デッサン
〜水色の恋〜
第45話  恋人と友達
 




”これが・・・僕と貴方の距離ですね”




そう言って水里と陽春は握手した





手をじっと見つめる水里ちゃんですが・・・



なんとなく・・・気持ちが通った・・・









(・・・照)






コレが恋というものなのだろうか




水里、洗面所の掃除をしながら悶々と考え込む




鏡に映る自分・・・



陽春と並ぶとなんていうか・・・




(”イケ面の兄貴と童顔の妹”そんなタイトルがつきそうな・・・(汗))







テレビドラマのようなお似合いなヒロインでもなく・・・







(い、いや・・・こ、恋とか愛とかそういう雰囲気を醸し出すのは
が、が、柄じゃない。私は私のままで・・・。それでいいんだ・・・よね)










鏡の中の自分に問いかける・・・







(”恋愛じゃなくても・・・”私と春さんなりの関係があれば・・・)









水里は髪を三つ編みに編みながら、水色のヘアゴムで束ねる。






(春さんの笑顔を思い出して・・・)




「よし・・・!今日も一日頑張るぞ・・・!」







水里はスニーカーのつま先をコンコンとたてて



仕事に向かう。




水色の自転車で・・・










その頃。

陽春は・・・





水里専用のカップを磨いていた。




「新しく焼いてみたんだ。どうだ?」




「・・・」



夏紀に見せる陽春。




「兄貴・・・。オレ、いまいちわからんのですが。結局兄貴達はどうなったんだ?」




「どうって・・・。どうもないさ」




陽春は夏紀の質問にもすまし顔で応える。



「んなわけねーだろ?付き合ってんのか付き合ってないのかってことだよ」





「付き合う・・・っていうことになるんだろうか?どう思う?」





「オレに聞くことかよ。ったく・・・。やっと水里と兄貴の恋愛がスタート
したのかって面白くなってきたと思ってたのに・・・。拍子抜けだぜ」






兄の”新しい季節”がようやく始ったと安堵したのに。





小説でたとえてみる。

主人公とヒロインが想いが通じ合ってこれから最高潮のときなのに・・・



当の本人はマイペース。




(盛り上がりにかけるっての・・・)







「・・・。夏紀」





「あん?なあに?おにいちゃま」






「ちゃんと始ってるから・・・。”新しい季節”・・・。
大事にしたいと・・・思ってる。だから心配はいらない・・・」









水里専用のカップを
優しげに見つめて陽春は呟いた・・・




「・・・兄貴・・・」







「夕方水里さんが来るんだ。今日は店早めに閉めて
ミルフィーユの試食会しようぜ。夏紀」






「ああ・・・」






何か、吹っ切れたような陽春の
晴れ晴れとした笑顔・・・









(兄貴・・・。もう、後ろを見ないで生きてくれよな・・・)






兄の背中にそう



心の中で言葉を送る夏紀だった・・・















「え。一緒に買い物に?」




「はい。付き合ってくださいますか?」




陽春は水里にショッピングセンターに誘った。





「はい。私も買いたいもの、あったんです。太陽の洋服とか・・・」



「じゃあ今度の日曜にしましょう」




「はい!」





二人の初で^と(?)な会話を聞いていた夏紀は・・・




(なんて健康的な会話・・・。ま、あれがあの二人流の恋愛だから
仕方ねえか)





兄の恋路を心配する弟夏紀でありました・・・





そして日曜日・・・





水里はちょっとだけ、お洒落をしてみました。



(スカートなんて滅多にはかないが・・・)




水里ととておなごの端くれ。



おめかしぐらいしたいらしい。



「あ、おはようございます!」




「あ、おはようございます」





(・・・うお、わ、若い・・・)



