 佐和子が紙袋から取り出したのは・・・ 「・・・これは・・・」 陽春も覚えがある・・・ ドライフラワーのブーケ。 「”私たちには結婚式できなかったから・・・。このこ達ぐらい代わりに” 雪がそう言って私にくれたんです。陽春さんも覚えていますよね?」 「・・・ええ」 教会の前で、 教会の扉の前で結婚の誓いだけをした。陽春と雪。ドレスもない だから雪が手作りのブーケをつくり、親友の佐和子に渡したものだった。 「幸せそうな顔で・・・。次は佐和子が幸せになる番よ・・・って・・・。いまでも雪の 顔が私、焼きついています」 「・・・はい」 陽春の中にもよみがえる。 式も指輪もない結婚式。 たった一つのブーケだけ・・・ 「・・・陽春さん。私結婚するんです。だから、このブーケを陽春さんに返そうと思って 」 佐和子はブーケをそっと陽春に手渡す・・・ 「・・・忘れないでくださいね。陽春さん・・・。雪の笑顔を・・・」 「・・・。忘れません。ずっと忘れません・・・。もう雪は・・・。僕の 心の一部ですから・・・」 ズキ・・・ッ 吐息が混じった陽春の低い声・・・ 水里の心にヒビが 入る・・・ (・・・痛い) ドキドキが ズキズキに・・・変わった・・・ 「よかった・・・。安心しました。私、怖かったんです。 雪の笑顔を忘れて、自分だけが幸せになっていいのか・・・って・・・」 「・・・」 「でも陽春さんの心強い言葉きいて・・・。安心しました。 私・・・前向きになります。雪の分まで幸せに・・・」 「はい。きっと雪もそう望んでいるはずです・・・。きっと・・・。 許してくれる・・・」 陽春の視線はブーケから・・・ 窓際で窓の外を見つめる水里に向けられる・・・ (・・・) 「前向きになる自分自身を許せる・・・。 そうしないと・・・。生きていけないから・・・。僕も佐和子さんも・・・。 だから、雪のためにも生きてくだい。幸せになってください・・・」 「・・・はい・・・」 今佐和子に言った言葉は・・・ 佐和子と自分自身に向けた言葉・・・ (・・・永遠の記憶にして・・・。自分の人生を考える・・・。 酷い男だ・・・。でも・・・。そうしないとオレは・・・。生きていけない・・・) 逝ってしまった者を思い出にしてもいいだろうか。 どのくらいの時間で思い出にしてもいいのだろうか。 (水里さん・・・) 背中を向けて ただ窓の外を見つめる水里・・・ 手の中のブーケと小さな水里の背中・・・ 生きている限り 新しい何かを望んでしまう。 それは罪なことなのだろうか。 冷たい人間だろうか・・・ ブーケをを見つめながら・・・ 陽春は何度も自分自身に問いただしていた・・・ 佐和子が帰って・・・ 水里も帰ろうと陽春にコーヒー代を手渡す。 「・・・ごちそうさまでした。じゃあ・・・」 どことなく水里の様子が違うのを感じる陽春・・・ 「あの・・・。水里さん」 「・・・はい」 水里は少し俯いて振り返る・・・ 「・・・。人は・・・。人の心は簡単には変えられません・・・。 雪は・・・僕の中で生き続ける・・・これからも」 「・・・。はい・・・。それが一番大事なことです。 前にも言ったけど・・・。生ある者がすべき事は・・・。逝ってしまった 人の心を忘れないこと・・・」 水里は陽春が持つブーケを 静かに見つめた・・・ 「確かにそうです・・・。もう一つあります」 「え・・・?」 「自分の人生に前向きに最後まで真っ当すること・・・」 陽春はブーケをそっとグラスに入れ、カウンターに置いた。 「・・・雪はここでこうして・・・。僕を見守ってくれる・・・。 生きているものの理屈かもしれないけど・・・。雪への想いを抱えながら・・・」 「・・・」 「僕は前向きに真っ当したい・・・。残された自分の生き方を・・・」 「・・・春さん」 「そんな弱い僕だけど・・・。誰かに側にいて欲しいと想う・・・ そういう自分を否定はしません」 「・・・」 「水里さん、僕は・・・」 真直ぐな陽春の真剣な眼差し・・・。 何を言おうとしているのか。 言われようとしているのか・・・ 水里の心臓は一番早く打ち・・・ 「・・・僕は・・・貴方に側にいて欲しい・・・。誰でもない貴方に」 体に喜びなのか驚きなのか分からない衝撃が かけめぐる 「水里さん・・・僕の気持ちは・・・」 「・・・わからない・・・。私は・・・私は・・・。春さんには雪さんが いる・・・。私は只の知り合いで・・・私・・・」 「水里さん・・・?」 「私は・・・私は・・・っ」 バタン・・・! 混乱したまま水里は 店を飛び出す・・・ 「水里さん・・・」 世界が変わって見える・・・ さっきまで同じ風景だったのに・・・ 突然変わって 変わりすぎて・・・ こころが ついていかない 「ハァ・・・ハァ・・・」 恋という世界が 目の前に 広がった それが嬉しいのか 自分の中の熱い感情が 想いが・・・ 怖いのか・・・ (わからない・・・わからない・・・) 恋という世界 愛という心の世界 初めて泳ぐ自分の心の海に水里は まだ前に進めなかった・・・ ただ戸惑うばかりだった・・・