デッサン2

水色の恋
第5話  純愛 @



巷は無類の『純愛ブーム』






なかでもベストセラーとなっている『世界の果てで愛を呼びたい』は
映画化されその映画もヒットしてる。







「フン。オレ様の純愛小説の方が数段上だね。純愛度は」







モップがけをしながら
夏紀はそのベストセラーの本をぺらぺらをめくる。












「お前のばあいは不純な純愛の間違いじゃないのか?」




コップを拭きながらすまし顔の陽春。







「私も春さんに一票!夏紀クンのは下心ありありだし」





アイスコーヒーをごくごくと豪快に飲み干します水里。






「あのなぁ・・・。フン。ま、素人にはわかるまい。純愛とは蜃気楼の如し」





「・・・はぁー?」





水里も陽春もぽかーん。頭の上にはてなマークがたくさん跳んでます。








「消えそうで手が届かないもどかしいもの・・・。これが純愛の奥深さ。
ま、ようは儚いってことさ」





「消えそうで届かないのは夏紀の女癖だな」




「またまた夏紀くんに一票〜!!」




水里、陽春に拍手。






「・・・こいつらは・・・(汗)んじゃ、その今有名な映画、見て勉強してこい!」





エプロンのポケットから映画のチケット2枚取り出す夏紀。








「これ・・・『世界の果て・・・』だね。夏紀くん」








「おうよ。何の因果か編集部の奴がオレに無理やり”コレ見て創作意欲湧かせろ”って
おしつけやがった。でも、オレはまるで興味なし。で、兄貴と水里で行ってこいよ」







「え・・・」









水里はドキッとした。













「チケット無駄になるのもな。俺の変わりに敵地に視察してきてくれねぇか?」







「じ、自分で行けば!??そ、そそそれに春さんにはお店があるし
あたしも・・・」







何故かしどろもどろになる水里。





「僕はかまいませんよ」







「え」









「このところ休み返上でしたし・・・。丁度映画館の近くのホームセンターにも
用事がありますし
水里さんさえお暇なら・・・」







「・・・」






水里、只今、ちょっと悶々と思考をめぐらせております。





(映画を2人で・・・。それっていわゆる世間様でいわれるところの
デートという状況・・・では。では。ではーーー・・・!)






頭を抱えて一人、葛藤中。







「あの・・・。水里さん、何か用事でも・・・」





「いや・・・。そ、そ、そんなことは・・・。でもあ、あの・・・。わ、私失礼しますッ」





「あ・・・。水里さ・・・」






カラン・・・ッ








顔を真っ赤にして店を去った水里・・・










「・・・。何かまずいことを行ったかな・・・。それとも
用事があったのか」







「兄貴。兄貴って水里よりかなり鈍いよな」






「映画に一緒に行きましょうって・・・。それってデートの誘いじゃねぇか」








「・・・」






陽春は夏紀から視線をそらし、キュッとコップを拭く。











「・・・。兄貴さー。もうちっと女心ってもん、勉強したほうがいいぜ。
ま、水里もあれはあれで一応女なんだし・・・」









「・・・」












「ま・・・。”新しい季節”を向かえるってのは・・・
自然な流れに任せるしかねぇけどな・・・。さてとお掃除お掃除」














夏紀は口笛を吹きながらモップがけ・・・








「・・・」







陽春は複雑な表情で洗い物を続けた・・・






















一方。





陽春の前で変なリアクションして逃走してきてしまった水里。






二階の自分の部屋で落ち込んでおります。









(・・・。私としたことが・・・。あれじゃあ、照れていますって言ってるようなものじゃないか)







明日からどんな顔して陽春に会えばいいだろう。






枕に顔を埋めて悶々する水里・・・







(あたし・・・。何こんなに一喜一憂してるんだ・・・)





陽春と二人きりで出かける・・・





初めてでもないし






特に意識する理由もない










(そうだよ。意識する理由なんてない。何も・・・)











リリリリーン!!







水里宅の黒電話のベルに




水里の心臓は飛び跳ねた。














「・・・は、はい・・・。も、もしもし山野ですが・・・」








「・・・あ・・・。僕です」







(しゅ・・・春さん!!)







一気に水里の思考は緊張状態ON。








「昼間のことが気になって・・・」







「あ、あ、すいましぇん。な、なんかと、突然の申し出に
エベレスト級の勘違いをいたしまして、そのあの・・・」






緊張のあまり声がうわずっている









「・・・。ふふ・・・。あの。水里さんにお願いがあるんですが」






「な。なんでございましょうっ。なんなりと」







「ホームセンターで木材を買いたいんです。店の看板を描きかえようと
思って・・・。水里さん、デザイン考えていただけませんか?」





「わ、私でよければ」





「ありがとう・・・」









陽春の”ありがとう・・・”で水里の緊張が
少しほぐれた・・・










「その帰り・・・よかったらせっかくチケットも勿体無いですし、行ってみませんか?映画・・・。
夏紀の奴が内容見てきてくれとうるさいんです」






「あ、は、はい。お供させていただきますッ」








「じゃあ・・・。明後日10時ごろお店の前で。じゃおやすみなさい」







「・・・お、おやすみなさりませ・・・っ」







チン・・・







受話器を置く水里・・・









しばらくぼうーっと黒電話の前で立ち尽くす。








と。





目の前のカレンダーが目に入った。






赤丸で『太陽、お泊りの日』と描いてある。






(・・・はっ・・・23日。第三日曜!!た、太陽がお泊りにくる日ではないか!!)








”ミーママとおっかいもの、おっかいもの♪”




さらには水里と、ポケモン菓子新製品を買うという約束つき・・・









(・・・どうするんだべ・・・(汗)っていうか
一緒に連れて行くという結末しかないよね・・・)










どうやら・・・





日曜は太陽付きでどうやら水里のデート(?)は始まりそうである・・・