普段は白いワイシャツが多い陽春。



今日は薄い蒼のTシャツ・・・




20代前半、いや、大学生くらいにも見える。




「あ・・・。へ、変でしたか?これ・・・夏紀の奴がたまには
若作りしろってうるさくて」






「い、いやぁあ。めめ、滅相もございません。春さんは相変わらずその・・・。
何着てもお似合いですんばらしいでございますっ」






水里、緊張のあまり日本が妙です。




「ふふ。とにかく乗ってください。」





「あ、は、はいでは失礼致します・・・」




もうしわけなさそうに助手席に載る水里・・・





車を走らせる・・・






(ああ・・・。緊張感が抜けん・・・)




陽春の車の助手席に乗るのは初めてじゃないのに・・・







「今日は混んでますね。この道路・・・」



「ええ、そ、そうですね・・・」





何気ない会話にも・・・




意識してしまって・・・




水里はふと窓の外に視線をやる。



すると若いカップルが乗っていて・・・



助手席に乗っているのは彼女だろう・・・。楽しそうにハンドルを握る彼氏と会話して・・・





(”彼女”・・・か・・・)






水里はチラッと陽春の横顔を視線を送る・・・






(私がこうして春さんの隣にいる状況って・・・。一体どういう名詞が
つくのかな)






恋人。彼女、親しい友人・・・







水里は通り過ぎていく車のカップル達を複雑な気持ちで
見つめていた・・・











「これ、ちょっと高くありません?腐葉土なら
私、自分で作るなぁ」




「そうですよねぇ。科学肥料はできるだけ僕もさけたいし・・・」




ホームセンターの園芸品コーナー。



水里と陽春があやこれやと品定め。





「天然のこけで、こけ玉つくりたいな。私。可愛くて涼しげですよ」



「いいですね。あ、ラベンダー、乾燥できたんです。一緒にポプリつくりましょう」




「はい!」






(・・・楽しいな・・・)









恋ってもっと



生々しい世界だと思ってた




すきとか嫌いとか


愛してるとか愛してないとか・・・




感情がヒステリックになって心の動きが何時も以上に早くなるって・・・







(でも・・・。違ってた)






「水里さん、ついてますよ」




「え」





振り返ると・・・





(わっ・・・)





水里の鼻の頭についた花粉を陽春はハンカチで拭き拭き・・・






優しく優しく・・・






「ユリの花粉はついたらとれないから・・・。はい。取れました」





「・・・(照)はっ、あ、ありがとうでござい・・・やすッ」





「ふふ・・・。いいえ。こちらこそ」






水里の素直な反応が楽しい・・・





照れたり焦ったり・・・






「わっ」



時にはこけたり・・・(笑)





水里の心に触れていると






生き生きしてくる・・・






「じゃあ春さん、次は二階の日曜大工のコーナーに行きますよ!私、
いい木材見つけたんです」



と、意気込んで紙袋を二つかかえてエスカレーターに
陽春を手招きする水里。



「・・・。水里さん、そっち、下り・・・」




「え」






みんな、一階に下りていきますv







「・・・。あははは。ちょ、ちょっとした軽ーい
小ネタはさんでみました。あはははは・・・」





「・・・ぷっ・・・。本当に間違えたくせに・・・。マジボケっていうの?
ふふふ・・・」






「違いますよ。もう〜!!笑わないでください」













・・・生き生きしている自分を感じられる・・・









枯れて





萎れそうな花の芽に






水が与えられ




吸収されるように・・・






(オレは・・・。生きていてもいいのだと・・・)









笑っていいのだと思える・・・



















「・・・あれ。藤原??」




「え?前島?」


ホームセンターの出口で、陽春が呼び止められた。






どうやら陽春の友人のようだが・・・




「ひさしぶりだなぁ!医大んとき以来か!??元気か!??」




「ああ。そっちはどうなんだ」





「まぁなんとかな。ふふ。ほら。こっちがオレの嫁さん」



ひょこっと友人の隣から可愛らしい女性が。





「ええ!??もしかして田上さん??え、何、お前、
田上さんと・・・。えええ。なんか考えられない展開だな・・・」





「そういうと思ったぜ・・・。どうせ美女と野獣だとか思ってんだろ・・・。
あ、で、陽春お前こそ、雑誌で見たぞ。イケメンのマスターって」



「いや・・・」



「奥さんの意思を継いでってカッコいいよなあ・・・。ってあれ?
そちらの人は・・・」




「え、あ、あの・・・」





陽春が一瞬ためらった。







水里に少し痛みはしる。




「わ、わ、私、従姉妹の山野といいます。ね、
陽春兄ちゃん」




「え・・・よ、陽春のお兄ちゃんって・・・(汗)」





「今日はちょっと買い物をおねだりしちゃいまして。ははは」



水里、かなりわざとらしい笑い・・・




「そうですか。いやー。知らなかったなぁ。お前にこんな可愛らしい
従兄妹がいたなんて」




「いや・・・」




「あ、そうだ。お兄ちゃん私、先車に戻ってるから
お友達と話でもしてきなよ」



「え、あ、ちょ・・・」


水里は陽春が持っていた荷物を手に取りそそくさと
車に戻る・・・





「藤原。なんかオレ、まずい事いったかな・・・」




「いや、お前のせいじゃないよ・・・」






(・・・水里さん・・・)







いつもの水里の気遣い。





それを招いたのはさっき一瞬生まれた戸惑いが水里に伝わってしまったから・・・







(だからって・・・。自分から身を引くことないじゃないか)








陽春は友人と別れ、車に戻る・・・







「・・・あれ??」




水里の姿がない。






(どこいったんだ。あんな荷物かかえたまま・・・)



陽春は駐車場を見渡す。





駐車場の出口をうんせ、うんせと鉢を抱えた水里が出て行く姿・・・






そして、水里はこける。






「ぷっ。・・・ったく・・・。本当にしょうがないなぁ・・・」






目を離すとどこへ行くか分からない。




何をするかわからない。




ワクワクするし、ちょっと苛苛もする・・・





でもそれすらも




心地いいと感じる・・・








「水里さん!鉢が壊れるでしょ!さ、車に戻りましょう」



「でも・・・。あの、春さんのお友達が」



駐車場の出口で鉢のひっぱりっこする二人。





「ええい!面倒だ!強制連行します!」





「あ、私のバック!」






陽春は鉢と水里のバックを水里から取り上げる。







こうして陽春の車に連行された水里・・・








車の中で事情聴取(?)される水里。




「ごめんなさい・・・」




「いえ・・・。僕の方こそ、すいませんでした」





「え。どうして謝るんですか」





「僕がさっき・・・」




友人に水里のことを紹介できなかったから・・・?







「い、いえ、いいんです。気にしないでください。私は
全然気にしてませんから」




連呼すると気にしていると余計に思われる。








「水里さん。貴方は貴方のままでいいんですから・・・」






「え」





「・・・。正直・・・。僕は世間の恋人同士のような・・・。そんな甘い付き合いは出来なくて。
というか苦手で・・・」





照れくさそうに髪を掻き揚げる陽春。










「・・・。僕の方こそ人と深く付き合ってみる・・・。ということが怖かったのかもしれない。
他人のことなら偉そうなこと言えても・・・」







「春さん・・・」








「だから・・・。僕らは僕らなりの付き合いができればいいって・・・。そう
思ってくださいませんか?」








陽春は穏やかに微笑んで言った・・・






「・・・はい」







「ありがとう。じゃあ・・・早速うちの花壇に植えましょう。花がしおれないうちに」






「はい」








陽春が景気よくエンジンをかける











水里たちが買った花々







後部座席で車で揺れる・・・












「じゃあ、コスモスの種は後でまいたほうがいいんですね」




「ええ、それから・・・」







始ったばかりの”新しい季節”






四季が移り変わるように






ゆっくりと彩られていけばいい・・・












水里も陽春もそう思った・・・









街路樹が紅葉し始めた・・・






だが・・・













時は





何かを繰り返そうとさせる。










ルルル・・・。




陽春の店の電話が激しく鳴る・・・




誰も留守で・・・





暫くして留守番電話に切り替わって・・・





メッセージが入れられた・・・






「もしもし・・・。藤原さん・・・。お久しぶりです・・・。
田辺です・・どうしても貴方にお伝えしたいことが・・・」